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1.研究の目的 ここ何年もの間、いじめや不登校が社会問題となっている。また、これらの問題に関連して様々な角度から、現代っ子を論じる「子ども論」が展開されている。 教育社会学では、子どもの発達を「社会化」という概念で捉(とら)えている。「社会化」とは個人が他者との相互作用を通して、社会の成員になるための資質を形成してゆく過程をいう。その社会化過程における他者との相互作用は、子どもが所属する社会集団の中において営まれる。主な集団は、学校集団、家族集団、仲間集団である。 この仲間集団は、同世代の子どもだけを成員とする集団であり、年齢や知識能力はほぼ同水準である。住田正樹はこの仲間集団に注目し、その仲間集団の構造、過程、その機能と活動を実証的に分析した「子どもの仲間集団の研究」を発表している。しかし、この研究対象の仲間集団は遊びを核とした集団であるため、子どもたちが放課後、群れて遊ばなくなった今日的状況の中では、この仲間集団という概念の枠組みでは子どもの人間関係を捉えられないと考える。そこで今回の調査では、子どもの社会化を促す集団のひとつとして仲間集団ではなく、子どもの友人関係を中心に調査することにした。また、子どもたちが所属する社会集団である学校、家庭での生活に対する意識や行動を調査し、さらに、子どもたちが友だちとどのように関わっているのかという友人関係と、その友人関係に影響を与えているものについて調査するのを目的としている。
2.調査の概要 調査の対象は、日和佐町の小学生(4、5、6年生)の計182名である。 各学校に質問紙を配布し、自記式調査で平成8年7月上旬に実施した。質問紙の内容は日常生活、学習塾・習い事、学校生活、家庭生活、地域での生活、メディアとの関わり、友だち、あなた自身についてである。
3.調査の結果 1) 友人関係の指標化 今回の調査では、子どもたちが友だち関係をどのように捉えているかに視点を置いている。そこで、子どもたちが自分たちの友だちグループをどのように見ているかを、つぎのような16項目に対して四者択一(1 とてもそう思う、2 少しそう思う、3 あまり思わない、4 まったく思わない)で答えてもらった。 1)メンバーが少ない。 2)相手に無理やりつき合わされている。 3)一緒に過ごす時間が少ない。 4)友だちグループの中ではみんな気が合う。 5)友だち関係がよく変わる。 6)他の人の陰口やうわさ話が多い。 7)お金使いが荒くなる。 8)協力し合う。 9)中心になるリーダーがいる。 10)悩みをお互い話す。 11)今の友だち関係に満足している。 12)友だちグループの中で自分の意見が受け入れられる。 13)友だちグループの中で決まった子にいつも用事を頼む。 14)友だちグループの中で決まった子がいつもからかわれている。 15)友だちグループの中でからかいがあり、やられる子がよく入れ替わる。 16)友だちと遊ぶときは、前もって約束をする。 この1)〜16)を因子分析にかけた結果、表1に示すように4因子が抽出された。

因子1の意味内容を明らかにするため、因子負荷量が0.5以上の項目を取り出してみる。「友だちグループの中ではみんな気が合う」「協力し合う」「悩みをお互い話す」「今の友だち関係に満足している」「友だちグループの中で自分の意見が受け入れられる」。これら5項目は、自分たちのグループ仲間を肯定的に見ており、また相互的な関わりをしている。そこで、この因子1を「なかよし友人関係指標」と名付ける。 因子2の意味内容を明らかにするため、因子負荷量が0.5以上の項目を取り出してみる。「メンバーが少ない」「一緒に過ごす時間が少ない」「他の人の陰口やうわさ話が多い」「お金使いが荒くなる」。これら4項目をみると、友だちのメンバーが少ないことや、一緒にいる時間が少ないことなど、友だちの輪の広がりがないことが表れている。また、人の陰口やうわさ話といった、否定的なことでつながりを持つ友人関係である。そこで、この因子2を「うわべ友人関係指標」と名付ける。 因子3の意味内容を明らかにするため、因子負荷量が0.5以上の項目を取り出してみる。「友だちグループの中で決まった子にいつも用事を頼む」「友だちグループの中で決まった子がいつもからかわれている」「友だちグループの中でからかいがあり、やられる子がよく入れ替わる」。これら3項目をみると、いじめ的要素が感じられる友だち関係である。そこでこのような友人関係を「いじめ友人関係指標」と名付ける。 因子4で0.5以上を見てみると、「友だち関係がよく変わる」「友だちと遊ぶときは、前もって約束をする」の2項目があげられる。これら2項目からは、子どもたちの流動的な友人関係が読みとれるので、「希薄友人関係指標」と名付ける。 このように子どもたちへの16項目を因子分析することで、「なかよし友人関係指標」「うわべ友人関係指標」「いじめ友人関係指標」「希薄友人関係指標」の四つの友人関係指標が抽出された。つぎに、これら四つの友人関係指標を「とてもそう思う」に2点、「少しそう思う」に1点、「あまり思わない」に−1点、「まったく思わない」に−2点を与え、各指標を得点化した。この得点化したものを他の項目とクロス集計しやすくするために、−2、−1、1、2の4段階に分類した(表2、3、5)。いじめ友人関係指標は、3段階とした(表4)。
2)個々の指標
  

