阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第45号
穴吹町の植物相

植物相班(徳島県植物研究会)

  小川誠1)・木下覺2)・木村晴夫・

  赤澤時之・田渕武樹・木内和美・

  水上敏夫・小松研一8)・

  片山泰雄9)・真鍋邦男10)

1.はじめに
 穴吹町は奥野々山(1138.6m)、正善山(1229m)、八面山(1312.3m)、綱付山(1255.8m)などの1000m を超える山々に囲まれており、中央部を南北に流れる穴吹川により深い渓谷が刻まれている。また、北側を流れる吉野川により狭い範囲であるが平地が形成され、地形は変化に富んでいる。本町の植物に関しては、徳島県植物誌(阿部、1990)や穴吹町誌(穴吹町誌編さん委員会、1977)などに断片的に記録されているだけで、詳細な報告はない。植物相班は本町の植物相を明らかにするための調査を行った。調査期間が限られているので、全域をくま無く踏査することは不可能である。そのため残存している自然植生の樹林、社寺林、植林地、河川河畔など本町の植生を特徴づけると思われる地域を選んで重点的に調査した。調査地点を示したのが図1である。

2.植物相の概要
 本町では標高500〜600m までは暖温帯(常緑広葉樹林帯)の植物が、その上部に推移帯を経て冷温帯(落葉広葉樹林帯)の植物が生育している。しかし、平地は住宅地や田畑、山地は植林として活用されていたり、アカマツやコナラの優占する二次林となっているので、自然林は社寺林などにごくわずか残るのみである。
 今回調査した中から、それぞれの植生区分を特徴づける樹林や特色のある地域の植物相をみると下記の通りである。なお、樹林内で高さによる階層構造が見られた場合は、高木層、亜高木層、低木層、草本層に分け記録した。
 1)暖温帯域の植物
  (1)神明神社のシイ林(調査地1)
 本町宮内の神明神社にはツブラジイ(コジイ)を優占種とする林が残されている。
 高木層:ツブラジイ(228、222cm。以下括弧内の数字は胸高周囲を示す)、スギ、ヒノキ(204cm)。
 亜高木層:アラカシ、カキノキ、カクレミノ、スギ、ツブラジイ。
 低木層:アオキ、アカメガシワ、アラカシ、イズセンリヨウ、イヌビワ、イヌマキ、エゴノキ、オンツツジ、カキノキ、カナメモチ、クロガネモチ、サカキ、サルトリイバラ、シキミ、シリブカガシ、センリョウ、タラノキ、タラヨウ、ツブラジイ、ツタ、ネズミモチ、ヒサカキ、マルバウツギ、ムクノキ、ヤブウツギ、ヤブニッケイ、リョウブ。
 草本層:アキノタムラソウ、アセビ、アマチャヅル、アリドオシ、オニカナワラビ、カラムシ、ケヤキ、コクラン、コシダ、シシガシラ、ダイコンソウ、チヂミザサ、チャノキ、ツユクサ、ササクサ、ドクダミ、ナガバジャノヒゲ、ナツフジ、ナンテン、ネムノキ、ノキシノブ、ノブドウ、ハナミョウガ、ヒカゲイノコズチ、ヒメジョオン、フユイチゴ、ベニシダ、マメヅタ、マルバベニシダ、マンリョウ、ミズタマソウ、ミズヒキ、ヤブムラサキ、ヤブラン、ヤマウルシ。
  (2)三島谷奧の池の周辺の植物(調査地2)
 三島には町内でも数少ないため池(通称、谷奧の池)があるが、ため池内には水草は見られない。その周辺の二次林の植物を列記すると下記のとおりである。
   アオキ、アオツヅラフジ、アカネ、アキノタムラソウ、アマチャヅル、イタドリ、イヌビワ、エノキ、オオニシキソウ、カサスゲ、カタバミ、カニクサ、カラムシ、キツネノマゴ、キンミズヒキ、クヌギ、クラマゴケ、ケヤキ、コウヤボウキ、コナスビ、コナラ、コニシキソウ、コモチシダ、サルトリイバラ、ジャノヒゲ、シュロ、タチツボスミレ、タツナミソウ、チヂミザサ、テイカカズラ、ドクダミ、ネザサ、ノダフジ、ハカタシダ、ハシカグサ、ハナショウブ、ヒカゲイノコズチ、ヒメイタビ、ヒメコウゾ、フモトシダ、フユイチゴ、ヘクソカズラ、ホシダ、ボタンヅル、ミゾソバ、ミツデウラボシ、ミツバ、ムサシアブミ、キクバドコロ、ヤブコウジ、ヤブマメ、ヤブラン、ヤマガシュウ、リュウキュウヤブラン。

