阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第39号
三好町振興計画と広域的視点

地域問題研究班(地域問題研究会)*
 中嶋信・西村捷敏・三井篤・小田利勝・ 

 武田真一郎

1 はじめに
 地域問題研究会は、過疎・過密に代表されるような地域問題を社会学・経済学などの社会科学的な方法で分析すること、とりわけ徳島県を対象にして実践的なアプローチを試みることを課題としている。三好町調査では「構造転換期における三好郡産業構造の動向」を分析することを調査班の共通課題とした。なお、5名の調査参加者(他に補助調査員の学生)の具体的な関心や事実の評価は異なっているため、調査結果の一部に課題を限定して報告を行う。
 ここで構造転換期(1985年以降)に時期を限定したのは、構造調整政策の展開のもとで地域経済は新たな変動をみせているという事実に基づいている。農村地域に即して考えるなら、農産物の低価格体系への移行と輸入枠の拡大による農家経営悪化問題、物的生産部門の多国籍展開に影響された農村工場の経営困難などの問題が深まっている。このような地域経済の失調に加えて、積年の若年層流出の結果、高齢化問題が深まっており、産業の区別を越えて地域の労働力構成の弱体化が顕著となっている。経済構造の新たな動揺を反映して、地域社会は大きな問題に直面せざるを得ない。そのような状況下で住民自身の模索が進行していることはいうまでもない。地域社会の分解と住民自身による再建の動態的な図式を探ることで、地域社会の展望を得ることが必要といえよう。
 次に考察の対象を町内に限定せず、広域的な視角を設定したのは、地域の実際の生産・生活活動が町村域を越えて展開しているためである。住民の日常の動線は郡内だけでなく他県にもおよんでいる。三好町は1989年に『総合計画』を策定し、町民全体が豊かな将来構想を描き・実践する事業の端緒についた。計画実施によって地域の生産・生活の向上が今後図られることになる。それを効果的に果たすためには、視点を町内だけにとどめずに広域的な論議や施策展開を図ることが必要であると判断されるのである。
2 三好町の人口動態
 1990年国勢調査によると三好町の住民人口は6,213人であり、1976年を底として増加基調で、近年は横ばいないし微増の状態にある。表1には住民人口に対する人口変動数のそれぞれの割合を示す。自然変動は低いながら一貫してプラスである。転入と転出の差である社会増減は80年代後半以降はほぼプラスで推移している。過疎地域の人口減少は今日も続いており、三好郡全域では85→90年に4.97%の減少を見ている。この点と比べると、三好町は人口定着で過疎問題克服と見えるが、それはあくまでも皮相でしかない。三好町においても若年層の人口流出は依然進行しているという事実がある。また表2に示すように、通勤・通学にともなう昼間の人口流動も流出超過の状態にある。町内の経済・文化活動が高まった結果、人口が増加したと判断することはできない。それでは三好町の近年の人口増がどのような要因で構成されているかを検討しよう。
 三好町では過疎が現在も進行中と捉えるべきであろう。そのことは図1の概念図に示す県レベルでの人口流動における徳島市あるいは周辺東部町村の位置との近似性で説明することができる。農山村の過疎化は直ちに大都市の過密を結果するものではない。いくつかの中継段階を経て農村地域から都市地域への人口流動が形成されている。徳島市からの人口流出量は大きいのだが、郡部からほぼ同量の流入があるために徳島市の人口は増加基調で推移しているのである。この関係を三好町と三好郡に置き換えて理解することが可能である1)。
