阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第43号
日和佐町の方言

方言班(徳島県方言学会)

    川島信夫1)・金沢浩生2)

1.方言区画上の位置
 徳島県の方言区画は森重幸氏の精密な調査に基づいて下記のように区分されている。


北方(きたがた)上郡(かみごおり)美馬郡・三好郡の平坦(へいたん)部
        下郡(しもごおり)麻植郡・名西郡の平坦部および阿波郡・板野郡・名東郡・鳴門市・徳島市の全域
南方(みなみがた)上灘(かみなだ)海部郡日和佐町・由岐町・牟岐町
         下灘(しもなだ)海部郡海南町・海部町・宍喰町
上手(うわて)−(小松島市・阿南市の全域および勝浦郡・那賀郡の平坦部)
山分(さんぶん)北山分(きたさんぶん)三好郡東祖谷山村・西祖谷山村
        南山分(みなみさんぶん)那賀郡木頭村・木沢村・上那賀町

 日和佐町は海部郡六町よりなる「灘」地区に属し、「灘」のうちでも「上灘」に区分される。文末は「ナ・ナー」を基調とし、疑問に「ケ・ケー」を用いるのが「灘」の特徴であり、日和佐町もこれを常用する。しかし下灘に比べると上方方言の影響がやや少なく、阿波ことばの古態をより多く留めている。また、ソンナコトワ ナイウェ(そんなことはないと思うよ。中年の女性間の親愛の表現)のような文末詞「ウェ」の存在が日和佐町方言の決定的特徴である。

1.語アクセント
 日和佐町の語アクセントを他の地域と比較すると下表のようになる。

 日和佐町の語アクセントは徳島市を中心とした、いわゆる徳島型(京阪II型)と同じである。ただ、近年下記のように類別語彙(ごい)表から逸脱して変わってきたものもある。
 (1)三音節動詞 第二類(生きる、建てる、逃げる)は○○○から○○○に変化した。
 (2)三音節形容詞 第一類(赤い、浅い、厚い)は○○○から○○○に変化した。
 また同第二類(白い、青い、暑い)も○○○と○○○の両方がみられるようになった。

2.音韻
 (1)長母音の短母音化
 上手(うわて)、灘に共通した傾向として、長母音の短母音化がある。
 人形 → ニンギョ
 線香 → センコ
 砂糖 → サト
 唐きび → トキビ
 ようけ(沢山(たくさん))→ ヨケ
・言いよる(言っている)→ イヨル
 (2)「セ」「ゼ」を「シェ」「ジェ」と発音する
 阿波全体にあることながら、古態語が多い灘地方もこの傾向が強い。
 伊勢海老(いせえび)→ イシェエビ
 専門 → シェンモン
 店 → ミシェ
 仕事せんか → 仕事シェンカ
 (3)撥(はつ)音、促音、拗(よう)音化
 てぐす → テングス
 いらんのか → イランノンカ
 雑巾(ぞうきん)→ ゾッキン
 大きい → オッキョイ
 (4)サ行のイ音便が多いほか、「シ」が「ヒ」になることも多い。
 歩きだした → 歩キダイタ
 ほなにできん → ホナイデキン
 警戒して → 警戒ヒテ
 どして(どうして)→ ドイテまたはドヒテ
 (5)合拗音の残存
 ○ クヮジ(火事)、ゲンクヮン(玄関)
 漢字の読みからきたもので、日和佐に限らず徳島県では古態をとどめた発音をする人が多い。
 (6)形容詞「赤い」「暗い」などの連用形は長音化する。
 赤くなる → アカーナル
 (7)「ダ」と「ラ」の混同が多い。
 道デ出会ウ → 道レ出会ウ
 アッタダロ → アッタラロ

