阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第41号
高齢者扶養と同・別居の今後の動向 −老親を扶養する立場にある主婦を対象とした調査結果からの検討−

社会学班(徳島社会学会)

 長沢寛二1)・近藤孝造2)・桂啓人3)

I.はじめに
 高齢化社会の到来とともに日本の家族・世帯は大きな転換期を迎えようとしている。戦後における家族制度の変革により、老親の欲求充足は同居子によってなされるべきだという社会規範が弱まり、経済成長に伴う労働力移動により、老親扶養に責任ありとされた子の離家が促進された。その上大幅な寿命の伸びと出生児数の減少により高齢化社会が到来した。今、『新しい家族社会学』(森岡清美・望月嵩、1993)に基づいて、結婚・末子出生・末子結婚・夫死亡の4イベント時点につき1930年、1950年、1970年の結婚コーホート(同時結婚集団)を、イベント年齢比較法によって比較してみると、末子結婚から夫死亡までの手離れ期は5年、14年、20年と大幅に拡大している。要するに、5人も6人も子を生んで、末子が一人前になる頃父(夫)が死亡した戦前のパターンから、二人くらいの子を比較的相接して生み、その独立後20年にも及ぶ老年期を迎える現代のパターンへの移行が確認できる(1)。これら家族制度の変革、寿命の伸び、出生児数の減少などにより、わが国は歴史上初めて高齢者扶養の問題に本格的に立ち向かわざるを得ない状況に至った。以上のような背景から高齢者扶養の問題が極めて今日的な課題として浮上してきたといえる。
 わが国では「家」制度の下における老親扶養の歴史をもつために、高齢者扶養の問題は、老親(夫婦)と子(夫婦)の同・別居問題と結び付けて論議することが必要である。また、日本の家族の在り方として、わが国が先進工業国の中で例外的に老親と子供との同居率が高いという事実も、つとに指摘されてきた(2)。これらのことから、高齢者扶養と同・別居を関連させて考察することは、今日でも有効な方法であるといえよう。本稿では、那賀川町で行った調査結果に基づいて、同居・別居をめぐる基本的問題を分析することを通して、今日およびこれからの高齢者扶養の動向について検討する。
 この問題への具体的接近方法としては、まず第1に、老親との同居世帯と別居世帯の現状がいかなるものかを分析し、確認する。次に、老親との同居世帯と別居世帯を比較して同居・別居に寄与する要因を明らかにする。ただし、現在老親と同居していないからといって、同居をさけている(いやがっている)とはかぎらない。同居を望んでいてもそれが得られない状況が多く存在するからである(住宅状況、転勤など)(3)。そこで、同別居の実態だけでなく、同別居に関する意識面にも着目し分析をおこなう。第3に、現在老親と同居している家族の意識・情緒面での満足・不満足に寄与する要因を明らかにする。これらの要因とその今後の動向に着目することによって、今後の同別居の動向やひいては老親扶養の在り方の示唆を得ることができよう。
 以下では II で家族世帯の現状の概要とその分析を、III では同別居を分けている要因(客観的側面・意識的側面の両面)の分析をおこなう。ただし、先に示したように、同別居を分かつ要因は複数あり、相互に複雑に関連しあっていることが予想される。そこで、多変量解析の一種である数量化2類を用いた分析をおこなう。IV では同居の満足度の面からの分析を III と同様に数量化2類を用いておこない、最後に総合的考察を行う。

II.家族・世帯の現状とその分布
 1.調査対象者の概要
 この調査の実施概要は表1に示したとおりである。

 2.本人・世帯状況
 今回の調査では那賀川中学の生徒の母親を主な対象としておこなった。母親の年齢は30〜40歳代が98.8%を占める(表2参照)。この世代はちょうど老親を扶養する立場にあたる世代であり、同別居の実態や老親扶養意識を最も具体的に調査しうる対象として選ばれた。調査対象者の“親世帯との同居形態”は、「現在も同居している」、「過去に同居したことがあるが現在は別居(死別も含む)」、「全く同居経験なし」の三つに分類した。それぞれの割合は、62.2%、11.4%、26.4%である。後の2者を統合し「別居」とすると、別居している世帯は37.8%になる(表3参照)。


