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1.はじめに 井川町を含む三好・美馬両郡は過疎の波にさらされており、緊急な過疎対策を迫られている。過疎の直接的原因の大半が、若者の流出によるのは自明の事実である(1)。特に地域の産業や文化の発展を担い活性化させるのは主に若者層であり、彼らの動向が過疎地域にとって大きな意味をもつ。したがって、若者の定住の問題は避けてとおれない問題である。徳島県の人口統計によれば、井川町の人口は毎年着実に減少している(2)。人口移動の大きい年齢帯は、転入・転出のどちらも15歳から29歳までの若者層であり、特に就職・進学に伴う移動がある15歳から19歳までの年齢帯が大きい。若者流出の事実は厳然として存在するにしろ、彼らの移動に関する意識、また、彼らの意識における地域定住やUターンの可能性の存否は、町の将来をも左右する重要な問題である。よって本調査では、高校生を対象に(地域)定住やUターンに関するアンケート調査を実施し、地元定住の可能性を探ってみた。 若者の地元定住の可能性(定住に関する意識)を探るには、将来就職する場合の地域の選択(以下「地元志向」等と略する)と、就職・進学などにより一度地元から転出した後、地元に帰ってくる可能性(以下「Uターン志向」等と略する)の二つを研究する必要がある。以下では、まず、クロス集計によって地元志向と地元外志向の現状分析をおこない、次にUターン志向と非Uターン志向の現状分析をおこなう。また、これら二つの志向(地元志向と地元外志向・Uターン志向と非Uターン志向)を分かつ要因は、当然複雑に関連しあっている事が予想される。そこで、複数の要因の関係・決定力を探るために、多変量解析を実施し、最後に総合的考察をおこなう。
2.高校生の現状とその分析 1)調査対象者の概要 この調査の実施概要は、次の表1に示したとおりである。本調査は井川町の総合学術調査の一環としておこなわれたものである。ただし、井川町出身者のみでは回答者数が少なく(109票)、分析の信頼性に欠けるおそれがあることから、辻高校の生徒の協力を得た。なお本研究の趣旨から、過疎地域として類似性がある三好・美馬郡在住の高校生を分析の対象としたので、実際に分析された標本数は375名である。
 2)地元・Uターン志向分析のための図式 若者の地元・Uターン志向と関連する諸要因を分析するために、以下の分析図式(図1)を設定した。これらの志向に影響すると予想される諸要因として、意識・態度的諸要因(23変数)と客観的諸要因(6変数)の二つに大別される変数群を準備した。意識・態度的諸要因には、自己に対する意識、家族に対する意識、地域に対する意識、都会に対する意識の四つの下部要因を準備した。
 若者の地元・Uターン志向には意識・態度的諸要因が直接関係し、客観的諸要因は間接的に影響する図式を設定した。客観的要因は価値観や信条の形成には直接影響するが、今回のような具体的な意志決定・判断の場合には意識・態度的要因が直接影響し、客観的要因は意識・態度的要因を介して間接的に影響されることが予想されるからである(3)。
3)高校生の現状分析 調査対象者の基本的属性は表2のとおりである。今回は、若者の定住意識を探るために二つの質問文を用意した(表3、4参照)。


 1
〔地元志向〕:学校(高校や大学)卒業後の将来の就職希望地 「あなたが将来就職する場合、その希望する就職地は」 2
〔Uターン志向〕:地元外に就職した場合の出身町村へのUターン希望 「あなたは地元の町に帰るつもりがありますか」 の二つである。1
により地元志向、2
によりUターン志向を調査し、その可能性を探った。なお、「地元志向」で用いられる「地元」は井川町だけでなく、井川町を含めた徳島県内の市町村を意味する。これは、出身町村内での就職希望者は22人(5.9%)と極端に少ないこと、また出身町村に住んでいるが近隣市町村の職場に通勤する者が多いと予想されるからである。 就職希望地は表3で示されるように、「地元希望」24.9%、「地元外希望」が38.1%、「その他・未定」が37.0%となる。「その他・未定」が多いのは調査対象者に高校1・2年生が含まれており、具体的な進路決定に至っていないからと考えられる。ここから示されているのは、地元に残る意志がはっきりしているのは
