阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第39号
三好町における読書調査

読書調査班(徳島県立図書館)

  新孝一(班長)・中田真理子(集計)
  岩野素子(集計)・松原敦子(集計)
  立石忠徳(文責)

1.調査の目的と方法について
 読書調査班は、従来から読書と図書館などの読書施設について住民の意識と実態を調査するためにアンケート調査を実施してきた。今回の調査では、小中学校を通じて生徒の家庭にアンケート用紙を配付・回収する事によって結果を得る事ができた。以下、アンケートの質問項目に従って分析し、最後に三好町町民の読書と読書施設について総括する。
2.読書と図書館に対するアンケートについて
 アンケートは、小中学校を通じて各家庭に配付し、その生徒の成人家族を対象とした。結果として、回答者の年代及び性別に著しい偏りが生じているが、これについては、各問の分析においてできる限り修正を加えたいと思う。
 以下の各問について、〔 〕内に問の目的及び要旨を付し、次にアンケート要旨に書かれたとおりの問と選択肢を列挙する。次に各問に寄せられた回答を「表」とした。但し、「表」中の数はすべて回答数であり、その総数は必ずしも総回答数とは一致しない。また、「表」の内容をグラフ化して「図」とした。但し、「表」には性別無回答の回答が若干記されているが、「図」では、煩雑を避けるためこれを省略した。また、「図」中にそれぞれ回答数の回答者数に対する割合を付記した。「図」が男女別に分かれている場合はそれぞれ男女別の割合である。さらに、その他として寄せられた回答を「記述回答」として列挙したが、類似のものはまとめて回答の後にその人数を挙げた。そして、これらの回答に対する読書調査班の分析を「分析」とした。
 〔回答者の性別・年代別について〕
該当するものに○をつけてください。
性別 1.男 2.女
年齢 1.20代 2.30代 3.40代 4.50代 5.60代 6.70代以上

分析:回答者の年代及び性別の差が著しいが、前にも述べたような方法でアンケートを行っているためである。
 問1〔情報源について〕
あなたは、知りたい情報や知識を何から得ていますか。(主なもの2つに○を)
 1.新聞
 2.雑誌
 3.本
 4.テレビ
 5.ラジオ
 6.その他
記述回答:機関誌,子供,友人,知人(4)
分析:男女共に、新聞及びテレビの割合が大きく、三好町の情報源として新聞・テレビが重要な要素となっている事が示されている。また、活字資料(新聞、雑誌、本)と非活字資料(テレビ、ラジオ)に分類した場合活字資料を主たる情報源とする者が過半数を占めるものの非活字資料がほぼそれに匹敵する数を示している。
 また、男女間では、男性はテレビよりも新聞に、女性は僅差ながら新聞よりもテレビにより大きく依存している。本、雑誌についてはほぼ同程度の依存度を示しているが、雑誌については男性よりも女性が多く情報源としている。
 問2〔余暇の過ごし方について〕
あなたは、余暇をどのように過ごしていますか(3つまで○を)
 1.読書
 2.テレビ・ラジオ
 3.休息(ごろ寝)
 4.旅行
 5.スポーツ
 6.ショッピング
 7.友人との談話
 8.映画
 9.その他
記述回答:ビデオ、家事(5),農業(4),家族と過ごす(7),釣り(3),手芸(10),園芸(4),余暇はない(4)
分析:男女共に最も高い比率を占めるのはテレビ・ラジオであるが、男性は以下休息(ごろ寝)、読書と続くのに対して、女性はショッピング、友人との談話、休息(ごろ寝)、読書となっている。余暇の過ごし方としての読書は男女同程度の比率である。回答総数に占める読書の回答数の割合は約1割で、三好町住民の余暇の約1割が読書に費やされている、と言える。
 問3〔読書量について〕
あなたは、平均1か月間に何冊本を読みますか。(雑誌は除く)
 1.1冊
 2.2冊
 3.3冊
 4.4冊
 5.5冊
 6.読んでいない
分析:1か月に1冊以上の読書をする人は、全回答者の65%である。これは男女共にさほど変わらない。他の町村の調査結果と比較した場合、図書館等の公的な読書施設が整備されていない町村の内では、高い読書率を示している。
