阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第41号
那賀川町における農業従事者の健康状態について

農村医学班(四国農村医学会)

  原田武彦1)・中平晴仁1)・久保克之1)・

  阿部多賀子1)・大島康志1)・紅露健二1)・

  蔭山哲夫2)・太田俊次2)・吉本公宏2)・

  遠藤博久2)・林まゆみ2)・原茂子2)・

  岸田早苗2)・河野ゆかり2)・

  八十川正夫2)・高木伸幸2)・片岡晶子2)・

  四宮ひとみ2)・松浦秀美2)・杉本英雄2)・

  吉村治二3)・藤井利夫3)・日下静代3)・

  的場輝美3)

−その1.農業者健康診断結果−
1.はじめに
 私たち農村医学班は、昭和50年以来、阿波学会の学術調査に参加し、県南部では昨年の由岐町に続いて、7回目の健康調査を那賀川町で行ったので、その結果を報告する。

2.調査対象と方法
 対象は、那賀川町の住民で、主に農業に従事する者から無作為に選んだ男子69名(平均60.4歳)、女子145名(平均59.3歳)の計214名である。
 調査は、平成6年8月1日から4日間、那賀川町民センターと今津公民館において実施した。
 健診内容は、問診、理学所見、尿検査、便潜血反応、血液検査、心電図、胸部および胃部X線検査、眼底検査のほか、今回も昨年と同様に、HCV 抗体(PHA 法、第二世代)の測定を行った。
 検査方法と判定基準を表1に示した。検査結果の判定は、A:異常を認めず、B:経過観察、B':要注意、C:要精検、D:要医療の5段階にわけ、CとDを異常と判定した。

3.調査結果
 今回の調査で得られた個々の結果について、平成4年度農協総合健診(以下「4年度全体」と略す)と比較してみた。年齢構成は、那賀川町と4年度全体はともに60歳台にピークがみられ、よく似ていた(図1)。


 以下項目別に結果を示す。
1)既往症
 男子では、61名(88.4%)に、女子では、121名(83.4%)に既往症がみられた。男子では腰痛(27.5%)、胃潰瘍(24.6%)、痔(20.3%)、胃炎(20.3%)が多く、女子では、腰痛(22.1%)、高血圧(18.6%)、膀胱炎(15.9%)、痔(15.2%)が多かった(表2)。