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にすぎず、少なくとも約4割の者が地元を去っていこうとしていることである。 次に、仮に地元外に就職した場合のUターン志向を見てみる。表4によれば「地元に帰るつもり」の者は33.7%であり、「地元に帰るつもりはない」者の16.0%をはるかに上回っている。しかし、「わからない」者が50.2%と最も多くなっている。これは、調査対象が高校生であり、就職した後の将来のことまではまだ決めていないためと考えられる。
3.地元志向(就職希望地)の分析 ここでは、先に用意した分析図式(図1)にしたがって、地元志向を各要因ごとに分析する。表5から表9までは、設定された五つの要因と地元志向との関連をみるためにクロス集計したもので、表中の*印はχ自乗検定の結果を示したものである。表の合計欄は縦を100%で計算し、単純集計結果が分かるようにしている。これらの表から、地元志向と最もクリアーに関連するのは「都会に対する意識」であり、客観的要因はほとんど関連のないことがわかる。以下、各要因と地元志向との関連を順にみていく。
 まず、「自己に対する意識」の各項目と地元志向との関連を見てみる(表5)。「進路希望」・「希望職種」・「人生の夢や希望」・「出世したいか」などは、個人のアスピレーション(願望・野心)レベルと地元志向との関連を探る目的の項目である。社会的地位の上昇や自己実現の欲求の高まりが、若者の流出を促すという仮説(4)を採用したが、その中で統計的に有意な差が認められたのは「進路希望」だけであった。大学・短大・専門学校などを合わせた進学希望は55.0%と最も多いが、進学を希望する者は就職を希望する者よりも地元志向は弱いということができる。その他の項目と「地元志向」との関連は認められなかったが、数値を示すと、「希望の職業・職種」については52.2%の者が専門職を希望しており、69.9%の者が将来の夢や目標(「大きな夢や目標がある」と「夢や目標がある」の合計)をもち、54.3%の者が自分を肯定的(「自分が好きである」と「やや自分が好きである」の合計)にとらえている。職業生活における生き方については55.2%が出世したい(「大いに出世したい」と「出世したい」の合計)と答えた反面、「気楽に生きたい」と考えている割合も41.6%と多い。自分の性格は、内向的だと答えた者(「内向的である」と「やや内向的である」の合計)が52.7%で、外交的(「外交的である」と「やや外交的である」の合計)の47.3%に比べ若干多くなっている。
 次に、「家族に対する意識」の各項目と地元志向との関連は表6に示されている。ここでは、家族に対する価値観が若者の動向にどう影響するかをみようとしたのであるが、「親の地元への定住期待」だけが統計的に有意な差が認められた。親が一緒に「住んで欲しいと思っている」者が39.9%あるが、「わからない」が42.9%で最も多く、親が自分に対してどのようにして欲しいと思っているのかが子どもに伝わっていないことがうかがえる。親の地元への定住期待にかかわらず子どもの県外志向は強い。特に、親の地元への定住期待が小さい場合は、この傾向が強まっている。 「親を大切にしているか」や「親のめんどうをみる(扶養意識)」の項目は地元志向とは有意な関係はなかった。親を大切にしているかについては「大切にしている」が50.0%で最も多く、「あまり大切にしていない」の38.0%が続く。親に対する扶養意識については、親のめんどうは「少々の犠牲を払ってもみるベき」が54.4%で最も多く、「自分の負担にならない程度にみるべき」の24.0%が続く。親に対する強い扶養義務の意識は高校生には少ないようである。
