阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第42号
北島町の読書調査

読書調査班(徳島県立図書館)

  水上英俊1)・岸本真弓1)・                 

  宇山博子1)・安藤美穂1)・                 

  久保貴栄1)・田村加代1)

1.はじめに
 北島町における読書の状況を把握するために、読書調査班では、読書調査アンケート及び座談会を行い、分析・考察をこころみた。

2.調査の目的と方法
 調査の目的は、読書と図書館に関する北島町民の意識と実態を調査することによって、今後の図書館活動推進の参考にするためである。今回の調査では、町内の小学校の保護者を対象に、「読書に関するアンケート」を実施するとともに、小学校3年生、5年生、中学校2年生の児童生徒に対してもアンケート調査を行った。また、読書施設の実態を把握するために、「読書に関する座談会」を開き、北島町教育委員会・町立図書館・図書館ボランティア・利用者の方々から意見を聞いた。

3.北島町立図書館
 北島町では、平成2年8月に「北島町の図書館を考える会」の方々から図書館建設の要望が出され、住民の図書館設立を切望する機運の高まる中、平成6年6月2日、開館の日を迎えた。開館時の蔵書5万冊が、平成7年3月末までの10カ月間で合計20万冊余り、町民一人当たり平均10.4冊の貸出を記録した。これは、徳島県下では第2位の記録で、いかに北島町立図書館の設置が望まれていたか、活用されているか、がうかがえる。
  また、特色ある図書館サービスとして、外国人に母国の絵本を朗読してもらう外国絵本のおはなし会なども運営している。町内に徳島大学国際交流会館があり、活力あふれるボランティアグループの存在が大きくこれに貢献している。熱心なボランティアグループの活動は、子どもたちに読書することの喜びを与えている。移動図書館については、現在運行されていない。総面積8.8平方キロメートルの町内に車を走らせることは疑問視されがちではあるが、お年寄りや体の不自由な方へのサービスとして望む声もある。

4.読書と図書館に関するアンケート
 1)成人へのアンケート
 成人を対象としたアンケートは、平成7年7月に町内の小学校を通じて各家庭に配布し、その児童の成人家族1名ずつに回答していただいた。総回答者数は、1108名。内訳は、図1、2のとおりである。30代・40代の人が回答の9割を占め、また女性が全体の約8割を占めており、回答者の年代及び性別に偏りが生じている(表1、2。図1、2)。

 各問ごとに回答の集計を図に示し、分析は、最終設問の後にまとめて記述した。ただし、表中の数は回答数であるため、その総数は必ずしも総回答者数とは一致しない。
問1.あなたは、北島町に何年くらいお住まいですか

問2.あなたは、1カ月間に平均何冊の本を読みますか(雑誌・漫画は除く)

問3.あなたは、1カ月間に平均何冊雑誌を読みますか

問4.あなたは、どんな目的で本や雑誌を読みますか

問5.あなたは、読みたい本や雑誌をどこで手にいれますか

問6.あなたは、この1年間に町立図書館を利用したことがありますか

問7.(問6で「ある」と答えた人に)図書館を利用したのはどんな理由からですか(主なもの3つまで○を)

