阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第44号
井川町の読書調査

読書調査班(徳島県立図書館)

   安藤美穂1)・久保貴栄1)・                   

   長尾由美子1)・山口洋子1)・                  

   田村加代1)・中火保江1)・                  

   山崎香奈子1)・渡部善之1)

1.はじめに
 井川町における読書の状況を把握するために、読書調査班では、アンケート調査及び座談会を行い、分析・考察をこころみた。

2.調査の目的と方法
 現在の井川町における読書状況の実態や図書館に関する意識を調査することにより、今後の読書活動を推進していくための参考資料とする。今回の調査では、辻小学校、西井川小学校、井内小学校の3年生以上の児童及び保護者、井川中学校の生徒及び保護者を対象に、『読書と図書館に関するアンケート』を7月に実施した。また座談会を行い、関係者の方々から意見を聞いた。

3.読書と図書館に関するアンケートの結果と分析
 1)一般成人対象
 このアンケートは、井川町内の辻小学校、西井川小学校、井内小学校、井川中学校、ふるさと交流センターの協力のもとに、小中学校生の保護者、ふるさと交流センター図書室の利用者を対象に行い、324通の回答を得た。以下にその結果と分析を行う。
 回答者は、小・中学生の保護者が多いため、8割が女性で、特に30代・40代の女性が全体の68%を占めている(表1.図1,2)。そのため、統計的に偏りのあるものとなっている。



問1.(余暇の過ごし方について)あなたは、余暇をどのように過ごしていますか。
 (3つまで○を)
 男女ともにテレビ・ラジオという回答が最も多く、読書は4番目となっている(図3)。


問2.(本の読書量について)あなたは、1か月間に平均何冊本を読みますか。(雑誌、漫画は除く)
 男女差はほとんど見られず、1か月に幾らかでも読書をするとした回答が75%となっている(図4,5)。ただし、そのうち1冊以下の回答が半数以上を占めており、量的には多いとはいえない。


問3.(雑誌の読書量について)あなたは、1か月間に平均何冊雑誌を読みますか。
 雑誌については、9割近くの入が幾らかは読むという回答となっている(図6,7)。また、2冊以上という回答の割合も、前問の本の読書量に比べてかなり多い。


問4.(読書の目的について)あなたは、どんな目的で本や雑誌を読みますか。(主なもの2つに○を)
 男女ともに楽しみ、趣味・娯楽のためとする回答が多いが、男性は3位に教養、女性は家庭生活のためという回答が続いている(図8)。


問5.(入手方法について)あなたは、読みたい本や雑誌をどこで借りたり購入したりしていますか。(主なもの2つに○を)
 書店が男女ともに最も多い。女性はこれに次いで、ふるさと交流センターの図書室(以下「交流センター」と略す)をあげているが、男性では、コンビニ等が2位になっており、交流センターは5位にとどまっている(図9)。


問6.(交流センターの利用頻度について)あなたは、この1年間にふるさと交流センターの図書室を利用したことがありますか。
 回答者の約半数が利用していないという結果になった(表2,図10)。利用しているという回答でも利用回数は少なく、町民の交流センターの利用率は低いと言わざるを得ない。


問7.(交流センターの利用目的について)(問6で、「ある」と答えた人に)図書室を利用したのはどんな理由からですか。(主なもの3つまで○を)
 本を借りるため、あるいは読書するためが大半を占めている(図11)。女性にビデオを借りるための利用が多いのが特徴であるといえよう。


問8.(交流センターを利用しない理由)(問6で、「ない」と答えた人に)どのような理由で、図書室を利用しないのですか。(主なもの2つまで○を)
 開館時間中に利用できないという回答が特に多い(図12)。開館時間の工夫などが必要ではないだろうか。


問9.(交流センター以外の読書施設の利用)あなたは、ふるさと交流センターの図書室以外の読書施設を利用していますか。(自由に○を)
 利用していないという回答がほとんどである(図13)。問6の回答結果とあわせて考えれば、図書館などの読書施設が、町民にとって身近なものとなっていない表れではないだろうか。


問10.(公共図書館の存在意義について)公共図書館を利用する、しないにかかわらず、それが存在していること自体、あなたにとって価値がありますか。
 前問までの結果に見られるように、町民の公共図書館の利用は決して活発とはいえないが、公共図書館の存在価値を認めている人は8割を占めている(表3,図14)。これは、潜在的な読書への関心の表れであるといえよう。これら多くの、関心はあっても実際に利用するまでに結びついていない住民に対し、図書館がPRに努め、積極的に働きかけていくことが必要であろう。


問11.(図書館に望むこと)あなたは読書に関して、ふるさと交流センターの図書室や県立図書館に何を望みますか。(*自由記述)
 県立図書館への要望では、「遠い」「わからない」という回答が大半を占めた。なかには、日曜開館を望む声もあるなど、誤解されている点がある。県立図書館としてPR不足を反省させられる。
 交流センターへの要望としては、「蔵書の充実」(24件)、「開館時間の延長」(13件)、「設備面の充実」(10件)、「移動図書館の運行」(3件)、「駐車場の拡張」(3件)など具体的な意見が多く出された。これらの意見を参考にして、少しでも改善していくよう努力すべきであろう。なお、「気軽に立ち寄れる雰囲気がよい」という感想も寄せられていた。