3.文法
 (1)否定は「行カン」または「行ケヘン」という。
 (2)過去の否定は「知ラナンダ」または「知ランカッタ」といい、「知ラザッタ」は用いない。
 (3)進行・存続態は「降ンリョル」「打ッチョル」と音便せず「降リヨル」「打チヨル」とはっきり言う。また、「言イヨル」は「イヨル」と短く言う。
 (4)断定の助動詞の言い切りは「ジャ」が原則であるが、「ヤ」も増えてきた。「ジャ」「ヤ」「ダ」「デス」の四つが混在し、若年層に「ジャ」を避けて名詞止めにする傾向がある。「ダ」の未然形、連用形、連体形、は「ダロ」「ダッ・デ」「ナ」となり、仮定形は「ナラ」または「〜ヤッタラ」と言い、助詞「は」を融合した「ナリャー」は少なくなった。
 (5)形容動詞も断定の助動詞と同じであるが、連用形については「ダッタ」の言い方を避けて、「静カナカッタ」、「キレカッタ」または「キレナカッタ」という。
 (6)不可能の表現は副詞「ヨー」または「エー」を用いて「ヨー読マン」「エー読マン」のように表現する。「可能」の助動詞「レル」「ラレル」はいわゆる「ら抜き」が普通であり、可能動詞もよく用いる。
 (7)勧奨の言い方に「〜シタラワ」というのがあり、妻が夫に勧める場合などに打ってつけである。目下には「〜シー サー」(シーはサ変の命令形)とか「シー ホレ」とか呼びかけの文末詞を添える。
 (8)二つの動作を同時に行う意味の表現「〜ながら」は、「食ベモッテ」のように「〜モッテ」を用いる。
 (9)当為の「ねばならぬ」は「〜センナン」となる。これは西部にはなく、県下平坦部全体の表現である。
 (10)禁止表現には「行カレン」のような助動詞「れる、られる」を使ったものがあり、日常的に用いている。これは全県的な言い方である。灘では「行カレンゼ」または「行カレンジェ」のように文末詞を添えることが多い。
 (11)命令表現には「コッチーキー」(こちらへいらっしゃい)のような用法があって、「来い」というよりはずっと優しい、幼児に向けて母か姉の言うようなやさしい命令となる。灘では「キーマー」とか「キーコレ」と、呼びかけの語を添えることが多い。
 (12)古風な敬語に「ンセ」「ナサレ」があったが、最近の共通語化でめったに聞かれなくなった。
 タマニワ 寄ランセヨ。(時折はお寄り下さいよ)
 チットワ コイナサレヨ(少しはおいで下さいよ)〔コイはアクセントによって優しい命令形となる〕
 (13)原因の助詞「ケン」、断定の「ジャ」
 上方から海部郡に原因の助詞「サカイ」「ヨッテ」と、断定の助動詞「ヤ」が明治、大正期に、どっと流入したが、日和佐は下灘地区ほどはなはだしくなく、吉野川下流域や「上手(うわて)」と同じく「ケン」、「ジャ」が多用されている。

4.日和佐方言の表現
日和佐ことばを実例で挙げる。(語彙、場面設定会話の項も参照)
 (1)「ジェ」
 ヨソイ イカット ベンキョーセナ イカンジェ。(母→小学生)
 他所(よそ)へ行かずに勉強しなければいけないよ。
 (2)「クレテン」
 チョット コレ ミテクレテンダ。ヒドイモンジェ。
 (漁網の破れを見せて)ちょっとこれ見てちょうだいよ。ひどいものだよ。
 (3)「サー モシ」
 夏の日、「暑いことです」とのあいさつに答えて「さあ仰せの通りでございます」というのである。高知から下灘の言い方である。〜ジャナモシの言い方もあったようである。
 (4)「コー(コレ)、ホレ、オマイ」
 雨ノ中、提灯(ちょうちん)ノ火ガ付カイデ、『這(は)イ這イシテコイ コー』イワレテ イタコトモアルウェ。
 産婆さんが真っ暗の山の中へ呼ばれた体験談。このように、代名詞系の文末詞が多彩で、会話の中での呼びかけが多くなり、それだけにコミュニケーションがより緊密になる。