 1991年の三好郡人口の主な地域間移動状況は図2で確認できる。ここでは郡外との純移動数(転入−転出)を示す。県外、徳島市や阿波・麻植郡の比重が高いが2)、いずれの地域に対しても三好郡は人口流出基調となっているのである。にもかかわらず三好町の場合は人口増が認められるのは郡内の人口移動に基づいている。表3は近年の三好町の地域間人口純移動数を確認したものである。年次ごとに若干の変動はあるが、県外、県内への流出の基調が貫かれ、その数を郡内の流入数で補い、若干の増加を招いている関係が理解されよう。三好郡内では池田町、三加茂町が同じような位置にある。三好郡内の人口の地域間移動関係は図3の矢印のように描くことができる。全体として人口流出が進んでいるが、その内部に滞留地域を形成しているのである。ただし、この人口滞留は長期的には持続できないと見るべきであろう。これらの地域に人口を送り込む周辺部の過疎が更に深まり、人口供給力が弱まった場合には、「転入−転出」関係はマイナスに転化せざるを得ないのである。
 三好町内では官民の住宅供給力を高めることで周辺部からの流入人口を受け入れ、町住人口の安定を実現している。だが、上記の関係を理解するなら、それを長期的に維持することは困難と見るべきであろう。三好町は住民人口の当面の安定に安心せず、過疎対策を展開することが求められよう。ひとつには町内の産業発展によって若年層の流出阻止=定住化を図ることである。表4では県内・県外からの転入者の多くが町出身の「Uターン」
者で占められていることを確認できる。より大きな「Uターン」志向の潜在を想定できるが、就業機会の確保など町内での定住条件の整備は、若年層流出を押しとどめるだけでな
く、「Uターン」の顕在化を可能にさせるであろう。次には人口の移動関係で象徴されるように、地域の産業・社会が広域的連関を持っていることの理解に立って、周辺部町村との協力関係を強化して過疎対策を展開することである。
3 地域振興と広域的視点
 地域社会の基礎は産業によって支えられている。その点で定住化対策の根幹は産業振興に他ならない。次に地域の産業振興に関わる課題を広域的視点との関わりで検討しよう。
 三好町の産業構造の特質は表5の「町民所得」の構成に現れている。民間商業・サービス部門が停滞的であり、物的生産部門(A〜H)が堅調に推移している。なかでも製造業のウェイトが高く、三好町では農業生産の後退が認められるが、地域経済は拡大基調にある。四国縦貫道路の整備は地域経済に大きなインパクトを及ぼすことが予想されるが、これを好機とするために物的生産部門の活性化の条件を整えることが当面の重点課題といえよう。木工・機械部門の個別企業内では高付加価値化など新機軸の準備も進んでおり、企業誘致でも成功例が認められるなど、着実な取り組みがなされている。ただし地域全体としては用地問題や労働力問題のネックを抱えており、今後の発展を容易に展望し得るという状況ではない。地域経済の機軸である製造業は女子就業者が過半を占め、男子の雇用吸収力が高い工業の育成という課題は未解決である3)。
 地域産業振興の戦略では、高速交通体系の整備に合わせ新産業の誘致や観光開発を図るという提起がなされているが、三好町内だけでそれを支える条件は十分とはいえないであろう。土地・労働力・資本・技術などの不備をカバーするためには広域的な視点が必要である。四国4県のネットワークの中核となり得る内陸拠点を目指して三好郡の広域的な協力関係を図るべきであろう。現に三好郡行政組合が「21世紀に翔く自立文化経済圏・三好地区の形成」を提起しているが4)、その具体化が図られるべきであろう。自治体の枠を越えた取り組みには多くの困難が伴うことから、地元産業人の連帯とリーダシップの発揮がますます求められるところである。
 広域的連携では、三好郡農協のイチゴ・ナス・シイタケなどの野菜産地形成の例がある。弱小産地を結合することで市場での評価を高め、産出額の拡大を果たしているが、これは周辺町村との広域的連携による産業振興の可能性を示すものである。観光や製造業などでも同様の試みが図られるべきであろう。次に木材関連産業を例として、広域的産業振興その姿を検討しよう。
1)山林活用の方途
