阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第41号
那賀川下流域の水生昆虫

水生昆虫班(徳島生物学会)   徳山豊1)

1.はじめに
 阿波学会による那賀川町総合学術調査に参加し、那賀川下流域における水生昆虫類の調査を行なった。
 那賀川本川における水生昆虫類については、徳山・河合(1988)、徳島県保健環境センター(1990)の報告がある。これらの報告では、那賀川の下流域について、前者が持井橋、後者が大京原橋において調査しているのみである。そこで今回は、下流域の水生昆虫類についてさらに詳しい調査を行った。
 調査は、8月上旬および10月上旬に実施した。調査期間中にあたる夏季から冬季にかけては、降雨が極めて少なかったため、水量は平常に比べてかなり少ない状況であった。

2.調査地点と調査方法
 調査地点を図1に示した。
 那賀川は、剣山地の西端にあたる高ノ瀬山(標高1,740m)に源を発し、屈折しながら東流し、紀伊水道に注ぐ流路延長約125km、流域而積約880平方キロメートルの県内第2の河川である。流域は山岳部が90%を占め、深い渓谷を形成する。途中には、小見野々ダム、長安口ダム、川口ダムがある。上流の山岳地帯は多雨地帯で、年間降水量が3,000mm 以上に及び、最大流量と最小流量の比が極めて大きい河川である。
 調査は、図1に示したように、持井橋から下流にかけて四つの調査地点を設定し、各地点周辺で採集した。調査地点としては、瀬の石礫底のある区域で、河床が比較的安定している所を選んだ。
 調査方法は、各地点でちりとり型金網とサバーネットを併用し、一個所で1時間から1時間30分かけて定性採集を行った。採集した試料は、約5%のホルマリン液で固定し、持ち帰った後同定し、種別の個体数を数えた。採集と同時に気温、水温、底質、河床型について記録した。また、可児(1944)に従い、河川形態区分を行った。
 なお水生昆虫類の同定は、川合(1985)、石田ほか(1988)に従った。

3.調査結果と考察
 (1)調査地点の環境
 調査時に測定した各地点のの環境を表1に示した。
 持井橋から下流にかけては、可児の河川形態区分では Bb-Bc 型に区分され、川幅が広がり、ゆるやかな流れになるが、所々に瀬も形成されている。
 各調査地点の様相は以下のようであった。
 調査地点A
 持井橋の上流側右岸と下流側右岸である。上流側は、河床に頭大の石が多く、やや不安定な河床状況であった(図2)。下流側は、こぶし大の石も多く見られ、河床は安定していた。


 調査地点B
 羽ノ浦町明見付近の左岸で、河床には頭大の石が多い。水量は、平常よりかなり減っており、河床の状態はやや不安定であった(図3)。


 調査地点C
 那賀川橋下流側の右岸と左岸である。左岸は流勢が強く、河床は丸みのある頭大の石でできており、不安定な状態であった(図4)。右岸部の一つは、伏流水が湧き出す流れで、河床には石礫が多く安定していた。


 調査地点D
 大京原橋の左岸の瀬で、石礫が多く、河床も安定していた(図5)。


 (2)出現種と出現種数
 採集された水生昆虫を、調査地点別に整理したのが表2である。
 水生昆虫の総出現種数は7目34種で、目別に見るとカゲロウ目が14種で最も多く、次いでトビケラ目が8種、カワゲラ目が5種、双翅目が3種、鞘翅目が2種、蜻蛉目と半翅目が各1種の順であった。
 調査地点別の水生昆虫の出現種数をみると、地点Aで26種、地点Bで20種、地点Cで17種、地点Dで16種であった。
 (3)分布状況
 すべての地点に出現し、広く分布しているものには、カゲロウ目のシロタニガワカゲロウ、ヒメトビイロカゲロウ属の1種、アカマダラカゲロウ、コカゲロウ属、マダラカゲロウ属、カワゲラ目のヒメオオヤマカワゲラ、トビケラ目のヒゲナガカワトビケラ、ウルマーシマトビケラ、コガタシマトビケラ属の1種があげられる。このうち、ヒゲナガカワトビケラ、ウルマーシマトビケラは、県内河川では最も普通に出現し、個体数も多いものである。
 表3は、1986年、87年の持井橋における結果である。50cm×50cm の方形枠2回の定量採集結果であるが、1986年12月では、ヒゲナガカワトビケラが382個体、ウルマーシマトビケラが229個体採れている。今回は、いずれの種も21〜50個体であった。
 シマトビケラ科のオオシマトビケラは、地点Cで1個体が確認されたのみであった。本種は、1987年4月には261個体が採れているが、1986年12月は2個体、1987年8月は採集されていない。他のトビケラ類に比べると、特に個体数のばらつきが大きいもののようである。

4.おわりに
 今回の調査で、7目34種の水生昆虫類が確認された。調査地点別にみた出現種数は、16種〜26種で、下流域にもかなりの水生昆虫が生息することが分かった。
 従来の結果に比較して、ヒゲナガカワトビケラなどの個体数が少ない状況であったが、これは昨年(1993年)夏季の長雨と再三の台風によって、河床が大きく撹乱されたことが影響しているものと推定される。
 なお、今回の採集標本はすべて徳島県立博物館液浸収蔵庫に保管した。

 参考文献
1.石田昇三、石田勝義、小島圭三、杉村光俊(1988)日本産トンボ幼虫・成虫検索図説、140pp.東海大学出版会、東京.
2.可児藤吉(1944)「渓流性昆虫の生態」古川晴男編、昆虫(上巻)、p.171-317.研究社、東京.
3.川合禎次編(1985)日本産水生昆虫検索図説.viii+409pp.東海大学出版会、東京.
4.徳山 豊(1990)由岐町の水生昆虫.郷土研究発表会紀要(阿波学会)、(40):103-111.
5.津田松苗(1962)水生昆虫学.v+269pp.北隆館、東京.

1)徳島市入田小学校


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