 2)小学3年生から中学生対象
 このアンケートは、井川町内の小・中学校の協力のもとに、小学3年生から中学3年生の全員に対して行い、399通の回答を得た(表4)。以下にその分析を行う。

問1.あなたは、6月1か月の間に、本を何冊読みましたか。(マンガや雑誌は除く)
問2.あなたは、6月1か月の間に、雑誌を何冊読みましたか。(マンガ雑誌は除く)
問3.あなたは、6月1か月の間に、マンガ(マンガ雑誌やコミック)を何冊読みましたか。
問4.あなたは、6月1か月の間に、カセット、CD、ビデオなどをいくつ見たり聞いたりしましたか。




 雑誌・マンガを除く本・書籍の読書量は小学生が多く、中学生になると顕著に低くなっているが(図15)、雑誌・マンガの読書量(図16,17)、AV の視聴量(図18)については、小学生と中学生の差はあまりない。
 マンガについては、他の書籍や雑誌に比べて、平均読書冊数がどの学年においてもかなり多く、また、男子の読書量が女子をはるかに上まわっている(図17)。

問5.(資料の入手もとについて)あなたは、本やざっしをどのようにしてかりたり買ったりしていますか。いくつでも○をつけてください。
 どの学年においても1位が本屋で買う、2位が家にあるものを読む、となっているが、小学生はこれに次いで、学校図書室、交流センターで借りるが多くなっている(図19)。ところが中学生になると、友だちから借りるが3位となっている。中学生に公共の読書施設があまり利用されていないのは、勉強や部活動による時間的制約だけでなく、それらの施設に中学生にとって魅力ある資料が少ないことも大きな理由のひとつではなかろうか。


問6.(学校図書室の利用頻度について)6月1か月の間に、学校の図書室に行きましたか。1つだけに○をつけてください。
 小学生ではどの学年も5回以上行った子どもの割合が最も多く、小6では60%を超えている。それに比べ中学生では利用度がぐっと下がり、特に中2では、一度も行かなかったと答えた生徒が70%にのぼる(図20)。小学生の利用率が高いのは、小学校での図書室の利用指導が徹底されているからであろう。
問7.(学校図書室の利用目的について)なんのために学校の図書室に行きましたか。いくつでも○をつけてください。
 小学生では、1位が貸出、2位が調査となっているのに対し、中学生では、1位が授業、2位が読書となっている(図21)。また、小6と中3は、他の学年に比べ、友だちと話をするために行ったという回答が特に多く、興味深い。



問8.(交流センターの利用頻度について)6月1か月の間にふるさと交流センターの図書室に行きましたか。1つだけに○をつけてください。
 利用率は小3が最も多く、中1が最も低くなっているが、小学生ではほぼ高学年ほど利用頻度が低下している(図22)。


問9.(交流センターの利用目的について)ふるさと交流センターの図書室に行った人だけにお聞きします。図書室には何のために行きましたか。いくつでも○をつけてください。
 1位がビデオを見るため、2位が本などを読むためとなっており(図23)、一般成人対象の結果(図11)と比較すると、滞在型の利用が多い。


問10.(読書環境について)つぎのことがらについて、あてはまるものがあればいくつでも○をつけてください。なければつけなくてもかまいません。
 家に本がある、家族によく読んでもらったという回答が特に多く(図24)、家庭での読書環境はかなり恵まれているといえる。