2)嗜好について
 嗜好の調査を酒とタバコについて行った。
 飲酒習慣では、男子の36名(52.5%)が毎日飲酒するが、女子では9名(6.2%)と少数であった。また、毎日2合以上の飲酒習慣のある者は、男子のみ10名(14.4%)であった。タバコを吸う人は男子のみ25名(36.2%)にみられた。1日20本以上のヘビースモーカーは男子19名(27.5%)にみられた。
3)体格(肥満)について
 明治生命作成の標準体重表を用いた。肥満度130%以上、79%以下を異常とした。男子3名(4.3%)、女子1名(0.7%)に肥満がみられた。女子1名にやせすぎがみられた。
4)血圧について
 高血圧は男子5名(7.2%)、女子7名(4.8%)にみられ、4年度全体の男子5.5%、女子3.8%をやや上回っていた。また問診より、現在高血圧の治療を受けている者のなかで、血圧に異常を認めなかった者は、男子7名(10.1%)、女子21名(14.5%)と多数みられた。高血圧の有病率を算出するさいに留意すべきことと思われる。
5)尿検査について
 尿蛋白は、男子(1.4%)、女子2名(1.4%)に、尿潜血は男子6名(8.7%)、女子26名(19.1%)にみられたが、いずれも腎機能に異常は認めなかった。女子1名に腎結石が精密検査で見つかっている。尿糖陽性者は認めなかった。
6)便潜血反応について
 男子65名、女子137名に実施し、男子5名(7.7%)、女子11名(8.0%)が陽性であった。4年度全体の男子6.7%、女子5.8%に比べ、女子にやや多かった。陽性者16名中10名が精密検査(注腸透視、大腸ファイバースコープなど)を受け、大腸ポリープ2名、大腸憩室1名、両方合併1名が認められた。
7)貧血について
 男子で3名(4.3%)、女子3名(2.1%)に貧血がみられた。女子の鉄欠乏性貧血とおもわれる者2名以外は特に問題はなかった。4年度全体の男子4.5%、女子5.1%に比べ、女子の貧血者が少なかった。
8)肝機能検査について
 肝機能検査として、TP、GOT、GPT、Al-P、γ-GTP、ZTT、CHE(コリンエステラーゼ)、HBs抗原、HCV抗体の9項目について施行した。何らかの異常を認めた者は、男子13名(18.1%)、女子10名(6.9%)であった。GOT 異常は、男子10名(14.4%)、女子4名(2.8%)、GPT 異常は、男子6名(8.7%)女子2名(1.4%)、γ-GTP 異常は、男子のみ3名(4.3%)にみられ、いずれも男子に異常を示す者が多かった。HBs 抗原陽性者は男子、女子各1名であった。いずれも他の検査結果より、無症候性 HBs 抗原キャリアと考えられた。HCV 抗体陽性者は、男子4名、女子2名であり、うち3名に輸血歴か手術歴がみられた。なお夫婦1組が含まれていた。この夫には胃切除の手術歴があり、妻はC型肝炎として治療中である。夫から妻への家族内感染かどうかは、これのみでは不明である。10名が精密検査を受け、男子ではC型肝炎3名、脂肪肝ないしアルコール性肝障害とおもわれる者3名、肝硬変2名などの結果であった。女子では、C型肝炎1名を認めた。
9)腎機能検査について
 尿素窒素、クレアチニン、尿酸を測定した。血中尿素窒素は男子6名(8.6%)、女子4名(2.8%)に軽度の異常がみられたが、血清クレアチニンは全例が正常範囲であった。痛風のスクリーニングとして尿酸を測定したが、男子7名(10.1%)、女子3名(2.1%)に高尿酸血症がみられた。
10)脂質検査について
 総コレストロール 250mg/dl 以上を示した者は、男子5名(7.2%)、女子24名(16.6%)、中性脂肪 200mg/dl 以上を示した者は、男子9名(13.0%)、女子6名(4.1%)、両方とも高値を示した者は、男子3名(4.3%)、女子3名(2.1%)であった。HDLコレステロールのみ低値を示した者が、男子2名(2.9%)、女子3名(2.1%)にみられた。男子のうち中性脂肪が高値を示した者は、全例に飲酒歴がみられている。
11)空腹時血糖(FBS)について
 FBS 140mg/dl 以上は、男子2名(2.9%)、女子5名(3.4%)にみられた。いずれも現在糖尿病として治療を受けている。
12)X線検査について
 胸部間接X線検査は、男子67名、女子141名に施行したが、男子5名(7.5%)、女子7名(5.0%)が要精検であり、4年度全体の男子11.8%、女子9.2%に比べて少なかった。精密検査を受けた者は男子は3名で、うち2名は異常なし、1名に陳旧性胸膜炎がみられた。女子は4名が精密検査を受け、1名は異常なし、2名に陳旧性胸膜炎がみられ、1名に陳旧性肺結核をみとめた。いずれも特に問題となる所見はみとめられなかった。
 胃部間接X線検査は、男子66名、女子124名に施行し、男子10名(15.0%)、女子11名(8.9%)に要精検者がみられた。4年度全体の男子12.9%、女子8.6%に比べて、男子の精検者がやや多かった。異常所見として、びらん性胃炎6名(男子3名、女子3名)、胃潰瘍瘢痕6名(男子5名、女子1名)、胃ポリープ4名(男子1名、女子3名)、胃潰瘍1名(女子1名)などであった。男子4名、女子8名が精密検査を受けたが、ほぼ同様な所見であった。肺癌、胃癌は発見されなかった。
13)心電図について
 男子69名、女子145名に施行し、男子4名(5.8%)、女子10名(6.9%)、に異常がみられた。ST 異常6名、完全右脚ブロック1名、期外収縮7名などであった。4年度全体の男子6.3%、女子4.5%と同程度であった。
14)眼底検査について
 男子6名(8.7%)、女子8名(5.6%)に異常がみられた。
 図2に諸検査結果の主な異常とその頻度を示した。
 以上の諸検査結果を総合判定した(図3)。


 「異常なし」は、男子2名(2.9%)、女子17名(11.7%)であった。4年度全体の男子6.4%、女子10.7%に比べて、男子はやや少なく、女子は同程度であった。また平成5年度の由岐町の健診結果の男子2.5%、女子10.8%と同程度であった。「経過観察」は、男子3名(4.3%)、女子4名(2.8%)であり、4年度全体の男子5.9%、女子6.2%に比べて少なかった。「要注意」は、男子15名(21.7%)、女子29名(20.0%)で、4年度全体の男子18.9%、女子18.4%とほぼ同程度であった。「要精検」は、男子48名(69.6%)、女子93名(64.1%)で、4年度全体の男子65.1%、女子63.0%とほぼ同程度、「要治療」は、男子1名(1.4%)、女子2名(1.4%)であり、4年度全体の3.7%、1.7%と比べて男子は少なく、女子は同程度であった。

4.まとめ
 那賀川町の農業従事者、男子69名、女子145名の健康診断結果を要約すると、
 1 男女とも脂質検査異常が最も多くみられた。
 2 女子に貧血が少なかった。
 3 肝機能異常と腎機能異常(主に高尿酸血症)が男子に多く、尿潜血陽性者は女子に多かった。
4 HCV 抗体陽性者は、男子4名、女子2名にみられ、その半数に輸血歴ないし手術歴がみられた。また、夫婦1組が陽性であった。

 参考文献
1.加藤和平ら:羽ノ浦町における農業従事者の健康状態.郷土研究発表会紀要,31,p.103〜122.1985.
2.原田武彦ら:上那賀町における農業従事者の健康状態.郷土研究発表会紀要,35,p.103〜118.1989.
3.今川大仁ら:三好町農業従事者の健康状態について.郷土研究発表会紀要,39,p.137〜154.
4.原田武彦ら:由岐町における農業、漁業従事者の健康状態について.阿波学会紀要,40,p.167〜189.1994.
5.徳島県厚生農業協同組合連合会:平成4年度健康管理活動報告書.1993.