問8.(問6で「ない」と答えた人に)どのような理由で、町立図書館を利用しないのですか

問9.あなたは、北島町立図書館以外の読書を利用していますか

問10.公共図書館を利用する、利用しないにかかわらず、それが存在していること自体、あなたにとって価値がありますか

問11.北島町立図書館に対する要望

分析:町内在住年数は、11年〜26年と長く住んでいる人が多いが、近年、北島町では徳島市のベッドタウン化が進んでいるためか、1〜5年や5〜10年の人も多い(図3)。読書状況については、本を月に1〜2冊、雑誌を2〜3冊読むのが平均になっている(図4、5)。読書目的では、本や雑誌を、楽しみや趣味ととらえている人が多いのがわかる(図6)。ところで、本や雑誌の入手方法であるが、「書店から」が第1位になっている。注目したいのは、第2位に「町立図書館から」があがっていることである(図7)。次にこの1年間に町立図書館を利用した回数を尋ねてみた。全回答者の70%は利用したことがあり、そのうちの約5割の人は月に1回のペースで図書館を利用している(図8)。図書館を利用するいちばん多い理由は、「本を借りるため」であり、至極当たり前だが、実は図書館がうまく機能していることのあらわれかもしれない(図9)。逆に、町立図書館を一度も利用したことのない人々の図書館を利用しないいちばん大きな理由は、「開館時間に利用できないから」であった(図10)。北島町立図書館以外の読書施設は、利用してない人が圧倒的に多く、県立図書館や近隣の町立図書館は利用が少ない(図11)。町民の北島町立図書館への依存度が高いといえるかもしれない。公共図書館の存在価値については、「多少価値がある」を含めて、94%の人が価値を認めている(図12)。
 最後に、北島町立図書館への要望を出してもらった(表3)。いちばん多いのは、「蔵書の充実」である。なかには、ある分野の本を、この作者の本を揃えてほしいというリクエスト的な要望もあった。サービス内容に関しては、「もっと探しやすくして欲しい」という要望があがった。利用が多くなればなるほど深刻化するこの問題は、図書館の課題のひとつである。また、新刊の情報を広報で流してほしいという意見もあった。いずれにしても、北島町役場に隣接した町立図書館は、多くの人が、より便利に身近に感じており、親しみやすい空間であるようだ。

 2)児童・生徒へのアンケート
 児童・生徒を対象としたアンケートは、平成7年7月に町内の小学校3年生と5年生、中学校の2年生に配布し、回答してもらった。回答者数は 693名(表4、図13)。なお、このアンケートは、全国学校図書館協議会が文部省の委嘱を受け、1994年3月に全国の小・中・高等学校の児童生徒を対象にして、読書に関する意識や実態について調査を行った(『学校図書館』学校図書館協議会刊1995年3月号に掲載)ものをもとにして作成した。

 各問ごとに各学年別の回答の集計を表と図に示し、分析は、最終設問の後にまとめて記述した。なお、表中の数は回答数であるため、その総数は必ずしも総回答者数とは一致しない。
問1.あなたは、7月1カ月間の間に、本を何冊読みましたか(マンガや雑誌は数えないでください)

問2.あなたは、7月1カ月間に雑誌を何冊読みましたか

問3.あなたは、7月1カ月間にマンガを何冊読みましたか

問4.あなたは、7月1カ月間の間に、カセット・CD・ビデオなどをいくつ使いましたか

問5.あなたは、本や雑誌をどのようにして手に入れますか(複数回答)

問6.7月1カ月間に、学校の図書室に行きましたか

問7.何のために学校の図書室に行きましたか(複数回答)

問8.7月1カ月間に北島町立図書館に行きましたか

問9.図書館に行った人だけにお聞きします。図書館には何のために行きましたか(複数回答)

問10.次のことがらについて、あてはまることがあれば○をつけて下さい

分析:本を読む冊数は、小学校3年生と5年生は、2冊から5冊が多いが、中学2年生は、1冊も読んでいない生徒が圧倒的に多い(図14)。雑誌・CD・ビデオの場合は、各学年においてさほど冊数の差はでていない(図15、16、17)。ところが、入手方法になると小学生と中学生では若干異なってくる。本や雑誌の入手方法は、どの学年も「書店で買う」がいちばん多いが、小学校3年生では、これとほぼ同率で「町立図書館で借りる」、ついで、「学校の図書館で借りる」となっている。これに比べて、中学2年生になると、95%の生徒が「書店で買う」と答え、大人の傾向にほぼ近くなる(図18)。学校図書室の利用については、小学3年生と5年生では月に一度も利用しない児童の率が5%程だが、中学2年生になると実に7割近い生徒が利用しなくなる(図19)。利用する理由も、小学生は授業以外でも本を借りたり調べものをするために使っているが、中学2年生になると、多くは授業での利用である(図20)。町立図書館の利用については、5回以上行った児童が小学3年生では26%、小学5年生で16%。小学3年生は平均して月3回、5年生は2回利用している。中学2年生では、月1.5回。更に中学2年生の2人に1人は、学校図書室と同様、町立図書館も月に1度も利用していない(図21)。町立図書館の利用の仕方は、どの学年も「本や雑誌を借りたり、返したりするため」が筆頭となっているが、いろんな利用の仕方を万遍なくしているようすがうかがえる(図22)。しかし、中学生のそれぞれの利用の仕方の比率は大きく落ち込んでいる。読書環境に関する質問については、家に本があり、よく読んでもらったという回答が多く、かなり読書に恵まれた環境があらわれている小学5年生では、7割近くが「家に本がたくさんあり、小さいころ家族の人によく本を読んでもらった」と答えているのが、中学生になると3割から4割に下がる(図23)。ここでの回答の差異は、年代が高くなるにつれて生じる親離れに起因していると思われる。