 「地域に対する意識」の各項目と地元志向との関連は表7に示した。ここでは、「町は面白い」(町のイメージ)と「町の将来」の二つが地元志向と統計的に有意な関連を示し、「町のイメージ」「町の住み心地」という生活環境に関する意識は地元志向に関連がなかった。町が面白いかどうかは「どちらともいえない」が、47.6%で最も多く、「つまらない」が36.8%、「面白い」が15.7%となっており、町は面白いとする比率は低いが、町は面白いと答えた者に地元志向が強いことが読み取れる。「町は明るい」かどうかは「どちらともいえない」が52.6%で最も多く、「明るい」の30.2%が「暗い」の17.2%より多くなっている。町の住み心地については「住みやすい」が49.5%で最も多く、「住みにくい」の20.5%を大幅に上回っている。町の将来については「当分現状のままが続く」と「だんだんさびれていく」が同数で35.2%であった。「今後ますます繁栄していく」は20.0%と少ない。「当分現状のままが続く」と答えた者に地元志向が強い。
 先にも指摘したように、「都会に対する意識」の各項目と地元志向との関連が最も強い(表8)。都市に対する意識は、現実に自分が暮らしている地域に比べて具体的な印象をもちにくいと考えられるが、五つの要因(図1参照)の中で地元志向と最も強く関連する。「都会のイメージ」は「明るい」が46.2%で最も多く、「暗い」の13.0%を大きく上回る。地元の町は「明るい」と答えた割合(30.2%、表7−2)に比べても多くなっている。ただし、「どちらともいえない」も40.8%と多く、こう答えた者(都会に対して明確なイメージを持っていない)に、就職希望地が「未定」の者が多くなっている(48.3%)。「都会への憧(あこが)れ」については、「やや憧れる」が45.0%で最も多く、「憧れる」の26.7%が続く。約7割の者が都会に対して憧れをもっていることがわかる。都会への憧れが強くなればなるほど、地元志向は弱くなる傾向にある。「都会観」は、都会否定型(「都会はけっしてゆたかではない」)が42.1%で最も多く、肯定・非選択型(「都会は豊かではあるが暮らしたいとは思わない」)の30.4%、都会羨望(せんぼう)型(「都会は大変豊かでうらやましい」)の27.4%と続く。都会羨望型の者ほど地元志向は弱く、都会に対して肯定・非選択型の者ほど地元志向が強いといえる。「マスコミ影響」については、「影響小」が64.4%であった。
 最後に「客観的要因」の各項目と地元志向との関連をみておく(表9)。客観的要因の中でも「性別」、「長子・非長子」、「家族形態」、「町外居住経験」、「主な職業」の各変数は、従来地元志向かそうでないかを分けるものとして考えられてきた。例えば、長男として三世代家族の中に生まれ、ずっとその町に住み、家業は農業を営んでいるような人物は地元志向が強いはずであるというように。しかし、表9が示すように、これらの変数は地元志向に直接にはあまり影響しないということがわかる。
4.Uターン志向の分析 これまでの分析は、高校生が進路を決定する際に地元に残る困難さについて分析してきた。一方、先に触れたように井川町においても相当数の若者の転入者も認められる。そこで、ここでは、地元外にいったん出てその後帰って来る、いわゆるUターンの可能性は存在しないのかを探ることにする(5)。 まず、図1の分析枠組みにしたがい、「自己に対する意識」の各項目とUターン志向との関連を見る(表10)。
 その結果、有意な差がある項目はなかった。Uターン志向者は「進路希望」で就職者が33.8%、「希望の職業職種」で非専門職が33.3%、「夢や目標」で夢や目標がある(「大きな夢や目標がある」と「夢や目標がある」の合計)者が32.0%、「自分が好きか」で自分が好き(「好き」と「やや好き」の合計)な者が37.1%、「内向的か」で内向的(「内向的」と「やや内向的」の合計)な者が36.3%となっていて、非Uターン志向者よりも高い数字を示している。
 次に、「家族に対する意識」の各項目とUターン志向との関連を見てみる(表11)。その結果、統計的に有意であったのは「扶養意識」と「親を大切にしているか」の2項目であった。Uターン志向者は「親を大いに大切にしている」が63.2%、「どんな犠牲を払っても親の面倒をみる」が62.5%と多い。換言すれば、親孝行の意識が高い者が、将来親の面倒を見るためにUターンしたいと思っていると解釈できる。逆に、「親の地元への定住期待」で「住んで欲しいと思っている」が非Uターン志向が14.5%と少ない(Uターン志向36.4%)ことからも、家族に対する意識がUターンをするかしないかを左右する要因になっていることが指摘できる。
