阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第42号
北島町の真正クモ類

博物班(徳島県博物同好会)

    坂東治男1)・真鍋佳資2)

1.はじめに
 筆者らは阿波学会北島町総合学術調査に参加し、調査期間以外にも独自で調査するなどして、北島町の真正クモ類を調査した。北島町は徳島県の東北部に位置し、吉野川の下流で、徳島市と鳴門市にはさまれ、両市のベッドタウンとして発展の途上にある。標高10m 以下の土地ばかりで山はなく、神社、仏閣にも林は少ない。そのためクモの確認種は13科32種類であった。クモ類は害虫を捕食して、人間のために衛生面、農業面で益すること大であり、今後無農薬の農業や林業には、クモの利用を考えるべきである。しかるにクモは農薬に弱い。神社仏閣や空地に植林をして、緑多い北島町の実現と、適正な環境を保持されるよう、願ってやまない。

2.調査概要
1)調査地域および調査日
 1.天満神社    6月18日、7月28日
 2.大将軍神社   6月18日、7月28日
 3.水神社     7月28日
 4.八坂神社(高房)7月28日
 5.荒神社      7月28日
 6.八坂神社(西ノ瀬)7月28日
 7.蛭子神社     7月28日
 8.若宮神社     7月28日
2)調査方法
 樹上、石の下等はハンドソーティング、落葉の中はシフティング、木の枝はビーティング、草原はスイービング等(図1)により調査した。

3.採集目録と解説
   Atypidae ジグモ科
1.Atypus Karschi Do■enitz ジグモ
 日光の直射しない樹木の根元、石垣などの下方に住み、地上及び地中に鉛筆の太さほどの管状の巣を作り、地上部の外側を通る昆虫を捕食する。幼少の頃、巣を引き上げるとクモを捕らえられるので、けんかをさせて遊んだ。
   Dictnidae ハグモ科
2.Dictyna foliicola Bo■s. et Str. ヒナハグモ
  体長3mmぐらい。木の枝をビーティングして得られる。
  Ulobridae ウズグモ科
3.Uloborus sybotides Bo■s. et Str. カタハリウズグモ
  水平円網を日かげに張り、中央に雁木(がんき)状のうずまきのかくれ帯をつける(図2)。

  Oecobiidae チリグモ科
4.Oecobius annulipes (Lucas) チリグモ
 体長2.5mm。微小なクモで、天井板のつぎ目や桟のきわなどに小さい巣を作り、その中にひそむ。虫が巣にかかると、糸を引きながら回って捕まえる。
 Theridiidae ヒメグモ科
5.Achaearanea tepidariorum (C. Koch) オオヒメグモ
 家屋内の暗い所に不規則な巣を張り、すす払いの時に最も嫌われる。高層ビルの高所にも見られ、新築家屋に真先に侵入する。
6.Enoplognatha japonica Bo■s. et Str. ヤマトコノハグモ
  水田に多く、害虫の天敵として重要視される。
7.Argyrodes bonadea (Karsch)  シロカネイソウロウグモ
 体長3mm。腹部は円錐状で、全面美しい銀色。オニグモ、ジョロウグモ、ナガコガネグモの巣に住み、居候生活をしている(図3)。

  Linyphiidae サラグモ科
8.Ummeliata insecticeps (Bo■s. et Str.) セスジアカムネグモ
  サツマイモの畑に多く、走り回って害虫を捕らえる。
  Araneidae コガネグモ科
9.Araneus ventricosus L. Koch オニグモ
 体長30mm。黒色または黒褐色の大形種で、人家付近から山地に至るまで、広い範囲に分布し、毎夕網を張り、朝になると網をたたむ(図4)。

10.Argiope amoena L. Koch コガネグモ
 体長30mm。全国的な普通種で、円網の中央にX字状のかくれ帯をつけ、脚を2本ずつ揃えてとまる。子供がセミとりに使うのはこのクモの網である。鹿児島県の加治木町や高知県の中村市は、このクモを戦わせる競技で村おこしに役立てている(図5)。