5.座談会
日 時  平成7年8月1日(火)午後2時
会 場  北島町立図書館・創世ホール2階会議室
参加者  27名  北島町図書館協議会(2)、読書感想文と図書館に関する作文応募者(4)、広報委員会(1)、読書会(1)、図書館を考える会{外国絵本}(2)、おはなしワンワンくらぶ(3)、おはなしワンワンくらぶ手話通訳(2)、利用者代表(1)の皆さん。北島町教育委員会(1)、北島町立図書館(3)、読書調査班(7)
 北島町では、図書館設立に際して、「図書館を考える会」など住民が積極的にかかわってきた経緯もあり、多方面からのボランティア活動が盛んである。今回の座談会でも、それぞれの立場から図書館や読書に対する意見を語っていただいた。
 まず、子供の読書の質が落ちているのではないかという心配や、読書に向かう姿勢を養うことの大切さなど子供のころの読書体験の重要性が話題となった。さらに、図書館の利用の方法として、待ち合わせの場所に使われたり、親が子供を遊ばせるために利用したりするなど、マナーの悪さが気になるといった話もあった。また、中・高校生に対する企画の必要性や、国際交流会館もできたことから、外国人の利用に対応していくことが望まれるという意見が出された。設立前から住民とともに歩んできた図書館であるが、これからも行政は住民の声に耳を傾けて欲しいという要望とともに、本を読みたい時に開放感のある図書館が地元にあるという喜びも語っていただいた。
6.まとめ
 今回の調査は、従来の成人を対象とした読書調査に加えて、小学校3年生、5年生、中学校2年生の児童・生徒を対象とした読書調査もこころみた。子どもの読書離れが問題となっている昨今、実際に数値として現れることは予想されたが、小学生と中学生の読書に対する取組み方にかなり差があることには改めて衝撃を覚えた。むろん、今回の調査の結果は、北島町に限っていえることではなく、全国的に共通して認識される事象である。子どもの読書離れ、図書館離れは、子どもの進学や遊びの形態の変遷にかかわっている、と周辺環境のせいにされがちである。しかしそんな中でも、確かに「本を読む子」は存在している。本を読む子はいいが、本を読まない子はどう指導すればよいか。今回の調査によると、小学3年生で、月に5回以上町立図書館に行ったのは26%(4人に1人)、1回も行かなかったのは20%(5人に1人)というのだから、全く町立図書館に行かない児童よりも、月に5回以上行く児童の方が多いことがわかる。行動範囲の広くない子どもたちにとって、身近な読書環境のひとつである町立図書館、学校図書館の存在価値は大きい。その限られた行動範囲の中で子どもたちは、「本との出会い」を果たすのである。北島町は、ボランティアの方々に恵まれた環境を持っている。特に、外国絵本のおはなし会をはじめとする子どもに対するおはなし会の運営はまれにみるものである。住民であるおかあさんたちが子どもたちのために、そして自分自身のためにもおはなし会を続けている、という発言が座談会で聞かれた。北島町では、ボランティア一人一人の精神的な生活向上心がひとつの図書館サービスを支えているようだ。
 町立図書館が開館して一年、貸出冊数も順調に伸び、図書館の機能も充実しつつある中で、住民からは、体の不自由な方やお年寄りの方など、直接来館できない利用者へのサービスを望む声もある。財政的、人的問題もあり、実現困難と思われるサービスも多々あろうかと思われるが、少しでも住民の声が反映できる生き生きとした「町の図書館」であり続けてほしい。

1)徳島県立図書館


徳島県立図書館