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1.はじめに 最近の「アウトドア・ブーム」によるものか、明石大橋の架橋効果によるものか、本調査期間中、数多くの人たちが穴吹川などで水遊びをしたり、キャンプを楽しんでいるのを見かけた。穴吹川は1998年度の建設省による調査でも、四国で一番水のきれいな川という評価を得ている。 穴吹川のきれいな水を作っているのは上流の森林であり、これらの森林を守ることは重要なことである。最近、環境に対する意識の高まりから、人間の生活に欠くことのできない、水や空気を作り出す上流の森林のコストを、下流の自治体が負担している場合も見られる。穴吹町でも、下水道の普及など河川の水質をまもるために積極的に取り組んでいる。 今回の調査では、穴吹町の植生の種組成を分析し、群落に区分し、その分布を現存植生図として地図上に記した。この結果が、穴吹町の自然環境の保全、管理および利用の基礎的資料となり、結果的に穴吹川の水質保全に役立つものと考える。 しかし、自然と親しむ人たちが増えているように見える反面、自分たちの身近な自然についての知識は減少しているように思われ、最も自然に親しむべき子供たちにしても、実際に動物や植物に触れることなく、知識のみが先行している傾向が感じられる。穴吹町の自然、特に森林に、より多くの人々が親しみを持ってくれることを期待するが、調査結果がその際の参考にもなれば幸いである。 調査にご協力いただいた穴吹町の関係者の方々に、心からお礼を申し上げたい。
2.調査地概観 穴吹町は徳島県の北西部に位置し、東は山川町・美郷村、南は木屋平村・一宇村、西は貞光町、北は吉野川を挟んで脇町と接している。吉野川の支流である穴吹川が、町の中央を南北に流れており、その両岸の狭い平野と北部の吉野川の沖積平野を除いては、ほとんどが山地である。町内には、東部に奥野々山(1159m)、中部に半平山(1015.9m)、南部に綱付山(1255.8m)・八面山(1312.3m)、西部に友内山(1073.1m)、と1000m
を超す山々が見られる。町内の最高地点は八面山山頂の1312.3m、最低地点は吉野川河川敷の約30m
である。 地質は三波川(さんばがわ)帯の結晶片岩からなる。これは、砂・泥・珪(けい)質堆(たい)積物などが、変成作用をうけたものである。 表1に穴吹観測所の気象準平均値(1979〜1990年の平均値)を示す。
 この表からわかるように、穴吹町の年平均気温は14.7度、年間降水量1279mm
である。徳島県内では、気温が低く、降水量が少ない地域となっている。 日本の森林帯の水平・垂直分布と気温の関係を示す指数として、吉良の「暖かさの指数」がある。これは月平均気温が5度以上の月を選び、それぞれの値から5を引いた数値の総和を求めたものである。穴吹町の気象資料から「暖かさの指数」を計算すると測定地点では117.2となることから、穴吹町の低標高地域は照葉樹林帯(「暖かさの指数」85〜180)に属すると考えられる。また海抜高による気温減率を100m
につき0.6度として計算すると、海抜600m では84.7、1300m
では52.7となる。「暖かさの指数」40〜85は夏緑樹林帯であり、穴吹町の600m
以上の地点には夏緑樹林が成立することになる。 穴吹町の土地利用状況をみると、総面積108.88平方キロメートルの内、森林が89.94平方キロメートル(83%)、耕地が4.78平方キロメートル(4%)、その他が14.16キロメートル(13%)となっている。また森林の56%は植林となっており、耕地の内訳は、水田が37%、畑地が35%、樹園地が13%、牧草地が5%となっている。
3.調査方法 調査に入る前に、あらかじめ1994年撮影(第7剣山)および1996年撮影(SI−96−1X)の空中写真で判別した群落区分を、1/50000
地形図上に記入した。 調査は1998年7月29日〜8月2日・9月15日・10月27日・12月13日・12月20日に行った。あらかじめ地形図上に記入してあった群落区分を現地で確認・修正し、各群落を代表すると考えられる地点(図1)に方形区を設定し、その標高、斜面方位、斜面傾斜、高木層・亜高木層・低木層・草本層に出現する維管束植物の被度・群度、各階層の高さおよび植被率、高木層の胸高直径を記録した。方形区の広さは森林で15m×15m、草本群落では3m×3m
を標準にした。このようにして得られた49の植生調査資料から、各群落の識別種群を引き出して、群落識別表(表2)及び各群落表(表3〜12)を作成した。 これらの結果から
1/50000
の現存植生図(付図)を作成した。なお、果樹園、桑畑、畑、水田、ゴルフ場、住宅地、造成地などについては、区別せず、一括して図示した。

