阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第41号
那賀川町の方言

方言班(阿波方言学会)

    川島信夫・金沢浩生2)

1.那賀川町の方言概観
 徳島県の方言は、精密な調査に基づいた森重幸氏の区分によると、下図のようになっている。古来の二大区分である「北方」(きたがた)は、北の「山分」(さんぶん)と「上郡」(かみごおり)「下郡」(しもごおり)であり、「うわて」「なだ」と南の「山分」が「南方」(みなみがた)である。また、通称的な三区分「山分」「郷中」(ごうちゅう)「町分」(まちぶん)を、「山分」「中分」「里分」と呼び分けている。
 那賀川町は「里分」であり、「うわて」地域の中央東端に当たる。
 「南方」である那賀川町は、「なだ」や「南山分」との共通点も多い。以下ごく簡単にその特徴を挙げてみよう。
 (1)文末詞は「ナー」を基調とし、「中分」「山分」の「ノ・ノー」を使わない。
 (2)「なだ」と共通した自立語が多い。
 (3)「中分」「山分」に見られる副詞「カサ」(アイガ カサ釣レタ)がある。
 (4)「なだ」にある疑問の文末詞「ケ」を使わない。
 (5)「中分」と共通した自立語が多い。

2.方言語彙集
 那賀川町には、昭和25(1950)年2月に平島中学校で編集された『郷土の姿』という貴重な記録がある。その中の「平島村の言語」を第一の参考書として、多くの町民の方のご協力のお陰で、この語彙(い)集はできた。だが、筆者の非力から、このようなものとなった。語の取捨の不備や、説明の誤りもあろうかと思われる。後日、地元の方の手により完全な方言誌の生まれることを期待する次第である。