11.Argiope bruennichii (Scopoli) ナガコガネグモ
 体長25mm。縦に重ねたリボン状のかくれ帯をつけ、体にふれると長い間体をゆすり、敵を威かくする。山麓や水田に多い。
12.Nephila clavata L. Kock ジョロウグモ
 体長25mm。黄と緑青色の荒い横縞(しま)があり、複雑な三重網を張る。糸は金色。成熟した♀の腹部末端は赤色となる。コガネグモをジョロウグモと呼ぶ地方もある。
  Tetragnathidae アシナガグモ科
13.Tetragnatha praedonia L. Koch アシナガグモ
  体長15mm。腹部、牙、歩脚のすべてが長く、水田や池の上に水平円網を張る。
14.Tetragnatha maxillosa Thorell ヤサガタアシナガグモ
  前種に似ているが、上顎の牙は基部外側に突起がなく、丸く曲っているので区別する。15.Tetraanatha squamata Karsch ウロコアシナガグモ
  体長7mm。全体が黄緑色の小形の美しいアシナガグモ(図6)。

  Agelenidae タナグモ科
16.Agelena limbata Thorell クサグモ
 体長15mm。平地から山地にかけて、樹間や生垣にロート状住居をもつ棚網を張る。8月頃成熟して多面体の卵のうを作り、親はこれを守る。
17.Coeltes insidiosus L. Koch シモフリヤチグモ
 体調15mm。屋内や人家周辺に多く見られる。色彩斑(はん)紋には地方変異が多い。
  Heteropodidae アシダカグモ科
18.Heteropoda venatoria (Linnaeus) アシダカグモ
 体長30mm。徘徊(はいかい)性のクモとしては日本最大。家屋内に住み、ゴキブリ等を捕らえるので天敵として重視される。
  Thomisidae カニグモ科
19.Coriarachne fulvipes (Karsch) コカニグモ
  体長5mm。樹上生活をし、樹皮のすきまに入りこんでいる。
20.Bassaniana decorata (Karsch) キハダカニグモ
  樹皮のすきまに入りこんで生活する。体に複雑に斑紋がある。
21.Xysticus croccus Fox ヤミイロカニグモ
  体長8mm。畑地や草地に普通。
22.Misumenops tricspidatus (Fabricius) ハナグモ
  体長6mm。花かげにひそんで餌(えさ)を待ちうける。
23.Thomisus Labefactus Karsch アズチグモ
  前種同様、花かげにひそんでいる伏兵性のクモである。
  Phildromidae エビグモ科
24.Philodromus aureolus Clerck コガネエビグモ
  体長5mm。木の枝をビーティングすることで得られる。
25.Philodromus cespitum (Walckenaer)  シロエビグモ
  前種と同様だが、斑紋が異なる。
26.Philodromus spinitarsis Simon キハダエビグモ
  樹皮上に生活し、樹皮の色に似て発見しにくい。行動は敏速である。
  Salticidae ハエトリグモ科
27.Menemerus confusus Bo■s. et Str. シラヒゲハエトリ
  体長9mm。全体に黒毛と白毛が混生し、灰色に見える。人家に普通。
28.Carrhotus Xanthogramma (Latreille) ネコハエトリ
  体長7mm。全体に褐色毛が密生し橙黄色に見える。本種を戦わせる地方もある。
29.Phintella versicolor (C. Koch) メスジロハエトリ
  体長7mm。雌雄で著しい色彩の相違があり、別種の感がある(図7)。

30.Plexippus paykulli (Audouin) チャスジハエトリ
  体長10mm。人家に最も普通で、広く世界に分布する。
31.Phene atrata (Karsch) カラスハエトリ
  体長5mm。歩脚第1脚は太く大きい。樹上でも生活する(図8)。

32.Myemarachne japonica (Karsch) アリグモ
 体長7mm。葉上を徘徊する様は全くアリのようで、糸を引くことと、脚が8本あることで、アリと区別できる(図9)。

4.おわりに
 生息確認種が32種類というのは、県下で松茂町と共に最少である。これは自然が破壊され、昔ながらの自然がほんのわずかしか残されていないことの証拠である。神社付近の林は聖域として伐採が禁止されて来た。だからクモの調査には神社の林を選ぶのだが、北島町の神社は水神社に林らしい林が残っているだけであった。今後は神社や川の周辺に植樹されるよう願っている。

1)阿波郡市場町上喜来 2)麻植郡山川町旗見


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