阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第40号

「道徳的社会化」の態様と教育構造に関する調査研究

教育社会学班(徳島教育社会学会)

 伴恒信1)・三木弘幸2)・武市芳美3)・

 吉田恵子4)

1.はじめに
 現在、子どもの不登校、いじめ、校内暴力などが社会問題となっている。このような子どもの反社会的・非社会的行動はますます複雑化、深刻化している。
 子どもは、意識するしないにかかわらず周囲の環境からさまざまな影響を受けて、社会化され、その人格を形成していく。道徳的社会化は子どもの人格形成と深いかかわりをもつ。子どもの道徳的社会化に重要な役割を果たすのは、子どもを取り巻く身近な環境である家庭や学校、地域である。特に、保護者のしつけは道徳的社会化に大きな影響を与えていると考えられる。ところが、保護者と子どもの意識のズレが大きく、しつけを困難にしている。そこで、保護者と子どもの意識の実態を明らかにするためにこの調査を実施した。

2.調査の概要
 調査対象は、由岐町の小学生(4、5、6年生)、中学生(1、2、3年生)と小学校、中学校の保護者全員である。各学校に質問紙を配布し、自記式調査で、平成5年7月上旬から中旬に実施した。
 質問紙の内容は、日常生活の様子、家族について、学校生活、自分自身について、地域生活に関するものである。

3.調査結果
(1)自己イメージ
 子どもの抱く自己イメージは、社会や学校、家庭による社会化の結果であるともいえる。ここでは、小学生と中学生の自己イメージを比較し、どのような意識の違いがあるのかをみてみる。
小学生と中学生に対して「あなたは自分のことをどう思っていますか」という質問をした。その結果をグラフにしたのが図1である。16項目について、それぞれ「とても思う」「少し思う」「あまり思わない」「全然思わない」の4つのうちからあてはまるものを選ぶという形で答えてもらった。ここには「とても思う」あるいは「少し思う」と答えたものを加えた割合を示した。


 小学生、中学生ともに回答の割合が最も高いのは「友だちを大切にする」、ついで「友だちと協力するのが好き」「友だちに負けるのが嫌い」の順になっている。小学生、中学生ともに友だちに関する事柄の割合が高いことがわかる。このことから友だちに関心が高いことが推測される。一方、自分自身のことについては小学生・中学生ともに自己を肯定的にみる項目に答えた割合が低くなっている。「勉強ができる」と答えたのは、小学生が約3割、中学生が約1割であった。「性格がいい」「友だちに信用されている」でも3割程度のものしか答えていない。「友だちを大切にする」と答えているのに、「友だちに信用されていない」と感じている子どもが多いことがわかる。特に中学生は、小学生よりも自分に対する評価が低いことがわかる。
 小学生と中学生の全体的な傾向はよく似ているが、細かくみると次の5項目では差(10%以上)がみられた。「勉強ができる」(小学生32.6% 中学生10.9%)「友だちに信用されている」(小学生34% 中学生23%)「何でも自分からする」(小学生43.7% 中学生33.1%)「自己中心的である」(小学生46% 中学生35.8%)の4項目で小学生の方が、「テレビや人の影響を受けやすい」(小学生39.2% 中学生52.7%)の項目で中学生の方が高くなっている。

(2)基本的生活習慣について
 日常生活の中で、子どもはどのくらい基本的な生活習慣を身につけているのだろうか。また中学生と小学生ではどのような違いがあるのだろうか。それらを明らかにするために基本的生活習慣について8項目の質問をした。それぞれの質問に「いつもしている」「だいたいしている」「あまりしていない」「ほとんどしていない」の四つからあてはまるものを選んでもらった。その中から「いつもしている」と「だいたいしている」と答えた割合をたし、中学生について多い順に並べ、グラフにしたのが図2である。