 三好町の森林面積は、4,373ha であり、町域の80.3%を占めている。従って、森林資源の効果的・有効的利用は、三好町にとっては重点課題の1つである。しかしながら、1戸当たりの平均山林所有面積は、約2ha であり、経営規模は小さい。町有林は 70ha で、残り大半が民有林で人工植林を積極的に押し進めても除間伐作業員が12〜3名しかおらず、維持管理が困難となってきている。7年前までは、新林業構造改善事業費の補助申込があったが、外材に押され、木材価格の低迷とともに、架線集荷方式林業では不採算のために事業は目下凍結状態である。なお、山間部にある小学校(増川)の周辺開発で、ふれあいフォーレスト構想が検討されているが、山林活用の方策はやや不透明である。
 三好町の住民意識の調査5)によると、山林活用のための施策として「林道建設、機械化等の促進」が32.2%で最も多く、「積極的に観光などに活用する」が22.5%で続いている。年齢層による特徴もはっきりしており、「観光などに活用」は若い層ほど多く、50代以上では、「林道建設、機械化などの促進」を望む声が急増する。職業別では農林業、居住地区別では山間部で「林道建設、機械化」を支持する声が多く、そしてまた、林業に深く係わっている層ほど、現在の山林を保存するよりも計画的な開発を望む傾向にある。木材増産や観光で山林を活用するという回答が高いが、ここでの問題はいかにしてそれが可能になるかである。次にやや視野を広げて三好郡内での林業関連産業の動向を検討し、山林活用の方向を探ろう。
2)三好郡木材関連産業の動向と課題
 三好郡地域は、近年になって木材の生産、流通、需要拡大に積極的な取り組みをみせてきているが、その中で町村が中心となって、三好地域林業振興対策協議会を結成し、森林組合、素材生産業者、素材市場、製材業者、家具・木工業者、町村等が一体となって熱心な活動を続けているのが注目される。これをソフト面とするならば、一方のハード面では、例えば、地元工務店、森林組合等の出資で成り立つ集成材工場で生産される集成材の生産から需要に至るまで町が全面的にバックアップしているような例(山城町集成材工場)も見られる。
 また、幼稚園や研修施設の木造化、家具へのスギ材の積極的な利用(三好町内の家具工場を中心とした木工研究会)等、様々な分野で需要拡大の試みがなされ、これを地元町村が支援している。これらの社会的背景として、徳島県が全国有数の林業県・木工県としての地盤を先人達が築いてきたことを確認すべきであろう。また三好町のみでは森林資源の蓄積は豊富とは言い難いが、表6にも見られるように、池田農林事務所管内(三好郡)が貴重な森林資源を有していることから、素材生産とその加工産業の展開の物的基礎が担保されているのである。
 三好郡地域における地域材の振興と地方公共団体との今後の関わりを展望した場合、まず第1に考えなければならないのは、林業労働者の確保の問題である。施設や機械は整備することができても、労働者の確保は、容易なことではない。若くて優秀な労働力を確保するためには、安定的な仕事の確保、作業環境の改善、給与・休暇等の待遇の改善、身分保証、災害時の保障、老齢化したときの仕事内容の変化、退職金・年金の保証等、他産業ではあたりまえとなっていることを実現させる必要がある。
 第2は、木材関連業への基盤整備への支援が急がれる。素材生産のための林道、作業道の整備はいうまでもなく、施設整備のための用地の確保、機械設備への助成等、積極的なあとおしが必要である。
 第3には、地域材の需要拡大への積極的な取り組みが必要とされる。一部の町村では、公共施設の木造化に積極的に取り組んでいるが、これを地域全体へ大きく広げていく必要がある。とくに、三好町は、阿波池田木工研究会のメンバー企業が3社もあり、中核的役割を担っていく力量を備えている。
3)三好郡地域材の流通加工システムの動向と課題
 素材生産業:現在、49事業体が生産活動を行っているが、大半の事業所が機械設備や雇用形態の近代化が遅れており、労働者の確保が困難となっている。
 また、組織化が進んでおらず、実態がつかみにくい側面もあり、行政の施策がハード面でやや手薄になっており、生産体制近代化の遅れに拍車をかけている。今後、組織化を通じて生産体制を強化することが必要となってくる。