5.俚言集
 日和佐町には、昭和59(1984)年刊行の「日和佐町史」と、昭和62年の町老人クラブ連合会編集の「ひわさ方言とことわざ」という貴重な方言資料がある。これを底本として利用させていただき、その上に多くの町民の方のご協力を得て、この俚言(りげん)集はできた。だが筆者の非力から語の取捨の不適や、説明の不足と誤りも多いことと患う。後日地元の方の手で完全な方言誌の生まれることを期待する次第である。
アオモン   〈魚〉(注1)サバなど青い色の魚。
アカモン   〈魚〉タイなどの赤い色の高級魚。
アガリタテ     あがり口。
アクサイ      1.困る。2.嫌いな。
アコー       お前(目下の二人称)。
アサギ    〈植〉雑木。伐採しても株から再生する木。対応語はクロキ。
アサッパチ     早朝。
アタリク      八つ当たり。
アネサン      他家のお嫁さん。
アババイ   (形)(注2)まぶしい。総称。
アブキ(アブク)  漁師にとっては波があると言えないほどの海面の状態。
アミショク     網漁の漁師。
アライジャ     もちろん有るよ。
アルデナイデ    有るじゃないの。
アンニャン     兄(お兄さん)。
イーサマ      言いなり。従順。
イオ        魚。
イガル    (動)大声で叫ぶ。
イクリ       暗礁。
イゴッソ      強情者。
イソモン      海岸に生息する貝類の総称。
イタクラ(注3)〈動〉雀(すずめ)。(悪戯(いたずら)をする雀の故に名付けられたと言われるが、今は古語になっている。渡り鳥のニューナイスズメではない。図1参照)。