 グラフより「時間を決めてテレビを見る」以外は中学生、小学生とも過半数のものが基本的な生活習慣を身につけていることが読み取れる。答えた割合が高いのは、中学生では「身ぎれいにする」(90.5%)、ついで「自分の着る服を用意する」(85.1%)であった。それに対して、小学生では「時間割をする」(95.6%)が最も高く、ついで「きちんと勉強する」(86.6%)であった。
 中学生と小学生の差は「きちんと勉強をする」では33.2%、「時間を決めてテレビを見る」では19.5%であり、どちらも小学生の方が高かった。この2項目では中学生と小学生の差は大きかったが、他の項目での差は小さかった。また、「身ぎれいにする」「自分の着る服を用意する」を除く全ての項目で、小学生の方がわずかに高くなっている。

(3)家庭生活について
 家庭の雰囲気や様子を明らかにするために、保護者、中学生には「どのような家庭でしょうか」、小学生には「家のことについて答えてください」という質問をした。
 保護者、中学生、小学生の3者に7項目についてそれぞれ「そうである」「だいたいそうである」「あまりそうでない」「ぜんぜんそうでない」の四つからあてはまるものを選んでもらった。その中から「そうである」あるいは「だいたいそうである」と答えた割合をたしたグラフが図3である。


 このグラフより、保護者、中学生、小学生間の意識の差は「家事はみんなで分担している」を除いて少ないことがわかる。「家事はみんなで分担している」では小学生の答えた割合が高くなっているものの、3者の家庭についてのとらえ方はよく似ている。家事は一部のものが行っているようだ。また、「そうである」あるいは「だいたいそうである」と答えたものを加えた割合は「家事はみんなで分担している」と「近所の目を気にする」を除いて、3者とも過半数であることが読み取れる。しかし、「近所の目を気にする」はもっと高い割合を示すと思っていたが、予想に反して低かった。以上のことから、全体的にみて3者とも家庭の雰囲気や様子がよいと考えていることがわかる。

(4)しつけについて
1 しつけ(一般)
 家庭でのしつけについて、保護者と子どもはどのように考えているのだろうか。保護者には「家庭では、どのようなことをお子さんによく言いますか」、子どもには「家庭ではどのようなことをよく言われますか」という質問をし、それぞれ16項目の中から3項目を選んでもらった。その中から保護者の答えた割合の高い12項目を選んで比較したグラフが図 4である。


 保護者の回答の割合が最も高かったのは「身の回りの整理・整頓のこと」(9.6%)、ついで「言葉づかいやあいさつのこと」(8.8%)である。中学生、小学生で回答の割合が最も高かったのは「勉強のこと」(中学生16.3%、小学生14.2%)である。保護者では項目間の差が少なくなっているが、子どもでは各項目により差がみられる。子どもの回答の割合の最も高かった項目(「勉強のこと」)と最も低かった項目(「交通ルールを守るということ」)との差は顕著である。また、「勉強のこと」と答えた子どもの割合は、保護者の2倍以上である。子どもの回答は「勉強のこと」に大きく集中している。
 このことより、保護者は勉強だけでなく、勉強以外のしつけも重視していると考えているが、子どもはそのように受け取っていないということがわかる。
2 しつけ(具体的な言葉)
 しつけについて、保護者(子ども)に具体的な言葉を9項目あげて質問した。その中から、「よく言う」あるいは「ときどき言う」(「よく言われる」と「ときどき言われる」)と答えたものの割合をたし、保護者について多い順に並べたものが図5である。


 保護者、中学生、小学生とも回答の割合が最も高かったのは「テレビばかり見ないで勉強しなさい」であった。3者とも上位三つが「勉強をしなさい」に関する項目であった。「…(人)に」という項目に回答した割合は、3者とも勉強に関することより低かった。そして、4、5、8の項目で、保護者と子どもの意識に差がみられ、保護者は、他の人と比べるようなしつけの言葉はあまり使っていないと思っているが、子どもは保護者が思っている以上に他の人と比べられていると感じているといえる。

(5)将来の人間像
 ここでは、子どもが望む将来の人間像と保護者が子どもに望む将来の人間像を比較し、意識の違いをみてみる。中学生には「あなたは、将来どんな人間になりたいですか」、保護者には「お子さんに将来どのような人になってほしいですか」という質問をし、それぞれ16項目の中から3項目を選んでもらった。保護者の答えた割合の高い10項目を選んで中学生の結果と比較したのが図6である。