 2)冷温帯および推移帯の植物
 標高約1000m 以上の地域には元々ブナやミズナラなどの冷温帯(落葉広葉樹林帯)の植物が生育している。しかし、植林や二次林がほとんどで、自然林は山頂や尾根などのごく一部の地域にしか残っていない。    (1)杖立峠から綱付山の植物
 奥野々山、杖立峠付近、綱付山など1000m を超える地域には、ブナやミズナラを優占種とする林がところどころに残っている。
 1 杖立峠周辺の樹林(調査地3、図2)
 杖立峠の祠(ほこら)の周辺にはブナの生育は確認できなかったが、そこから正善山への登山道をわずかに上った尾根には、ブナを含む次のような樹林が見られる。


 高木層:ブナ、ミズナラ、ミヤマザクラ、コシアブラ、クリ。
 亜高木層:リョウブ、ヒメシャラ、ハリギリ。
 低木層:ヤマツツジ、シロモジ、コバノガマズミ、アオハダ、コバノミツバツツジ、オトコヨウゾメ、タンナサワフタギ、アセビ、ウワミズザクラ、ウラジロノキ、コハウチワカエデ、オオツクバネウツギ、ミツバアケビ、ミヤマクロモジ。
 草本層:ミツバアケビ、タンナサワフタギ、イチヤクソウ、イワガラミ、イヌツゲ、ミヤマザクラ、ミヤマクロモジ、ヤハズアジサイ、ホウチャクソウ、ミヤマエンレイソウ、ウスゲタマブキ、シコクスミレ。
  2 杖立峠から綱付山への道(調査地4)
 杖立峠から綱付山に向かって穴吹側の斜面に林道が通じているが、その両側にブナが生育する二次林が残っている。ブナは優占種とは成り得ず、クリ、イタヤカエデ、ミヤマザクラなどが混生し、推移帯に生育する樹種を多く含んでいて、次のような樹林となっている。
  高木層:ブナ(221cm、78cm)、クリ(102cm)、コハウチワカエデ、ウリハダカエデ、イタヤカエデ、ヨグソミネバリ、ミヤマザクラ、ミズキ、エゴノキ、サルナシ。
  亜高木層:ミズキ、ウワミズザクラ、コハウチワカエデ、イヌザクラ、リョウブ、コシアブラ。
  低木層:コミネカエデ、オトコヨウゾメ、シロモジ、タンナサワフタギ、オオイタヤメイゲツ、アオハダ、ツリバナ、ミヤマクロモジ。
  草本層:シロモジ、オオイタヤメイゲツ、ハイイヌガヤ、オニノダケ、ミヤマエンレイソウ、アオハダ、コミヤマカタバミ、ノリウツギ、ホウチャクソウ、ヒヨドリバナ、トチバニンジン、シケチシダ、サワハコベ、ツチアケビ、ツルシキミ、ヤマウルシ。
  3 綱付山(1255.8m)周辺(調査地5)
   コハウチワカエデ、エゴノキ、リョウブ、ヨグソミネバリ、ヤマハンノキ、ハリギリ、ナツツバキ、ヤハズアジサイ、ミズキ、タンナサワフタギ、ブナ、シロモジ(多し)、カマツカ、ヤマブドウ、ハイイヌガヤ、シコクスミレ、ヤマジオウ、ツルリンドウ、ヤマジノホトトギス、アキノタムラソウ、ヒヨドリバナ、コシアブラ、コミヤマカタバミ、ナンゴクナライシダ、キヨスミヒメワラビ、ハリガネワラビ。
  4 杖立峠〜正善山の道周辺(調査地6)
   クロフネサイシン、ハエドクソウ、イロハカエデ、ミヤマザクラ、タンナサワフタギ、オオバショウマ、コクサギ、フタリシズカ、ヌスビトハギ、シコクアザミ、キンミズヒキ、ミズヒキ、ヒキオコシ、シロヨメナ、タムシバ、コバノガマズミ、コウヤボウキ、タガネソウ、サンショウ、カナクギノキ、ナツツバキ、コガクウツギ、リョウブ、トサノミツバツツジ、ヤマツツジ、クリ、シロモジ、イトスゲ、ミズナラ、アオハダ、ウラジロノキ、コハウチワカエデ、アサマリンドウ、アオテンナンショウ、ハイイヌガヤ、イチヤクソウ、ダイコンソウ、ウマノミツバ、シオデ、イノコズチ、フジシダ、マンネンスギ、マルバノイチヤクソウ、オオネズミガヤ、シンミズヒキ。
  (2)奥野々山の植物(調査地7)
 奥野々山周辺では、美郷村との境界稜(りょう)線上に自然林が帯状に残されており、幹周3m 位のブナの大木もみられた。