イタズリ   〈植〉いたどり。
イッコン      一個(ニコン以上言わぬ助数詞)。
イッチライ     一番良い物。一張羅。イッチョライとも。
イデル    (動)ゆでる。
イトソ       糸。縫い糸。
イヌ     (動)帰る。
イヤチャラユウ   人の嫌がることを言う。
イレミ       贈り物の返しに入れるわずかな品物。
イレル    (動)気をもむ。
イロベル   (動)からかう。
ウェ     (助)……よ。「知ランウェ」
ウタテイ   (形)面倒な。
ウトウトシイ (形)明かりがくらくて行動がにぶい状態。
ウドマス   (動)強くなぐる。
ウドリコム  (動)舟が吃水(きっすい)線より深くなる状態。
ウワカサ      上回ること。
ウワテ       1.上方。2.上手。
エー     (副)能く(主に打消し)。エーセン(できぬ)。
エガム    (動)ゆがむ。
エゴ        鍬(くわ)などの栓。
エゴッソー     難しい人。
エット    (副)長い時間。
エンタ       川岸のえぐられている所。
エンマ    〈虫〉かまきり。(赤)
オードーナ  (形動)動作が鈍い。
オーコ        てんびん棒。
オカタ    (副)大方。
オグロモチ  〈動〉もぐら。
オジャン      お手玉。(赤)
オセンゴロシ 〈魚〉すずめだい。
オダクル   (動)木の枝を適当な寸法に切る。
オチャブル  (動)からかう。
オッシャゲ     一斉の勤労奉仕で得た金を共同の資金に充てること。
オトコシ      1.男子。2.奉公人。
オトマシイ (形)1.哀れな。2.いとしい。3.いやだ。
オナメ    (動)雌牛。
オブレル   (動)1.汗が沢山出る。2.水におぼれる。
オミ        海。
オラ        おれ。自称。
オラエル   (動)がんばる。こらえる。
オルン       「居るの?」店に入った時の挨拶。オルケ。とも。
オロカヤナイ    随分と手間がかかる。
オワエル   (動)追う。
オンシヤー    お前(男性語)。
オンヤン      中年以上の男性に親愛をこめての呼び方。
カウーン      「買います」子供が店に入った挨拶。
カケ        桟道。
カサ     (副)たくさん。
カサボタ      かさぶた。
カスカス   (副)かろうじて。
カタクマ      肩車。
カタグ    (動)かつぐ。
カツギ       海士(あまし)。
カツグ    (動)海か川へもぐる。
カバエル   (動)1.ふざける。2.つけあがる。
カブシ       魚釣りのまき餌(えさ)。
カマヤ       かまどのある部屋。
カミヒゲ      毛髪。
カワクロシイ (形)1.のどが渇く状態。2.食物が残り少ない。
カワケブリ     1.朝霧。2.朝もや。
カンブクロ    紙袋。
カンマン      かまわない。
ガゼ     〈動〉うに。
ガネ     〈動〉かに類の総称。
キシンドイ  (形)しんきくさい。
キナ        来るな。
キビ        とうもろこし。
キリューサ     かかと。
ギャル    〈動〉おたまじゃくし。
ギョーギジャワン  揃(そろ)ったよい茶碗(わん)。
キンニョ・キンヨク 昨日。家を指す語。ワシク(私の家)。
クジヌキ      くじ引き。
クスバイ   (形)くすぐったい。
クズッタ      屑(くず)。
クスバカス  (動)くすぐる。
クソテンゴー    何の役にも立たぬ。
クビタマ      首輪。
クビンマ      肩車。
クラス    (動)なぐる。
クロキ    〈植〉杉・モミなど伐採すると根が腐り再生せぬ木。←→アサギ。
グズイ    (形)のろい。
グチナ    〈動〉蛇。
グッツラ   (副)沢山。
グモ     〈動〉くも。
ケガエ       死者のあった家が、牛・猫など毛のある動物を飼っている時、交換するという習俗。
ケンソ    〈植〉げんのしょうこ。
ケントマク     当てずっぽう。
ゲンゲ    〈植〉れんげ草。
コーガイ      錨(いかり)の爪(つめ)のつけ根に通す木か、鉄パイプ。
コケドックリ    出ほうだい。
コケル    (動)倒れる。
コサゲル   (動)こすり取る。
コチマワス  (動)拳骨(げんこつ)で強くなぐる。
コットイ   〈動〉雄牛。
コトスコワカラン  いくら説明しても納得しない。
コビク    (動)病気の時に耳に響いてくるような音。
コリキ       雑木の薪。
コンリャゲル (動)困り果てる。
ゴーチュー     田舎。
ゴーガタツ     日にちが経(た)つ。
