阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第40号

由岐町における読書調査

読書調査班(徳島県立図書館)

 新孝一1)・丸川久子1)・松原敦子1)  

 山口洋子1)・長尾由美子1)・

 浜野陵子1)

1.調査の目的と方法について
 調査の目的は、読書と図書館に関する由岐町民の意識と実態を調査することによって、今後の図書館活動推進の参考にするためである。今回の調査では、町内の全小中学生の保護者を対象に「読書と図書館に対するアンケート」を実施するとともに、夏休みにおける児童・生徒の読書冊数についても調査した。また、読書施設の実態を把握するため、「読書に関する座談会」を開き、由岐町教育委員会の代表者と町内の読書会の方々から意見を聞いた。

2.由岐町の概況について
 由岐町は、阿南市と日和佐町にそれぞれ山岳をもって背面し、総面積は23.16平方キロメートル、東西13.6km、南北1.7km と海岸線に沿って細長く伸びている。その82.1%は、山林となっており、平地は少ないが、山と海の雄大な自然に恵まれた町である。
 昭和30年に阿部村と三岐田町が町村合併し、由岐町となり発足した。平成5年9月現在の人口は4,196人で、世帯数は1,432世帯である。新町制施行以来の人口推移は表のとおりである。他の過疎町村と同じように由岐町でも人口減少が続いている。


 由岐町内には、公民館が11館あり、公民館図書室として設置されているのは、中央公民館と木岐、志和岐の各公民館図書室である。中央公民館図書室の蔵書数は約6,000冊である。各図書室には専従者がいないので、申出のあるときだけ開室している。利用者は児童・生徒が大半を占めている。
 また、各小中学校には学校図書室が設置されており、公的な読書施設が身近にないため、比較的よく利用されている。

3.読書と図書館に関するアンケートについて
 アンケートは、平成5年7月に小中学校を通じて各家庭に配付し、その生徒の成人家族を対象とした。回答者の内訳は、表1、図1、2のとおりである。30代・40代の人が回答者の78%を占め、また女性が約60%を占めており、回答者の年代及び性別に偏りが生じている。
 各問ごとに回答の集計を表と図に示し、分析を加えていく。ただし、表中の数は回答数であるため、その総数は必ずしも総回答者数とは一致しない。なお、図中にそれぞれ回答数の回答者数に対する割合(%)を付記した。
 〔回答者の性別・年代別について〕
該当するものに○をつけてください。
 性別 1.男 2.女
 年齢 1.20代 2.30代 3.40代 4.50代 5.60代 6.70代以上

 〔情報源について〕
問1 あなたは、知りたい情報や知識を何から得ていますか。(主なもの二つに○を)
   1.新聞 2.雑誌 3.本 4.テレビ 5.ラジオ 6.その他


分析: 男女共に、情報源としては、新聞・テレビの割合が特に大きく、この傾向は、当班の調査ならびに総理府の世論調査においてもみられる。新聞・テレビが身近にあり、情報が入手しやすく、また迅速性においても優れているからであろう。
 活字資料(新聞・雑誌・本)と非活字資料(テレビ・ラジオ)とに分類した場合、活字資料を情報源とする人が過半数を占めている。

 〔余暇の過ごし方について〕
問2 あなたは、余暇をどのように過ごしていますか。(三つまで○を)
   1.読書   2.テレビ・ラジオ 3.休息(ごろ寝) 4.旅行
   5.スポーツ 6.ショッピング  7.友人との談話  8.映画・ビデオ
   9.ゲーム  10.その他


記述回答:趣味(10)、釣り(9)、菜園・園芸(7)、家事(5)、手芸(3)、パチンコ(2)、カラオケ(2)、遊園地(2)、余暇なし(5)など
分析: 男性は、テレビ・ラジオ、休息(ごろ寝)が群を抜いて多く、以下読書・スポーツと続く。それに対して女性は、テレビ・ラジオが特に多く、以下ショッピング、休息(ごろ寝)、友人との談話、読書と続いている。
 屋内での過ごし方としては、読書は両性ともテレビ・ラジオの3分の1以下となっている。

 〔読書量について〕
問3 あなたは、1か月間に平均何冊本を読みますか。(雑誌・マンガは除く)
   1.1冊以下 2.2冊 3.3冊 4.4冊 5.5冊以上 6.読んでいない


分析: 本を読んでいないと答えた人が3割あるが、残り7割の人がいくらかは本を読んでいる。この比率は、当班の過去の読書調査と比較するとやや高い読書率を示している。
 総理府の『読書・公共図書館に関する世論調査(平成元年6月)』によると「読んだものが特にない」と答えた者は26.0%である。ただし、この世論調査には、雑誌やマンガも含まれている。

