阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第42号
北島町の公園における植栽樹種の特性

植生班(徳島生物学会)

鎌田磨人1)・森本康滋2)・石井愃義3)             

友成孟宏4)・井内久利5)

1.はじめに
 北島町は、旧吉野川と今切川に挟まれた沖積平野上に発展してきた町である。町域のほとんどは、水田、畑、果樹園、宅地として利用されており、自然植生を見ることはほとんどできない。特に、樹林地については、ごく小面積のモウソウチク群落や果樹園を除いては、全く存在していない。すなわち、水田などの農耕地が、北島町内における主要な緑地空間となっているのである。
  このような沖積平野の都市部に近接する地域は、宅地開発などにより景観構造が急変している(鎌田ら,1991,1995)。徳島市に隣接する北島町でも、宅地化の進行などにより急激な変化が起こると思われる。今後、農耕地環境、居住地環境、生物環境が有機的に結びつくような都市計画を行ってゆくことが望まれるのである。
 このような状況の中で、北島町内にどのような形で緑地空間を形成し、維持してゆくかは、北島町の街づくりにおける重要な課題であろう。北島町内には、現在整備中のものも含めて、18の公園が作られている。公園は、災害時の避難場所、子どもの遊び場所などとしても重要な空間であるが、同時に、町民に緑地、特に樹林地を提供できる唯一の空間でもある。したがって北島町のように樹林地が少ない場所でこそ、公園の配置やそこでの植栽の方針を都市計画の中にしっかり位置づける必要があろう。
 今回このような視点のもとに、北島町内の公園に植栽されている樹種を調べるとともに、比較材料として神社、およびその周辺、そしてモウソウチク群落でその樹種構成を調べた。その結果に基づき、公園の植栽樹種の特徴について考察し、今後の緑地計画の方向性について若干の意見を提示しておきたい。
 この調査を行うにあたっては、北島町役場の方々から様々な便宜を図っていただいた。記して感謝する。

2.調査地の概況
1)自然環境
 徳島県農林水産部(1987)によると、北島町の表層地質の大部分は、未固結堆積物である粘土−シルトから成っている。土壌は水田土壌で特徴づけられており、西部には強粘〜粘質の細粒灰色低地土壌および壌質な灰色低地土壌が、東部には排水不良土壌であるグライ土壌などが分布している。
 気象環境については、北島町に関する資料が入手できなかったが、本町に隣接する徳島市の暖かさの指数(WI)は131.8であり(鎌田ら,1991)、当地も気候区としては徳島市と同様に常緑広葉樹林が成立する暖温帯に含まれるものと考えられる。しかし、当地の土壌環境から、潜在自然植生は主にムクノキ−エノキ群集であるとされている(宮脇,1982)。
2)社会的環境
 図1に、北島町の人口、世帯数および農家人口の推移を、図2に、町内の土地利用の変化を示した。人口は1955年以降、増加し続けている。その一方で、緑地空間としての耕作地を支えてきた農家人口は減少の一途をたどっている。そして、団地の造成などによって宅地面積が増加し続け、その代償として水田面積は減少の一途をたどっている。すなわち、町内の緑地面積は著しく減少してきているのである。こうしたことから、町内における緑地空間としての公園の機能整備の必要性を認識できよう。

3.調査方法
 北島町内の16の公園について、植栽されている樹木の種類を調べた。これら公園の規模は、北島グリーンタウン東小公園における190平方メートルの小規模なものから、北島中央公園における20,826平方メートルという比較的大きなものまで様々であった(表1)。


 公園の樹種構成と対比するために、水神社社叢(しゃそう)およびその周辺のマツ並木、若宮神社社叢についても、樹種を調べた。また、モウソウチク群落についても調査した。モウソウチク群落については、Braun-Blanquet(1964)の方法を参考にして、10m×10m の方形区の中に出現した維管束植物の被度および群度を階層別に記録した。あわせて、旧吉野川内の2地点では、沈水植物相についての記録をとどめることとした。調査を行った地点は図3に示すとおりであり、現地調査は、1995年8月6〜8日に行った。