問4〔読書の目的について〕
あなたは、どんな目的で本を読みますか。
 1.仕事のため 2.趣味や娯楽のため 3.教養を高めるため 4.子どもの教育のため 5.家庭生活に役立てるため 6.その他
記述回答:自然のため,面白いから,ボケ防止,生活のヒントを得るため,本は読まない(2)
分析:男女共に趣味・娯楽とする人が多い。以下、男性は仕事のため、教養を高めるためと続き、女性は生活に役立てるため、子どもの教育のため、となっている。
他の町村の調査結果においても同様の傾向が見られる。
 問5〔読書傾向について〕
あなたは、これからどんな種類の本を読みたいですか。(3つまで○を)
 1.宗教・哲学
 2.歴史・地理
 3.政治・経済・財テク
 4.暮らし・健康
 5.教育
 6.科学・技術
 7.産業
 8.文学・小説
 9.芸術
 10.その他
記述回答:スポーツ,古典,趣味の本,専門書(2),料理,自然の本,読まない・読みたくない(2)
分析:男女共に暮らし・健康及び文学・小説に高い比率を示すが、男性がその他の分野にも広い読書傾向を示すのに対し、女性はこれに教育を加えた三つの分野にのみ高い関心を示している。
 問6〔読書源について〕
あなたは、読みたい本をどこで手にいれますか(2つまで○を)
 1.書店
 2.公民館図書室
 3.県立図書館
 4.職場
 5.友人
 6.家族
 7.家庭文庫
 8.その他
記述回答:読みたい時間がない
分析:書店によるとしている人が全回答者の90%をこえる。これは男女共に同比率である。これに対して、公民館図書室や県立図書館などの公共の読書施設を用いる人は1割にも満たない。この理由については、問8において分析される。その他の職場・友人・家族・家庭文庫については2割強から1割弱で男女ともに同程度の比率を示している。
図.9及び図.10はこの読書施設の利用と問3で調査した読書量の関係を表したものである。一見すると、読書施設の利用者の方が読んでいないとする人の比率が高いのでこれらの間に関係はない様に見える。が、3冊、4冊、5冊以上の各項目において、読書施設の利用者は、非利用者と比べてより高い比率を示している。
 問7〔読書施設の利用形態について〕
(問6で、2・3に○をつけた人に)どのような利用をされましたか。(該当するものすべてに○を)
 1.本の貸出・閲覧
 2.調査・研究に関する相談や問い合わせ
 3.読書会に参加
 4.行事や催しに参加
 5.その他
記述回答:なし
分析:問6で公民館図書室及び県立図書館を読書源とした45人のみを対象としている。但し、公民館図書室の利用者と県立図書館の利用はそれぞれ別個に一人と計算したため、両方の利用者は二人となっている。
 利用者の利用形態は、貸出が大部分を占めている。男性の場合、データが少ないため、比率において他の利用形態が高い数値を示しているが、誤差として処理されるべきであろう。
 問8〔読書施設を利用しない理由〕
(問6で、2・3のどちらにも○をつけなかった人に)どのような理由から、図書館(図書室)を利用しないのですか。(2つまで○を)
 1.利用したい本がない(少ない)
 2.開館時間中に利用できない
 3.設備や快適さに欠ける
 4.本は買って読みたい
 5.近くに施設がない
 6.その他
記述回答:(書店が)配達してくれるから,(手元においておけば)いつでも気が向いたときに利用できるから(2),ひまがない(5),読書を好まない,行くのが面倒だから(3),学校で借りているから,図書館の利用の仕方がわからない(2)
分析:男女最も多数の意見として、近くに施設がない事が挙げられ、次に開館時間中に利用できない事、本は買って読みたいと思っている事、読書施設には自分の利用したい本がないことが挙げられている。これは、過去の調査の例からみて、図書館未設置の町村のパターンの一つとも言える。逆説的に言うならば、住民の身近に利用しやすい開館時間の読書施設があれば利用されるであろう事も示している。
 問9〔読書施設への期待〕
 県内には18市町村に図書館がありますが、あなたの町については、どうお考えですか(該当するものに○を)