 調査対象者の“家族人数”の平均は5.34人であり、“家族形態”は、「夫婦家族」36.9%、「男子直系家族」(男子の実の親と同居)43.4%、「女子直系家族」(女子の実の親と同居)11.5%、「複合家族」8.2%であり、いわゆる同居世帯は63.1%になる(表4参照)。なお、『国民生活基礎調査』によると、わが国の65歳以上の老親との同居世帯は60%である。“住居状況(持ち家の形態)”は「親名義の家」41.1%、「若夫婦名義の家」50.4%、「借家、賃貸マンション」5.7%であり、持家率は91.5%と高率である(表5参照、全国平均は76%)。“家の暮らし向き”の自己評価は、「上」とする者はなく(0.0%)、「中の上」11.6%、「中の中」65.6%、「中の下」17.8%、「下」5.0%で、「中の中」に集中している(表6参照)。調査対象“本人(妻)の兄弟での続柄”は「長女」60.3%、「その他(長女以外)」39.7%であり、“配偶者(夫)の続柄”は「長男」58.1%、「その他(長男以外)」41.9%である(表7、8参照)。また、“本人の職業”は「農業」6.1%、「商業」3.7%、「その他の自営業」9.4%、「会社員」25.7%、「パート勤務」23.7%、「無職」13.1%、「その他(含公務員)」18.4%である。また、“家の職業”は「農業」14.0%、「商業」4.1%、「その他の自営業」19.3%、「会社員」52.3%、「パート勤務」0.8%、「無職」2.1%、「その他(含公務員)」7.4%である(表9、10参照)。


 調査対象者の(老)親の平均年齢は実父の年齢68.25歳、実母の年齢66.22歳、義父の年齢71.66歳、義母の年齢68.98歳である。“親世帯の職業”は「農業」31.5%、「商業」4.7%、「その他の自営業」14.7%、「会社員」13.4%、「パート勤務」3.4%、「無職」27.6%、「その他(含公務員)」4.7%である(表11参照)。“親世帯の収入の状況”は「十分自活できる」27.4%、「何とか自活できる」54.3%、「ほとんど収入なし」14.5%である(表12参照)。約8割の親世帯が自活できる経済力をもっている。ただし、“同居世帯の生活費の負担の状況”は、「ほとんど親がかり」4.7%、「親が多い」6.0%、「折半」24.7%、「子の方が多い」26.7%、「子がほとんど負担」38.0%という状況であり、親が経済力をもっているにもかかわらず、実生活においては子が多く負担している様子がうかがえる(表13参照)。

 3.意識・心理の状況
 次に、老親扶養や同居・別居、家族についての意識・価値観・心理等について質問してみた。“親世帯の扶養は誰がするべきか”については、「跡取りが主として扶養すべきである」23.7%、「最も条件の良い子が扶養すべきである」35.2%、「子どもたち全員で分担して扶養すべきである」34.3%、「公的機関が扶養するべき」3.8%である(表14参照)。親世代と子世代家族の関係を伝統的な社会規範に則った基準と家事育児への協力や経済的援助、情緒的援助、身辺介護などのしやすさという便宜的・手段的基準で比較してみると、親に対する態度としては伝統的社会規範よりは便宜的・手段的基準を選ぶ傾向が認められる。
 “実の親の扶養についての考え”では、「親のめんどうはどんな犠牲をはらってもみるべきだ」16.7%でそれほど多くない。最も多いのは、「少々の犠牲をはらってもみるべきだ」44.4%であり、続いて、「子の負担にならない程度にみるべきだ」31.2%である。「親と子は独立すべきで、お互いにめんどうをかけるべきではない」は4.3%と少ない(表15参照)。


