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我々医学班は阿波学会総合学術調査の一環として農学医学班の調査と並行し、山岐町農業及び漁業従事者の栄養調査を実施した。由岐町は徳島県の南西部に位置しており、前面は太平洋を臨み、東は紀伊水道を経て和歌山に面している。北は阿南市と日和佐町にそれぞれ山岳をもって背面し、東西13.6km、南北l.7km、総面積23.31平方キロメートルと海岸線に細長く伸びている。この町は人口約4,500人で、産業は漁業、水産養殖業や農業が多いことが特徴である。 今回、ここに存在する農業及び漁業従事者の食物摂取量、生活時間、みそ汁塩分濃度及びアンケート調査を実施したので報告する。 〈調査方法〉 1)対 象 徳島県由岐町農協及び漁協に加入している農業及び漁協従事者のうち、男性81名、女性100名の計181名に対して栄養調査を実施した。年令は30歳代から70歳代で、平均年令は男性58歳、女性57歳であった。 2)期 間 平成5年8月4日から8月7日までの4日間にわたり実施した。 3)調査項目 a)栄着素摂取量 調査を行う数日前に食事調査表を各自に配布し、調査の前日に摂取した食物の種類と目安量を記入してもらい、調査日に持参するように依頼した。調査日には個々の面接により食品モデルを提示し、各自が記人した食品目安量を調査員が再確認した上でグラム数に換算した。栄養素摂取量および食品群別摂取量は、当班で作成したプログラムによりパーソナルコンピューター(日本電気PC−9801RA)を用い算定した。 b)生活時間調査 食事調査日の生活時間を記入してもらい、面接時に調査員が不明確な点を再確認し、生活時間の算定を行った。消費エネルギーの算出は沼尻らの方法(23、24)を用いた。各労作の活動代謝は、以前の報告(1−21)と同様の値を用いた。 c)みそ汁の塩分濃度 調査日に持参してもらったみそ汁について、ケニスデジタル塩分計により塩分濃度を測定した。 d)アンケート調査 アンケート用紙を各自に配布して記入を依頼し、面接時に調査員が不明確な点をもう一度確認したうえで、各回答を得た。 〈結果および考察〉 食糧構成および栄養摂取量の各グラフは、被検者全体(全体)および男女別の平均値で示した。 1)由岐町農業及び漁業従事者の食糧構成 由岐町農業及び漁業従事者の食品群取量は、「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)(25)を100%として図1に示した。穀類、小魚・海藻類は目安量をやや下回る程度であったが、油脂類、いも類はかなり低い値を示した。たん白質源である豆類、卵類、乳類、魚類、肉類は目安量を充たしていた。ビタミン源である緑黄色野菜は、よく摂取されており果実類、淡色野菜類も摂取されていた。 2)年齢別にみた食品群別摂取 「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)を100%として各食品群別の摂取量を30−49歳、50−59歳、60歳以上に分けて検討した。穀類の摂取は、全体的に目安量をやや下回っていた(図2)。いも類では、特に30−49歳において、目安量の40%程度しか摂取していなかった(図3)。砂糖類は、全体的に摂取量は低かった(図4)。油脂類は摂取量が低く、特に50歳以上においては目安量の半分程度でしかなかった(図5)。 たん白質源のうち、豆類は、全体的にやや不足気味であった(図6)。魚類は、各年齢層とも目安量の2倍程度を摂取していた(図7)。肉類は、30−49歳でよく摂取されているが、50歳以上においては目安量を下回っており年齢による差が大きかった(図8)。卵類は全体的によく摂取され(図9)、乳類も全体によく摂取されており、特に50歳代までの女性は目安量の3倍以上であった。 ビタミン源である緑黄色野菜は全体的によく摂取されているが、30−49歳では低い傾向にあった。淡色野菜については30から50歳代で目安量をやや下回っていた(図11)。また果実類は50−59歳でよく摂取されていたが、それ以外の年齢層では不足気味であった(図13)。 ミネラル源である小魚・海藻類は、60歳以上ではほぼ目安量を摂取していたがそれ以下の年齢層では半分も摂取されていなかった(図14)。 3)栄養摂取量 日本人の栄養所要量(第4次改訂)(26)を100%としたときの由岐町農業及び漁業従事者の平均栄養摂取量の比率(%)を図15に示した。脂肪以外は、全般的によく充足されており、たん白質もよく摂取されていた。たん白質のうち動物性たん白質が多いのは、魚類や乳類の摂取が多かったためと思われる。また、ビタミンCは緑黄色野菜の摂取が多かったためか、高い値を示した。 4)年齢別にみた栄養摂取量 栄養素摂取状況においては年齢の違いによる差はあまり見られず、どの栄養素も比較的充足されていた(図17〜図27)。男女間の比較では、鉄において女性の方が充足率を下回っていた(図22)。 5)みそ汁の塩分濃度 図31は、みそ汁の塩分濃度を測定し、その濃度の度数分布を示したものである。塩分濃度は、男女とも0.8〜1.0%がピークで、全体の65%以上の人が推奨濃度である1.0%以下であった。また一日の食塩摂取量は11.1g
で全国平均をやや下回っているものの、厚生省の推奨値である「10g
以下」よりは多く、指導による改善が望まれる。 6)アンケート調査結果 食物摂取調査は一日の結果であるので、食生活の全貌をとらえるべく、栄養意識および食物摂取頻度について調査した(図32)。 食品の組合せを考えている人は、女性が男性の2倍近くあり、女性の方が栄養意識は高いと考えられる。緑黄色野菜をよく食べると答えた人が多かったが、これは実際の調査結果と一致していた。男女とも約半数の人が食事はいつも腹一杯食べると答え、7〜8割の人が間食をすると答えたのに対して、問題となる様な過食及び欠食をする人は少なく、全般に良好な結果であった。 〈まとめ〉 由岐町農業及び漁業従事者の食生活は、食品群別摂取量、栄養素別摂取量ともに一部のものを除いてよく充足されており、問題となるような過剰摂取もみられず、エネルギーバランス(表1)も良好であった。しかし、油脂類については、全体的に男女とも目安量の約半分と低く、このことは、油を使った料理が少なかったためと思われる。たん白質についてみると、由岐町は沿岸地区ということもあり、魚類に依存した動物性蛋白が多かった。 これは、交通機関や流通機構が発達したとはいえ、なお地形・地域性に起因した特性が保持されているものと思われる。