阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第41号
那賀川町の薬用植物調査

生薬学班(生薬学会)

   村上光太郎1)・宮城要1)・

   大塚昌哉1)・山本京1)・

   堀江徳1)・吉田千晶1)・

   伏谷秀治2)・藤巻浩二3)

1.はじめに
 薬用植物の使用は、大きく分けて2種に大別できる。その一つは、その土地に生えている植物を採集し、自らまたは近隣の人が使用する場合である。他の一つは、その土地での成育の如何にかかわらず、薬局等で購入して使用する場合である。特に、その土地にない薬用植物を使用する場合のその薬効(適用範囲)は、すでにどこででも知られている使い方(適用範囲)を踏襲するにほかならない。しかし、その土地に自生する薬用植物を自ら採集して利用する場合には、その使用が頻繁になるため、常に、多少広範囲の症状、病名に対して使用される傾向が起き、時として、新しい薬効・薬能を付加することがある。そのような新しい薬効・薬能の中で、本当に効果がある薬効・薬能を取り出し、それを医療の世界に上らせるのが、薬用植物の分布調査や民間薬調査の最大の目的である。
 その意味で、薬用植物の分布調査と民間薬調査は車の両輪の如く、平行して行われるべきである。しかし、調査の時間や人数の関係で同時に平行して行うのは困難である。昨年、由岐町の民間薬調査をした。完全に同じ条件ではないが、おなじ海岸ということで、今回は薬用植物の分布調査を行った。

2.調査地域と調査方法
 調査地域は那賀川町全域を目標としたが、田畑の中等は調査からはずし、道路、道ばた、海岸、河川、神社等を調査した。特に、数多くあった神社や寺は落とさないように調査した。調査期間は7月27日から8月2日にかけて行ったが、当時雨が少ないため、乾燥が続き、枯れたようになって、良くわからない植物も多かったので、以後数回出かけて補充調査をした。
 調査方法は、調査した場所に生えていた植物名をすべて記録し、後で、その植物が参考文献に薬用植物として記載があるかどうかを調べた。なお、食用となる植物も同時に調べた。

3.調査結果
 調査の結果、チェックできた総植物数は97科284種であった。このほかにも多くの植物が那賀川町に生えていると思われる。特に栽培植物、園芸植物、庭木などは省いたものが多い。得られた植物の一部を記載する。
  科名     植物名    科名     植物名
  マメ     カイコウズ  カヤツリグサ コウボウムギ
  カヤツリグサ コウボウシバ キク     コウヤボウキ
  マキ     ナギ     ヒノキ    ネズ
  ヒノキ    ヒムロスギ  トウダイグサ ヒメユズリハ
  ホルトノキ  ホルトノキ  マキ     マキ
 総植物のうち、薬用植物は84科175種であった。その一部を記載する。
  科名      植物名        作用
  ツヅラフジ   アオツヅラフジ    利尿剤
  ウマノスズクサ ウマノスズクサ    強壮剤
  マメ      カワラケツメイ    利尿剤
  キク      カワラヨモギ     強肝剤
  ノウゼンカズラ キササゲ       利尿剤
  キョウチクトウ キョウチクトウ    強心剤・有毒
  シソ      キランソウ      利尿剤
  ゴマノハグサ  キリ         止血剤
  フウロソウ   ゲンノショウコ    止瀉剤
  モクレン    コブシ        排膿剤
  ユリ      サルトリイバラ    駆梅剤
  ブナ      シラカシ       胆石溶解剤
  ヒルガオ    ネナシカズラ     強壮剤
  クマツヅラ   ハマゴウ       精神安定剤
  アヤメ     ヒメヒオウギズイセン 制癌剤
  アカネ     ヘクソカズラ     末梢血管拡張剤
 そのまま、あるいは煮たり、焼いたり、揚げたりなどして、食用に利用できる植物は35科67種(うち34科59種は薬用植物でもある)、薬用にも食用にも使用できない植物は51科101種であった。食用に利用できる植物の例を示す。
  科名     植物名    作用
  アカザ    アカザ
  トウダイグサ アカメガシワ 制癌剤
  タデ     イタドリ   エイズ
  クワ     イチジク   蛋白分解剤
  イチョウ   イチョウ   老化防止剤
  オオバコ   オオバコ   利尿剤
  ガガイモ   ガガイモ   不老長寿
  カキノキ   カキ     動脈硬化・シャックリ
  ナス     クコ     不老長寿
  マメ     クズ     解毒剤
  イネ     ジュズダマ  水分代謝改善
  スイカズラ  スイカズラ  解毒剤
  ドクダミ   ドクダミ   排膿・解毒剤
  ブドウ    ノブドウ   アレルギー体質改善
  バラ     ビワ     血流改善
 生育する場所で分類すると、海岸の植物は23科42種、うち薬用植物は20科24種、食用にできる植物は8科13種であった。海岸植物(潮のかかる場所)の例を示す。
  科名     植物名    効果
  セリ     ハマボウフウ 駆風剤
  アカザ    オカヒジキ
  カヤツリグサ コウボウシバ
  カヤツリグサ コウボウムギ
 堤防内の堤防近辺の植物は16科40種、うち薬用植物は15科17種、食用にできる植物は10科12種であった。内堤防外(昔潮がかかっていたが、現在はあまりかからないか、全くかからない場所)の植物の例を示す。
  科名     植物名     効果
  マメ     ハマナタマメ
  キク     キクイモ
  トウダイグサ アカメガシワ  抗潰瘍剤
  クワ     イヌビワ
  マメ     カワラケツメイ 利尿剤
  タデ     イタドリ    利尿剤
  マメ     クズ      解毒剤
  キク     カワラヨモギ  強肝剤
 古い堤防の内側では、47科85種の植物があり、うち薬用植物は45科64種、食用にできる植物は20科32種であった。古い堤防の内側(昔から潮がかからない場所)の植物の例を示す。
  科名     植物名    効果
  ガマ     ガマ     止血剤
  マメ     ニセアカシア
  マメ     カイコウズ
  モクセイ   ネズミモチ  抗潰瘍剤
  キク     ツワブキ   消炎剤
 内陸部では86科205種の植物があり、うち薬用植物は75科146種、食用にできる植物は32科53種であった。内陸部の植物の例を示す。
  科名      植物名     効果
  ウマノスズクサ ウマノスズクサ 強壮剤
  カニクサ    カニクサ
  ノウゼンカズラ キササゲ    利尿剤
  ゴマノハグサ  キリ      止血剤
  バラ      キンミズヒキ  止瀉剤
  モクレン    ビナンカズラ  粘滑剤
  ラン      シラン     粘滑剤
  キンポウゲ   センニンソウ  発泡剤
  バラ      バクチノキ   鎮咳剤
  マキ      ナギ
 河川敷およびその土手には22科28種の植物があり、そのうち18科21種が薬用植物で、食用にできる植物は7科9種であった。