 第3に、「地域に対する意識」の各項目とUターン志向との関連を見てみる(表12)。その結果、有意差があったのは、「町のイメージ(面白い)」、「町のイメージ(明るい)」、「町の住み心地」の3項目であった。Uターン志向者は町が「面白い」と思う者が53.8%、「明るい」と思う者が47.4%、町の住み心地について「住みやすい」と思う者が48.3%であり、非Uターン志向者よりすべて高い数字を示している。換言すれば、町への愛着が高い者が将来Uターンしたいと思っていると解釈できる。
 第4に、「都会に対する意識」の各項目とUターン志向との関連を見てみる(表13)。その結果、有意差があったのは「マスコミ影響」だけであった。Uターン志向者はマスコミ影響が「小さい」者が40.1%であった。「都会のイメージ」を「暗い」と思う者が51.7%、「都会への憧れなし」(「あまり」と「憧れない」の合計)とする者が43.6%となっており、非Uターン志向者よりもすべて高い数字を示している。換言すれば、マスコミの影響をあまり受けず、都会に対して好印象を抱いていない者がUターン志向を持つと解釈できる。
第5に、「客観的要因」の各項目とUターン志向との関連を見てみる(表14)。一般に、“イエの跡取りだから、家業を継ぐから”といったことはUターン志向に影響をあたえると予想されるが、統計的な有意差はみられなかった。 以上のことを総括すると、Uターン志向と非Uターン志向とを分けるのに関与するのは、「家族に対する意識」と「地域に対する意識」が顕著である。山本(6)は、家族や身近な地域を「第一次社会環境」と呼んで、Uターン志向の重要なファクターと考えている。我々の調査でも同結果が得られた。したがって、若者のUターン志向には第一次社会環境への意識・態度が重要なキーになることを指摘しておきたい。
5.地元志向と地元外志向を分ける要因の分析 前節では、クロス集計を用いて、地元志向と地元外志向者の意識を分析した。そこでは、個々の設問についての回答の統計的整理を主眼とするものであったため、いきおい個別的な説明となった。しかし、県内に就職するか、県外に出て就職するかという個人にとって重要な選択は、個別的な調査項目から明らかになるものではなく、それぞれの調査項目で明らかにされた側面が統合された構造的な全体としての選択であると考えられる。そこで本節では、地元志向と地元外志向者を分ける要因を探ることを主たる目的として、特に前節のクロス集計分析では明らかにできなかった多変量間の関係を明らかにするために、林の数量化2類を用いた分析をおこなう。 数量化2類は、サンプルが属するグループ(ここでは、地元志向グループと地元外志向グループ)をもっともよく判別できるように、複数の説明変数の各カテゴリーに数値を与えようとする方法である。数量化2類では、質問項目(説明変数)のグループ分けへの貢献の大きさは、「レンジ」と「偏相関係数」という数値で示される。レンジと偏相関係数は数値が大きいほどグループ分けに貢献していることを示す。また、両者の順位が大きく異なっている場合には分析の安定性が疑われる。各カテゴリー(各質問項目の選択肢)の判別への貢献の大きさは、「カテゴリースコア」(以下、スコアと略記する)として数量化される。ここでは、スコアの+は地元志向に、−は地元外志向に貢献していることを意味する。また、絶対値の大きさが大まかな貢献の強さを示す。ここで用いたデータは基本的には前節と同じものであるが、分析の安定性、再現性の確保のために、回答の少ないカテゴリーは適宜無理のないように統合した。多変量解析では欠損値のあるデータは扱えないので、標本数も前節でのクロス集計による分析よりも少なくなっている。 まず、前掲の分析枠組(図1)にしたがって、各質問項目(説明変数)をレンジと偏相関係数の大きさを基準に選択をおこない、変数を選んだ。また、図1の変数グループ内で相関の高すぎる変数は代表的なもののみを採用して、12の変数が選択された。数量化2類で得られた結果のレンジと偏相関を示したものが、表15である。また、表16はスコアをまとめたものである。判別的中率は77.5%、相関比は0.3612とやや低いが(表17)、これは高校生の進路決定・将来像にあいまいさが残っているためと考えられる。