アジュー   (形動)うまく。上手に。
アゼ         水田の周囲の土を塗った所。畔(あぜ)をさすこともある。
アダ         無駄
アバ         小母(おば)さん。
アバー        小母。子供が店に入る時の挨拶。
アボー        馬鹿(童語)。
アマル    (動) (雷が)落ちる。
アルデナイデ     有るではないか。
アワヌケ       仰向け。
アンジョーニ (形動)うまく。上手に。
アンソ        あげましょう。
アンニャ       兄。
イガル    (動) さけぶ。
イグイモ       じゃが芋。
イゴク    (動) 動く。
イズミサン      井戸。さん付けが多い。
イソーロー      怠け者。
イタイ    (動) (湯などが)熱い。
イッケ        親類。
イッコン       1個。2個以上はなし。
イテクルケンナ    行くよ。出かけの挨拶。
イド         内井戸。屋内の井戸。
イトル    (動) 上手にできている。
イナグラ       稲むら。
イボル    (動) 多く取り上げる。
ウキャタイ  (形) きまりが悪い。恥ずかしい。
ウチワ        親類
エイエ    (感) はい(応答)。
エーセン       得せぬ。出来ない。
エット    (福) 長い間。
エンコ        縁先
オイデルデ      いらっしゃいますか。
オイミノ       田植用背当てみの。
オーイオ   〈魚〉 ぶり。
オグロ    〈動〉 もぐら。
オサギ    〈動〉 うさぎ。
オシマイナハレ    夕方の挨拶。
オショボ       おかっぱ(髪型)。
オチクレル      転落する。
オチバエ       自然に生えた植物。
オチョクル  (動) からかう。
オチョバイ      へつらい。
オチンコマ      正座。
オッセル   (動) 数える。
オトロシイ  (形) 恐ろしい。
オトンボ       末っ子。
オドカス   (動) 驚かす。
オドシ        かかし(案山子)。
オドロク   (動) 目ざめる。
オナギ    〈魚〉 うなぎ。
オハヨーゴワス    お早うございます。
オヒーサン      太陽。
オブカス   (動) 驚かす。
オヘギ        かきもち。
オモサ        実入りの悪いもみ。
オヨッサン      女中さん。
オンゴロ   〈動〉 もぐら。
オンビキ   〈動〉 かえる。
カー         下さい。
カエル・カエルノコ  おたまじゃくし。
カカ・トト      母・父。
カクレサガシ     かくれんぼ。
カサ     (副) 沢山。
カタクマ・カタコマ  肩車。
カド         庭。家の外。
カラカミ       ふすま。
カラツヤ       陶磁器店。
カンコーリ      氷。
カンノー       農繁期。
カンブクロ      紙袋。
カンマン       かまわない。
ガエル    〈動〉 おたまじゃくし。
キシ         畔。
キチ・キチゴメ    うるち米。
キナイ        いらっしゃい。
キビス        かかと。
キョロイ   (形) とろい。にぶい。
キリモン       着物。
クイ         とげ。
クッツォイダ     くつろいだ。
クワ         犂(からすき)。
クワル        こり痛む。
クンマキ       首巻き
グズナ    〈魚〉 あまだい。
グチナ・グチナオ   蛇。
グヮース       ございます。
ケーヘン       来はしない。
ケショーマゴイ    井戸の囲い。
ケッコ    (副) 可能の意。「ケッコ行ケル」
ケン     (助) から。
ケンド    (接助)けれど。
コース    (動) こわす。
コズク    (動) 咳(せ)く
コソバカス  (動) くすぐる
コラエル   (動) がまんする。許す。
コンコ        たくあん。
コンジョワル     意地悪。
コンマイ   (形) 小さい。
ゴシナハン      奥さん。
ゴジャメンナハレ   ごめん下さい。
ゴテ     (接尾)……と一緒に。
ゴトマツ   〈動〉 ひきがえる。
ゴムカン       パチンコ(がん具)。
サイケイ       田植始め。
サガス    (動) 平面に広げる。
サデコム   (動) かき込む。
サノボリ       田植終り。
サムロイ   (形) もろい(死に方)。
ザイ         はたき。
シグナム   (動) ためらう。
シズカイ       対角線。ななめ。
シモタ        しまった(失敗)。
シモバレ       霜焼け。
シャベクル  (動) 見せびらかす
ショータレ      しまりのない人。
シワシワ   (副) そろそろ。徐々に。
シンタク       分家。
シンダイ   (形) 疲れた。だるい。
ジイモ        里芋。
ジョーリ       草履。
ジルタンボ      水たまり。
スイリ        潜水。
スコイ    (形) ずるい。
スリヌカ       もみがら。
スルイ        酢類。かんきつ類。
ズキガシ       ずいきのあえ物。
ズツナイ   (形) 形容し難い苦しみ。
セガナイ       かいがない。
セコイ    (形) 苦しい。
センキョー      先日。この間。
センド        船頭。漁労長。
ソ          糸・網の糸。
ソーモンミツイタ   「一二の三」の掛声。
ソーレンバナ 〈植〉 彼岸花。
ゾーライナ  (形動)そざつな。
タカノツメ  〈植〉 とうがらし。
タッスイ   (形) つまらない。
タテコム   (動) こらしめのため子供を納屋などに閉じこめる。
タテダス   (動) 上同様で戸外に閉め出すこと。
タテル    (動) (戸を)閉める。
タドル    (動) ぼける。
ダイマシイ  (形) だるい。
ダスイ    (形) ゆるい。
ダダケル   (動) 1 人の言をまじめに聞かぬ。2 ふざける。
ダンナイ   (形) 大事ない。構わない。
チギ         秤(はかり)。
チャウ    (動) 違う。
チョーコ   〈虫〉 ちょう。
チョーケ       手桶(おけ)。
チョーナ       おの。
チョビット  (副) ほんの少し。
チンマイ   (形) 小さい。
ツカイ        下さい。
ツクツクボーシ〈植〉 つくし。
ツズク    (動) (傷などが)痛む。
ツツ         うなぎ取り用のもじ。
ツブシ        ひざがしら。
ツマエル   (動) しまう。
ツルイ        つるべ。井戸用の水くみ用具一式。
テガウ    (動) からかう。
テダル    (動) 連れ立つ。
テンコツ       山頂。天辺。
テンゴノカワ     ばかげたこと。
テンテ        手(童語)。
デ      (助) 疑問など阿波の代表方言の一つ。
デカケトル      外出している。「電話ニ出テクレ」「今出カケトル」では誤解のおこる表現となる。
デンチュー      そで無し羽織。
トー・トト      父。
トカキ    〈動〉 とかげ。
トコマエル  (動) つかまえる。
トッパクロー     ほらふき。うそつき。
トトハン       父さん。
トナリハタ      近隣。
トビツ        米びつ。
トマエル   (動) つかまえる。
トマコ    〈動〉 いたち。
トロコイ   (形) 愚鈍な。
トンガラシ  〈植〉 とうがらし。
ドクレル   (動) すねる。
ドナイニ   (副) どのように。
ドバッシャゲル(動) 衝突させる。
ドマクレル  (動) すねる。
ドムナラン      仕方がない。
ドロイモ       里芋。
ドンガン   〈動〉 すっぽん亀。河童。
ナイ     (終助)……なさい。(命令)。ナガタン 菜切り包丁。
ナハレ    (助動)……なさい(敬語)。
ナメクジラ  〈動〉 なめくじ。
ナンダ        ……なかった。「行カナンダ」
ナンバ    〈植〉 とうもろこし。
ナンボ    (副) いくら。
ニワ         土間。
ヌク     (動) 引く。「草ヲヌク」
ネネコ        赤ちゃん。
ネブタイ   (形) 眠い。
ネラム    (動) にらむ。
ネンジン   〈植〉 にんじん。
ノー         田。たんぼ。
ノイレ        米麦の取り入れ。
ノカナ         1 くわと柄の角度大。 2 間ぬけな(人)。
ハイヤイ       競走。
ハイリョ   (補動)下さい。
ハガイイ   (形) はがゆい。
ハンシンリャイ    走り合い。
ハジキ        おはじき。ガラス面。
ハデ         稲架(はさ)。
ハマグリ   〈貝〉 二枚貝の総称。
ハミ     〈動〉 まむし。
ハメル    (動) 入れる。「タイヤニ空気をハメル」
ハラク        下痢。腹下り。
ハリ         とげ。
ハリマス   (動) 殴る。
ハルタ        一毛田。
ハンリャマ      針山。
バイ         ばいごま。
ババイイ   (形) まぶしい。
バライモ   〈植〉 里芋。
ヒザクム   (動) あぐらをかく。
ヒボ         ひも。
ヒマウ    (補助)しまう。
ヒンケル   (動) 干からびる。
ヒンズニ   (副) 余分に。
ビビル    (動) 震える。
ビャー    (助) ……だけ。「5円ビャーナラ有ル」
ヒヨヒヨ       すれすれ。ぎりぎり。
フルツク   〈動〉 ふくろう。
フルテ        古物。「机ノフルテ」
ブスヌケル  (動) すり抜ける。
ヘビ     〈動〉 まむしなど毒ある蛇。
ヘラコイ   (形) ずるい。
ヘン     (助動)…せぬ。「行ケヘン」
ヘンコイ   (形) ずるい。ヘラコイ。
ヘンド        遍路。こじき。
ベー・ベロ      舌。
ベントゴハン     ままごと(童戯)。
ホーカエ       そうですか。
ホール    (動) 捨てる。
ホケ         呼気。湯気。
ホコ         そこ(其処)。
ホタエル   (動) あばれる。
ホタラ    (接) そうしたら。
ホッサン       星。さん付けで呼ぶ。
ホテ     (接) そして。
ホナケン   (接) それだから。
ホナケンド  (接) そうだけれども。
ホロセ        発疹(はっしん)。
ホン     (副) 本当に。
ホンハマ   〈貝〉 はまぐり。
ボーマイ       せわ。対策。用意。
ボケイモ       さつま芋の一種。
ボニ         うら盆。
マーハマ   〈貝〉 はまぐり。ホンハマ。
マイゲ・マイノケ   眉
マイマイ       頭のつむじ毛
マウ     (補動)しまう。「寝テマウ」
マガル    (動) 邪魔になる。
マッタケ   〈植〉 きのこの総称。
ママ         10時ごろの食事。
マルタ        全部。一括。
マンジョー  〈植〉 彼岸花。
マンマイ       ままごと。
ミズクサイ  (形) 塩味がうすい。
メイボ・メーボ    ものもらい。
メグ     (動) こわす。
メメズ    〈動〉 みみず。
メメン・メメンチャ〈動〉めだか。
メン・メンカヤシ   めんこ・めんこ遊び。
メンコ        泥面(童戯の遊具)。
メンドイ   (形) むずかしい。困難な。
モエル    (形) 殖える。
モブル    (動) 塗る。まぶす。
ヤッパシ   (副) やはり。
ヤニコイ   (形) 根性なし。柔らかい。
ヤネ         肩。上膊(はく)。
ヤリコイ   (形) 柔らかい。
ヨーケ    (副) 沢山。
ヨーコト       不用なこと。
ヨーサ        夜。
ヨーセン       得せぬ。エーセン。
ヨーダチ       夕立。
ヨーダッツァン    雷様。
ヨーダレ       よだれ。
ヨーフルナ      よく降るね(挨拶)。
ヨッテ    (助) ……から。
ヨム     (動) 数える。
ヨル     (補助)……つつある(進行形)。
ヨンベ        昨晩。
リューキイモ     さつま芋。
レンギ        すりこぎ。
ワイ         ぼく(自称)。
ワデトリ       もちつきのこねどり。
ワリカタ   (副) 思ったより。
ワンク        自分の家。
ンネ         姉。
ンマイ        おいしい。