   ブナ、イヌブナ、イヌシデ、クマシデ、ナツツバキ、リョウブ、クリ、ミズナラ、エゴノキ、タムシバ、アオハダ、ヤマザクラ、ハリギリ、ネジキ、シロドウダン、アセビ、ソヨゴ、ヌルデ、ヒカゲツツジ、ケクロモジ、コガクウツギ、イヌザンショウ、アサマリンドウ、ナガバモミジイチゴ、コゴメウツギ、ハシゴシダ、ゲジゲジシダ、コタチツボスミレ、タケニグサ、シロヨメナ、ヤマツツジ、チヂミザサ、ノガリヤス、コナラ、アキノタムラソウ、バライチゴ、ユキモチソウ、ヒカゲイノコズチ、ウワバミソウ、ミズヒキ、ドクダミ、オオバショウマ、サラシナショウマ、フキ、ガンクビソウ、ベニバナボロギク、ダンドボロギク、シコクブシ、シコクアザミ、ミヤマタニソバ、イノデ、ヤマルリソウ、マツカゼソウ、イラクサ、ノリウツギ、キバナアキギリ、ナベワリ、モミジガサ、コミヤマカタバミ、モミジカラスウリ、クマイチゴ、シシガシラ、ヤドリギ(ブナに寄生)、コハウチワカエデ、オンツツジ、シロモジ、コバノミツバツツジ、イヌツゲ、ウリハダカエデ、ヨグソミネバリ、ミヤマザクラ、シコクママコナ、クロヅル、ニワトコ、ミヤマシキミ、キンミズヒキ、コアカソ、ヤマホトトギス、ハリガネワラビ、サワハコベ、オオダイトウヒレン、オオヒメワラビ、ヤマイヌワラビ、タニイヌワラビ、ヤワラシダ、コウヤザサ、コツクバネウツギ、ウスノキ、キクムグラ、イトスゲ、フクロシダ、イヌシダ、シコクトリアシショウマ、シコクチャルメルソウ、タンナトリカブト、アマヅル、シラキ、サワシバ、ヤマシグレ、ウマノスズクサ、タカクマヒキオコシ、ヤマトウバナ、コミネカエデ、ヒキオコシ、マツブサ、イヌアワ。
 (3)半平山の植物
 標高1015m の半平山には下記のような林が見られた。
 1 クヌギ林(調査地8)
 高木層:クヌギ(200cm)、ケヤキ。
 亜高木層:イタヤカエデ、ウワミズザクラ、クヌギ、ケヤキ、スギ、テイカカズラ、ミズキ。
 低木層:アオキ、アラカシ、イタヤカエデ、イヌガヤ、イヌツゲ、イボタノキ、イロ ハモミジ、イワガラミ、ウツギ、ガマズミ、カマツカ、ケヤキ、コオニユリ、コマユミ、サルナシ、シマカンギク、ツタ、フジ、キヅタ、マユミ、マルバウツギ、ヤマハゼ、ヤマフジ、アケビ。
 草本層:アマドコロ、イタドリ、イヌワラビ、エビネ、カニクサ、ケスゲ、コアカソ、シュンラン、シロバナハンショウヅル、シロヨメナ、チヂミザサ、ツユクサ、テイカカズラ、トチバニンジン、ナルコユリ、ナワシログミ、ノブドウ、ヘクソカズラ、ミツバアケビ、ヤブコウジ、ヤマイタチシダ、ヤマヤブソテツ、リュウキュウヤブラン、ワラビ。
1 イヌシデ林(調査地9)
 高木層:イヌシデ、コナラ。
 亜高木層:アカシデ、エンコウカエデ、ケヤキ、リョウブ。
 低木層:イヌツゲ、エゴノキ、オンツツジ、ガクウツギ、ガマズミ、カヤ、ケクロモ  ジ、ケヤキ、コガクウツギ、コツクバネウツギ、コバノガマズミ、ダンコウバイ、ノリウツギ、ヒサカキ、マルバウツギ、ヤブイバラ、ヤブツバキ、ヤマウルシ、ヤマコウバシ、ヤマツツジ。
 草本層:アオキ、アブラチャン、アラカシ、イヌエンジュ、カキノキ、コウヤボウキ、サルトリイバラ、シシガシラ、シハイスミレ、シュンラン、シラキ、ゼンマイ、ナルコユリ、ナワシログミ、ミツバアケビ、ヤブコウジ、ヤブレガサ、ヤマジノホトトギス、ヤマブキ。
 (4)平谷の植物
標高500〜600m の平谷は推移帯に属し、下記のような植物が生育している。
 1 コウヤマキ林(調査地10、図3)
 平谷の石尾神社には、コウヤマキを優占種とする林が岩棚の上によく残されており、県内でも珍しい。この林は草本層がほとんど発達せず、林床はコウヤマキの落葉に覆われている。コウヤマキの芽生えが多数見られ、自然更新がおこなわれているようである。