 “調査対象者自身の老後計画”については、「子どもの一人と生涯同居したい」16.3%、「晩年になれば子どもと同居したい」15.9%であり、同居希望は計32.2%になる。「別居するが、子どもはできるだけ近くに住んでもらいたい」という近居希望は54.8%と最も多く、同居による世代間の情緒的葛藤を避けながら扶養を期待する人が過半数を占めている。わが国における近居希望の増加傾向は、他の研究でもつとに指摘されている(4)。欧米に多いタイプとされる近居傾向が日本でも多いということは今後の同居・別居の動向を測るための一つの有力な指針となろう。親子の別居を前提とする「子どもとは分かれた生活をしたい」人は10.9%であり、多くない(表16参照)。


 “あなたが寝たきりや老人性痴呆症などにおちいったとき、主として誰の介護を期待しますか”という質問に対しては、「配偶者」に期待する人が48.5%と多く、次いで「公的機関のサービス」31.8%であり、「子ども」16.7%や「子どもの配偶者」0.8%に介護を期待する人は少数である。介護の主体としては夫婦の関係が重視されており、子どもに介護を期待しているものは少ない。さらに、“あなたが寝たきりや老人性痴呆症などにおちいったとき介護を期待する子どもは誰ですか”という質問をおこなってみると、「子ども全員で分担すべき」が42.1%で最も多く、「最も条件の良い子」27.1%、「公的機関」23.3%であり、「跡取りに主として期待する」は4.2%と少数である(表17、18参照)(5)。これからすると跡取りの観念は希薄になっていると考えられる。なお、“養子をとってでも家を継がせるものだとお考えですか”の質問に対しても、「養子はとらない」63.6%、「わからない」28.5%であり、「養子をとってでも家を継がせる」とした人は7.9%であり、家の観念も希薄になっている様子がうかがえる(表19参照)。


 家族や老人についての考えを聞いた質問については、“いざという時に頼りになるのは家族や血縁関係である”に関して、「まったくそう思う」25.5%、「そう思う」61.1%、「そうは思わない」11.3%、「まったくそう思わない」2.1%である。そう思う人(「まったくそう思う」と「そう思う」の計)は、86.7%と高率であり、家族血縁関係を基本として重視する人が多い。“世間体をわりと気にする方である”に関しては、「まったくそう思う」5.0%、「そう思う」56.9%、「そうは思わない」33.9%、「まったくそうは思わない」4.2%である(表20、21参照)。


 “老人は気むずかしい”という質問に関しては、「まったくそう思う」14.2%、「そう思う」54.4%、「そうは思わない」28.9%、「まったくそうは思わない」2.5%である。“老人は親切である”に関しては、「まったくそう思う」0.8%、「そう思う」46.2%、「そうは思わない」51.7%、「まったくそうは思わない」1.3%である。“老人は大多数がボケる”に関しては、「まったくそう思う」2.5%、「そう思う」17.6%、「そうは思わない」77.7%、「まったくそうは思わない」2.1%であり、そうは思わない人が圧倒的多数である。“老人は親切である”に関しては、「まったくそう思う」1.7%、「そう思う」53.8%、「そうは思わない」43.6%、「まったくそうは思わない」0.8%である。“老人は型にはまって変えられない”に関しては、「まったくそう思う」10.9%、「そう思う」53.4%、「そうは思わない」34.0%、「まったくそうは思わない」1.7%である(表22〜25参照)。


 “親世帯の同居希望”に関しては、「強く同居を望んでいる」が35.3%で最も多い。「できれば同居を望んでいる」は27.2%で、両者の合計(同居希望)は62.5%になる。現在も同居している世帯は62.2%であり(表3参照)、那賀川町においては、親世帯の同居希望と同居の比率には、たいした差がみられない。「できれば別居を望む」は10.3%、「あなた方の意志を尊重する」は19.4%である(表26参照)。なお、“長寿社会に向けて町にどのようなことに力を入れてほしいと思いますか(三つまで回答)”に関しては、「医療福祉施設の充実」68.8%、「在宅高齢者の介護援助」54.6%、「高齢者の生活環境整備」51.7%、「高齢者雇用の促進」42.1%等が多く、医療・介護など老人の身近な生活への援助が強く望まれている(表27参照)。

