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1.はじめに 今回吉野川本流のうち穴吹町の区域、穴吹川等に生息する魚類を調査した。調査方法は、吉野川本流では潜水調査を行い、穴吹川では調査地点を設定し、投網を使用して採取をした。また潜水調査を行い、水中の観察もした。調査は、7月21日〜8月20日に行った。支流での投網の使用は穴吹町漁業組合の許可を得て行った。また聞き取り調査は漁業組合副会長の佐藤公成氏(82歳)から行った。
2.調査の結果 吉野川に生息する淡水魚は自然生息のものが多い。調査は、吉野川本流では、穴吹町区域のすべての場所で潜水調査し、肉眼で生息する魚種を確認して、水中ノートに記録した。穴吹川では調査地点を8カ所設定し、投網で採集した。調査場所を図1で示す。

1)吉野川本流(図2)

小島橋周辺のブロックが積み重ねられている岸付近では、水深が1〜5m
ほどある。川底は、大きさ20〜30cm
ほどの石があり、その間を小さな礫(れき)が埋めている。ブロックが積み重ねられている場所では、水深が深く、多数の魚の群れが見られる。水深1〜2m
ほどの浅い場所では、体長10cm
程のニゴイの群れが多い。群れの個体数は、数百匹を超える場合がある。またカワムツの群れも見られる。カワムツは、ツルヨシの群生した場所やオオカナダモなどの水草がある場所などに多い。ギンブナは体長20〜30cm
のものが40〜50匹ほどの群れでよく見られる。水深の深い3m ほどの所では、体長30cm
を超えるニゴイが数十匹ほどの群れをなしていて、ブロックの間に身をひそめているのがよく見られる。体長30cm
を超える大型の個体が多い。オオクチバスは、体長30〜40cm ほどのものが、4〜5匹で群れをなしている時がある。しかし個体数は少ない。体長15cm
のオオクチバスもいる。ギギは2〜3匹が群れになり、ブロックや大きな石の下などに身をひそめている。体長は25cm
ほどあった。オオカナダモの生えている間に、体長35cm
ほどのナマズが1個体、身をくねらせていた。川岸にツルヨシ群落があり、川底が、砂の場所では、シマドジョウが生息している。ブロックがなく、コンクリートだけの護岸の場所では、魚類は全く生息していない。川の護岸造りには、自然環境に配慮することが必要である。川の中央部は浅所であり、水深1m
ほどである。川底には、礫と人のこぶし大ほどの石がある。石の上には、ヨシノボリ類が生息していて、個体数は多い。また体長15cm
ほどのオイカワが群れをなしている。吉野川水系のオイカワは天然のもので、個体数は多い。時には体長25cm のアユが泳いでいる。体長30cm
のウグイがいるが個体数は少ない。また川底には、カマツカが十数匹の群れをなしている。その体長は15cm
あった。吉野川本流で穴吹町域に生息している魚種は、ニゴイ、カワムツ(B型)、ギンブナ、オオクチバス、ギギ、ナマズ、シマドジョウ、オイカワ、シマヨシノボリ、オオヨシノボリ、ウグイ、カマツカ、アユ、ヌマチチブである。シマヨシノボリとオオヨシノボリは、シマヨシノボリのほほの部分には赤色のミミズ状の斑(はん)があり、オオヨシノボリにはるり色の小斑があるなどの違いで区別ができる。
2)穴吹川の淡水魚(穴吹町域のみ) 穴吹川に調査地点を8カ所設定して、調査をした(表1)。調査方法は投網を使用した。また潜水調査をし、水中で観察した。調査結果を表1に示す。穴吹川の水質はきわめて良く、四国一の清流といわれている。採集したり、水中で観察できた淡水魚は19種であり(表2)、聞き取り調査では、さらに6種が確認できたので、合計25種が生息していることになる。ボウズハゼは上流にいるとの事で、場所は特定できなかった。

 (1)調査場所の概要 調査地点1(図3)は、吉野川本流と穴吹川の合流地点である。川底は砂と小礫からなる。鉄道橋下では、水流により深く浸食されている。水流は速く、オイカワが群れになって泳いではいるが、個体数は少ない。左岸の方が少し浸食されており、水深が1m
ほどある。岩が出ている所があり、ギギが岩の間にかくれている。岩や礫の上に、オオヨシノボリとシマヨシノボリが、胸びれの吸盤ではりついている。またカワヨシノボリも見られた。ヌマチチブも単独で生息している。ツルヨシが生えている岸のある所の水中には、ギンブナやウグイ、カワムツなどが身をひそめている。ウナギやナマズも採集できた。ウナギは、穴吹町漁業共同組合が稚魚を購入し、穴吹川に入れている。調査地点
1