 素材市場:三好木材センターは、昭和44年の開設以来、18年間に取扱い量で30倍、販売金額で32倍と驚異的な伸びを示したが、ここ数年やや伸びが鈍化している。昭和55年から5ケ年計画により、10億円突破作戦を展開していたが、扱い量では101%を達成したものの販売金額は経済社会環境の変化の影響を受けて89%にとどまった。これは直接的には、素材価格の低迷により販売額の伸びが鈍化したものであるが、小径木の割合が増加していること、土場の処理能力が限界にきていること等も影響していると考えられる。
 第2次5ケ年計画(昭和63年から5年間)においては、扱い量で57,400立方メートル、金額にして11億31百万円、昭和62年度比それぞれ160%、127%を計画しているが、これを達成するためには、1 土場の拡張、2 選木システム・木材処理の迅速化、3 事務処理の迅速化、4 集荷能力・販売能力アップのための情報システム化等が必要となってくる。
 製材業:三好郡地域の製材工場は、スギ板材専門工場、スギ・ヒノキ建築用材専門工場、マツ建築用材、箱材中心の工場等に分類されるが、現在、組織化されているのは、スギ板材専門工場のみである。今後、地域での需要が限られてくることを想定すると、県外出荷のウエイトを高めて行かなければならない。そのためには、生産コスト・流通コストの引き下げ、生産力の増強、加工高度化、高付加価値化、販売力の強化等を計らなければならない。
 集成材工場:集成材はまだ製造の歴史が浅く、今後の課題として生産力の増強、高品質化、高付加価値化を図り、一般的な建材として広く普及していかなければならない。
 家具・建具・木工業:三好郡地域内の家具メーカのうち約半数は、自社製品を製造販売しているが、あとの半数は大手メーカの下請けとなっている。自社製品の製造販売を行っているメーカは、NIES 製品との競合が激しくなってきており、一部の製品をのぞいては、太刀打ちできなくなってきている。これへの対応として、高品質化とコストダウンが緊急の課題となっている。また、下請け工場については、自社製品の開発、製造販売へ脱皮を図るという希望を持っているが、本業に追われて製品開発にまで手がまわらない状況にある。今後共同化による製品開発、技術交流が必要である。
 プレカット工場:現在は、大手住宅メーカの部材加工中心なので、比較的規格が統一されているが、今後、地域の工務店と提携することになっていくと多様な規格、不定形の部材の加工をする必要が生じてくる。また、個々の納期にも対応する必要が生じ、加工の高度化、迅速化が要求される。
 建築業:これまでの三好地域材の主要な需要先は地場の中小工務店である。これらは在来工法の木造住宅を建築することにより、地域に応じた木材を比較的多量に使用してきた。これは建築現場に近いところで入手できる材料を使用し、営業や宣伝の経費をかけることなく住宅を提供してきたため、材料を多量に使用しても比較的建築費を安くすることができたからである。しかし今後は、大手住宅メーカとの競合がいっそう激化し、ユーザの好みも複雑に変化するであろう。また、大工の不足も一層深刻になっていくであろう。これらに対応するためには、営業力の強化とともに、プレカット工場の利用によるコストダウン、納期短縮、設計士との連携および地域の良質材使用による商品の魅力アップ等を図って行かなければならない。
4)三好郡地域材の流通加工システムの課題
 素材について:地域で生産された素材が、40%以上地域外へ流出しているのと同時に、需要量の50%近くが地域外から流入している。これは地域で生産された素材が、地域内で効率よく加工されていないことを意味しており、今後、地域の素材が地域内でできるだけ多く加工され、付加価値を高めて地域外へ送り出されるようなシステムを構築して行かなければならない。
 製材品について:現在の製材品の出荷先は県内以外では近畿、四国のウエイトが高いが、中国地方が関東よりも少ないなど、瀬戸内方面の開拓が遅れている。製材品は、加工度が低く、付加価値も低いので、出来る限り輸送コストのかからない県内もしくは近県で販売する必要がある。また、地域内で、集成材、家具・建具・木工品、床・壁等住宅用内装材に加工して、高付加価値化した製品のウエイトを高める必要もある。
