阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第43号
日和佐町のザトウムシ

昆虫・クモ類班(徳島県博物同好会)

              冨島啓次1)

 ザトウムシは蛛形綱に属する動物で、真正のクモ類に似ているが、クモとはいろいろな点で違いがみられる。まず、クモの特徴である糸腺がなく糸を出さない。頭胸部と体節構造をもつ腹部が幅広く接しているため、クモのように両者のくびれが明確でない。クモと同じ4対の歩脚をもつが、第2歩脚が特に長く、これを触角のように使い、前方を探りながら歩く。この歩行の仕方からメクラグモともいう。だが、頭胸部の上に眼丘がある。歩脚が長いのはこの目の特徴ではあるが、アカザトウムシ科などは長くない。
 クモのようにたくましい生活力はなく、特に乾燥に弱い。森林の伐採、山地の道路の開発などで乾燥してくると、極端に個体数の減少がみられる。自然環境保全の指標になると考えられる。

 OPILIONES ザトウムシ目
  Phalangodidae アカザトウムシ科
1.Pseudobiantes japonicus Hirst ニホンアカザトウムシ
 '96.5.4. 大浜海岸、八幡神社。'96.7.26.阿地屋、赤松神社。'96.7.27. 山河内、吉野神社。南阿波サンライン、明丸(坂東治男氏採集)。
 体長3.0〜4.0mm。眼丘の中央に短い棘(とげ)をもつ。体色は橙(とう)赤色で、頭胸部の背面には網状の斑紋(はんもん)が、腹部の背面には黒い横斑がある。触肢(しょくし)はよく発達して棘が多い。落葉、朽木、石の下などに生息する。そのため、農薬などに汚染されている場所でも残っている。
2.Epedanellus tuberculatus Roewer オオアカザトウムシ
 '96.5.4. 大浜海岸、八幡神社。
 前種に酷似するが、体はやや大型で体長は4.5〜7.0mm。前種とほとんど同様の生息場所であるが、個体数は本種のほうがはるかに少ない。
  Phalangiidae マザトウムシ科
3. Leiobunum japonicum Muller モエギザトウムシ
 '96.7.28.久望、赤滝。大戸、御世谷。
 体長は3mm たらずの小型であり、歩脚は細くて長い。特に第二歩脚は8cm を超えている。腹部の背面は暗褐色であるが、下面は淡いもえぎ色をしている。山地の雑草や低木に生息する。
4.Nelima satoi Suzuki サトウザトウムシ
 '96.7.28. 久望、赤滝。
 体長6mm くらいで、体色は黒い。今回採集されたのは亜成体であった。成熟するのは9月である。
 湿潤なところを好み、滝などに多いが、日和佐では少ない。赤滝以外では採集できなかった。
5.Metagagrella tenuipes (L.Koch) ヒトハリザトウムシ
 '96.7.27. 南阿波サンライン、明丸。南阿波サンライン、外牟井の浜(黒田祐次氏採集)。
 体長5〜6mm、腹部の背面に短い棘をもつ。ふつう海岸の岩かげに群生する。県内では内陸部では見られない。本州、四国、九州と分布は広い種であるが、県北ではほとんど見られなくなった。
6.Gagrellula sp.
 '96.7.26. 天狗谷。'96.7.28. 大戸、御世谷。
 阿南市太龍寺などでみられるクロオビザトウムシの近似種である。腹部の背面に短い棘をもつ点も似ている。全身がほとんど黒く、区別は簡単である。標高800m までの低いところにすむ。

1)徳島文理高等学校


徳島県立図書館