の特徴は、モツゴ、イトモロコが採集できたことである。カマツカは、底質が砂の所に生息していて、危険を感じると、砂の中へ身をかくしてしまう。ニゴイも生息していた。
  調査地点2(図4)は川の右岸に、コンクリートで造られた堰堤(えんてい)がある。左岸にはツルヨシがよく繁茂していて、水が流れている。アユ釣りをしている釣り人が並んでいた。オイカワが多く生息していて、雄の個体数も多い。オイカワの雄は大きく、体色は美しい赤色をおびている。これを婚姻色という。水深が浅い場所でもオイカワの行動を観察できた。雄が雌の後を追って泳いでいた。一瞬、雌が卵を産んだところへ、雄が白い精子をかけたのを見ることができた。水質が良く、オイカワの行動観察に適した所である。採集できた魚種は10種である。今回は採集できなかったが、聞き取りによると、コイ、ドジョウ、メダカ、オオクチバスがいつも生息しているとのことである。オオクチバスは近年になってから見られるようになったが、個体数はきわめて少ない。
  調査地点3(図5)は、水質は良質で流れがある。底質は、砂や礫である。右岸には岩があり、水深が1m
ほどであるが、中央部は水深30cm
ほどである。投網で採集できたのは、アユ、ウグイ、オオヨシノボリの3種である。いずれも個体数は少ない。淵(ふち)では、ウグイが2〜3匹群れになっているのが、観察できた。 調査地点4(図6)は、水質は良質で流れがあり、平瀬になっている。潜水橋付近を投網を使って採集したが、魚の個体数は少なく、オオヨシノボリの小型のものを2個体採集した。岸辺の岩が出ている所を水中観察すると、オイカワ、アユ、シマドジョウの生息を確認できた。川の中央部で水深は30cm
ほどあった。
  調査地点5(図7)は、水質は良質で流れがあり、平瀬になっている。底質は石礫になっている。魚の個体数と種類数はともに少なく、カワムツ2個体、オオヨシノボリ2個体を採集しただけである。 調査地点6(図8)は、川幅3m
ほどの細流である。穴吹川の支流の、入り口である。両岸はコンクリートでできていて、底もコンクリートでできている。底面は、工夫されていて、石礫を含んでいる場所もある。カワヨシノボリの小型のものを3個体採集できたのみである。水質は良質であり、流れは速い場所である。聞き取りによるとウナギもいる。
  調査地点7(図9)は浸食が深くなってきている場所であり、左岸は岩盤よりなっている。底質は、石と礫である。水質は良く、流れが速い。投網で採集できた魚は、7種あり、個体数も多い。今回は採集できなかったが、聞き取りによるとアカザも生息している。 調査地点8(図10)は穴吹川の支流の内田谷である。大きな岩がゴロゴロしていて、上流部の景観を示している。水質は良く、流れがあるが、流れの無いたまり場で投網を打つと、2個体のアマゴが採集できた。その他の魚種はまったくいなかった。
3)見られなくなった魚 昔はいたが、今はいなくなってしまった淡水魚は、聞き取り調査によると、ヤツメウナギ、アユカケ、カジカ、マハゼ、スズキの5種である。ヤツメウナギは、昭和7、8年(1932、3)ごろまではいた。調査地点2
でも見かけられ、堰堤のコンクリートができる前、護岸が自然石でできていたころまでいた。このことは自然環境に配慮した工法による護岸造りが必要であることを示している。アユカケは、昭和30年(1955)ごろまではいたが、今はいない。昔は多数いて、採ってよく食べたという。カジカもジエリコと呼ばれていて、昭和30年ごろまでいた。春が来ると、稚魚が河口から上がって来ていた。同じころまで、マハゼやスズキも穴吹川でとれていたが、現在はいない。
4)聞き取り調査によ地方名と料理方法 アマゴは、地方名をアメゴという。体長30cm
ぐらいに成長しても、斑点がある。大きいのをアメマスといっている。水温の低い場所にいて、5月になり、水温が上がって来ると上流へ移動する。漁業組合が、三好郡の業者から買って放流しているが、今年は5000匹ほど放流した。古宮と口山と2か所にわけて放流する。釣るときは川の水生昆虫(カワムシ、セムシという)で釣る。イクラよりカワムシの方がよく釣れる。アマゴの料理方法は、焼くのと、にぎりずしがある。にぎりずしにするときには、魚を開きにする。ウグイは地方名をイダという。夏は骨が多いし、においがあるので食べない。しかし、冬の12〜3月はおいしい。料理方法は酢づけ、にぎりずしにして食べる。タカハヤは、地方名をタニジャコという。小さいが、釣って焼いて食べる。カワムツB型も地方名はタニジャコという。オイカワは地方名をジャコまたはハエといい、同じように釣って焼いて食べる。カマツカは地方名をエッシュという。5月ごろになり、川原に野バラの花が咲くころになるとおいしくなるので、バラメエッシュという。