 調査区とした公園(16地点)、神社とその周辺(3地点。以下“神社”とする)、およびモウソウチク群落(2地点)について、調査区間の樹種構成の類似性や独立性を検討するために、各調査区の出現種を用いて Sφrensenの共通係数 QS(Sφrensen,1948)を求めた。さらにこの類似度指数を用いて、群平均法によるクラスター分析を行った。そして、この分析によって検出された調査区のグループを特徴づける種群を見いだした(付表)。

4.結果と考察
 モウソウチク群落、神社、公園の調査区について、樹種構成の類似度を用いたクラスター分析によって得られたデンドログラムを、図4に示した。


 モウソウチク群落、神社は、それぞれ独立したグループとして検出された。公園については、大きくは三つのグループとして検出されたが(I・II、III、IV)、そのうちの一つは二つのグループ(I と II)に下位区分された。公園 I・II のグループは、他の公園よりも神社に類似した種構成を持っていた。
 神社および公園について、クラスター分析によって区分されたそれぞれの調査区グループを特徴づける種群を、表2にまとめた(付表参照)。神社(図5)は、サカキ、ヒノキ、スギ、エノキ、イヌビワ、ヤブニッケイ、アツバキミガヨランによって特徴づけられた。公園 I・II はツバキ、ネズミモチ、フジ、ピラカンサで特徴づけられ、さらに、公園 I(図6)と II(図7)は、アベリア、モクレン、サツキ、ナンキンハゼ、トウカエデ、トウネズミモチの存在の有無で区分された。また、神社および公園 I・II には、クロマツ、ウバメガシ、ヤマモモ、マルバシャリンバイが共通して出現した。クラスター分析では、これらの種によって、神社と公園 I・II が比較的似た種構成を持つグループとして検出されたのであろう。公園 III と IV のグループは、これらの種をもたないグループとして特徴づけられた。


 神社を特徴づける種は、アツバキミガヨランを除いては、すべて徳島県内の暖温帯域に自生する樹木であるのに対して、公園 II を特徴づける種はすべて外国産か、園芸品種の樹木であった。また、神社と公園 I・II に共通して出現したクロマツ、ウバメガシなどは、徳島県の海岸部の植物群落を特徴づける樹木であった。
 このように、クラスター分析で区分された調査区のグループは、外来・園芸植物が存在する割合によっても特徴づけられるように思われた。表3に、モウソウチク群落、神社、公園 I〜IV それぞれのグループにおける平均出現種数と、全出現種に対する外来・園芸植物の占める割合(%)を示した。


 モウソウチク群落の平均出現種数は、12種と比較的少なかった。これは、モウソウチクの植被率が95%と高く、その被陰によって他種が生育できないためであろう。外来植物はモウソウチク1種だけであり、その割合は8.9%と最も低かった。神社の平均出現種数は24.7種と最も多く、外来・園芸植物の割合は39.2%であった。神社で出現種数が多かったのは、植栽密度が高いためであると思われる。公園 I の平均出現種数は13.2種と比較的少なく、外来・園芸植物の割合は47.0%であった。公園 II の平均出現種数は21.4種、と公園の中では種数の多いグループであった。外来・園芸植物の割合は53.2%であった。公園 III の平均出現種数は9種と少なく、外来・園芸植物の割合は60.0%であった。公園 IV の平均出現種数は3種と最も少なかった。北島グリーンタウン東小公園だけで構成される公園 IV は、その面積が190平方メートルと非常に小さいことが、種数が少なかった原因である。一方、外来・園芸植物の割合は66.7%であり、その割合は最も高かった。
 このように、外来・園芸植物の割合に関して言えば、モウソウチク群落、神社、公園 I、II、III、IV の順に高くなる傾向があった。
 北島町の公園に植栽されている樹木の種数は、最少で3種、最多で59種であった。公園100平方メートル当たりに換算すると0.3種から1.8種の範囲であり、平均では1.2種/100平方メートルであった。図8に、公園の面積と公園内の樹木の種数との関係を示したが、公園内に植栽される樹木の種数は、公園の面積の増加とともに増加することが確認される。