 高木層:コウヤマキ(218、195cm)、ヒノキ、フジ。
 亜高木層:ウラジロガシ、ウワミズザクラ、オンツツジ、コウヤマキ、シラカシ、ツガ、アセビ。
 低木層:イワガラミ、ウスノキ、コウヤマキ、コシアブラ、ゴトウヅル、コナラ、サルトリイバラ、シシラン、スギ、ソヨゴ、タムシバ、タラノキ、ダンコウバイ、ツタウルシ、ツタ、ホンシャクナゲ(43、42cm)、ミヤマウズラ、ヤブニッケイ、ヤマウルシ、リョウブ、イロハモミジ。
2 エゾエノキ林(調査地11)
平谷の阿弥陀如来のお堂付近にはエゾエノキを優占種とする林がある。
 高木層:エゾエノキ(160cm)。
 亜高木層:イイギリ、ウラジロガシ、ウワミズザクラ、オニグルミ、スギ、ヒノキ、フサザクラ、ミズキ、ヤブニッケイ、ユズリハ(44cm)。
 低木層:アオキ、イヌガヤ、イヌツゲ、ウコギ、エゾエノキ、カマツカ、サンショウ、スギ、ツリバナ、トチノキ、ネズミモチ、ヒイラギ、ヒサカキ、フサザクラ、ヤブニッケイ。
 草本層:イタドリ、イヌガヤ、オオキツネノカミソリ、カセンソウ、クサイチゴ、クマワラビ、ケヤキ、サイコクイノデ、ナガバジャノヒゲ、ナワシロイチゴ、ヌリワラビ、ネズミモチ、フユイチゴ、キヅタ、ボタンヅル、ミズタマソウ、ヤマアイ、ヤマグワ。