3)友人関係指標と日常生活、家庭生活、学校生活、あなた自身との関連 「日常生活」「家庭生活」「学校生活」「あなた自身」のそれぞれの分野での質問と四つの友人関係指標とのクロス集計から、有意差があったものをここで検討する。 「日常生活」分野では、四つのいずれの友人関係指標とも有意差は見られなかった。 「家庭生活」分野では、家庭でのしつけと家庭での話題についての質問に有意差が見られた。 このクロス集計(図1)から家庭で、「思いやりや やさしさ」について言われている子どもたちの場合、なかよし友人関係指標のプラス1、2段階に全体の39.7%、マイナス1、2段階に14.7%と、プラス段階にたくさんいることが分かる。一方、家庭で「思いやりや やさしさ」について言われない子どもたちでは、なかよし友人関係指標のプラス段階に全体の20.4%、マイナス段階に25%と、マイナス段階が、プラス段階を上回っていることがわかる。つまり、家庭で友だちに対して思いやりややさしさについて話をされている子どもは、友だち関係を築く時に肯定的、相互的な友人関係を持とうとする傾向が強いということである。もちろんやさしさや思いやりについて話をされたからといって、すべての子どもが友人関係で肯定的、相互的な友人関係を持つわけではない。また、家庭で思いやりややさしさについて話をされていなくても、肯定的、相互的な友人関係を築く子どももいるのである。しかし、家庭で「思いやりや やさしさ」について言われている子どもは、言われていない子どもよりなかよし友人関係(肯定的、相互的友人関係)を築く割合が高いと言える。

もう一つなかよし友人関係指標としつけ「友だちと仲良くする」のクロス集計で有意差(p<0.05)が見られた。図2を見ると、家庭で「友だちと仲良くする」ように言われている子どもたちの中では、なかよし友人関係指標でのプラス段階に全体の52.3%、マイナス段階に27.3%の子どもたちが占めており、プラス段階にいる子どもの人数がマイナス段階より多いことが分かる。一方、
家庭で「友だちと仲良くする」ように言われていない子どもたちの中では、なかよし友人関係指標でのプラス段階に全体の7.8%、マイナス段階に12.5%となり、プラス段階よりマイナス段階の人数の割合が高くなっている。このことから、家庭で「友だちと仲良くする」ように言われることとなかよし友人関係を持つことの間には、関係があると言えそうである。

家庭生活の中で「あなたは家の人とどんな話をしますか」という質問項目の中で四つの友人関係指標とクロス集計をしたところ、なかよし友人関係指標と「友だちのことを話す」と「学校での出来事を話す」との間において、有意差があった。 これら二つのクロス集計(図3、4)の結果から見ると、家庭で学校の出来事や友だちのことを話している子どもたちの場合、なかよし友人関係指標のプラス段階にいる子どもたちの方がマイナス段階にいる子どもたちより割合が高い。逆に、このようなことを家庭で話さない子どもたちは、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもたちの方が、マイナス段階の子どもたちより割合が低くなっている。このことから、肯定的な友人関係を持っている子どもたちは、家庭で友だちや学校のことを話していると言える。小学生の発達段階では、家庭で子どもが友だちや学校の話をよくするということは、子どもが肯定的な友人関係を持っていることと関係していると言えそうである。 次に「学校生活」と友人関係指標とのクロス集計で有意差が認められたのは、「あなたにとって学校はどういう所だと思いますか」との質問に対する「楽しい所」という回答となかよし友人関係指標である。


図5を見てみると「学校は楽しい所である」と質問に肯定的に答えている子どもたちで、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもと、マイナス段階の子どもを比べた場合、プラス段階の子どもたちの方が、「学校は楽しい所である」と考えている割合が多いことがはっきり分かる。反対に「学校は楽しい所である」という回答群に、否定的に答えている子どもたちの中で、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもと、マイナス段階の子どもを比べた場合、マイナス段階の子どもたちの方がプラス段階の子どもたちより割合が多いことが確認できる。このことから、子どもたちにとって「学校は楽しい所である」ということと、なかよし友人関係を持つということの間には、関係があると言えよう。

「あなた自身」と友人関係指標との間で有意差がみられたものは、4項目ある。「あなたは社会や人生について、どのように考えますか」の質問に対する回答の中で、「社会や人の役に立つ仕事がしたい」について、なかよし友人関係指標とうわべ友人関係指標との間において有意差があった。 図6を見ると、「社会や人の役に立つ仕事がしたい」に肯定的に答えている子どもたちの中では、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもと、マイナス段階の子どもを比べた場合、プラス段階の子どもたちの方が46.6%とマイナス段階の子どもたちより人数の割合が高い。一方、「社会や人の役に立つ仕事がしたい」に否定的に答えている子どもたちの場合、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもと、マイナス段階の子どもを比べた場合、マイナス段階の子どもたちの方がプラス段階の子どもたちより人数の割合が多いことが確認できる。このことから、なかよし友人関係と「社会や人の役に立つ仕事がしたい」との間に関係があると言えそうである。