 1.町立図書館の設置
 2.公民館図書室の整備・充実
 3.読書施設を整備する必要はない
 4.その他
記述回答:公的場所に設ける
分析:町立図書館の設置を求める声が最も高く、ついで公民館図書室の整備・充実が求められている。これもパターンに従ったものであるが、他の町村に比べて公民館図書室の整備を求める声がやや大きく、その分図書館設置に向けられる声が小さく、両者を比較するとほぼ同数の意見となっている。これは、町立図書館及び公民館図書室について適切なモデルが与えられず、その可能性及び限界について知られていない事が原因であろう。
 問10〔COMET について〕
家庭からパソコン等を通じて、県立図書館などの情報を知る事ができる徳島県文化情報システム(COMET)についてご存じですか。
 1.登録している
 2.知っている
 3.知らない
分析:大半の町民がその存在についてすら知らず、登録しているものは皆無であった。COMET はパソコン通信を通じて県立図書館の蔵書内容を公開するものであり、これを使う事により、県立図書館に対する図書の予約や、町教育委員会を通じてのリクエストが容易になる。県及び三好町に対してより一層の PR を望みたい。
 問11〔希望・要望について(記述式)〕
あなたは、町教育委員会、公民館、県立図書館になにを望みますか。
 ・町教育委員会:図書館の設置(10),学校の図書の充実(4),児童館の設置(4),移動図書館の運営(4),現場の把握(3),心の豊かさの教育(3),施設の場所,開館時間などの広報(3),パソコン・コピー・FAX の設置(2),社会教育施設の充実(2),学校の施設の充実(2),教師以外の人も教育委員会に入れて組織してほしい(2),支所等での本の貸出,学校図書館の利用指導,学校図書館の開放,施設の充実,表面だけではダメだ,映画会などの催し,第2土曜日の休みに対する対応,別になし(7)
 ・公民館:蔵書の充実(19),開館時間の延長(12),土・日曜日の開館(12),施設の改善・もっと利用しやすくする(9),広報・PR(7),実用書・専門書をおいてほしい(5),新刊書の購入(5),新刊案内など図書についての情報の提供(3),公民館図書室の整備・充実(3),各種講座・読書会等の開催(3),児童書の充実(2),利用した事がないのでわからない(2),貸出図書があるのかよくわからない(2),専門の図書館司書の確保,図書館の設置,別になし(4)
 ・県立図書館:遠くて利用できない(14),移動図書館の運行(14),土・日曜・祝日の開館(6),分館の設置(5),広報・PR(3),設備・蔵書の充実(3),誰もが気軽に利用できる図書館にしてほしい(2),貸出日数の増加,開館時間の延長、図書館(池田町)にない本もリクエストすれば借りられるので便利,別にない(4)
分析:町教育委員会に対しては町立図書館の設置を求める声が大きい。また、学校や学校図書館などの学校教育に関する要望、その他の社会教育施設についての要望、教育委員会の組織についての要望なども見られる。
 公民館に対しては、図書室の蔵書整備、開館時間や休館日の変更等の要望が寄せられている。また、公民館の場所や開館時間、さらにはどのようなサービスが行われているのかわからないとの意見もあった。広報されない故に利用度が下がり・利用されない故に予算等がなくなり、魅力的な施設や蔵書を揃えられず、それ故にまた利用が下がるという悪循環が発生しているようである。
 県立図書館に対しては、遠隔地故に利用が困難であると言う意見が多い。また、それ故に開館時間の延長や、休日の開館あるいは貸出期限の延長等が求められている。さらには県立図書館による移動図書館の復活も求められており、意見の数としては最も多い。県立図書館ではかつて移動図書館「やまなみ」を運行していたが、昭和62年度からはこれを廃止して町村に対する後方支援など協力業務に切り替えている。これは、価値観の多様化した現在においては、真に住民に密着した移動図書館を運営するためには県レベルでは困難であり、また、住民の読書要求については町村が最も責任を負うべきであるという考えに基づいたものである。むろん、県立図書館が遠隔地住民を切り捨てるものではなく、町村教育委員会を通じて住民からのリクエストを受け付け、郵送により貸出・返却を行っている。これにより、住民のより積極的な読書欲求を生み出すような三好町の広報活動が望まれる。
