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1.はじめに 著者は、1994年7月3日、28日、29日の3日間、阿波学会那賀川町総合学術調査に参加し、真正蜘蛛(くも)類の分布を調査した。那賀川町は面積19.19平方キロメートル、徳島県では紀伊水道に面して東部に位置し、町全体が那賀川河口の平野の中にある。北は小松島市、南は阿南市に接し、国道55号線阿南バイパスが通っている。調査期間が短く、高地がないにもかかわらず、13科40種の分布、生息を確認した。これは蜘蛛類が適応能力の高いことを示しているが、今後急激な開発が予想されるので、農薬の散布、排ガス、排煙、工業排水を規制し、快適な環境を保持されるよう願ってやまない。
2.調査地域および調査日 1 大京橋の下(1994.7.3.) 2 宮神社 (1994.7.3.) 3 三栗八幡 (1994.7.3.) 4 神明神社 (1994.7.3.) 5 厳島神社 (1994.7.28.) 6 皇子神社 (1994.7.28.) 7 八坂神社 (1994.7.29.) 8 八幡神社 (1994.7.29.)
3.調査方法 舗装してない道には石がある。その石をころがすと、石の裏や石の下にも蜘蛛が生活している。それを吸虫管で吸い取る。道の両側には草原があり、草の葉や花にも蜘蛛が生活している。それを捕虫網ですくい取る。 神社には古木や森林がある。木の枝や葉の下にふろしき状の網をかまえ、小さい棒で枝葉をたたくと蜘蛛が落ちるのをすくい取る。ムクノキやヒノキの樹皮をはいで樹皮の下で生活する蜘蛛を捕らえる。林下には落ち葉が積み重なっている。それを少しずつふるいに入れ、落ち葉の間で生活する蜘蛛をふるい落として捕らえる。 家屋の壁面を観察すると、壁面に巣を作る蜘蛛、走り回って昆虫を捕らえる蜘蛛がいる。うす暗い家屋のすみや縁の下にも蜘蛛が生活している。それらを調査して標本とする。 標本は70%アルコール液浸として保存している。
4.採集目録 Atypidae ジグモ科 1 Atypus karshi
Doenitz ジグモ 日光の直射しない樹木の根元、灯ろう、石垣、塀などの下方に住み、地上と地中に管 状の住居を作る。地上部はこの上を通る昆虫を捕らえるので網の役目をする。地下部は 10cm
ほどの長さの末端が閉じた袋状で、地上部を持ち上げるとジグモを捕らえることができる。山川町ではポケットのことを「たんぽ」と称しているが、「たんぽ、たんぽあがれ」とはやしながらジグモを捕らえ、けんかをさせる遊びがあった(図1)。
 Uloboridae ウズグモ科 2 Uloborus
varians B■s. et
Str. ウズグモ 水平円網を樹下の日かげに張り、中央にうず巻き状のかくれ帯を作る(図2)。
 Pholcidae ユウレイグモ科 3 Pholcus
phalangioides
(F■sslin) イエユウレイグモ 家屋や草間のうす暗い所に不規則な網を作り、人が近づくと網をゆする。 Theridiidae ヒメグモ科 4 Achaearanea
tepidariorum (C.
Koch) オオヒメグモ 屋内に多く、高層ビルの高所にも見られ、新築家屋に真先に侵入してくるのも本種で ある。野外では神社の玉垣、がけのくぼみ、洞穴などにもいる。 5 Theridion
steminotatum B■s. et
Str. ムナボシヒメグモ 体長3mm前後、頭胸部と腹部の斑(はん)紋が特徴的である(図3)。
 6 Enoplognatha
transversifoveata (B■s. et
Str.) カレハヒメグモ 灯ろうなどの隅に、ちりをかためたような不規則網を作る。 7 Anelosimus crassipes
(B■s. et Str.) アシブトヒメグモ 広葉樹などの葉うらに簡単な不規則網を作る(図4)。
 8 Dipoena
mustelina
(Simon) カニミジングモ 落葉などをふるっで採集できる。体長2mm、名前のように微小なクモである。 9 Argyrodes
bonadea
(Karsch) シロカネイソウロウグモ 体長2〜4mm。腹部は美しい銀色。オニグモ、ナガコガネグモ、ジョロウグモ等の巣に住み、宿主の餌(えさ)の余りを食べる。 10 Argyrodes
saganus (D■n. et
Str.) ヤリグモ 造網性のクモの網の主を襲い、ときにまどいする子グモを襲う。 Urocteidae ヒラタグモ科 11 Uroctea
conpactilis L.
Koch ヒラタグモ 家屋の壁、塀、樹幹などの雨のかからぬ所に、白色扁平な住居を作り、通信線を放射状に出し、これに虫がふれるととび出して来て捕らえる(図5)。
 Araneidae コガネグモ科 12 Araneus
Ventricosus L.