 4.同居の実態(「現在親と同居している者」のみの集計)
 同居の実態を知るために、現在同居している人に以下の質問を行った。“同居の開始時期”に関しては「結婚してすぐから」が79.7%と圧倒的に多く、次いで「最初の子が生まれるまでに」の11.1%などのように、第1子が小学校に入学するまでに94.7%が同居を開始している。なお、都市部では老親と子夫婦が適宜手段的に同居・別居をする事例が増えていることが伝えられているが(6)、那賀川町ではこの傾向は少なく、老親と同居する世帯は、結婚と同時に同居を開始している(表28参照)。


 “同居のきっかけ・理由(いくつでも回答)”に関しては、「結婚すれば同居は当然と思った」が66.4%で圧倒的に多く、他は「夫婦共働きだから」15.1%、「親の世話をするため」10.5%が多い。合理的・手段的な考えよりも、伝統的価値観が同居世帯に影響しているといえよう(表29参照)。なお、“結婚に際して両親との同居が条件になっていたかどうか”に関しては、「はい」が64.2%、「いいえ」35.8%で、同居が条件であったケースの方が多い。


 “同居している家屋の形態”は、「ほとんど一緒で区別はない」が49.0%で最も多く、「同じ家だがある程度分離している(増築、生活の本拠が1階と2階に分かれているなど)」が32.0%、「敷地内に別棟を建てている」19.0%という状況であり、同居世帯内の生活分離はあまり進んでいない(表30参照)。


 親子両世帯の生活の形態に関しては、“夕食”を「いつも一緒」にとるのは52.9%、「だいたい一緒」22.9%である。夕食は両世帯が一緒にとるのが常態のようである。“洗濯”に関しては「いつも一緒」が32.5%、「だいたい一緒」12.6%であるが、「めったに一緒にはしない」も15.9%ある。“家族旅行”は「めったに一緒にはしない」37.8%、「全く一緒にはしない」34.5%の順で、家族旅行に関しては一緒にはしない世帯が圧倒的に多い(表31〜33参照)。


 同居している両世帯の間柄に関しては、“何でも気楽に話し合っているか”という質問に対して、「はい(いつも)」13.9%、「はい(大体)」47.7%、「いいえ(少し)」29.1%、「いいえ(非常に)」9.3%となっている。ただし、“意見の違いを感じることがある”については、「はい(いつも)」14.4%、「はい(大体)」56.2%、「いいえ(少し)」26.8%、「いいえ(非常に)」2.6%である。同居に伴う意見の違いや情緒的葛藤の存在がうかがえる。“お互いに気兼ねなく暮らしている”については、「はい(いつも)」7.2%、「はい(大体)」39.2%、「いいえ(少し)」42.5%、「いいえ(非常に)」11.1%となっている(表34〜36参照)。


 “同居生活に満足しているかどうか”の質問に対しては,「非常に満足」10.6%、「やや満足」39.1%、「やや不満足」33.8%、「非常に不満足」16.6%であり、満足している人と不満足な人とはほとんど半々である(表37参照)。