 〔読書の目的について〕
問4 あなたは、どんな目的で本を読みますか。(主なもの二つに○を)
   1.本を読むのが楽しい 2.趣味や娯楽に役立てるため 3.教養を高めるため
   4.子どもの教育のため 5.仕事のため 6.家庭教育に役立てるため
   7.健康維持のため   8.その他


記述回答:読まない・時間がない(5)、時間つぶし(2)、項目すべてが目的(1)、知識・情報を得るため(1)、心の豊かさ(1)、ストレス解消(1)
分析: 男女とも趣味・娯楽に役立てるためが最も多いが、男性は仕事のため、教養を高めるためと続くのに対し、女性は本を読むのが楽しい、教養を高めるためと続いている。

 〔本の入手先について〕
問5 あなたは、読みたい本をどこで手にいれますか。(二つまで○を)
   1.書店
   2.公民館図書室
   3.県立図書館
   4.職場
   5.友人
   6.家族
   7.その他


記述回答:他市町村立図書館(4)など
分析: 書店によるとしている人が、全回答者の約85%にも上る。これに対して、公民館図書室や県立図書館などの公共の読書施設を利用する人は1割にも満たない。この理由については、問7において考察したい。

 〔公民館図書室の利用について〕
問6 あなたは、公民館図書室を利用したことがありますか。
   1.ある
   2.ない


分析: 公民館図書室を利用したことがある人は、全体の約4分の1にとどまっている。男女別に見てみると、女性(28.3%)の方が男性(16.6%)より多く利用している。

 〔公民館図書室を利用しない理由〕
問7 (問6で、2に○をつけた人に)どのような理由で、公民館図書室を利用しないの   ですか。(二つまで○を)
   1.利用したい本がない(少ない)
   2.開館時間中に利用できない
   3.設備や快適さに欠ける
   4.本は買って読みたい
   5.近くに公民館がない
   6.その他


記述回答:知らない・どこにあるかわからない(4)、暇がない(3)、本を読まない(3)、専門書がない・少ない(2)、行きたくない(2)、面倒(2)など
分析: 男女ともに開館時間中に利用できないという理由を選んだ人が最も多い。次いで、利用したい本がない(少ない)、近くに施設がない、がほぼ同数で続いている。これらのことから、住民の身近に、利用しやすい開館時間の読書施設があれば、多くの住民の利用が見込まれる。

 〔子どもの読書に対する期待〕
問8 あなたは、お子さんの読書に何を期待しますか。(二つまで○を)
   1.子ども自身が楽しんで読めること
   2.創造力を養い、心を豊かにすること
   3.知識を増し、視野を広げること
   4.文字がよく読め、読解力を増すこと
   5.本をきっかけにして親子の交流をはかること
   6.子どもの読書にあまり関心がない
   7.その他


分析: 父親は、知識を増し・視野を広げることを最も多く挙げ、次いで、子ども自身が楽しんで読めること、創造力を養い・心を豊かにすることを挙げている。母親では、子ども自身が楽しんで読めることと創造力を養い・心を豊かにすることを選んだ人が6割を越えている。

 〔COMET について〕
問9 家庭からパソコン等を通じて、県立図書館等の情報を利用できる徳島県文化情報システム(COMET)が、平成2年から稼働していますが、あなたはこのことについてご存じですか。
   1.知っている
   2.知らない


分析: 知っていると答えた人は1割にも満たない。COMET は、パソコン等を通じて県立図書館の蔵書や、文化の森総合公園内の施設の情報を公開するものであるが、大半の町民がその存在を知らないということは、PR 不足を痛感せざるを得ない。今後、より一層の広報活動が必要と考えられる。

 〔読書施設への期待〕
問10 県内には19市町村に図書館がありますが、あなたの町については、どうお考えですか。
   1.町立図書館の設置
   2.公民館図書室の整備・充実
   3.読書施設を整備する必要はない
   4.その他


分析: 男女共に公民館図書室の整備・充実を望む声が43.7%と最も多く、次いで、町立図書館の設置が24.4%となっている。公民館図書室の充実と図書館設置の比率は前回調査の三好町で35.2%:39.5%、前々回の半田町で21.3%:58.8%なっており、いずれも図書館設置を望む意見が多かった。
 ところが由岐町においては公民館図書室の整備・充実を求める声の方が多いが、これは、町立図書館についての適切なモデルが身近になく、公民館図書室と町立図書館との違い、つまりその限界と可能性についてあまり知られていないことが原因だと思われる。