3.方言会話例
 次に掲げる会話は、文化庁の緊急方言調査(1981〜1983)に使用した場面設定の会話の要領に従って、平成6年8月2日、那賀川町老人福祉センターで収録したものである。
 協力者(話し手)
  A 米田治郎(工地)大正12年生まれ
  B 西岡茂美(芳崎) 〃 4年生まれ
(1)買い物の依頼
A  オハヨーガース。
   おはようございます。
B  オハヨーガース。
   おはようございます。
A  ハヤイナー1)。 キョーモ ハノウラエ シゴトニ イクンデ2)。
   早いね。 今日も 羽ノ浦へ 仕事に 行くんですか。
B  エー。 ホラ イツモノトーリ イクケンドナ。
   ええ。 そりゃ いつものとおり 行くけどね。
A  ホイタラ シゴトスンデカラ ハヤシデ シュロナワ コーテキテモラエンダロ3)カ。
   そしたら 仕事が済んでから 林商店で 棕櫚(しゅろ)縄を 買ってきて貰えまいか。
B  エー。 ワカリマシタ。ナンボ カウンデ。
   ええ。 わかりました。いくら 買うんですか。
A  ヒトマキ コーテキテモラエンデ。
   一巻 買ってきてもらえないものですかね。
B  ヘイ ヘイ。 ショーチシマシタ。 オヤスイ ゴヨージャワ。
   はい はい。 承知しました。お安い 御用だよ。
A  ホナ コレ ゼニ ワタシトコーカ。
   じゃあ これ お金を 渡しておこうか。
B  イヤ。 マダ ナンボヤラ ワカランケン4) モンテカラ モラウワ5)。
   いや。 まだ いくらか 分からないから 帰ってきてから もらうよ。
A  ホナ スマンケンド オネガイシマス。
   じゃ 済みませんが お願いします。
B  ヘイ ヘイ。 ショーチシマシタ。 オワッタラ コーテクルケン。
   はい はい。 承知しました。 終ったら 買ってくるから……。