III.同居・別居を分ける要因の分析
 前節では、度数分布表等を用いて、同居世帯と別居世帯の現状がどのようなものかを分析した。そこでの記述は、個々の設問についての回答の統計的整理を主眼とするものであったから、いきおい個別的なものとなり、個々の結果を分析するのに必要な限りにおいて他の調査項目に触れる程度にとどまらざるを得なかった。しかし、同居・別居という家族生活にとって根本的に重要な選択は、個別的な調査項目で明らかになるものではなく、それぞれの調査項目で明らかにされた多様な側面が一つに統合された構造的な全体としての選択であると考えられる。そこで、本節では同居・別居を分ける要因を探ることを主とし、特に前節の度数分布表等の分析では明らかにできなかった多変量間の関係を明らかにするために、数量化2類を用いた分析をおこなう。
 数量化2類は、サンプルが属するグループをもっともよく判別するように(ここでは、同居グループと別居グループ)複数の質的データ(説明変量)の各カテゴリーに数値を与えようとする方法であり、量的データで用いられる判別分析を質的データに応用したものとよべる手法である。数量化2類では、各カテゴリーの判別への貢献度は係数(カテゴリスコア)として数量化される。また、アイテム(説明変量)の判別力の大きさはレンジで示される。用いたデータは基本的に前節と同じものであるが、多変量を扱うため、分析の安定性、再現性の確保のために極端に回答の少ないカテゴリーは適宜無理のないように統合した。
 まず、判別の基準変量として、「同居」と「別居」を設定する。「同居」は“親世帯との同居経験”の質問で「現在も同居している」と回答した世帯であり、「別居」は「過去に同居したことがあるが現在は別居」と「全く同居経験なし」と回答した世帯を合わせたものである。具体的には、各変量を客観的要因(年齢・職業・住居状況・暮らし向き等)と主観的要因(扶養意識、親和度、老人観等)に大別し、レンジの大きさと偏相関係数の大きさから説明変量の選択をおこない変量を選んだ。得られた結果をレンジの大きい順に並べたものが、表38である。この結果によると、同別居を分ける要因として最大のものは“持ち家状況(持ち家の形態)”であり(レンジ2.015)、「親名義の家」に居住することが同居にもっとも貢献しており(係数−0.479)、「借家・アパート等」(係数1.536)が別居に貢献していることがわかる。レンジが次に大きいのは、“親世帯の同居希望であり”(レンジ1.207)、親が「強く同居を希望」(係数−0.490)することが同居に貢献しており、「子の意思を尊重」(係数0.718)するが別居に貢献している。続いて、“親世帯の職業”のうち、「パート勤務」・「農業」・「会社員・公務員」が同居に貢献し、「農業以外の自営業」が別居に貢献している。職業に関しては,“家の職業”が「農業」であることも同居に貢献しているが、レンジはそう大きくない。“暮らし向き”は裕福(「中の上」、「中の中」)であることが同居に貢献し、「中の下」,「下」が別居に貢献している(レンジ0.909)。


 “老人は尊敬できる”(レンジ1.010)という考えについては、「まったくそう思う」と「まったくそうは思わない」という極端な意見が別居に貢献し、「そう思う」、「そうは思わない」の中間的な意見が同居に貢献している。同居している世帯の方が老人に対して現実的な反応を示しており、別居世帯が極端でステレオタイプ的な意見をもっているといえよう。“老人はぼける”(レンジ0.856)という意見に対しても、「まったくそう思う」と「まったくそうは思わない」が同居に貢献し、「そう思う」、「そうは思わない」が別居に貢献しており、先の項目と対をなしているといえる。なお上のことから、この2変量は判別には貢献しているが、同・別居を分かつ要因というよりも、同居・別居した結果もつようになった意識とも解釈できよう。“あなた(自身)の老後計画”(レンジ0.832)では、「別居するが近居」が同居に貢献しており、「子どもとは別れた生活をしたい」が当然ながら別居に貢献している。分析結果の相関比は0.568、正答率は89/102で87.3%である。
 以上、同居・別居を分かつ要因を簡単にまとめてみると、「親名義の家」に住み、「暮らし向きは裕福」などの経済的余裕と「パート勤務」、「農業」を中心とする親世帯の職業が同居に貢献しているとともに、親の「強く同居を希望」(身辺介護の必要、配偶者の死亡、経済的困難などの理由が考えられる)する意向が強く反映されている。分析結果の相関比は0.557、正答率は122/138で88.4%である。

IV.同居の満足度を分かつ要因の分析
 本節では、現在老親と同居している家族の意識や情緒面での満足・不満足に寄与する要因を明らかにする。同居生活をおくっている人たちがどのような意識をもち、どの程度満足しているかどうかを具体的に知ること、そしてこれらの要因の今後の動向に着目することによって、今後の同別居意識の動向やひいては老親扶養の在り方の示唆を得ることができると考える。当然のことながら、分析の対象者は「現在も同居している」人のみとなる。なお、今回は十分な分析ができなかったが、現在別居している人の満足度は非常に高い比率であることを指摘しておく必要はあろう(表39参照)。