 3)河川およびその周辺の植物
  (1)渓流沿い植物(調査地12)
 吉野川の支流である穴吹川は中流付近で深い渓谷となり、その岩場には渓流沿い植物と呼ばれる葉が流線型になった植物が出現する。知野付近の岩場では次のような植物が観察された。
 キシツツジ、シラン、トサチャルメルソウ、シコクチャルメルソウ、ノコギリシダ、イワガネソウ、アワモリショウマ、ヒメウツギ。
  (2)吉野川河川敷の植物
  1 舞中島吉野川川原(調査地13)
  オオイヌタデ、ヤナギタデ、コニシキソウ、アリタソウ、カナムグラ、トキンソウ、ヒメジソ、ヨモギ、アカメヤナギ、コアカザ、イタドリ、ツユクサ、メリケンカルカヤ、ツルヨシ、ブタクサ、クマノミズキ、ヤハズソウ、メドハギ、イヌタデ、ヨウシュヤマ ゴボウ、ホナガイヌビユ、エノキ、ヨシノヤナギ、ナギナタコウジュ、カラムシ、イヌコウジュ、タチヤナギ、キンエノコロ、コマツヨイグサ、アカメガシワ、キツネノマゴ、シロバナキツネノマゴ、オオニシキソウ、ノゲイトウ、シソ、スベリヒユ、メリケンガヤツリ、オヘビイチゴ、ツルノゲイトウ、クワ、イヌホオズキ、アメリカセンダングサ、アキノノゲシ、ヒメジョオン、コスモス、タカサブロウ、エノキグサ、アレチマツヨイグサ、ヘクソカズラ、アキグミ、マメグンバイナズナ、ホソバコンギク、オオクサキビ、オオユウガギク、ヒメムカシヨモギ。
  2 同竹林の縁(調査地14)
  トダシバ、オオバコ、ヒメジソ、クルマバナ、ヒガンバナ、イヌコウジュ、アオミズ、レモンエゴマ、アメリカネナシカズラ、カゼクサ、ヤブガラシ。
  3 同マダケ林内(調査地15)
  ナワシロイチゴ、キヅタ、カラムシ、クズ、ムクノキ、ヤブラン、アカメガシワ、ツユクサ、カニクサ、ヘクソカズラ、タチツボスミレ、コツブキンエノコロ、ナルコビエ、コチヂミザサ、ケチヂミザサ、アレチウリ。
  4 舞中島水門付近(調査地16)
  オランダガラシ、ヤナギタデ、メリケンカルカヤ、オオオナモミ、スイカ、トダシバ、イヌビエ、ウキクサ、コウキクサ、アゼガヤ、シマスズメノヒエ、スカシタゴボウ、チョウジタデ、オオイヌタデ、アメリカアゼナ、アメリカセンダングサ、サンカクイ、カヤツリグサ、オオクサキビ。

 4)植林地の植物
  (1)カラマツ植林(調査地17)
 町内ではスギやヒノキの植林のほかに、杖立峠の周辺にはカラマツの植林があり、その林床には次のような低木や草本が生育している。
 低木層:ヨグソミネバリ、ウツギ、コチヂミザサ、クリ、アオハダ、タラノキ、コシアブラ、ノリウツギ、ヤマツツジ、ミズナラ、ミズキ、ゴトウヅル、タンナサワフタギ、イヌツゲ、サルナシ。
 草本層:イトスゲ、シシガシラ、ウワミズザクラ、ハリガネワラビ、イタドリ、エゴノキ、ヤマイヌワラビ、ツルリンドウ、イヌシデ。

 5)水田の植物(調査地18)
   舞中島では下記のような水田雑草が生育していた。
   ヒメミソハギ、ホソバヒメミソハギ、タカサブロウ、イヌタデ、ヒデリコ、ツルボ、ヒメクグ、チョウジタデ、スズメノトウガラシ、コツブキンエノコロ、オオジシバリ、アゼガヤ、イヌホタルイ、ハナイバナ、ハキダメギク、アゼナ、クロテンツキ。

3.帰化植物
 吉野川の河川敷や市街地には外国から来た帰化植物が生育している。その主なものをあげると、次のとおりである。
 エゾノギシギシ、ムシトリナデシコ、ケアリタソウ、コアカザ、ツルノゲイトウ、ホナガイヌビユ、ノゲイトウ、コゴメバオトギリ、マメグンバイナズナ、イタチハギ、ムラサキツメクサ、オオニシキソウ、コニシキソウ、アメリカキンゴジカ、アレチウリ、ホソバヒメミソハギ、コマツヨイグサ、ユウゲショウ、オオフタバムグラ、アメリカネナシカズラ、アメリカアゼナ、オオイヌノフグリ、ブタクサ、コスモス、キバナコスモス、ヒメジョオン、ヒメムカシヨモギ、オオアレチノギク、ハキダメギク、ブタナ、オオオナモミ、サフランモドキ、メリケンカルカヤ、シナダレスズメガヤ、シマスズメノヒエ、セイバンモロコシ、メリケンガヤツリ、シュウメイギク。
 最近は林道の法(のり)面緑化のための吹き付け種子に混じって侵入した、外国産の植物が多数見られることが報告されている(伊藤、1996ほか)。剪宇峠付近の法面には、ヨモギの種子が吹き付けられており、イワヨモギやハイイロヨモギなどの帰化植物が見られる。昨年の井川町の調査でも、同様に吹き付け種子に混じっていたと見られるイワヨモギやハイイロヨモギが見つかっている(木下ほか、1998)。剪宇峠付近の法面では、さらに国内にみられない数種類のヨモギ属の植物が混じっているようである。

