阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第40号

由岐町のザトウムシ

博物班(徳島県博物同好会)

           冨島啓次1)

ザトウムシは蛛形綱に属する動物で、真正グモに似ているが、いろいろな違いがある。
まず、糸腺がなく糸をださない。頭胸部と腹部とが幅広く接していてくびれがはっきりしていない。また腹部は例外なく体節構造がある。クモと同じく4対の歩脚をもつが、第2歩脚が最も長く、これを触角のように使い、前方をさぐりながら歩く。この歩行の仕方からザトウムシのことを、別名メクラグモともいうが、頭胸部には眼丘がある。
 クモのように、たくましい生活力はなく、乾燥に弱い。湿度の安定した、森のような環境でないと生息できないものが多い。
 由岐町も県内の市町村と同様、山地まで道路が整備され、自然林はほとんど無くなっている。そのためか、種類数も、個体数も少ない。調査は、不十分ではあるが、1993年の7〜10月の期間に由岐町で見られたザトウムシの記録として、以下の2科7種を報告する。

 OPILIONES ザトウムシ目

 Phalangodidae アカザトウムシ科
1.Epedanellus tuberculatus Roewer オオアカザトウムシ
 '93.7.29.阿部,お水荘前の林.'93.10.17.阿部,鹿ノ首岬.
 眼丘に1本の長い棘をもつ。体色は燈赤色で、頭胸部には黒色の網状斑が、背甲には黒色の横斑がある。鋏角は雄では大きい、触肢もよく発達して棘が多い。
 朽ち木、石の下などで生息している。
2.Pseudobiantes japonicus Hirst ニホンアカザトウムシ
 '93.7.27.田井,白鳥神社.'93.10.16.阿部,宮内神社.
 形、色とも、前種によく似ているが、すこし小型である。鋏角、触肢もよく発達している。
 生息場所も前種と同様な所であるが、県内では、前種よりも個体数は多い。

  Phalangiidae マザトウムシ科
3.Leiobunum japonense japonicum (Suzuki) オオヒラタザトウムシ
 '93.7.28.'93.7.29.伊座利,明神山.
 体長は、雌では10mmにもなる大型種である。体は扁平である。脚は太くて丈夫である。
体色は暗褐色で濃淡の斑紋が混じりあっている。倒木や湿った岩肌などにすむ。明神山のような低木林では珍しい。
4.Leiobunum japonicum japonicum Suzuki モエギザトウムシ
 '93.7.29.伊座利,明神山.
 体長は小さく、雄で3mm 足らず、雌でも4.5mm 程度である。脚は細長くきゃしゃな感じである。体の腹部下面は淡いもえぎ色で、背面は暗褐色の斑紋がある。
5.Metagagrella tenuipes tenuipes (L. Koch) ヒトハリザトウムシ
 '93.7.27.西由岐.'93.7.28.志和岐.'93.7.29.阿部,鹿ノ首岬.
 体長は4.5〜5.5mm くらいの中形種である。背甲に短い棘が1本ある。背面は黄褐色で、黒い鞍状斑がある。
 海岸性で、内陸部には見られない。海岸の岩のくぼみに数十匹の個体が互いに組み合った形で群れている。動きは敏しょうで、手を伸ばすと逃避し、ハマアザミの茂みなどに身を隠す。砂浜のごみの影などにも多数群れていた。
 7月の調査では、上記の個所でいずれも多数の個体数が見られたが、10月の調査では姿を消していた。
 この種は、徳島県では、少なくなったが、本州、四国、九州は屋久島まで、海岸には普通に見られる種である。北海道には別亜種がいる。
6.Gagrellula sp.
 '93.7.29.阿部,お水荘前の林.'93.7.29.伊座利,明神山.
 阿南市の太龍寺などで見られるクロオビザトウムシの近似種であるが、全身がほとんど黒く、区別は簡単である。県内では、標高800m までの低い所にすむ。
7.Systenocentrus japonicus Hirst ゴホンヤリザトウムシ
 '93.7.29.阿部.
 体長は比較的小さく、成虫の雌でも4mm 程度である。体色は、完熟すると黒くなるが、幼虫は薄い灰色である。成虫がいてもおかしくない時期であったが、今回の調査では幼虫のみであった。この幼虫は樹木の葉の上で生活しており、たたきあみで採集できる。
 名前のごとく、背面に5または6本の棘を1例に並べている県内の各地で見られるが、いずれも6本型で、まだ、5本のものを見ていない。

1)徳島文理高等学校


徳島県立図書館