4.考察
 調査漏れの植物も多くあると思われるが、今回得られた調査結果から見ると、那賀川町に分布する植物に対する薬用植物の比は高く、約61.6%もあった。この事は、栽培も考えると、那賀川町を生薬の一大生産地にすることも可能であることを示唆している。
 特に薬食健康法(薬用植物等を食べることにより、無意識のうちに健康の増進をはかるという健康法)が叫ばれている折り、ハマボウフウやツルナ等の生鮮食料品としての出荷が待たれているが、那賀川町の海岸は、それらの栽培に適しているといえる。
 また海岸性の薬用植物のハマボウフウ、食用にできる植物のオカヒジキ、一般の(薬用にも食用にもならない)植物のコウボウシバ、コウボウムギ、などは新しい防波堤が出来ると、その内陸部では無くなることがわかった。この事は、海岸植物であるハマボウフウなどを内陸の土地で栽培しているうちに、成育が悪くなり、次第に消えることと関係がある。今まで、この次第に消えることに対し、植え付けていた砂地が土で詰まるためとの結論がでていたが、それ以上に潮の影響があることを示唆した。
 これと反対に、ハマボウフウなどと同様に海岸性植物と思われている薬用植物のハマゴウ、ハマナタマメなどは、新しい防波堤の内側でも繁茂し、ツルナなどは海岸線から旧防波堤の内側まで繁茂していた。
 以上、淡水化や潮風、波しぶきの影響の変化が、植物の種類により、生育や存在に及ぼす程度に差が明瞭に見られた。
 また、普通内陸部で多く見られる薬用植物のイヌホオズキ、オナモミ、クコ、スベリヒユ、ヘクソカズラ、ヤマノイモ等が海岸線まで見られ、塩害に対する抵抗性があることもわかった。

 参考文献
1.村上光太郎 徳島県薬草図鑑 上・下 徳島新聞社
2.堀田満ら 世界有用植物事典 平凡社
3.東丈夫・村上光太郎ら 民間薬の実際知識 東洋経済新報社

1)徳島大学薬学部 2)徳島大学医学部薬剤部 3)橋本産業


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