4.結果と考察 穴吹町の植生は、13の群落に区分された。これらの各群落の特徴等は以下の通りである。 1)コジイ群落 群落識別種:コジイ、タラヨウ、センリョウ、アリドオシ、シリブカガシ、カクレミノ。調査区数5。平均出現種数25種。 西南日本の低地帯には、シイやカシ類などの常緑広葉樹が優占し、下層にも常緑広葉樹のヤブツバキなどの低木やヤブラン、ベニシダなどの常緑草本が繁茂する照葉樹林が発達しているはずである。しかし、かつては低地帯のほぼすべてをおおっていたと思われる照葉樹林は、人間の居住地や農耕地として破壊され、現在では神社や仏閣などにわずかに残されているにすぎない。 口山の磐境神明神社に比較的広い面積のコジイ群落が残されている(図2)。この群落は、高木層、亜高木層に胸高直径50〜30cm
で樹高16m
前後のコジイが優占し、その中にシリブカガシ、タラヨウ、カクレミノなどが混生している。低木層には、サカキ、カナメモチ、ヤブツバキが、草本層にはセンリョウ、アリドオシなどが見られる(表3)。 この群落は自然度も高く、面積も社叢(そう)としては広いため、本町の潜在植生を推測する上で非常に大切な群落である。今後伐採されることのないように保護されるべきである。

2)アラカシ群落 群落識別種:アラカシ、シュロ、ハカタシダ。調査区数5。平均出現種数27種。 アラカシも照葉樹林の代表的な高木である。この群落が成立する立地も人間の撹(かく)乱を受けやすく、残されているのは、あまり利用されない急傾斜地や社寺林に限られている。 穴吹町でも、穴吹川やその支流の岸などの急傾斜地にアラカシ群落が見られた。高木層、亜高木層にアラカシが優占し、その中にコナラ、ケヤキなどが混生する。低木層には、イヌビワ、ネズミモチ、カナメモチ、ヤブツバキなどが見られ、草本層にはシュロ、マメヅタ、ハカタシダなどが見られた。しかし、面積は狭く、道路に接していて状態は良くない(図3)。また、人里に近いため、ヤマガキ、ビワ、チャノキなども混生していた(表4)。 コジイ群落と種組成を比較すると、マメヅタ、カナメモチ、イヌビワなどの共通種が多く見られる。したがってこの群落は、急傾斜地のため、厚い土壌が形成されずコジイ群落に変われなかった土地的極相と考えられるが、人家に近いため薪(しん)炭林として利用された二次林的要素の強い森林である可能性も考えられる。

3)アカマツ群落 群落識別種:アカマツ、モチツツジ、ワラビ、ネズ。調査区数5。平均出現種数34種。 穴吹町では、三頭山(641.2m)や、高丸(740.9m)の上部などにアカマツ群落が見られる。現在みられる大部分のアカマツ群落は、人間が自然の植生を破壊したあとに成立し、その後も伐採や下刈りなどの管理によって持続された代償植生である。陽樹であるアカマツは日当たりの良い地面で発芽し、成長も早い。アカマツの幼木は暗い林床では成長できないため、陰樹林へと移り変わるが、薪炭林として利用される場合は、人為的な伐採や下刈りにより陽樹林が維持される。このような森林を二次林とよぶ。しかし、燃料が薪炭から石油やガスに変わった現在では、人々は山に入らなくなり、いわゆる「松枯れ現象」の影響もあり、アカマツ群落は減少している。 調査したアカマツ群落では、高木層はアカマツが優占し、亜高木層にはヤマウルシ、ヤマザクラ、コシアブラ、ネムノキなどが見られ、低木層はヒサカキ、トサノミツバツツジ、モチツツジが優占していた(図4)。また草本層にはワラビ、イヌツゲなどが見られる。高木層と低木層の植被率が高く、平均種数も34種と多かった(表5)。