Koch オニグモ 体長♀30mm。黒褐色の大型種で、人家付近から山地に至るまで広く住む。毎夕網を張り、朝になるとたたむ習性がある。大型の垂直円網を作る。 13 Neoscona
scylla
(Karsch) ヤマシロオニグモ 体長10〜15mm、山野の樹間に多く、体色には個体変異が多い。 14 Neoscona
scylloides (B■s. et
Str.) サツマノミダマシ 和名はサツマの実(ハゼノキの実)に似ていることから名付けられた。腹部は緑色で、夜間は網の中心に居るが、朝に網をたたみ、昼は葉の裏などに静止している。 15 Neoscona
doenitzi (B■s. et
Str.) ドヨウオニグモ 水田に多く、夏と秋の頃と、年2回発生する。体長7〜9mm。 16 Argiope amoena L.
Koch コガネグモ 全国に最も普通な種で、円網の中心にX字状のかくれ帯をつけ、脚を2本ずつそろえてとまる。鹿児島県の加治木町では、年中行事としてコガネグモを戦わせて遊ぶことで村おこしをしている。 17 Nephila
clavata L.
Koch ジョロウグモ 全身に黄と緑青色の荒い黄縞(しま)があり、成熟した♀の個体の糸器付近は真赤になる。 Tetragnathidae アシナガグモ科 18 Menosira
ornata
Chikuni キンヨウグモ 体長6〜9mm。腹部は長卵形で灰褐色、中央に黄色の斑紋が並び、その周囲は赤色で8の字形の斑紋でふちどりされて美しい(図6)。
 19 Tetragnatha
praedonia L. Koch アシナガグモ 水田や池の辺縁部に多く、水平円網を張り、足が長い。 20 Tetragnatha
maxillosa
Thorell ヤサガタアシナガグモ 腹部は前種より細く、生殖器開口部はずっと後方にある。 21 Tetragnatha
squamata
Karsch ウロコアシナガグモ 体長5〜7mm。背甲、腹部、歩脚が黄緑色のうろこで飾られた美しい種である。 Agelenidae タナグモ科 22 Agelena
limbata
Thorell クサグモ 林間や生垣の間に棚網を作り、棚網の上には多くのたて糸が張られ、入りこんだ昆虫は網に落ちて捕らえられる。8月の頃、多面体の卵のうを作り、親はこれを保護する。 23 Cybaeus
nipponicus
(Yaginuma) カチドキナミハグモ 崖状の地面に小さな棚網を作って住んでいる。 Clubionidae フクログモ科 24 Chiracanthium
japonicum B■s. et
Str. カバキコマチグモ ススキ・イネ等の葉を折り曲げて産室を作る。孵(ふ)化した子グモは母親の体にかじりつき、親は自己の体を子グモに与えて死ぬ。 25 Chiracanthium
lascivum
Karsch ヤマトコマチグモ 前種と同じくススキ・イネ等の葉を巻いて産室を作る。 Gnaphosidae ワシグモ科 26 Zelotes
pallidipatellis (B■s. et
Str.) マエトビケムリグモ 林下の暗い所の落葉をふるいにかけることによって得られる。 Thomisidae カニグモ科 27 Bassaniana
decorata (Karsch) キハダカニグモ 古いクスノキの皮をはぐことにより採集できる。 28 Misumenops
tricuspidatus (Fabricius) ハナグモ 花のかげにひそんで、餌を待ち受ける。 29 Misumenops
japonicus (B■s. et Str.) コハナグモ(図7)
 30 Misumena vatia
(Clerck) ヒメハナグモ 31 Thomisus labefactus
Karsch アズチグモ 以上3種とも花のかげで昆虫を捕らえる。斑紋には個体変異が多い。 Philodromidae エビグモ科 32 Philodromus
aureolus Clerck コガネエビグモ 33 Philodromus auricomus L.
Koch キンイロエビグモ 両種とも木の枝をたたくことによって採集できた。 Salticidae ハエトリグモ科 34 Menemerus
confusus B■s. et Str. シラヒゲハエトリ 家屋の壁や塀をはい回って昆虫を捕らえている。 35 Carrhotus
xanthogramma
(Latreille) ネコハエトリ 木の葉や枝をはい回って昆虫を捕らえている。 36 Phintella versicolor
(C. Koch) メスジロハエトリ 37 Phintella difficilis (B■s. et
Str.) マガネアサヒハエトリ 38 Plexippus paykulli (Audouin) チャスジハエトリ 39 Rhene
atrata (Karsch) カラスハエトリ(図8)
 40 Myrmarachne japonica
(Karsch) アリグモ 以上5種は木の枝をたたいて得られた。 |