 この結果によると、地元志向・地元外志向を分ける要因として最大のものは“都会観”であり(レンジ0.622)、都会を「大変豊かでうらやましい」と感ずることが地元外志向にもっとも貢献している(スコア−0.303)。地元志向に貢献しているのは「豊かではあるが暮らしたいとは思わない」(スコア0.319)である。「けっして豊かとは思わない」(スコア0.044)は値が小さく、判別にはほとんど貢献していない。都会肯定・非選択型が都会否定型よりも地元志向が強いのは、都会に住む、住まないの意志決定まで意識しているからだと考えられる。 レンジが次に大きいのは、“進路希望”(レンジ)であり、「大学進学」(スコア−0.219)と「短大専門学校」(スコア−0.116)の進学希望者に地元外志向者が多く、「就職」(スコア0.230)希望者に地元志向が強い。続いて、“扶養意識”のうち、「どんな犠牲をはらっても」(スコア0.260)とする扶養意識をもつ者が地元志向に多い。レンジの第4位は“家の暮らし向き”で、「余裕がある」という回答者が地元志向に貢献している。続いて、第5位が“出身町外居住経験”で「ずっと同じ町に住んでいる」が地元志向に貢献しており、第6位が“夢や目標”で、「大きな夢や目標がある」が地元外志向に、「夢や目標がある」 が地元志向に貢献している。ここまでが、クロス集計で有意差がでている項目である(表15参照)。 これまでの分析から、地元を志向する人物像を素描してみる。都会肯定・非選択型で、高校卒業後は就職を希望し、どんな犠牲をはらっても親を扶養したいとする生徒像が浮かんでくる。また、経済的には余裕がある家庭で本人に夢や目標があることも条件となっている。逆に、地元外志向の人物像は、都会羨望型で高卒後進学の意思をもち、大きな夢や希望があるが家庭が経済的に苦しい生徒像が描けよう。
6.Uターン志向・非Uターン志向を分かつ要因の分析 本節では、将来県外に就職しようとしている生徒の地元に帰ってくる可能性の有無について考えてみたい。特にUターン志向と非Uターン志向を分かつ要因を探ることを目的に、前節と同じ数量化2類を用いて分析する。数字の意味も前節と同じであるが、スコアの−がUターン志向を+が非Uターン志向を表している。判別的中率は80.5%、相関比は0.3754でやや低いが(表20)、高校を卒業して就職した後のUターン・非Uターンの意志決定ということで高校生の意思に曖昧さが残っているためと考えられる。 得られた結果のレンジと偏相関を示したものが、表18である。これによると、Uターン志向と非Uターン志向を分ける要因として最大のものは、“町は明るい”(レンジ0.631)と思うかどうかの町のイメージであり、「明るい」(スコア−0.307)とする者がUターン志向に貢献している。「暗い」(スコア0.324)とする者は当然ながら非Uターン志向に貢献している。 次に大きい要因は、親の定住期待”(レンジ0.417)であり、「親はあなたが就職した時に地元の町に住んでほしいと願っていますか」の問いに、「思わない」(スコア0.285)と答えた者が非Uターン志向に貢献している。「わからない」(スコア−0.319)・「思う」(スコア−0.047)と答えた者がUターン志向に貢献している。 第3位には、「都会観」(レンジ0.313)が来ており、「けっして豊かではない」(スコア−0.148)とする者がUターン志向に貢献している。「大変豊かでうらやましい」(スコア0.165)と答えた者が非Uターン志向に貢献している。地元志向には都会肯定・非選択型が貢献していたが、Uターン志向には都会否定型が貢献している。これは、県外に就職せざるを得ない者がUターンを志向する結果だと解釈できる。次いで、第4位は“進路希望”(レンジ0.279)で「大学進学」「短大・専門学校」への進学希望者が非Uターン志向に、「就職」「未定」希望者がUターン志向に貢献している。進学希望者にアスピレーションが高く、それに比べて就職・未定者は低いことが原因と思われる。続いて5位は“性別”で、「男」がUターン志向に、「女」が非Uターン志向に貢献している。第6位は“マスコミ影響”で、「マスコミ影響小」の者がUターン志向に、「マスコミ影響大」の者が非Uターン志向に貢献している。