4)コナラ−シラカシ群落 群落識別種:シラカシ、ダンコウバイ、カヤ。調査区数6。平均出現種数29種。 コナラも二次林を形成する樹種である。穴吹町では、アカマツ群落よりコナラ群落のほうが広い面積を占めている。乾燥した貧栄養の土壌を好むアカマツと、やや湿った緻(ち)密な土壌を好むコナラの性質から考え、穴吹町の降水量や母岩がコナラにより適していると考えられる。 調査した群落(図5)は、半平山の南斜面、標高560〜630m
に位置している。高木層にコナラやケヤキが優占し、アサダ、イヌシデ、アオハダなどの落葉広葉樹加混生している。亜高木層、低木層にはリョウブ、ソヨゴ、ネジキ、シラカシなどが、草本層にはイヌツゲ、シシガシラなどが生育している(表6)。 二つの調査地には、高木層に胸高直径68cm
のアカマツが出現している。したがってこの群落には、かつてはアカマツ群落であったが、「マツ枯れ」によって高木層のアカマツが欠けた群落も含まれていると考えられる。またシラカシ、アラカシ、ウラジロガシなど、照葉樹林高木層の構成種も亜高木層、低木層に含まれている。したがって前述のように、人為的な伐採や下刈りが行われなければ、極相であるカシ林へと遷移するものと思われる。 なお徳島県西部で吉野川の南岸の落葉広葉樹林については、半田町(西浦ほか、1992)や井川町(西浦ほか、1998)における調査結果の報告がある。それによると半田町では、標高100〜300m
でクヌギ−アベマキ群落とクヌギ−コナラ群落、標高500m 付近でアカシデ群落、標高1200〜1400m
でブナ群落が現れる。また井川町では、標高200〜300m でコナラ−クヌギ群落、標高900〜1200m
でコナラ−ミズナラ群落が見られている。 今回の調査では、コナラ−シラカシ群落ではシラカシ、ヒサカキ、アオキなどの照葉樹林構成種が、後述のシロモジ群落ではヨグソミネバリ、イタヤカエデ、コハウチワカエデなどの夏緑樹林構成種が見られた。コナラ−シラカシ群落とシロモジ群落の境界は、標高800m
付近と思われる。

5)ブナ群落 高標高や高緯度の冷涼な気候の下では、春に新芽を出し、夏にはやや薄い広葉を広げ、秋には紅葉して、冬にはそれらを落として休眠する樹木からなる森林が発達する。このような森林を夏緑樹林と呼ぶ。徳島県では、標高1000m
以上の山地帯が夏緑樹林に属する。夏緑樹林の自然林であるブナ林は、特に標高1200〜1500m
付近によく発達している。しかし、県内のブナ林は、林道の整備などによって次々伐採されており、自然林として残されているものは大変貴重なものとなっている。県西部では半田町でブナ林が報告されている(西浦ほか、1992)。 穴吹町では、山川町との境の奥野々山の山頂に小面積ではあるが、ブナ林が残されている(図6)。奥野々山神社の社叢として残っているものであるが、当地の夏緑樹林の種組成を知る上で、非常に貴重な森林である。調査数1なので、種構成を記録しておくのみとする。 調査年月日:平成10年12月13日。調査場所:穴吹町奥野々山神社前。標高:1150m、地形:斜面上、方位:S20°E、傾斜:25度、調査面積:432平方メートル。 高木層 高さ:18m、植被率:50%、胸高直径:78.5cm。 ブナ3・3、イヌシデ1・1、ヨグソミネバリ1・1、ミズナラ+、リョウブ+、ヤドリギ+。 亜高木層 高さ:8m、植被率:30%。 ブナ1・1、リョウブ1・1、ヤマウルシ1・1、イタヤカエデ+・2、ヒノキ+、ウリハダカエデ+、アオハダ+。 低木層 高さ:5m、植被率:70%。 シロモジ4・3、アセビ2・2、コハウチワカエデ1・1、ウリハダカエデ1・1、ミツバツツジ
sp.+、ヤマウルシ+、ミヤマウグイスカグラ+、ソヨゴ+、ハリギリ+、ノブドウ+、イヌツゲ+、アオハダ+、イヌシデ+。 草本層 高さ:1m、植被率:10%。 スズタケ2・2、ミヤマシキミ1・1、シロモジ+、ブナ+、タンナサワフタギ+、アセビ+、ソヨゴ+、ウスゲクロモジ+。