うわべ友人関係指標と「社会や人の役に立つ仕事がしたい」との間でも有意差(p<0.05)があった。図7を見ると、「社会や人の役に立つ仕事がしたい」に肯定的に答える子どもたちの中では、うわべ友人関係指標のマイナス段階(このような友人関係を持っていない)の子どもたちは、プラス段階の子どもたちより割合が大きい。しかし、「社会や人の役に立つ仕事がしたい」に対して否定的に答えている子どもたちの場合、うわべ友人関係指標のマイナス段階の子どもたちの方が、プラス段階の子どもたちより割合は高い。このことから、うわべ友人関係指標と「社会や人の役に立つ仕事がしたい」との間では、有意差があるものの、関連性は低いと言えよう。

次にいじめ友人関係指標と「悪いと思っても誘われると断れない」との間で有意差(p<0.05)があった。図8を見ると、「悪いと思っても誘われると断れない」に対して否定的に答えている子どもたちの場合、いじめ友人関係指標のマイナス段階の子どもたち(このような友人関係を持っていない)は、全体の55%とプラス段階の子どもたち7.4%をはるかに上回っている。しかし、「悪いと思っても誘われると断れない」に対して肯定的に答えている子どもたちの中にも、いじめ友人関係指標のマイナス段階の子どもたち(このような友人関係を持っていない)が、31.8%もいるということがわかる。 これは、いじめ友人関係を持っていなくても、まわりから誘われると悪いとわかっていても断れないところが、子どもたちの中にはあるということを意味する。

なかよし友人関係指標と「違うタイプともうまくやっていける」との間に有意差(p<0.01)があった。図9を見ると、「違うタイプともうまくやっていける」に対して、肯定的に答えている子どもたちの場合、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもたちとマイナス段階の子どもたちを比べてみると、プラス段階の子どもたちの方が割合が高いことが分かる。一方、「違うタイプともうまくやっていける」に対して、否定的に答えている子どもたちの中で、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもたちとマイナス段階の子どもたちを比べてみると、差は大きくないことが分かる。このことから、「違うタイプともうまくやっていける」に対して肯定的に答えている子どもたちの場合は、なかよし友人関係指標のプラス段階の子どもたちの方がうまくやっていきやすいであろうが、なかよし友人関係指標のプラス段階にいるからといって、いろんなタイプの子どもたちと必ずしもうまくやっていけるとは、言えないであろう。また、差があまりないということは、なかよし友人関係を持っている子どもたちで構成される仲間集団が、気の合う子どもたちだけで集まっており、あまり開放的でないことを意味しているのかもしれない。

4.まとめ 今回の調査から、約60%の子どもたちがなかよし友人関係を持っていることがわかった。このなかよし友人関係を持っている子どもたちは、家庭では学校での出来事や友だちのことを話したりすることが多く、また、学校生活では、「学校が楽しい」と積極的に学校に関わっていると見てよいであろう。なかよし友人関係は、家庭でのしつけと関係があり、特に「思いやりや やさしさ」「友だちと仲良くする」ことを家庭で言われていると子どもたちは、
なかよし友人関係を築きやすくなると言える。 家庭でのしつけの重要さについては、今までもよく言われている。今回の調査の結果からもその重要性が証明された。家庭では、「思いやりや やさしさ」「友だちと仲良くする」ことを単に念仏のごとく唱えればよいというものではない。家庭で、子どもたちとの話の中で具体的に、「思いやりや やさしさ」「友だちと仲良くする」ということはどういうことなのか、を親の経験などを交えて、子どもと語り合うことが大切だろう。こういう積み重ねが、子どもの相互的な人間関係を作り上げる基礎となるばかりではない。親子のコミュニケーションが増えることで、家庭が子どもにとって安心できる場所となり、家庭外での生活も積極的になってゆくのである。 このようななかよし友人関係を築いていくということは、子どもたちが発達してゆく上で是非とも必要なことであると考える。小学校時代に、友だち関係の中で相互的な関わりを持つことで、自分以外の人間の立場に立ってものを考えられたり行動したりできるようになり、これからの人間関係の礎となるものである。 いじめ友人関係を否定的に捉えていても、「悪いと思っても誘われると断れない」に対して肯定している子どもが、約30%もいることから、発達途上にいる子どもたちとはいえ、これから子どもたちと関わっていく大人は、この事実を踏まえた指導が必要であると考える。 本研究に関わる調査は、日和佐町教育委員会ならびに、日和佐小学校、赤松小学校、日和佐中学校のご協力のもとに行ったものである。ご協力いただいた先生方、児童生徒のみなさんに深く感謝する。(文責:中村・西田)
1)鳴門教育大学 |