4.特筆すべき植物
 穴吹町で確認した絶滅危惧(ぐ)種や希産種などの特筆すべき植物は次のとおりである。植物名の横の括弧内は環境庁の絶滅危惧植物調査によるカテゴリーである(環境庁自然保護局野生生物課、1997)。絶滅危倶II類(VU)は絶滅の危険が増大している種で、絶滅危惧IB類(EX)は近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの、準絶滅危惧(NT)は存続基盤が弱い種を示している。
 1)セトエゴマ Perilla setoyensis G. Honda(図4)
 1996年、京都大学の本田義昭氏ほかによって新種として発表されたシソ科の1年草で、京都府、岡山県、広島県、愛媛県、徳島県、高知県などの瀬戸内海地域が分布地として挙げられている(本田ほか、1996)。トラノオジソやレモンエゴマによく似た植物であるが、白色の花冠、白色〜褐色の葯(やく)、苞(ほう)の性質、葉の形などによってそれらから区別される。本県では、その後、土成町、貞光町、一宇村などで生育を確認した(木下、未発表)。本町でも、今回の調査で2カ所においてその生育を確認した。


 2)ミヤコミズ Pilea kiotensis Ohwi(VU、図5)
 イラクサ科の1年生草本で、1997年、環境庁がまとめた植物に関するレッドリストで絶滅危倶II類(VU)に挙げられているものである。それによると、その生育地は、京都、兵庫、奈良、和歌山、岡山、山口、福岡、大分となっており、四国では記録されていない珍しい植物である、木下が昨年度の井川町での総合学術調査の折にその生育に気づいたが、調査報告には間に合わず、未発表となっている。今回の調査により、本町にもわずかに生育しているのが確認でき、井川町のものとともに四国初記録である。個体数も多くないので、保護が強く望まれる。


 3)ナルコビエ Eriochloa villosa (Thunb.) Kunth
 草原や川原に生える高さ30〜40cmのイネ科の多年草。特別に珍しいというほどではないが、比較的少ない植物である。本町の舞中島に見られた。
 4)イヌアワ Setaria chondrachne (Steud) Honda
 藪(やぶ)に生えるイネ科の多年草。徳島県では山川町についで2例目の発見であり、珍しい植物である。本町の奥野々山で見られた。
 5)ハグロソウ Peristrophe japonica (Thunb.) Bremek.
 キツネノマゴ科ハグロソウ属の、林縁などの木陰に生える多年生草本で、秋に淡紅紫色の花を咲かせる。本州の関東以西から九州に生える。県内では少ない植物であるが、本町にもわずかに生育している。
 6)トラノオジソ Perilla frutescens (Linn.) Britton var. hirtella (Nakai) Makino et Nemoto
 シソ科の1年草で、林縁や山道の半日陰に生える。レモンエゴマによく似ている。県内では土成町、貞光町などにあるが、少ない植物である。
 7)アワコバイモ Fritillaria muraiana Ohwi (EN)
 ユリ科バイモ属の多年草で、阿波の名がつくことから分かるように、本県(高越山)が基準産地である。本県では広い範囲に分布が見られるが、個体数は少ない。本町でもごくわずかに生育が確認できた。
 8)ユリワサビ Eutrema tenuis (Miq.) Makino
 アブラナ科の多年草で、本県では標高500〜1000m にかけての林床や林縁、あるいは谷筋などの半日陰に生育する少ない植物である。県内には二つの型が見られ、谷筋の岩上や林床に生育する葉の色が濃くて形が小さいものと、一宇村などの標高500m 付近に生育する、葉が広く、葉の色が前者に比べて濃く、大型のものがある。本町のものは前者で、内田の林縁に見られた。
 9)トダイアカバナ Epilobium fomosanum Masam.(VU)
 アカバナ科の1年草で、県内では木頭村、木沢村などの山間地の谷筋や川原などに、まれに生育する植物である。本町にも、杖立峠に向かう道路縁に、かなりの個体数が点々と生育していて珍しい。
 10)シラン Bletilla striata (Thunb.) Reichb. fil.(NT)
 ラン科の多年草で、本県では吉野川、那賀川やその支流の渓側崖(がけ)地に生育する。白花のものもあり、美しいため栽培用に乱獲され、全国的に減少している。本町の穴吹川渓流の岩場にも生育している。
 11)トサチャルメルソウ Mitella yoshinagae Hara(EN)
 ユキノシタ科の多年草で、県内では山間地の川縁や谷筋の水辺に生育する。本県では、それほど希少種の感じがしないが、全国的には産地が限られ、少ないために、絶滅危惧種にあげられている。本町にも渓側や谷筋には所々に生育している。
 12)ソクシンラン Aletris spicata (Thunb.) Franch.
 ユリ科の多年草で日当たりの良い場所に生育する。最近では、日当たりの良い草地が減っているためか数が少なくなっている。北又谷の岩場で確認できた。
 13)オオカラスウリ Trichosanthes bracteata (Lam.) Voigt(図6)
 ウリ科の多年草で、徳島県植物誌には記載されていない植物である。県内では徳島市、上板町、脇町など数カ所で確認されているが、希産種である。舞中島の民家の庭に生育しているのが確認できた。