6)シロモジ群落 群落識別種:シロモジ、アワブキ、クマシデ、ヨグソミネバリ、アオハダ。調査区数4。平均出現種数21種。 高木層にヨグソミネバリやアオハダ、リョウブが優占し、低木層はシロモジが優占している。シロモジ、シラキ、コハウチワカエデ、アオハダ、タンナサワフタギなど、ブナ群落の要素が含まれている(図7、表7)。

7)コウヤマキ群落 穴吹町の南部、平谷の石尾神社にコウヤマキ林が見られる。社殿後の大きな岩塊の上に成立しており、周囲の植林などから孤立している。社叢として保護されてきたものと思われ、規模といい、純林に近い高木層の組成といい、見事なものである(図8)。 コウヤマキ林は、当地のように岩塊上などの水分条件の極めて悪い立地に成立するが、県内では社叢として残されているものの外は、多くは伐採されて失われてしまっている。 したがってこのコウヤマキ林は、非常に貴重である。調査数1なので、種構成を記録するのみにする。 調査年月日:平成10年12月20日。調査場所:穴吹町平谷石尾神社。標高:670m、地形:斜面中、方位:N60°E、傾斜:35度、調査面積:500平方メートル。 高木層 高さ:20m、植被率:70%、胸高直径:70cm。コウヤマキ4・3、ヒノキ1・1、フジ+。 亜高木層 高さ:10m、植被率:15%。 ソヨゴ1・1、ネジキ1・1、フジ+。 低木層 高さ:5m、植被率:5%。 アセビ1・1、ウスノキ+、ヤマウルシ+、スノキ+、ネジキ+、テイカカズラ+、シャクナゲ+、フジ+。 草本層 高さ:0.5m、植被率:3%。 コウヤマキ2・+、ヤマウルシ+、ウスノキ+、ソヨゴ+、アセビ+、ヒノキ+、ネジキ+、スギ+、タラノキ+、スノキ+、シャクナゲ+。

8)マルバヤナギ群落 群落識別種:マルバヤナギ、ヨシノヤナギ。調査区数5。平均出現種数5種。 河原は、植物の生育環境としては特殊な環境で、ほぼ定期的に起こる洪水によって、多量の土砂が下流に流されたり、植生の上に堆積する。本年も特に降水量が多く、度々増水し、本調査も増水の後であった。このため砂の移動に強く、回復力があり、乾燥にも耐えられるツルヨシやヤナギの仲間が群落を形成する。 穴吹町では、吉野川の河原にマルバヤナギ群落がみられた。この群落は低木層に2〜3m
のマルバヤナギやヨシノヤナギが生育し、草本層にツルヨシ、ノイバラ、ミゾソバ、オオイヌタデ、クサヨシなどが見られた。比較的湿潤な立地にはツルヨシが、乾燥した立地にはミゾソバやオオイヌタデが優占していた(表8)。
9)ツルヨシ群落 群落識別種:ツルヨシ、オオイヌタデ。調査区数5。平均出現種数2種。 ツルヨシ群落は洪水のたびに冠水する川や谷に分布する自然植生である。ツルヨシは、川の流れに強く、長い匍匐(ほふく)茎を出して繁殖し、湿性な水際でもよく生育する。川が増水すると川下側に倒れるが、増水がおさまると、速やかに再生する。河川の中流部に発達するマルバヤナギ群落に比べ、ツルヨシ群落は上流部にも見られる。穴吹町では、ツルヨシ群落は吉野川河原の水際と、主に穴吹川とその支流でみられる。 群落内では、ツルヨシが植被率90〜100%で優占し、わずかにオオイヌタデ、ヨモギ、ミゾソバなどが見られる(図9)。平均出現種数も2種、と少ない(表9)。