7.まとめ これまでの考察を概観してみると、過疎問題において、井川町を含む三好・美馬両郡の置かれた厳しさがまず指摘できるであろう。高校卒業後の進路として、三好・美馬両郡の高校生は、好むと好まざるとにかかわらず、出身町村を出ていかざるを得ない状況に置かれている。特に、進学を希望する者は地元に残る手段がなく、ほとんどの高校卒業生が都会に出ていくことになる。そこでは、町の印象や行政の努力を超えた客観的な環境が、子どもたちを外部に押し出す(もしくは都会の誘引力が働く)。都会の誘引力は、都会が「大変豊かでうらやましい」とする都会羨望となって現れ、進学という進路希望や経済的に苦しい生徒たちを都会に引きつける。これに対抗する地元志向の誘因としては、生徒本人の強い扶養意識や親の定住期待の理解があるが、それほど強いものではない。長子(いわゆる跡継ぎ)や家業の観念を中心とする古いイエ意識は崩壊しつつあり、過疎に対する抑止力になりえていない。1960年代からの第一次の過疎の波に続く、1980年代から始まる「挙家離村」を伴う山間集落の崩壊(ムラの解体)という第二次の過疎の波(7)は、進路先がないという客観的環境と、生徒およびその家族の価値観の変容と相まって、三好・美馬両郡を確実に襲っているといえよう。 それでは、若者が地元に定住する可能性は全くないのだろうか。厳しい状況に置かれてはいるが、Uターン志向の内容にその可能性が見いだせるように思われる。上記の理由で、いったん町を出ていく若者の内、町のイメージを明るい、町の住み心地がよいとしている生徒にUターン志向が強い。これは町の行政施策によって改善可能な要因である。また、都会は豊かではあるがそこには住みたくないとする若者と、都会を豊かではないとする若者の合計は7割に達する。なお、この場合の町と都会の評価は、単に経済的なものだけではないことが予想される(家の暮らし向きに余裕のある家庭にこの回答が多いことがこれを示している)。地元に大企業や大学をもたない三好・美馬両郡にとって、過疎問題に関して楽観は許せない。町が従来から熱心にとりくんでいる「村おこし」、「町づくり」も、若者流出を完全に抑制する決定策にはなりえていない。しかし、町をいったん出ていく若者に「魅力あるふるさと」という印象をもたせて送り出し、その還流に期待するという、より長い周期の施策を工夫するところに解決の可能性があるように思える。 今回の調査では井川町・井川町教育委員会だけでなく、地元の辻高校の多大なご協力をいただいた。ここに記して、感謝の意を表したい。 注 (1)山本努『現代過疎問題の研究』恒星社厚生閣 1996.P175。 (2)H4年から5年間の人口減少率は4.2%である。『平成8年徳島県人口移動調査』徳島県企画調整部 1997.3。 (3)高橋明善外『農村社会の変貌と農民意識』東京大学出版会 1992。 桂・近藤・長澤「過疎化と住民意識」阿波学会「半田町」郷土研究発表会紀要第38号 1992。 (4)アスピレーションとは個人がより高い目標に到達しようとする要求のこと。一般的に向上心とか野心とかよばれる。森岡清美外編『新社会学辞典』有斐閣 1993。 (5)本稿でUターンとは、狭義のUターン(いったん県外の大都市などに出た人が、自分の出身市町村[厳密には出身集落]に帰ってくること」)だけでなく、いわゆるJターン(いったん県外の大都市などに出た人が、自分の出身市町村の近くの[県庁所在地などの]地方都市などに帰ってくること)を含めたものとする。 (6)山本努 前掲書 P193。 (7)1970年代から鈍化傾向を示していた過疎地域の人口減少率も1985年から1990年の5年間には5.6%と再び拡大の方向に転じた。桂・近藤・長澤.前掲論文。
参考文献 山本 努『現代過疎問題の研究』恒星社厚生閣 1996 満田 久義『村落社会体系論』ミネルヴァ書房 1989 高橋明善外『農村社会の変貌と農民意識』東京大学出版会 1992 上子 武次・増田光吉『三世代家族』恒内出版 1976 杉岡 直人『農村地域社会と家族の変動』ミネルヴァ書房 1992 木下 謙治『家族・農村・コミュニティ』常星社厚生閣 1991 森岡清美監『家族社会学の展開』培風館 1995 森岡・望月『新しい家族社会学』培風館 1993 菅 民 郎『多変量統計分析』現代数学社 1996 菅 民 郎『多変量解析の実践』現代数学社 1993
1)徳島県立城北高等学校 2)徳島工業短期大学 3)徳島市立高等学校 |