 14)オオナンバンギセル(ヤマナンバンギセル) Aeginetia sinensis G. Beck
 山地の草原などにまれに見られるハマウツボ科の1年生の寄生植物。本町の半平山登山
道の草むらに、ススキを寄主として生育していて珍しい。
 15)アイトキワトラノオ Asplenium pekinense × sarelii
 トキワトラノオとコバノヒノキシダの雑種で、両種の生育している所で見られる。本町でも首野上付近の石垣にわずかに見られる。
 16)ヒメウラジロ Cheilanthes argentea (Gmel.) Kunze(VU)
 ホウライシダ科の常緑性で小型のシダ植物。石灰岩地や崖地、石垣などに生育している。葉の裏面が粉白色をしていて美しいため、盆栽用として乱獲されて減少傾向にある。本町の恋人峠など数カ所で生育しているのを確認した。
 17)オクタマシダ Asplenium pseudo-wilfordii Tagawa
 山林中の樹陰の樹幹や岩上に着生する常緑のチャセンシダ科のシダ植物。アオガネシダに似ているが、葉の形が異なる。東京都奥多摩が基準産地のためこの名前がある。県内では県南にわずかに生育する極めて珍しい植物であるが、本町でも群生しているのが確認できた。しかし、着生している木がかなりの老木で樹勢が衰えているため、存続が危ぶまれる。なお本町にはこれとよく似たコウザキシダも確認できた。
 18)ミヤコヤブソテツ Cyrtomium fortunei J. Smith var. intermedium Tagawa
 オシダ科のヤブソテツの変種で包膜の中心部が黒褐色になる特徴をもつシダ植物。谷筋に所々見られるが、本県では少ない。本町の内田の谷でもわずかに生育を確認した。
 19)ミゾシダモドキ Cyelogtamma leveillei (Christ) Ching(図7)
 ヒメシダ科のシダ植物で、千葉県以西の本州南部と四国・九州の陰湿な林下にややまれに生える。県内では県南にごくわずかに見られる極めて珍しい植物である。本町のものは、徳島県植物誌(阿部、1990)に記録されているものの、その産地はマニアなどによる採取から植物を保護するため、阿部近一氏以外の知るところではなかったが、多分、同一産地と思われる生育地を今回の調査で確認できた。


 20)オオヒメワラビモドキ Deparia unifurcata (Bak.) M. Kato
 イワデンダ科の夏緑性のシダ植物で、本県では一宇村などの湿り気の多い林床に見られる。
 21)ナンゴクナライシダ Arachniodes miqueliana (Maxim.) Ohwi
 オシダ科の常緑性のシダ植物で、県内ではブナ帯などの山地の林床に生え、やや珍しい。従来ナライシダと総称されていたが、芹沢俊介氏によってホソバナライシダとナンゴクナライシダに分けられた。徳島県のものはどちらに当たるのか検討されていなかったが、本町の杖立峠付近に多く生育しているものを調べた結果、ナンゴクナライシダであることが分かった。
 22)オオフジシダ Monachosorum flagellare (Maxim. ex Makino) Hayata(図8)
 コバノイシカグマ科の常緑性シダ植物で、岩上などに生育し、県内では比較的珍しい植物である。本町の平谷でも生育しているのが確認できた。