10)キシツツジ群落 河川の上流部では川幅も狭く、平常時と洪水時の水位差は大きい。渓谷の両側に帯状に見られる、洪水時に冠水する立地には、高木は生育できず、低木と草本からなる特有の群落が発達する。キシツツジ群落はそのような群落である。 穴吹川の場合、宮内より上流の渓谷の両岸に発達する。調査数1なので、種構成を記録しておくのみとする。 調査年月日:平成10年7月31日。調査場所:穴吹町鍵掛。標高:120m、地形:斜面下、方位:N20°W、傾斜:60度、調査面積:9平方メートル。 草本層 高さ:0.3m、植被率:70%。 キシツツジ3・3、ヤシャゼンマイ2・3、アワモリショウマ1・2、スゲsp.1・2、タチシノブ+・2、ミツデウラボシ+・2、アキノタムラソウ+、ニガナ+、マルバウツギ+、タチツボスミレ+、シケシダ+。
11)カナムグラ群落 群落識別種:カナムグラ、ガガイモ。調査区数5。平均出現種数6種。 吉野川の河原に発達したマント群落である。河原のように砂質の土壌ではなく、泥質の富栄養の土壌の上に発達する。密集したカナムグラが一面に地面を覆い(図10)、地表面での光量を不足させるため、他の植物の侵入が防がれる(表10)。

12)人工林 a.スギ植林 群落識別種:スギ、ミツマタ、クサイチゴ、ハネミイヌエンジュ。調査区数2。平均出現種数41種。 穴吹町の最も広い面積を占めるのは、人工林である。特に南部の古宮地区では、林道の整備に伴って、植林の面積が増えている。 高木層をスギが占め、低木層ではアオキが優占している、その他にケクロモジ、イヌツゲ、ケヤキなど、その地点の自然植生の構成種が見られる。草本層にはムラサキノゲシ、 ヤマジノホトトギス、アキノタムラソウ、ミズヒキなどの草本や、スズメウリ、アマチャヅル、ノブドウなどの多くのツル植物が含まれ、種数も非常に多い。下層の樹木やツル植物が多いのは、この植林が余り手入れされていないことを示している(表11)。 b.カラマツ植林 カラマツ植林は、八面山北部の標高1100m
付近に見られた(図11)。各層の構成種のみを記載することとする。 高木層 カラマツ(高さ:18m、胸高直径:23cm)。 低木層 タムシバ、シラキ、シロモジ、イタヤカエデ、イヌザクラ、ネジキ、アセビ、エゴノキ、スノキ、コハウチワカエデ、ウリハダカエデ、タンナサワフタギ、コツクバネウツギ。 草本層 サルトリイバラ、イヌツゲ、ヤマツツジ、シラキ、アオハダ、イタドリ

13)マダケ群落 群落識別種:マダケ、ハチク、ヤマアイ、ヤブラン、イタドリ、ムクノキ、クサマオ、アオイスミレ。調査区数5。平均出現種数28種。 吉野川の河原と耕作地の間に帯状に竹林が見られる。これは、洪水の際、水の勢いを弱めるために人為的に作られ、維持されてきた竹林である。最近は堤防が築かれたが、堤防の内側と外側に、相当面積残されている。また、人家の周りにも面積は少ないが竹林が見られる。 高木層はマダケが優占し、ハチク、ムクノキ、エノキが混生する(図12)。低木層の植被率は低いが、トウネズミモチ、イヌビワ、ヤブニッケイなどがまばらに生えている。一方草本層の植被率は高く、全調査地点でヤマアイが優占し、アオイスミレ、ホウチャクソウ、カテンソウなど多くの種が見られた(表12)。