ゴーヘイ      舟の前進の合図。
ゴキアライ  〈動〉いもり。
ゴシャメーン    店に入る挨拶。(赤)
ゴシャメン     ご免なさい。
ゴジャブロ     無茶苦茶。
ゴンタ       1.腕白者。2.海魚のぶだい。エガミとも。
サイロ・サイラ〈魚〉秋刀魚(さんま)。
サブロゴト  〈動〉ひきがえる。
シキ        敷居。
シズキ       大波で港内の舟が前後左右に動く。
シッタリ   (副)いつも。常住。
シナゲ       腐った魚(主に肥料とした)。
シャミ    〈虫〉しらみ。
シヨキ・シオキ   塩魚。シヨモンとも。
シリウチ      泥濘(ねい)のはねが衣服にかかること。
シリコロ      鰹(かつお)の心臓。
シンコ       粳(うるち)米の粉の団子。
ジベタ       地面。
ジャビル   (動)約束を解消する。
ジャラコイ  (形)馬鹿(ばか)らしい。
ジョーニ   (副)沢山。
ジルイ    (形)ぬかるみ状態。
スバクル   (動)しゃぶる。
スベクル   (動)滑る。
スボケ       ふくらはぎ。
スマ        隅。
スルバチ      擂(す)り鉢
ズー        煙草のやに。
ズキ        里芋のずいき。
ズキイモ      里芋。(赤)
ズク     (助)ず、しての意。アワンズクジャ(会わないでしまった)。
ズルコイ   (形)ずるい。横着な。
ズレル    (動)濡(ぬ)れる。
セ         やさしい命令。イカンセ(お行きなさい)
セー        暗礁。
セギル    (動)魚が釣針にかかり強く引っ張る状態。
セタゲル   (動)いじめる。
セッパイ   (副)沢山。
セツロシイ  (形)狭苦しい。
セブル    (動)せびる。ねだる。
センキョー     先日。この間。
センキル   (動)自慢する。
ゼゼクル   (動)舌がもつれ発音がはっきりせぬ。
ソエル    (動)走る。
ソソハイ   (形)そそっかしい。
タケ        茸(きのこ)。(赤)
タケタケ   (副)端から端まで。
タタエ       満潮時。←→ヒゾコ。
タッスイ   (形)馬鹿らしい。
タッツァン     母上。
タテル    (動)(戸を)閉める。
タデル    (動)舟底を焙(あぶ)り害虫を殺す。
タンギャイ  (副)1.大そう。2.おおむね。タイガイとも。
ダー     (感)相鎚(づち)などに用いる。「ダー、天気が良カッタケン助カッタウェ」
ダイイ    (形)だるい。
ダスコイ   (形)1.ゆるい。2.少し馬鹿な。
ダチ        埒(らち)。能率。ダチアガラン(能率上らぬ)。
ダルイ    (形)1.ゆるい。2.疲れた。
チヤス    (動)つぶす。
チャチ       ごまかすこと。
チョーサイ     念仏などの先導者。
チョンマイ  (形)小さい。
ツダル・テダル(動)連れる。
ツマエル   (動)しまう。収蔵する。
ツラクル   (動)釣り下げる。
ツンドル      沢山ある。
テガウ    (動)からかう。
テンゴノカワ    無駄なこと。
テンマズレ     子供連れ。
デキ・デキサン   あの人。三人称。
トーヤク   〈魚〉しいら。ウマビキ。
トエル    (動)叫ぶ。大声を出す。
トバッシャゲル   勢いよく物に突き当たる、または走る。
トヒクロ      うそ。うそつき。
ドベカス      誠意が無く信用できない人。
トメコ       鳥獣の檻(おり)。
トリコノフシ    くるぶし。
トリツケ      正月に搗(つ)き上りの餅(もち)をちぎり餡(あん)をまぶしつけたもの。
トンマエル  (動)捕らえる。
ドクレル   (動)すねる。
ドヤス    (動)殴る。たたく。
ドンガラ      体格。
ドングリ      あめ玉。
ナ      (助)文末詞として、これが基調となる。「暑イナ」。
ナスクル   (動)塗り付ける。
ナッシエ      無意味だ。「ナッシェ今日ハコレデシマワンケ」
ナテ(注4)    魚代。魚水揚げ代金の漁業用譜。
ナブラ       魚の群。
ナメル    (動)苗等の葉が四方に垂れ下がっている状態。
ナンシニ      何の為に。
ナンゼェ      なんですか。
ニイ        兄。兄さん。
ニガク    (動)ゆでる。
ニドイモ   〈植〉じゃがいも。
ニンギャカ     にぎやか。
ヌケル    (動)水中にもぐる。
ヌゲル    (動)逃げる。
ヌサクル   (動)塗りつける。
ネキ        傍(そば)。
ネゴタ       よく眠る人。