(2)犬の放し飼いに抗議する
A  ニシオカハン キョーワ チョット ハナシガアッテ キタンジャ。
   西岡さん 今日は ちょっと 話があって 来たんだ。
B  イッタイ ナニゴッツォイ。 エライ ケンマク アライデナイカエ6)。
   一体 何事ですか。 ひどく 見幕が 荒いじゃないか。
A  イヤ モー イヌワ ツナイドイテツカハレ7)ヨ。 ホーセナンダラ ウチガ メイワクスルデナイカ。
   いや もう 犬は繋(つな)いでおいて下さいよ。 そうしなくては うちが 迷惑するじゃないか。
B  ホナイ オッキョイ8) イヌデナシ メイワク カケルヨーナコト ナイト オモウケンドナー。 ホリャー モー アノ イヌ オトナシーンジャケン。
   そんなに 大きい 犬でないし、 迷惑を 掛けるようなことは ないと 思うんだけどね。 そりゃ もう あの 犬は おとなしいんだから……。
A  イツモ ウチノ ニワエ フン セラレテ コマットンジャ。 ホンデ マタ マゴモ オイカケラレテ ホテ コケテ ケガシタンゾ。
   いつも うちの 庭へ 糞(ふん)を されて 困っているんだ。 それで また 孫も 追いかけられて そして ころんで 怪我したんだぞ。

B  アンナ オトナシー イヌジャノニ ホンナコト ヨーユーガネー9)。 オマンク ノマゴガ ドーセ イシデモ ナゲタンダロー。
   あんな おとなしい 犬なのに そんなことを よく言うもんだよ。 お前とこ の孫が どうせ 石でも 投げたんだろう。
A  ソンナコト アルカイナ10) ウチノ マゴガ アソンドッタラ キューニ オワエテキテ カミツイタンジャ。 コレカラ ゼッタイ ツナイドイテクレヨ。
   そんなこと あるものか。うちの 孫が 遊んでいたら 急に 追っかけてきて かみついたんだ。 これから 絶対 繋いでおいてくれよ。