また、図33のように過去に行った県下の栄養調査で、1日あたりの魚介類摂取状況をみると、平野部や山間部に比べて、沿岸部である牟岐および由岐町住民で多く摂取されていることが分かる。図34、35は栄養調査に加わった被検者の県下各地域における高血圧発症(160/95mmHg)、および保健所資料に基づく脳出血死亡率(標準化死亡比)を示しているが、高血圧発症、脳出血死亡率とも平野部や山間部よりも、魚介類を多く摂取している沿岸部の牟岐、由岐町で少なかった。このように魚介類摂取の割合が沿岸部(牟岐、由岐)において約2倍と高く、その沿岸部において、高血圧性の疾患が少なかったことは、注目に値する。しかし、今回の由岐町の調査では、小魚・海藻類の摂取は全体的に低く、カルシウム摂取の点からも摂取量を増やす必要がある。 野菜類は、全体的にみると夏場ということもあってよく充たされていた。特に、緑黄色野菜については十分に摂取されており良好な結果となったが、野菜の収穫量の少ない季節についても摂取するように心がけなければならない。 一日の食塩摂取量は、全体でみると11.1g と全国平均値をやや下回っているものの、厚生省の推奨値である「10g
以下」よりやや高く、また個人差も大きかったので、成人病との関連からも栄養指導の必要がうかがわれた。
〈参考文献〉 1)手塚朋通ら:脇町地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、19,57,1973 2)高橋俊美ら:宍喰地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、20,73,1974 3)中西晴美ら:上勝町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、21,103,1975 4)上田伸男ら:神山町の栄養調査、郷土研究発表会紀要、22,191,1976 5)鈴木和彦ら:牟岐町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、23,143,1977 6)山本 茂ら:山城町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、24,131,1978 7)鈴木和彦ら:市場町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、25,123,1979 8)森口 覚ら:池田町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、26,183,1980 9)高間重幸ら:上板町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、27,79,1981 10)黒田耕司ら:貞光町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、28,151,1982 11)角田みどりら:鷲敷町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、29,131,1983 12)河村純夫ら:鴨島町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、30,83,1984 13)近藤孝司ら:羽ノ浦町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、31,87,1985 14)戸羽正道ら:石井町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、32,121,1986 15)吉岡あや子ら:海部町・海南町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、33,147,1987 16)小林直道ら:板野町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、34,97,1988 17)久木野憲司ら:上那賀町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、35,89,1989 18)栢下 淳ら:土成町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、36,109,1990 19)植山篤則ら:松茂町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、37,87,1991 20)新居佳孝ら:半田町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、38,105,1992 21)前川敬世ら:三好町農業従事者の栄養調査、郷土研究発表会紀要、39,121,1993 22)鈴木 健ら:公衆栄養、医歯薬出版、1981 23)沼尻幸吉:働く人のエネルギー消費、労働科学研究所、1980 24)沼尻幸吉:活動のエネルギー代謝、労働科学研究所、1987 25)速水 泱:栄養所要量の改訂に伴う食品群別摂取量の目安の私案、栄養学雑誌、43,209,1985 26)厚生省保健医療局健康増進栄養課:日本人の栄養所要量(第4次改訂)、第一出版、1990 27)厚生省保健医療局健康増進栄養課:国民栄養の現状(平成3年度)、第一出版、1991 28)森口 覚ら:農業従事者(徳島県下)の栄養摂取と身体状況、栄養と食糧、33,335,1980 29)森口 覚ら:地域別(徳島県下)にみたみそ汁中の塩分摂取量、医学と生物学、104,27,1982 30)Kishino
Y et al:Preventive effect of fish-rich diet on hypertensive diseases:
nutrition survey in Tokushima., Tokushima J. Exp. Med., 35, l07,
l988 31)岸野泰雄ら:地域別にみた徳島県内住民の栄養摂取と身体状況との比較―とくに高血圧を中心に―、阿波学会30年史・記念論文集、125-135、1985
1)徳島大学医学部 2)福岡県立大学

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 


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