ネブル    (動)なめる。
ネンガケル  (動)狙う。目をつける。
ノカナ    (形動)1.不器用でにぶい。 2.鍬などの柄の仕掛が鈍角すぎること。
ノシマクル  (動)強く打つ。強く殴る。
ハイ・ハエ     1.川魚のおいかわ。2.岩礁。3.沖合の小さな島。
ハイヤイ      競走。ハヤイヤイとも。
ハザ        平常。普段。
ハチコル   (動)はびこる。
ハッサ・ハッソ   定規や田植機の使えない水田の隅。
ハッサイ   (形)1.がさがさする。2.元気者。
ハバシイ   (形)1.すばやい。2.特に早起きで仕事にかかるのが早い。
ハミ     〈動〉まむし。
ハヤズリ      マッチ。
ハラク       下痢。
ハラボ       鰹(かつお)の腹身
バイ        1.貝独楽(ばいごま)。2.ばていら(貝)。
バイオキル  (動)急いで起きる。
バッタリ      歌など最後まで歌わず中途で止めること。
ヒカエル   (動)舟の進路を左方向に変える。
ヒキツメ・ヒゾコ  最低の干潮時。
ヒヤ        隠居宅。
ヒョーガイモ    さつま芋。(赤)
ヒョーゲル     おどける。
ヒョングリ     松かさ。
ヒンゴ       日当たりの良い所。
ブキン       ナテから漁業協同組合に納める手数料。
ヘゴナ       粗末な。貧弱な。
ヘザクム   (動)膝(ひざ)を組む。
ヘトイキニ  (副)無茶苦茶に。
ヘラノコト     違うこと。
ホーホースル    大事にする。
ホカス    (動)捨てる。
ホグリ       松かさ。(赤)
ホコ        そこ。
ホタエル   (動)ふざける。軽い暴れ。
ホテ        蚊・蚋(ぶよ)いぶし用の縄状布切れ。
ホトケンマ  〈虫〉かまきり。
ホナケンド  (接)そうだけど。
ホル     (動)投げる。捨てる。
ホレ     (助)文末で軽く念を押す意。「行キホレ」。
ホンガミ      きずき紙。
ボード       藁(わら)ぐろの先端を覆う藁製の傘。
マイノキ      眉(まゆ)毛。
マエカド      先日。以前に。
マガル    (動)邪魔になる。
ムッサリ   (副)胃がもたれ、胸がつかえ気持ちが悪い状態。
メダク    (動)くだく。壊す。
モノキ       物置。
モンダイ   〈魚〉出世魚鰤(ぶり)のうち一格下のメジロと区別が問題になる位の大きさの魚。
モンブリ      門守りの護符。
ヤイト       きゅう。
ヤタケタ      無茶苦茶。
ヤッチャ      午後三時ごろの食事。
ヤマト       草屋根の棟に跨(またが)る藁や薄(すすき)製のうまのり。
ヤリコイ   (形)やわらかい。
ヤンバイ      好都合。
ユー        柚子(ゆず)。
ユキゲタ      竹馬。(赤)
ユサクル   (動)ゆさぶる。
ユンベ       昨夜。
ヨイヨ    (副)やっとのことで。
ヨコタイ      横倒し。
ヨソゲ    〈魚〉うまづらはぎ。
リョーンリャ    料理屋。
リリシイ   (形)利発な。利口そうな。
ルスモリ      留守番。
レキ・レキサン   彼。あいつ。
ワイ・ワシ     ぼく。一人称。
ワケ・クイワケ   食物の食べ残し。
ワコー・ワレ    お前。きみ。二人称。
ワタイ・ワテ    わたし。一人称。
ワリズキ      干しずいき。
ンネ        姉さん。
ンネサン      他家の嫁さん。
ンマ        馬。
ンマビキ   〈魚〉しいら。
(注1)〈 〉内は動植物の種類の頭文字。
 動物のうち魚類は〈魚〉、昆虫は〈虫〉で示し、その他は〈動〉とした。また、植物はすべて〈植〉で示した。なお、解説文の(赤)は赤松地区で聞いた語で、他は未確認の意。
(注2)( )内は品詞の略号。
(動)は動詞、(形)は形容詞、(形動)は形容動、(助)は助詞。その他は省いた。
(注3)イタクラ
 イタクラは雀の古い呼び名であるといわれる。だが1972年に刊行された国立国語研究所の「日本言語地図」によると、四国中央山地、紀伊半島南部、千葉県に少し見られるだけで県内では一例も出ていない。実際には祖谷や木頭など山間部では昭和初期に盛んに使われた呼び名である。それが今回の調査でも赤松など3地点にあった。語源の『推定まで聞かれたので特に取り上げてみた。
(注4)ナテ
 組合への魚販売代金をナテと呼ぶのは、海部郡も上灘地区だけの方言らしい。これに由岐では「魚代」の漢字を充てているようだ。魚の字はナと読めるし、代は酒代(さかて)でテと読める。ナテとは言い得て妙なる命名だと思う。