 以上のほかにも、フッキソウ、オニノダケ(ミヤマノダケ)、キミズモドキ、コウヤマキ、エゾエノキ、ユクノキ(ミヤマフジキ)、フジキ、ヤマボクチ、ニシノヤマタイミンガサ、ツチアケビ、カヤラン、シロバナタンポポ、クロフネサイシン(VU)、ユキモチソウ(VU)、エビネ(VU)が確認できた。また、コチヂミザサに似ているが花序の大きさの異なっている植物があり、検討中である。

5.巨樹
 今回の調査で計測した巨樹の一部を示す。数値は胸高の周囲で、単位はcmである。イチョウ:634(内田)、346(舞中島)。イヌマキ:244(舞中島)。イロハモミジ:140(平谷阿弥陀如来お堂)。ウラジロガシ:299(平谷阿弥陀如来お堂)。エゾエノキ:160(平谷阿弥陀如来お堂)。オガタマノキ:275(舞中島、植栽)。カキノキ:245(白人神社)、167(東成戸)。イブキ:450(小島)。カイヅカイブキ:240(東成戸)。クスノキ:569(白人神社)。ケヤキ:349(平谷阿弥陀如来お堂)。コウヤマキ:218(平谷石尾神社)。スギ:480(平谷石尾神社)、383(白人神社)。スダチ:101(東成戸)。トチノキ:370(平谷阿弥陀如来お堂)。ムクノキ:525(御所神社)。モミ:331(白人神社)。ヤマザクラ:620(内田)。エドヒガン:780(内田)。

6.引用および参考文献
 阿部近一(1990)徳島県植物誌.教育出版センター.
穴吹町誌編さん委員会(1977)穴吹町誌.穴吹町.
本多義昭・弓場亜希子・伊藤美千穂・田端 守(1996)日本産シソ属(シソ科)の1新種セトエゴマ.植物研究雑誌,71(1):39-43.
伊藤隆之(1996)最近、東予地方周辺の林道法面に出現するキク類とヨモギ類について.愛媛高校理科、No.33:59-63.
環境庁編(1979)日本の重要な植物群落(四国版).
環境庁編(1988)第3回自然環境保全基礎調査.特定植物群落調査報告書、追加調査・追跡調査(徳島県).
環境庁編(1988)第3回自然環境保全基礎調査.特定植物群落調査報告書、成育状況調査(徳島県).
環境庁自然保護局野生生物課(1997)植物版レッドリストの作成について.環境庁.
木下 覺・小川 誠・木村晴夫・赤澤時之・岡田憲昭・木内和美・小松研一・片山泰雄・真鍋邦男(1998)徳島県三好郡井川町の植物相.阿波学会紀要第44号、総合学術調査報告井川町.29-47.阿波学会・徳島県立図書館
牧野富太郎(1985)牧野新日本植物図鑑.北隆館.
長田武正(1976)原色日本帰化植物図鑑.保育社.
長田武正(1993)増補日本イネ科植物図鑑.平凡社.
中田政司・関 太郎・伊藤隆之・小川 誠・松岸得之介・熊谷昭彦・工藤 信(1995)最近道路の法面に発見されるキクタニギクとイワギクについて.植物地理・分類研究、43(1-2):124-126.
佐竹義輔・大井次三郎ほか編(1981〜1982)日本の野生植物草本(1〜3).平凡社.
佐竹義輔・原寛ほか編(1989)日本の野生植物木本(1、2).平凡社.
我が国における保護上重要な植物種および植物群落に関する研究委員会種分科会編(1989)我が国における保護上重要な植物種の現状.(財)日本自然保護協会・(財)世界自然保護基金日本委員会.
我が国における保護上重要な植物種および植物群落に関する研究委員会種分科会編(1996)植物群落レッドデータ・ブック.(財)日本自然保護協会・(財)世界自然保護基金日本委員会.

1)徳島県立博物館 2)鳴門市立瀬戸小学校 
8)徳島市立福島小学校 9)徳島県立城西高校神山分校
10)上板町立松島小学校


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