 問12(1)〔児童の読書について〕
あなたのお子さんは、週に平均何冊本を読んでいますか(雑誌、漫画は除く)
 ・小学__年生、中学__年生    ・約__冊
分析:回答の中には1枚のアンケート用紙に複数の回答を記入しているものがあったが別個の回答として処理した。例えば、・小学1,3年生 中学2年生
 ・約3冊という回答は、一週間あたり約3冊の読書量の小学1年生が一人、小学3年生が一人、中学2年生が一人として計算されている。
 図.15はこのようにして集計された児童の学齢別の回答数をまとめたものであり、平均的に分布している事がわかる。
 また、それぞれ学齢別に平均読書量を見ると図.16の様になる。小学生の場合学齢が上がるのに従って読書量が減っているが、これはより大部の本を読むようになるために一冊あたりの読了時間が増加する事によると思われる。また、中学生になってから再び読書量が増加しはじめるが、あるいは高校受験とも関連するかもしれない。
 図.17は問3で得た親の読書量と子の読書量の相関関係を見るものである。両者には極めて弱い相関関係が成り立つと思われる。但し、他の町村で見られるような母親あるいは父親との強い関係は見られない。このことは、親と子が共有する読書環境が極めて小さい事、またそれは父親或いは母親と特に共有するものではないことを示すと思われる。
 問12(2)〔子の読書に対する期待〕
あなたは、お子さんの読書に何を期待しますか(2つまで○を)
 1.子ども自身が楽しんで読める事
 2.創造力を養い、心を豊にする事
 3.知識を増し、視野を広げる事
 4.文字がよく読め、読解力を増す事
 5.本をきっかけにして親子の交流を広げる事
 6.子どもの読書にあまり関心がない
 7.その他
記述回答:学習システムのパソコンなど色々なものがあるので学校で取り入れてみればよい,本好きな子にする事
分析:父親、母親共に創造力を養うこと、楽しんで読む事、知識を増す事、読解力を増す事を挙げている。親子の交流を図る事と答えた親は少ないが、先にも見たように親子の共通の読書基盤が小さいことによると思われる。

3.三好町の読書と読書施設について
 三好町に公共の読書施設が整備されるべきであることは明らかであろう。それは、住民の要望であり、また、基本的人権としての知る権利を保障するために必要なものである。では、三好町にふさわしい読書施設とはどのようなものであろうか。アンケートの問8にも見られるように、三好町町民が、読書施設を利用しないのは、その施設及び蔵書が整備されないことではなく近くにないことである。故に、三好町においては、第一に住民の身近にあることを優先した施設が複数設置されることが望まれるのではないだろうか。
 とはいえ、いかに小規模の施設であっても、ある程度の蔵書は持たなければならない。また、休日や夜間などの住民に利用できる時間帯に開館するためには人員も確保しなければならない。これらをすべて満たすことは困難であろう。そこで、問11で県立図書館に対する要望に見られるように、三好町には移動図書館に対する理解を持った住民が多いことから、移動図書館を中心としたサービス網の作成も一案となりうるのではなかろうか。
 県立図書館においては、三好町に直接サービス拠点を設置することは予算的にも理念においても困難であろうと思われる。が、町村図書館の後方支援は県立図書館の基本方針にもあげられた任務であり、三好町に読書施設が整備されたならば、その活動に対する協力は惜しむものではない。また、徳島県公共図書館相互貸出協定において、県内の公共図書館は相互に協力を受けることができる。この点において、三好町に読書施設が整備されることは三好町町民のみならず徳島県全県民にとっても有意義である。
 以上、三好町における読書施設の必要性とその形態について述べて総括に代えたい。この調査及び報告が三好町の読書環境の充実に役立てられれば幸いである。


徳島県立図書館