(3)旅行の勧誘
A  コンバンワ。
   今晩は。
B  コンバンワ。
   今晩は。
A  ヒニ ヒニ アツイコッチャナー。
   日に 日に 暑いことですね。
B  ホージャ。 ヨー ウモレルナ。
   そうだ。 よく 蒸すねぇ。
A  コンバン キタンワ コンド チョーナイカイデ バスリョコーオ ケイカクシタンジャ。 シラハマエナ。 イッパクリョコージャケンド イッショニ オイ デテモロタラトオモーテ サソイニ キタンジャ。
   今晩 来たのは 今度 町内会で バス旅行を 計画したんだ。 白浜へねぇ。 一泊旅行だけど 一緒に おいでてもらったらと思って 誘いに 来たんだ。
B  ホーデ。 ホレワ エーケンド イツデ。
   そうですか。 それは いいが いつですか。
A  コノ ハチガツノ トーカ ジューイチ。 ナカガワチョーノ チョーミンセンターエ アツマッテモローテ ホレカラ バスデ イコート コナイ11) オモトンジャ。
   この 八月の 十日、 十一。 那賀川町の 町民センターへ 集まってもらって それから バスで 行こうと こんなに 思っているんだ。
B  ヒヨーワ ナンボグライ イルンデ。
   費用は いくらぐらい 要るんですか。
A  コーツーヒカラ ショクジダイイレテ ダイタイ サンマンエンヤユーテ ナニシトンジャケンドナ。
   交通費から 食事代も入れて 大体 三万円だなんて (計画)しているんだけどね。
B  アー ホーデ。 ソリャ エーコッチャケンド ワシモ トシトットルシ ミナノテアシマトイニナルケン チョット カンガエサシテ。
   ああ。 そうですか。 それは いい事だけれど 私も 年を取っているし 皆の手足まといになるから 少し 考えさせて下さい。
A  マー ホナイ イワズニ ナンジャ ゼンブ バスジャシ シラハマワ エートコジャシ イテモロタラト オモウンジャケンドナ。
   まあ そんなに言わずに 何も 全部 バスだし 白浜は いいところだし 行ってもらったらと 思うんだけどね。
B  ホリャー セッカク ユーテクレヨンジャケン ヨー カンガエテカラ オヘンジサシテモライマスワ。
   そりゃ 折角 言ってくれているんだから よく 考えてから お返事 させてもらいます。

注1)阿波はすべて文末は「ナー」である。那賀 ・ 海部は「ナー」■と上り調子となる。
 2)「デ」は「です」程度の丁寧語である。これも阿波方言の筆頭格である。
 3)「ダロ」は共通語意識からではなく、断定「ジャ」の未然形として存在する。
 4)「ケン」は地方的特徴の表れやすい語。「うわて」は「ケン」、「なだ」になると「サカイ」や「ヨッテ」がみられる。県西では「キン」となる。
 5)「ワ」は男女の別なく用いる文末詞。
 6)「カエ」は「カイ」ともいう。「なだ」では「ケ」となる。
 7)「ツカハレ」も地方色の表れやすい語。海部では「ツカーサイ」、「クレ」となり、西部では「ツカイ」、「ツカハレ」となる。「〜シテッカイ」となる所もある。
 8)「オッキョイ」。那賀・海部の言い方である。
 9)「ガネー」。これも勝浦・那賀のもの。
 10)「アルカイナ」。これも勝浦・那賀のもの。反語表現。
 11)「コナイ」は「こんなに」が変化したもの。イ音便の表れ方も地方色がある。

 今回の調査に当たって、ご教示いただいた方の芳名を掲げて感謝の意を表する。
河野佳男(赤池、明43生)岸本茂(島尻、大8生)小西康栄(苅屋、大5生)
斎藤勝美(上福井、大9生)島田功(江野島、大5生)島田彰一(江野島、昭14生)
高木満(大京原、大15生)高原博(赤池町、大6生)中野保幸(蛭子町、大9生)
那佐秀一(赤池、明42生)西岡茂美(芳崎、大4生)福岡一夫(出島、大15生)
松本福一(出島、昭15生)安田満江(古津、大12生)米田治郎(工地、大13生)

 参考文献
1.『郷土の姿』平島中学校(1950年)
2.『改訂阿波言葉の辞典』金沢治著 小山助学館(1976年)
3.『小松島市史・風土記』小松島市役所(1977年)
4.『うずしお文藻』第3号 四国女子大学文学部国文学研究室(1986年)

2)四国大学 短期大学部


徳島県立図書館