5.おわりに 穴吹町の植生を見渡すと、人工林の占める面積が広く、過去の空中写真などと比べても、増加の傾向にあることが分かった。次いで広い面積を、二次林であるコナラ−シラカシ群落が占めている。反面、期待していたブナ林は、奥野々山の社叢にしか見つからなかった。人工林は森林の階層構造も単純で、構成する樹種も少なく、その森林で生育できる動物も少ない。また、空気を浄化し水を貯める能力も低いと言われている。穴吹川のきれいな水を守るためには、人工林の比率をこれ以上増やさず、ブナ林やカシ林、シイ林のような自然度の高い森林の面積を増やしていく必要があろう。全国各地で潜在自然植生に従った植林なども行われている。穴吹町でも、今後実施されることを期待する。また、二次林であるコナラ−シラカシ群落やアカマツ林の比率を減らさないようにすれば、より自然度の高い森林に遷移すると思われる。 また、近年このような二次林が、古くから人間の生活と結びついてその形を保ってきた「里山」と呼ばれ、環境教育の場や身近な自然に触れられる場所として、重要視されている。たしかにコナラ林は、林内も明るく、林内に入りやすく、ドングリやキノコも多く、多種の昆虫や鳥なども観察できる。薪炭林としての利用価値のなくなった二次林は、スギやヒノキの人工林に変わる傾向があるが、身近な自然と触れ合う場所として、多様な動植物の住む所として、極相林への過程として、保護されなければならない。 今回の調査で明らかになった穴吹町の植生の中で、口山の磐境神明神社のコジイ林、平谷の石尾神社のコウヤマキ林、奥野々山のブナ林は、植物社会学上極めて貴重な、価値の高い群落である。穴吹町の原植生を示すものとして、その価値を認識し、ぜひとも強力に保護されるよう望みたい。 以上の今回の調査で得られた結果が、穴吹町の発展に寄与できることを願っている。 6.要約 1998年7月29日から12月20日まで穴吹町の植生を調査し、群落を識別するとともに現存植生図を作成した。その結果穴吹町では、耕作地、住宅地、造成地を除いて、次の13の群落を区分することができた。 1.コジイ群落 2.アラカシ群落 3.アカマツ群落 4.コナラ−シラカシ群落 5.ブナ群落 6.シロモジ群落 7.コウヤマキ群落 8.マルバヤナギ群落 9.ツルヨシ群落 10.キシツツジ群落 11.カナムグラ群落 12.人工林 a.スギ植林 b.カラマツ植林 13.マダケ群落
参考文献 1.徳島地方気象台・日本気象協会.1991.徳島百年の気象.徳島出版,徳島. 2.須鎗和巳ほか.1991.日本の地質8 四国地方.共立出版,東京. 3.西浦宏明、森本康滋、石井愃義、友成孟宏、鎌田磨人、井内久利.1992.半田町の植生.郷土研究発表会紀要、38、7〜28. 4.西浦宏明、森本康滋、石井愃義、友成孟宏、井内久利、松永英明.1998.井川町の植生.総合学術調査報告 井川町(阿波学会紀要 第44号)、11〜27. 5.中西哲ほか.1983.日本の植生図鑑 森林.保育社、東京. 6.矢野悟道ほか.1983.日本の植生図鑑 人里・草原.保育社、東京.

 
 

 

 
1)徳島県立脇町高等学校 2)徳島市佐古一番町1−28 3)徳島大学総合科学部 4)藍住町立藍住西小学校 5)徳島県生活文化国際総室 6)徳島県立城西高等学校 |