阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第41号
那賀川町・那賀川の淡水魚

淡水魚研究班(徳島淡水魚研究会)

  中野晴夫1)・大川健次2)・細川昭雄3)・

  太田茂行4)・田中義信5)・金森徳次郎6)・   

  吉田光昭7)

1. はじめに
 那賀川河口から那賀川橋にいたる8km 程の那賀川に生息する魚類を調査した。調査方法は、投網、さし網を使用し、採集をした。また潜水調査もおこない水中の観察をした。また、調査地点を6カ所設定した。調査日は8月12〜18日の間におこなった。

2. 調査の結果
 那賀川は、徳島県第2の大河であり、水量も豊富である。調査場所は、河口域より、那賀川橋にいたる地点の間に那賀川町に含まれる部分があるので、図1に示すように、調査地点を1〜6まで設定し、採集した。採集した魚種は、日本動物図鑑により、目、科、種の同定をおこない、個体数、標準体長を測定した。調査地点1〜6の概要は次のとおりである。
調査地点1 海との河口域であり、汽水である。川岸には、少しゴミやロープの古いのが沈んでいたりして、投網を打つ時たいへん困った。川岸よりはなれた場所に州があり、その州と川岸の間を特に調査した。水は少しよごれていた。底は泥質であった。
調査地点2 川の中央に州があり、そこを中心に調査した。底は、すべてレキよりなっていて、水深は1〜2m であった。
調査地点3 川岸に大型ブロックを積み護岸している。水深は2〜4m であり、透明度は50cm 程である。淵になっている。
調査地点4 南岸付近に大きな瀬があり、その付近を中心にして調査をした。瀬における水の流れは速い。また透明度はよい。
調査地点5 大きな瀬になっていて、水流は速く水量も多い。水の透明度は良い。
調査地点6 水の流れはほとんどなく、川岸の低木が水中に根をはっている。ブロックが所々におかれている場所もある。水の透明度は良い。水深1m 程である。

 採集した魚類は、21種である。汽水域に生息する海産の魚種も含めた。
硬骨魚綱 OSTEICHTHYS
真口亜綱 TELEOSTOMI
サケ亜目 Gonorhynchina
 アユ科
  アユ Plecoglossus altivelis 採集個体数 7
コイ目 Cyprinida
 コイ科
  ウグイ Leuciscus hakonensis 採集個体数 多数(50個体以上)
  カワムツ Zacco temmincki 採集個体数 1
  オイカワ Z. platypus 採集個体数 5
  カマツカ Pseudogobio esocinus 採集個体数 3
  ムギツク Pungtungia herzi 採集個体数 5
  ニゴイ Hemibarbss labeo 採集個体数 多数
  ギンブナ Carassius carassius langsdorfii 採集個体数 8
スズキ目 Percida
 アジ亜目 Carangina
  アジ科
   マルヒラアジ Carangoides coeruleopinnatus 採集個体数 1
 スズキ亜目 Percina
  スズキ科
   スズキ Lateolabrax japonicus 採集個体数 1
  タイ科
   クロダイ Acanihopagrus schlegeli 採集個体数 1
  シマイサキ科
   コトヒキ Therapon jarbua  採集個体数 多数
  ボラ科
   ボラ Mugil cephalus 採集個体数 7
 ハゼ亜目 Gobiina
   カワアナゴ Eleotris oxycephala 採集個体数 3
   チチブ Tridentiger obscurus obscurus 採集個体数 多数
   ゴクラクハゼ Rhinogobius giurinus 採集個体数 34
   ヨシノボリ Rhinogobius brunneus 採集個体数 1
   マハゼ Acanthogobius flanimanus 採集個体数 26
   ビリンゴ Chalnogobius castaneus 採集個体数 多数
   ミミズハゼ Luciogobius guttatus 採集個体数 2
   ボウズハゼ Sicyopterus japonicus 採集個体数 1
        (「多数」は50個体以上を示す)
 採集地点別に採集した魚種を表1に示す。魚種により河口域の汽水にも、中流域の淡水にも、生存できるものがいる。コトヒキやクロダイは、海産魚だが、幼魚が、河口域の汽水まで進出している。マハゼは汽水域に生息するが、調査地点4 にまで生息が確認され、淡水域まで生息が見られる。ボラは汽水域に生息するが、幼魚が、淡水域まで進出し調査地点6 にも生息していた。ゴクラクハゼは淡水域のレキ帯に生息していて、調査地点4 5 6 でみられた。ミミズハゼは、調査地点4 のレキが大きく、瀬のある所で採集できた。ミミズハゼは、レキの間に入り生息している。オイカワとアユの生息している場所はよく似ているが、那賀川は、オイカワの生息が少ない河川とも言える。オイカワは、地方名でハイまたはハエとも呼ばれている。昭和8年に吉野川に放流されたのが、最初であり、シュウハチとも呼ばれている。ボウズハゼは、調査地点5 の瀬の部分で採集できた。水質の良い所に生息する魚種である。生息個体数は少ない。吉野川、海部川にも生息している。スズキは、海産の魚種であるが、河川の淡水域にも進出している。調査地点4 と5 ではビリンゴが多数生息している。河口の砂泥底の主のいないアナジャコの穴に雄と雌が入り壁に卵を産みつける。1月末〜4月末に産卵をする。調査地点6 では、川辺に低木が集まっており水中に、木の根が繁茂しているので、その付近に、ニゴイの幼魚やムギツクの幼魚、カワムツが生息している。ムギツク、カワムツの個体数は少ない。カワアナゴは、ブロックの積んである場所に生息している。


 チチブとウグイは、河口域の汽水帯でも中流域の淡水域でも、生息している。いずれも個体数は多い。
 調査地点ごとに採集した魚種の体長を測定し、平均体長をもとめた(表2〜7)。


 図2に全調査地点の平均体長をあらわした。成魚に達していると思われるものは、ゴクラクハゼ、ボウズハゼ、カワムツ、ビリンゴ、カマツカ、チチブ、ミミズハゼ、オイカワ、ヨシノボリである。他の魚種については、まだ成長段階の幼魚である。ボラ、フナなどは体長30cm以上の成魚もいるが、個体数は少ない。むしろ幼魚の方が個体数が多い。いずれにしても那賀川は、自然状態での産卵、ふ化、成長と、魚にとって大事な生命のいとなみがおこなわれている大切な河川である。アユを幼魚まで人工養殖し、河川に放流しても、自然にアユが育つ自然環境が備わった河川でないと、うまく育たないともいわれている。自然保護を魚のためにも大切にしたい河川である。

1)徳島県立富岡西高等学校 2)徳島県教育研修センター 3)徳島県立城ノ内高等学校
4)東亜合成化学工業株式会社 5)四国化成工業株式会社 6)徳島県立農業高等学校
7)徳島県立板野高等学校


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