 保護者は、高いほうから「社会人としての良識をわきまえた人」(67.8%)「性格がよい」(39.8%)「仲間や友達の多い人」(39.8%)の順である。一方中学生は、高いほうから「性格がよい人」(52.7%)「幸せな家庭を築き、いい親になれる人」(48.0%)「仲間や友達の多い人」(35.8%)の順になっている。
 特に、「社会人としての良識をわきまえた人」で保護者は67.8%と最も高いのに対し、中学生は23.6%と保護者の約3分の1でしかない。また、「世間に迷惑をかけない人」という項目でも同じように保護者の約3分の1となっている。「平凡な人」という項目では、保護者は4.9%であるのに対し、中学生は15.5%と保護者の3倍以上の比率のものがなりたいと答えている。中学生が望む将来の人間像で「性格がよい人」が52.7%と最も高くなっているのは、自己イメージのところで自分の「性格がいい」と答えた割合が27.4%と低かったことと関連していると考えられる。
 図6から、保護者と子どもが望む人間像が明らかになった。それでは子どもは身近な大人である保護者のことをどのように思っているのだろうか。
 小学生と中学生に対し「お父さんやお母さんのようになりたいですか」と尋ねた結果を比較したグラフが図7である。「とてもなりたい」あるいは「まあまあなりたい」と答えたものを加えた割合は、小学生が55.8%、中学生が27.9%となっている。小学生の半分以上が保護者のようになりたいと答えている。中学生は小学生よりは低いが、それでも約3割のものが保護者のようになりたいと答えている。

(6)希望する学歴
 ここでは、子どもが望む学歴と保護者が子どもに望む学歴についてみていくことにする。
 保護者に対し「あなたは、お子さんにどの程度の教育を受けさせたいと思っていますか、男女別にお答えください」と質問した結果をグラフにしたのが図8である。


 子どもに受けさせたい教育は高いほうから、男子は「大学まで」(64.9%)「高校まで」(12.0%)「専門学校まで」(6.7%)の順に、女子は「大学まで」(32.4%)「短大・高専まで」(28.4%)「高校まで」(19.6%)の順になっている。男子、女子ともに最も高いのは「大学まで」であり、子どもにできるだけ高い教育を受けさせたいと考えているようである。しかし、男女別にみてみると男子は64.9%、女子は32.4%と保護者の男女に希望する学歴に明らかな差が表れている。
 中学生自身はどのように考えているのだろうか。中学生に対し「あなたは、どの学校まで行きたいと思っていますか」と質問した。図9は、その結果を男女別にグラフにしたものである。


 このグラフをみると、どの項目も男子と女子の答えた割合にかなりの差があることがわかる。「大学まで」(男子40.8%、女子28.4%)と「高校まで」(男子40.8% 女子25.8%)では男子が高く、「短大・高専まで」(男子9.2%、女子16.4%)や「専門学校まで」(男子3.9%、女子26.8%)では女子の方が高くなっている。男子、女子ともに答えた割合が最も高いのは「大学まで」である。高校より上の学校への進学を希望する割合は女子の方が高いという結果がでている。それは、男子に比べて「短大・高専まで」「専門学校まで」の割合が高いからであり、「大学まで」と答えた割合は明らかに男子が高い。これらの結果は、保護者の意識と似ていることから、保護者の意識が子どもに反映していると推測できる。
 希望する学歴と学校の成績には関係があると思われる。そこで、中学生の成績の自己評価と希望する学歴の関係をみてみることにした。
 「あなたの成績はどのくらいですか」という質問をし、「上」「中の上」「中」「中の下」「下」の5段階で答えてもらった。図10は、希望する学歴を成績の自己評価別にみたグラフである。


 「高校まで」と「大学まで」に興味深い結果がみられる。「高校まで」では、成績の自己評価が低くなるほど希望する割合が高くなっている。逆に「大学まで」では、成績の自己評価が高くなるほど希望する割合が高くなっている。