6.場面設定の会話
 次に掲げる会話は、文化庁の緊急方言調査(1981〜1983)に使用した、場面設定の会話の要領に従って、下記の通り収録したものの文字化である。
 収録場所 徳島県海部郡日和佐町日和佐浦15−1(水口雅晴氏宅)
 収録日時 平成8年8月4日午前10時
 話者 男 水口 雅晴 日和佐町日和佐浦15−1 大正2年生まれ
    女 沢口賀代子 日和佐町日和佐浦287−1 大正12年生まれ
1)犬の放し飼いに抗議する
 女 コンニチワ。
 (こんにちわ)
 男 コンニチワ。
 (こんにちわ)
 女 アンタントコノ イヌガナー。ウチントコノ マゴニカミツイタンジョ。ツナイドイテクレント コマルデケー。
(あなたのところの犬がね。うちの孫に咬(か)みついたんだよ。繋(つな)いでおいてくれないと困るじゃあないの)
 男 エー。ウチノ イヌガ カンダツケー。ホンナコトナイダロー。
(えっ? うちの犬が 咬んだって? そんなことはないだろう)
 女 ホナッテナー。
 (だってね)
 男 ホレナ。ヒョットシタラナー。オマンクノ マゴサンガ ナントチガウン。ウチノイヌニ イシデモ ブツケタントチガウンケ。オマイ。
 (それね。ひょっとしたらね。あんたところの 孫さんが ええと……違いますか? うちの犬に 石でも ぶつけたのと違いますか。あなた)
 女 ウチノ マゴ オマン カマレテヒモテ ドナイシテクレルンジェダ。コレ。ホンマニ。
 (うちの孫はあなた、咬まれてしまって どうしてくれるんですか、これ、ほんとうに)
 男 ホナケンドナー。ナンジャデ。イヌヤッテ タショーワ ジユーニ サイタラナ イカンコト アルデ。チョットコマ コレ ハズイタッタンジェー。
 (だけどね。なんだよ、犬だって多少は自由にさせてやらないといけないことがあるよ。ちょっとの間 これをはずしてやったんだよ)
 女 ホリャー ウンドーワ ササナイカンウェダ。ホンデ ウンドー サイタラ ツナイドイテクレナンダラ カナウケマー。
 (そりゃあ運動はさせないといけないわよ。それで運動させたら繋いでおいてくれないとたまらないわよ。あなた)
 男 ソリャー マー ソーヤケンドナー。オカシーナー。カムハズナインヤケンドナー。
 (それはまあそうだけど、変だなあ。咬むはずないんだけどね)
 女 トニカク ナンジェ。ホンナラ マゴノ アシ ミタッテダー。
 (とにかくまあ、なんだわよ。そんなら孫の足をみてやってよ)
 男 ホラマー ミルケンドナー。ケンド ミョーナナー。
 (そりゃあ、まあ見るけどね。変だなあ)
2)梯子(はしご)を借りる
 男 アノー ハヨカラナー エライスンマヘンケンドナー。アノー ウチノ ヤネガーチョット オカシーヨーニ オモーテナー。コレ タイフーノジキニ ナットルシサー。
(あの 早朝からねぇ 大変済まないんだけどねぇ。あの わたしのうちの屋根が 少し変なように思ってね。それ もう台風の時季になっているしさあ)
 女 ホージャ ホージャ。
 (そうだ そうだ)
 男 ホンデ ホレ ハヨー コレ コンウチニ ナオシトカナンダラ イカント オモーテナ。
 (それで あなた 早く〈台風が〉来ないうちにに 直しておかなくてはいけないとおもてね)
 女 エー。
 (ええ)
 男 ホンデ スマンケンド アンタトコノ アノー ハシゴ ナイダロカ?
(それで 済まないけれど あなたのところの 梯子は ないでしょうか?)
 女 アルンヤケンドナー。ホレガ ホノ オクイ オイタールンヨ。ホンデ マー ウチノ オトコシガ……。