塩焼きにして食べる。ギギはカナクギという。夏は蒲(かば)焼きにして食べた。アカザの地方名はオシャギャンといい、ヌマチチブは地方名をドブロクという。昔はたくさんいたが、今は数が減ってきている。ともに焼いて食べた。ヨシノボリ類は地方名をジンゾクという。焼いて食べていたが、今は数が減ってきている。その他エベッサンと呼ばれているハゼの仲間がいる。胸びれに吸盤があり、水の流れのきつい所、口山の二又の付近にいる。ウナギは蒲焼きにする。アユは、焼いたり、すしにしたり、アユ雑炊にする。昔のアユの味はおいしかったが今はおいしくなくなったという。ニゴイは酢づけにする。また冬がおいしく、水だきにして食べる。夏は水生昆虫を食べるのでにおいが臭くて食べないのだという。ギンブナは酢づけ、魚ずしにする。ナマズは蒲焼きにして食べる。
穴吹町の淡水魚(かっこ内は地方名) 硬骨魚綱 OSTEICHTHYES 真口亜綱 TELEOSTOMI ニシン目 Clupeida サケ亜目 Salmonina サケ科 Salmonidae アマゴ(サツキマス)Salmo
(Oncorhynchus)
masoumacrostomus(アメゴ) (図12)
 アユ科 Plecoglossidae アユ Plecoglossus
altivelis(図13)
 コイ目 Cyprimida コイ亜目 Cypriniformes コイ科 Cyprinidae ニゴイ Hemibarbus
barbus(図14)
 カマツカ Pseudogobio
esocinus(エッシュ)(図15)
 モツゴ Pseudorasbora parva(図16)
 ウグイ Tribolodon
hakonensis(イダ)(図17)
 タカハヤ Moroco Jouyi(タニジャコ) オイカワ Zacco
platypus(ジャコ)(図18)
 カワムツ(B型)Zacco
temminckii(タニジャコ)(図19)
 コイ Cyprinus
carpio(ニシキゴイ[飼育品種]も) ギンブナ Carassius carassius
langsdorfii(フナ)(図20)
 イトモロコ Squalidus gracilis
gracilis(図21)
 ドジョウ科 Cobitidae シマドジョウ Cobitis
biwae(カワドジョウ)(図22)
 ドジョウ Misqurnus
anguillicaudatus(ヌマドジョウ) ナマズ目 Siluriformes ナマズ科 Siluridae ナマズ Parasilurus
asotus(図23)
 ギギ科 Bagridae ギギ Pelteobagrus
nudiceps(カナクギ) アカザ Liobagrus
reini(オシャギン) ウナギ目 Anguillida ウナギ科 Anguillidae ウナギ Anguilla
japonica(図24)
 メダカ目 Cyprinodontida メダカ亜目 Cyprinodontina メダカ科 Cyprinodontidae メダカ Oryzias
latipes スズキ目 Perciformes ハゼ亜目 Percoidei ハゼ科 Gobiidae シマヨシノボリ Rhinogobius
sp.CB(ジンゾク)注(図25)
 オオヨシノボリ Rhinogobius
sp.LD(ジンゾク)注 カワヨシノボリ Rhinogobius
flumineus(ジンゾク)注 ヌマチチブ Tridentiger
breuispinis(ドブロク)(図26)
 ボウズハゼ Sicyopterus
japonicus 〔注〕 ヨシノボリ類は日本に5種いるが、そのうちシマヨシノボリとオオヨシノボリの2種の生息を確認できた。ヨシノボリ類は、ふつう川でふ化したものはただちに海へ流れる。海に流下したものは、数カ月間の浮遊生活を送った後、体長2m程度に育って、7〜10月に川へ上って来る。川へそ上するのは、水温に左右される。小さなヨシノボリの稚魚が、夏になると群れとなって、海から川の上流の方へ向かって泳いでいるのがよく観察できる。しかし、中には海へ下らなくて、一生川で過ごすものもいる。 カワヨシノボリは、河川で一生を過ごす。みそ汁に入れて食べるとすごくおいしい。ヨシノボリ類とカワヨシノボリの違いは、胸びれの筋の数が19〜22本あるのがヨシノボリ類で、カワヨシノボリの胸びれの筋の数は15〜17本しかない。違いを図11に示す。

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