(7)通塾率
 学校の成績と塾との関係をみるために、小学生と中学生に対し「学習塾に通っていますか」という質問をした。
 「はい」と答えたのは小学生の平均が45.2%、中学生の平均が65.6%となっており、小学生よりも中学生のほうが多く学習塾に通っていることがわかる。また、それを学年ごとに見てみると、図11のような結果になった。小学校、中学校を通して学年が上になるほど塾に通う割合が高くなっていることがわかる。


 通塾率を男女別にみてみると小学生には特に差はみられないが、中学生では「はい」と答えた割合が男子で59.7%、女子で75.9%と顕著な差がみられた。このことから、男子より女子の方が勉強への関心が高いことがわかる。
 また、中学生について通塾率を成績の自己評価別に表したグラフが、図13である。


 グラフから「上」、「中の上」と答えている者の80%以上が塾に通っている。成績が良いと考えている子どもの多くが塾に通っており、成績が悪いと考えている子どもの塾に通う割合は低いことがわかる。

(8)いじめについて
 いじめについてどの程度の不安を感じているかを、保護者、中学生、小学生の3者についてみてみる。
 保護者に対しては「子どものいじめについて不安を感じているか」また、中学生、小学生には「自分がいじめにあうことがあると思うか」という質問をした。子どもたちの回答をまとめたものが、図14である。「ある」あるいは「たぶんある」と答えたものを加えた割合は、中学生では32.4%、小学生では51.8%であった。「ない」あるいは「たぶんない」と答えたものを加えた割合は、中学生では35.1%、小学生では20.0%であった。半分以上の小学生は、自分がいじめにあうことがあると思っている。また、小学生の方が中学生よりいじめにあうと思っている割合が高かった。一方、保護者(図15)は、「とても感じる」あるいは「少し感じる」と答えたものを加えた割合は36.7%で、「あまり感じない」あるいは「ぜんぜん感じない」と答えたものを加えた割合は63.2%であった。


 このことから、保護者は子どもと比べていじめについて楽観的なこと、中学生より小学生の方が、いじめに対する不安を感じていることがわかる。

(9)地域について
 中学生と保護者に対し「あなたの住んでいる地域のどのようなことを誇りに思っていますか」という質問をした。それに対して「とても思う」あるいは「少し思う」と答えたものを加えた割合を比較したグラフが図16である。


 このグラフをみると上位三つは中学生、保護者とも「自然が豊かで美しい」「住民の人柄がよい」「住民どうしのつながりが深い」となっており、保護者、中学生ともに自然環境や住民との関係を肯定的にとらえ、誇りに思っていることがわかる。一方、「産業が発展している」「観光やレジャーに適している」「教育が充実している」「住民の意見が政治に生かされている」等の項目に答えた割合は低くなっている。
 「歴史があり伝統が生きている」(中学生39.8%、保護者22.9%)「産業が発展している」(中学生31.7%、保護者5.7%)「住民の意見が政治に生かされている」(中学生18.0%、保護者6.7%)の3項目では中学生が、「施設や設備が整っている」(中学生20.3%、保護者39.6%)の項目では保護者が選んだ割合が高くなっており、両者の間に差がみられる。
 しかし、全体的に保護者と中学生の地域に対する意識は似ているといえる。

4.おわりに
 今回の調査から、保護者と子ども、中学生と小学生のそれぞれに、意識の共通点や相違点があるという実態をつかんだ。
 保護者と子ども(保護者と中学生)の全体的な傾向がよく似ていたのは、「家庭生活について」、「しつけ・2 具体的な言葉」、「地域について」と「希望する学歴」であった。保護者と子ども(保護者と中学生)の意識にズレや違いがあったのは、「しつけ・1 一般」、「いじめについて」と「将来の人間像」であった。
 中学生と小学生の全体的な傾向がよく似ていたのは、「自己イメージ」、「基本的生活習慣」、「家庭生活について」と「しつけ(1 一般・2 具体的な言葉)について」であった。中学生と小学生の意識にズレや違いがあったのは「両親のようになりたいか」と「いじめについて」であった。

1)〜4)鳴門教育大学


徳島県立図書館