 (あるんだけれどね。それが その 奥に置いてあるのよ。それで まあ うちの 男衆……)
 男 チョット デンケ?
 (ちょっと 出しにくいの?)
 女 チョットデンノヨ。オトコシニナー クルマデ モッテキテモラワナンダラ グヮイワルインヨ。
 (ちょっと 出しにくいのよ。うちの人にね。車で 持って来てもらわないと 具合が悪いのよ)
 男 ホーケ?
 (そうですか?)
 女 ホイテ ホレガナ。オッキーント コンマインガアル。オッキーンデアッタラ タイヘンジョ。 ヒトリデ モテンジョ。
 (そしてそれがね。大きいのと ちいさいのがある。大きいのだったら大変よ。一人で 持てないわよ)
 男 ホナケンド ホレ シャーナインジョ。オオヤネジャケンナー。ホンデ ナガイホーガ エーワナー。
 (だけど それ しかたないんだよ。大屋根だからね。それで 長い方が いいよね)
 女 ウン。ナガイホーガエー?
 (うん。長い方がねえ?)
 男 ホンデ スンマンケンド ゴシュジンサンニ タノンドイテ クレヘンデ?
 (それで 済まないんだけれど ご主人さんに 頼んでおいて くれませんか?
 女 エー エー。ホンナラナー。クルマデ モッテキテカラ オタクイ モッテ イタルデ。
 (ええ ええ。それではね。車で 持って来てから お宅へ持って行ってあげますよ)
 男 ホーケ? ホンナラ モッテキテクレルケ?
 (そうですか? それでは 持って来てくれますか?)
 女 エー エー。ビンスルワ。
 (ええ ええ。連絡しますわ)
 男 スマンケンドナー。エライ テマナコト モーシカネマスケンド。
 (済みませんけどね。たいへん お手間をとらせて 申しかねますが……)
 女 イヤ イヤ。
 (いえ いえ)
 男 ホナ タノムナー。オジャマシマシタ。
 (じゃあ 頼むよね。おじゃましました)
今回の、調査に当たって町役場、公民館、老人会等町を挙げてご協力いただいた。特に懇切にご教示くださった方々の芳名を掲げて感謝の微意を表する。
上村 藤夫 日和佐町赤松遠野159 明治42年生まれ
上村 富子 日和佐町赤松遠野159 大正2年生まれ
小林 陽子 日和佐町奥河内本村85−1 昭和25年生まれ
近藤安太郎 日和佐町弁財天171−1 大正8年生まれ
沢田賀代子 日和佐町日和佐浦287−1 大正12年生まれ
田仁 昭子 日和佐町日和佐浦101 昭和5年生まれ
谷崎万里子 日和佐町赤松野田3 昭和4年生まれ
中野 保幸 日和佐町山河内本村93 昭和5年生まれ
野田  豊 日和佐町赤松阿地屋27 大正9年生まれ
益田 勝行 日和佐町赤松新谷70 大正6年生まれ
水口 雅晴 日和佐町日和佐浦15−5 大正2年生まれ
向井田 実 日和佐町山河内なか23−1 大正4年生まれ
六反  功 日和佐町山河内打越89 大正9年生まれ

 参考文献
「日和佐町史」,日和佐,1984
「ひわさ方言とことわざ」,日和佐町老人クラブ連合会,1987
「由岐の方言野帳」,悦田慶一,1995
「徳島県方言緊急調査」,徳島県教育委員会,1983
「徳島県百科事典」,徳島新聞社,1981
「改訂 阿波言葉の辞典」,小山助学館,金沢治,1976
「中国四国地方の方言」,国書刊行会,森重幸,1986
「日本言語地図」,国立国語研究所,1972
「野鳥」,山と渓谷社,1991


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