 基準変量としては“同居生活に満足しているか”の質問に「非常に満足」、「やや満足」と答えたものを「満足」グループ(49.7%)、「やや不満足」、「非常に不満足」と答えたものを「不満足」グループ(50.4%)に分類し、現在同居している人の満足度の分析をおこなった。この結果をレンジの大きい順にまとめたのが表40である。


 これによると、満足・不満足を分かつのに最も貢献している要因は、“実親扶養意識”(レンジ1.956)であり、「親のめんどうはどんな犠牲をはらってもみるべきだ」と考える扶養意識をもつ人が同居生活での満足に貢献している。以下「少々の犠牲ははらっても」、「子の負担にならない程度に」、「親と子は独立すべき」の順である。(実)親をどんな犠牲をはらってでも面倒をみようとする価値観を持っている主婦が同居の親との生活に満足しているという結果は注目されるべきであろう。次に大きい要因は、両世帯が“気楽に話す間柄”(レンジ1.501)であり、「はい(いつも、だいたい)」が満足に貢献し、「いいえ(非常に、少し)」が不満足に貢献している。気楽に話し合えるという雰囲気の家庭が同居生活に満足を与えているようすがうかがえる。
 職業に関しては“あなたの職業”(レンジ1.266)、“親世帯の職業”(レンジ0.940)ともに「農業」に従事している者に満足度が高い。本人の職業が「会社員・公務員」の場合も若干ながら満足に貢献している。同じ自営業でも「農業以外の自営業」は不満足に貢献している結果が出ている。“介護を期待する子”(レンジ1.206)は「公的機関が介護」すべきが満足に貢献しており、「最も条件のよい子が介護」すべきが不満足に貢献している。同居生活に満足している主婦の介護に関して子どもに負担をかけたくないとする心理的・経済的余裕の表現と解釈できよう。他方,同居に不満足な主婦は子どもに介護を期待している。
 “家族全体の生活費”の負担(レンジ1.171)は「親が多い」「折半」の順で満足に貢献しており、親が生活費を負担できる能力に比例している。“養子による家後継”については、「養子をとってでも家を継がせたい」と考える人が満足度が高い。これも妥当な結果であろう(レンジ0.884)。また“老人は気難しい”に「まったくそう思う」人が不満足に、「そうは思わない(まったくそうは思わないは少数だったので、これに統合)」が満足に貢献している(レンジ0.838)。分析結果の相関比は0.568、正答率は89/102で87.3%である。

V.まとめ
 同居・別居を分けている要因をレンジの大きい順に並べると、1.“住居の状況”、2.“親世帯の同居希望”、3.“親世帯の職業”、4.“自身の老後計画”、5.“暮らし向き”の順である。同居・別居に関しては、「親名義の家」という住居の所有状況と「暮らし向きがよい」という経済的に恵まれた親が「強く同居を希望」した場合に実現される可能性が高いといえる。以上を図式化してまとめると次のようになる(図1参照)。


 同居生活において不満足の人たちは「現在も同居」している人の50.3%である。彼らを条件が変われば別居に移行する可能性をもつ層と考えれば、現在別居している人の数字を足すと、最大69.0%が別居することになり同居率は極端な場合には30%程度にまで落ち込むことが予想される。別居の形態としては情緒的葛藤が少なくかつ介護等の援助が期待できる「別居するが近居したい」という「近居」の希望者が多くなっている(54.8%)。これらのことから近居という形での老親扶養が将来増加すると予想される(表16参照)。ただし、現在の別居が親に「全く援助していない」が64.3%であり「小遣い程度」の援助を含めると81.4%にもなるという事実、また同居していた親との交流度”が希薄であるという事実からして、当面の扶養の主流はやはり同居に頼らざるをえないといえる(表41、42参照)(7)。


 高齢者扶養が同居に依存せざるをえない現状であるとすれば、同居の満足度の問題は高齢者扶養を充実するに際して根本的な重要性をもつといえる。図2は、今回の調査結果に基づいて、同居生活において高い満足度が実現される要因を図式化したものである。