 〔希望・要望について(記述式)〕
問11 あなたは読書に関して、町(教育委員会)や県立図書館に何を望みますか。
 ・町(教育委員会):本の数や種類を増やしてほしい(44)、町立図書館を設置してほしい(15)、気軽に利用できるようにしてほしい(13)、開館時間を延長してほしい(10)、設備を良くしてほしい(10)、図書室の整備・充実(7)、近くに施設がほしい(5)、本の紹介・PRをしてほしい(4)、司書・専従職員を配置してほしい(3)、移動図書館をしてほしい(2)、蔵書をわかりやすく分類・整理してほしい(2)
 ・県立図書館   :本を増やしてほしい(6)、移動図書館をしてほしい(5)、分館を設置してほしい(3)、PR・広報活動をもっとしてほしい(3)、市町村への配本を増やしてほしい(2)、開館時間を延長してほしい(2)、遠隔地への郵送貸出をしてほしい(1)、市町村図書室の整備・充実をはかってほしい(1)、遠いので利用したことがない・できない(7)
分析: 町(教育委員会)に対しては、他の町村と比べると、町立図書館を設置してほしいというはっきりした要望はやや少ない。しかし、資料の充実や開館時間の延長、職員の配置、設備の問題など、公民館図書室よりも町立図書館でなければ実現しにくい要望が多く出されており、町立図書館設置への要望は低いとはいえない。
 県立図書館に対しては、遠いので利用したことがない、できないという意見が多い。

4.児童の読書冊数調査について
 平成5年9月に、由岐町の小中学校において、「あなたは夏休みに何冊本を読みましたか」という質問で、先生方に読書冊数を調べていただき、小学1年生から中学3年生まで、ほぼ均等に計400名の回答を得ることができた。質問にはあらかじめ六つの選択肢を用意し、該当する項目に挙手してもらう方法をとった。
 中学生より、小学生の方が読書冊数が多く、「読んでいない」という小学生も少なかった。男女別にみてみると、女子の方がやや読書冊数が多いようであった。

5.読書に関する座談会
   日 時  平成5年7月27日 午後1時〜午後3時
   場 所  由岐町中央公民館図書室
   出席者  由岐町教育委員会 1名、 つばき会 3名、 読書調査班
 町の公民館図書室については、専従者がいないので入口に案内板を掲示し、申出のある時だけ開室しているという現状である。資料の充実も必要だが、まず専従者をおいてほしいという意見がでた。
 町内にある書店は、おもに予約販売の図書を扱っており、読みたい本を手に入れにくい。また、仕事に従事している人は公民館に出かける時間もなく、近隣の大きな書店に出かけ、自分で購入する場合が多いようである。身近に利用しやすい読書施設を望む声もでた。
 また、町内の読書会である「つばき会」の活動についても話を聞いた。「つばき会」は、会員は22名で、年齢は、55〜65才位である。毎月1回、23日(ふみの日)に例会を開き、各自が自由に好きな本を読んで感想を述べ合っている。年1回、文集を発行している。

6.まとめ
 今回の由岐町における読書調査では、前年度の三好町や前々回の半田町に比較して、際立った特徴や特筆すべき事項はとくには見当たらない。むしろ調査結果からみるかぎり、どこにでもある典型的な農山漁村の読書環境が浮かび上がってきており、その意味では平凡な内容であるといえる。
 調査結果と図書館未設置の関連性について若干触れておきたい。公的な読書施設である図書館は現代社会においてはすべての自治体が等しく設置し、その活動の充実を図ることはきわめて当然のことである。しかし現実には由岐町をはじめ、図書館未設置の自治体が徳島県下にもかなり存在している。
 総理府の世論調査によれば、最近一年間に図書館をまったく利用しなかった人は総数の75.3%である(『読書・公共図書館に関する世論調査』平成元年6月)。大都市では公共図書館の設置率は100%であるが、それでも大都市において図書館を利用しない人は72.1%にものぼっている(同上調査)。ましてや図書館が設置されていない由岐町の住民にとっては、図書館の確かなイメージがつかめていないと思われるので、したがってアンケート問10への回答において、町立図書館設置よりも公民館図書室の充実を望む声が多かったのは、ある意味では仕方のないことであろう。
 もとより公民館図書室を充実することは必要なことであるが、しかし、ただ単に公民館図書室を充実するだけでは、公共図書館の代替にならない。このことは既に他町村の経験で実証済みである。職員体制、図書購入予算、施設設備など抜本的に見直し、一定水準以上の図書館の設置が望まれている。由岐町にも近い将来に、町民に親しまれる本格的な図書館が必ず設置されることを期待したい。

1)徳島県立図書館


徳島県立図書館