4.井川町内の公共読書施設について
 1)井川町ふるさと交流センター
 井川町ふるさと交流センターは、町が出資した第3セクター(株)ふるさと夢企画によって運営されている。同施設は、民間ノウハウを加味した文化産業複合型の管理運営を目指し、平成4年4月に開館した。1階が民俗資料展示室、2階が図書室、3階が集会室(主に結婚式場として利用)の複合施設である。平成8年度末で蔵書冊数34,159冊で、うち児童書が10,176冊となっている。また、ビデオテープ2,166本を収集している。貸出は、一人10冊まで2週間、ビデオの貸出は一人3本まで2週間、図書とビデオを両方合わせて借りる場合は10点までとなっている。特にビデオについては、開館当時より重点的に収集され、館内にもビデオブースが4台設けられている。今回の調査では同施設の児童・生徒の利用の目的の1位は、ビデオをみるためという回答であった。貸出数でもビデオは文学、児童書に次いで多く借りられている。
 ふるさと交流センター図書室は、県下で唯一の第3セクターによる図書館であるが、公共図書館としての役割を着実に担っていて、地域住民はもとより、学校、公民館、児童館などの施設とも連携をはかりながら、井川町の読書活動の拠点として活動を続けている。
 2)学校図書室
 小学校3校、中学校1校、高等学校1校の図書室を訪問し、図書室担当の先生より平成8年度の図書室の利用等についてお話を伺った。
 小中学校には、町から図書費として、児童生徒一人当たり小学校900円、中学校1,300円が「ふるさと創生金」から出されている。各校の図書費は、他にPTAからの収入などを含め、5〜20万円である。1日当たりの利用人数・貸出資料数は、小学校で約10〜30人、30冊、中学校は約15人、3冊であった。開館時間は、小学校1校は8時から4時30分まで、他の2校と中学校は昼休みのみの15〜20分間である。夏休み等は登校日のみの開館である。各校とも、図書室担当の先生はおられるが、授業や学級担任との兼任であり、常に図書室にいて指導ができる状態ではない。各校とも古い本が多く、小学校は図書室が狭い等の悩みをもっている。8時から4時30分まで開館しているところは、図書委員がいなくても自分で借りられるよう指導していたり、毎日2時から4時30分まで保護者が交替で一人ずつ図書室に来て、貸出しや図書の整理をしてくれているということである。
 高等学校図書館では、平成8年度図書費は約80万円、蔵書冊数23,000冊、1日の利用人数は約45人、貸出資料数3.6冊ということである。開館時間は昼休み(12:35〜13:10)、放課後(15:20〜17:00)で、夏休み等は補習のある日や希望があるとき(8:30〜17:00)に開館する。平成9年2月よりコンピュータを導入し、開館しながら資料の入力をしている。現在のところ、ふるさと交流センター図書室との協力関係はないが、交流センター図書室の資料をコンピュータで検索できると便利だろうということであった。

5.座談会
 日 時 平成9年7月16日(水)午前10時30分〜
 場 所 井川町ふるさと交流センター会議室
 参加者 図書室利用者のみなさん6名、児童館の先生3名、各小・中学校の図書室担当の先生4名、教育長、教育次長、教育委員会、ふるさと交流センター職員、読書調査班8名
 井川町の読書をとりまく環境について、井川町ふるさと交流センターの利用者の方をはじめ、小・中学校の図書室担当の先生方、児童館の職員の方々などに自由に討議をしてもらった。なかには県立図書館が既に行っているサービスに関する質問などもあり、県立図書館のPR不足が反省させられる場面もあった。また、交流センターの移動図書館が運行されていない地域があり、地域格差を生じていることなど、遠隔地へのサービスが当面の大きな課題である、という話も出された。
 こどもの読書環境について、地域の保護者の方々の共通した意見は、親の読書に対する関心度がそのままこどものそれに反映されるというものであった。こどもが小さい時から親が読み聞かせをしたり、身近に本があったりすると、必ずこどもは本を読むようになるという。ところが学校の図書費の実状は厳しく、児童一人当たり900円しか充当されておらず、授業で使う文学作品を調べようと思っても学校の図書室には資料がない。また、図書室としての機能を考えれば、各分類を体系的にそろえなければならず、こどもの好きな読み物ばかりをそろえるというわけにもいかない。予算的に窮迫したこうした状況は、図書室担当の先生の頭を悩ませている。しかし、一方では昭和33年以来続いている、いわゆる“母親司書”と呼ばれる地域のおかあさん方が今日も活躍されており、図書室の力強い味方となっている。
今回の座談会では、県立図書館のサービス面への質問から始まって、児童の読書の実状や、いわゆる有害図書に関する質問など幅広い意見や質問が出された。最後には、利用者から交流センター職員の方々への感謝のことばも有り、図書館として地域に根づいた活動をされていることがうかがえた有意義な会となった。

6.まとめ
 今回の調査からは、井川町に特に顕著な読書傾向を見いだすことはできなかった。一般成人に対するアンケートからは、男女ともに読書よりはテレビで余暇を過ごし、雑誌はほとんどの人が手にするが、本は月に1冊読むか読まない程度で、本は書店やコンビニで手に入れることが多いという像が浮かんでくる。井川町に限らず全国的な読書離れ現象の一端ではあるが、それだけに町の図書館としてのふるさと交流センター図書案に期待する部分は大きい。特に井川町は、かつて読書グループの活動が活発な地域であり、座談会に参加された住民のなかにも、かつての県立図書館の移動図書館車の存在をなつかしむ声も聞かれた。山間部の多い地域特性を考えてみても、高齢者などが読書環境から遠いところに置かれていることも推測される。読書を楽しむ住民一人ひとりの素朴な声がより生かされるような読書環境が提供できるよう、より積極的な運営を期待したい。
 また子供の読書については、アンケート結果の項で述べたように雑誌やマンガの存在がやはり大きい。全国的な傾向として、本離れの低学年化、マンガや雑誌への偏りなど、本を読む習慣を身に着けないまま成長してきた様子が指摘されている。豊かな読書環境は、子供たちに選択の幅を広く提供することであり、一歩踏み込んだ読書への道案内が必要なのかもしれない。

1)徳島県立図書館


徳島県立図書館