 同居世帯の満足を構成している要因は、1 老親扶養に関する価値観、2 親世帯との情緒的な親和度、3 老人に対するイメージ、4 職業・経済的要因、5 親の世帯内での役割の五つに大きく分類される。これらを順に見ていくと、まず「どんな犠牲をはらっても」親の扶養をしようとする老親扶養に関する価値観が同居の満足度に最も貢献している。この価値観が自然的な情愛であるか旧来の家制度を元にした義務感が伴うものかは不明であるが、同居生活の満足に最も貢献していることは指摘しておく価値があろう。次に、「親世帯との情緒的な親和度」も満足に貢献しているが、この要因は「老人に対するイメージ」と関連が強いことが確認された。親世帯との親和度が薄い人が老人に対してマイナスイメージを多くもっている。
 「職業・経済的要因」が満足を生み出している事実は、政府や行政の老親扶養への援助の必要を示しているという事実は、家族内での親の地位と役割を見直すに値するだろう。
 以上、老親を扶養する世代の主婦の調査に基づいて考察を進めてきた。結論としては、日本の高齢者扶養は高い比率で存在した「三世代同居」という制度に依存しており、高齢者扶養の意識や組織に関しては確たるものをもっておらず、現在もなおスポイルされ続けているといえる。このことは、「老親をどんなことがあっても扶養しなければならない」という質問において、日本の青年が国際的にみて極めて低い数字しか示さなかったことにも現れている(8)。欧米では、成人した子との同居を忌避する価値観から、親子世帯の別居が建前とされているが(9)、多くの報告によって、老親を扶養しなければならないという意識が確立されていること、またそのための血縁(特に娘)や近隣のネットワークによって高齢者扶養を行うという慣習や組織の存在が確認されている(10)。この視点からすると、日本では国民のコンセンサスとして高齢者扶養をいかになすべきかという方法・手段についての考え方は成立していないといえる。要するに、世代同居という制度に依存して、同居子のみに老親扶養を任せきりにし、別居子は「別居=棄老」の意識や感覚しかもたない状態。しかも、それでもなんとかやり過ごせてきたのが、今日までの日本の高齢者扶養であったといえる(11)。しかし、高齢化社会の到来とともに押し寄せる長期間の同居の波と、他方の増加する別居志向の波の中で、根本的な高齢者扶養の意識や組織の再編を迫られているのが、今日の日本であるといえよう。ここで、望まれるのは「(増加する別居を前提としつつ)全面的に同居制度に依存することのない、国民のコンセンサスを得られる高齢者扶養の意識や組織の確立」であろう。もちろん、社会全体が急激に変化している中で、単に旧来の保守的な家意識や親孝行意識の復活のみで、高齢者扶養の意識や組織の育成ができないことはいうまでもない。
 なお、本調査の今後の課題としては、先にも示した別居者の側面からの考察による補完の他にも、1 扶養される側からの考察、更には、2 身辺介護を伴うようないわゆる家族集団の危機の状態の考察等が必要であろう。

 [文献]
(1)森岡清美・望月嵩『新しい家族社会学 三訂版』培風館.1993.P72、P128。
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 清水浩昭『高齢化社会と家族構造の地域性』時潮社.1992.P261。
(4)清水浩昭「長寿化と社会変動」/坂田義教・鈴木泰・清水浩昭編著『社会変動の諸相』ミネルヴァ書房.1994.P83。
 安達正嗣「老後に対する行動・意識」日本社会学会報告レジュメ.1994.P1。
(5)岡崎陽一 前掲書.P161。
(6)直井道子・岡村清子・林廓子「老人との同別居の現状と今後の動向」/『社会老年学No.21』1984.P20-21。
(7)森岡清美『現代家族変動論』ミネルヴァ書房.1993.P181、P186。
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(9)清水浩昭 前掲書.P64-65。
(10)森岡清美 前掲書.P185。
 光吉利行・士田英雄・宮城宏 前掲書.P181。
(11)森岡清美 前掲書.P180-181。

1)徳島市立高等学校 2)徳島工業短期大学 3)城北高等学校


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