−その2.健康と農業との関連についてのアンケート調査結果について−
1.はじめに
 私ども農村医学班は、健康と農業に関するアンケート調査も実施したので、結果の中から主な項目を抽出して結果を報告する。

2.調査対象
 調査の対象は、那賀川町で主に農業を営んでいる男子69人、女子145人、合計214人で、平成6年8月1日より8月4日の4日間にわたって調査した。
 その性別、年齢別構成は表1のとおりである。


 これらの対象者の農業における専業者は214人中59人(46.0%)となり、表2、表3より第2種兼業農家が多いことがうかがわれる。
 また、家族の構成は、平均4.7人であった。

3.調査結果
 表4、5は、健康増進・嗜好についての調査結果である。
 健康増進についての調査で、一番関心を持っていることは、男女とも「健康」で、男子75%、女子74%を占めている。実施内容では、男女とも「食事に気を配っている」・「睡眠を十分にとる」・「くよくよしない」の順である。食事に関しては女性が気をつけている割合が高く、酒やタバコは女性と比較して男性が気をつけている割合が高くなっており、日常生活に気をつけていることがうかがわれる。

 表6にみるように、寝たきり老人がいる家庭は9件で、4.2%である。

 働く農民に多い症状8項目の調査では、表7に示すように、「いつもあるもの」のトップは夜間頻尿で14.0%、続いて腰痛の14.0%、肩こりの13.0%となる。症状が「いつもある」及び「時々ある」を合わせた場合、最も多いのが腰痛64.0%、肩こり59.0%、夜間頻尿41.0%、不眠37.0%、手足のしびれ25.0%となる。


 男女別では、夜間頻尿が男子に多い以外は、すべて女子の割合が高く、特に肩こり、手足のしびれ、不眠、腹はりが男子に比して高くなっている。
 表8は、1日の仕事が終わった時点での疲れの自覚症状について調査した結果である。


 1 の「ねむけとだるさ」の10項目目の内、男女とも多いのは「横になりたい」・「足がだるい」・「目がつかれる」などである。
 2 の「注意集中の困難さ」で示される精神疲労では、男女とも多いのは「ちょっとしたことが思い出せない」・「根気がなくなる」・「物事が気にかかる」などである。
 3 の「局在した身体違和感」については、男子に多いのは「腰がいたい」・「肩がこる」・「声がかすれる」で、女子では「腰がいたい」・「肩がこる」・「口がかわく」の順になっており、いずれも農業従事者特有の症状が現れている。
 表9・10は、慢性的病気についての調査結果である。男子は33.3%、女子は34.5%の人が何らかの慢性的な病気をもっている。その内容は高血圧」・「胃・十二指腸の病気」・「心臓病」等である。


 表11は、自分の血圧の平均値を知っているかどうかという問いに対する回答であるが、男子は78%、女子69%が知っており、男子の方が認識度が高い。


 表13は、農薬によると思われる中毒症状の経験の有無の調査結果で、男子は9%、女子は11%が経験している。その症状は表15のとおりで、男子は「頭痛」が多く、女子では「皮膚のかぶれ」・「頭痛」の順となっている。
 農薬の使用については十分注意し、慎重に取り扱う必要がある。

 表18に示したように、今年になって健康診断を受けたかという問いに対しては、男子52人(75%)、女子119人(82%)が受けたと回答しており、女子の方が健診率が高い。


 健診を受けなかった理由についての調査結果を表19に示したが、多い順に「現在は健康である」・「忙しくて行けなかった」となっているが、人生を健康な体で過ごすには、まず年1回の健診は必ず受けるようにしたいものである。


 表20で示したように、「次の健診の機会があれば」との問いに対して、男子では94%が、女子は99%が受診を希望しており、健診に対する認識が高まっている。


 最後に表22に示したようにJAへの希望を尋ねたのに対しては、「健診センターでの受診」が32%、「希望は何もない」が28%と答えが2分化している。


 このほかに「村づくり・地域の美化運動への参加」・「痴呆性老人の短期保護」等の希望もあり、今後は健康問題を始め、地域や高齢者に対するJAのあり方を検討する必要があると思われる。

4.まとめ
 農家の健康に関するアンケート調査の結果、今後総合的な健診の機会を計画的に実施することと、「自分の健康は自分で守る」という健康意識を高め、健康教育の徹底を図っていくことが大切であることがうかがわれた。
 今回の調査に当たり、最後まで全面的なご協力をいただいたJA阿波那賀川町を始め、関係者の方々に対し、厚くお礼を申し上げます。

1)JA徳島厚生連阿南共栄病院 2)JA徳島厚生連健康管理部 3)JA徳島中央会


徳島県立図書館