 図9に、公園内の全樹木の種数と外来・園芸樹木の種数の関係を示した。全樹木の種数と外来・園芸植物の種数は一次回帰でき、その相関も非常に高かった。回帰直線の傾き(K)が0.46であることから、公園内の種数の増加に貢献している樹木の約半数は、国外から導入された樹木であったり、園芸種であることが確認された。
 このように、公園内の樹木の種数は、公園面積の増大とともに増加するものの、その増加に貢献する約半数の種は、外来・園芸樹であることがわかった。

5.おわりに
 緑地空間の配備という観点から、北島町の公園に植栽された樹種の特性について論じてきた。結果は、次のように要約することができる。
 公園内に植えられている樹木の種数は、3種から59種の範囲であり、公園100平方メートル当たり平均1.2種であった。その種数は、公園の面積が大きくなるほど増加するが、その約半数は外国から導入された樹種であったり、園芸用に改良された樹種であった。
 北島町の潜在自然植生は、沖積平野の氾濫(はんらん)原であったことからムクノキ−エノキ群集とされている(宮脇、1982)。しかし、公園については、水田として利用されているような細粒灰色低地土壌や灰色低地土壌、グライ土壌などでないこと、および、気候条件などから推察すると、それ以外にもシイ・カシ林あるいはタブノキ林を構成する樹木や、また、徳島県の暖温帯に分布する二次林である、アカマツ林やコナラ−クヌギ林を構成する樹木の育成も可能であろう。実際に町内の公園でも、徳島県の海岸部を特徴づけるような樹種であるクロマツやヤマモモ、ウバメガシ、マルバシャリンバイなどが植えられ、生育しているのである。
 樹林地が少ない北島町では、国外の樹種や園芸種を植栽に利用するのではなく、地元で成立し得る植物群落の構成樹木を選定した方が良いのではないだろうか。そして、どの公園にも同じような樹木を植栽してゆくのではなく、それぞれの公園で異なった群落を仕立てることを目標とすべきだと考える。すなわち、町内に様々なタイプの(疑似)植物群落を配置するよう計画するのである。
 こうした公園配置により、町内での公園の利用方法に幅をもたせることができよう。すなわち、町内の公園を、植物観察など野外教育や環境教育の場として役立てることができる。近年、学校現場で環境教育や自然教育を行うことが求められている。しかし現在の北島町内では、身近にそのような観察の場がないのが現状ではなかろうか。公園の、前述したような植栽は、環境教育や自然観察の格好の材料を提供することになるであろう。
 また町民の方々にとっても、オリエンテーリングのような形ででも、植栽樹種が異なる公園を巡り歩くことにより、楽しみながら、自然に親しむ基礎をはぐくむことができるのではないだろうか。樹林地の乏しい北島町におけるゆとりある都市計画として、このような公園の配置計画が、今後ますます望まれるようになると思われる。

6.付記
 旧吉野川で確認した植物は、次のようなものであった。完全な記録ではないが、資料としてとどめておく。
 [調査区番号10] ヒシ、ホテイアオイ、オオカナダモ、フサモ、セキショウモ。
 [調査区番号11] イバラモ、オオカナダモ、イトモ。

引用文献
Braun-Blanquet, J. 1964. Pflanzensoziologie, Grundzu■ge der Vegetationskunde. Springer, Wien.
鎌田磨人,森本康滋,石井愃義,友成孟宏,西浦宏明,井内久利.1991.松茂町の植生.総合学術調査報告 松茂町(郷土研究発表会紀要37号),23〜37.阿波学会・徳島県立図書館,徳島.
鎌田磨人,友成孟宏,井内久利,西浦宏明,石井愃義,森本康滋.1995.那賀川町の植生.総合学術調査報告 那賀川町(阿波学会紀要41号),21〜37.阿波学会・徳島県立図書館,徳島.
宮脇 昭編著.1982.日本植生誌 四国.至文堂,東京.
Sφrensen, T. 1948. A method of establishing groups of equal amplitude in plant sociology based on similarity of species content and its application to analysis of the vegetation on Danish commons. Kong. dansk. vidensk. Selskab biol. Skr., 5(4), 1〜34.
徳島県農林水産部.1987.土地分類基本調査,徳島.徳島県,徳島.

1)徳島県立博物館 2)徳島市北佐古一番町 3)徳島大学総合科学部
4)阿南市立福井南小学校 5)徳島県立川島高等学校


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