5)素材生産・加工・流通の広域的システムの提案
 現在、三好郡地域と有力市場である徳島市周辺の結びつきはあまり強くない。ごく一部の製材業者が徳島市内の製品市場へ出荷している程度である。今後、結びつきを強めるとすれば、今までになかった方法で行う必要がある。そのために上述の素材生産・加工・流通の各部門を一つのシステムにまとめあげることが有効であろう。プレカット工場や家具工場は素材生産や製材・集成材生産に依拠しており、逆に素材生産などは最終的な消費を前提としている。素材から最終消費までを合理的に統括する機構を整備することで、市場での競争力を高めることが可能になる。共存共栄のシステムづくりがあって初めて、不安定な林業が支えられ、また家具・木工業は高付加価値の商品開発が進展するのである。例えば祖谷山の林業と三好町の木工業者との共同事業を想定すべきであろう。そのような部門と町村を越えた協力関係の下で木材関連産業全体の活性化を展望すべきであろう。三好町の「ふれあいフォーレスト構想」も地域産業の育成なしに、安易な手段に走ると、ゴルブ場の乱開発の二の舞になる恐れもある。幸い、三好町は三好郡産業の中心となる芽をいくつか保有しているのである。
4 地域計画策定手続きと住民参加
 木材関連産業の例で今後の地域振興の視点と課題を確認したが、同様の作業が各産業あるいは生活領域にわたって繰り広げられる必要がある。三好町はそのような作業の基本シナリオとして『三好町総合計画』を1989年に策定し、現在、実施計画の途上にある。基本構想・基本計画を実現するためには科学的な実施計画を住民参加の下で策定し、行政と住民とが一体となってその実施を図ることが求められる。その上での基本的な留意事項を最後に確認しよう。
 現代の行政においては、計画に基づいて必要な施策を実施するという手法がとられる場合が増加している。その理由としては、次の二点が考えられよう。まず第一は、計画の策定により行政目標の実現に向かう過程を合理的、科学的に明示できることである。第二は、複数の地域、行政機関にまたがる計画を策定することにより、ともすれば一つの地域、行政機関ごとに割拠主義的になりがちな行政過程に整合性をもたせることができることである。このような計画に基づく行政の手法は、硬直的な法の執行という古典的な行政過程の欠点を補い、科学的、整合的に行政目標を達成するものと評価できるであろう。しかし、行政計画は必ずしも法律の根拠を有するわけではなく、行政機関の広い裁量権に基づいて策定されるため、計画自体の合理性、妥当性ひいては正当性をどのように確保するかという点が問題となる。この点については、行政計画を規制する法律を整備することや違法・不当な計画に対する救済手段を確立することが必要であるが、それにもまして重要なことは、民主的な計画策定手続を採用し、住民の意向を計画に反映させることである。そのための具体的な方法としては、1 審議会方式による住民代表の計画策定手続への参加(間接民主主義的参加)、2 個々の住民の計画策定手続自体への参加(直接民主主義的参加)が考えられ、さらに2 は、a)共同決定的参加(住民が直接意思決定に参加する)、b)提案的参加(住民の提案を受け入れる)、c)情報提供的参加(住民の情報提供を求める)、d)利害関係人的参加(自己の権利利益に影響を受ける者に参加を認める)に分類できるものとされている6)。国のレベルの計画については1 かせいぜい2 d)の型の参加を認め得るに過ぎないかもしれないが、地方自治体特に市町村のレベルではb)、c)のほか、a)の型を加味していくことも十分に可能であり、それによって住民にとっての計画の意義がより大きくなり、さらには地方自治活性化の契機ともなり得よう。また、計画の策定段階で住民参加を認めるだけでなく、計画の遂行の段階でもどの程度住民の意見が実際に反映されているかを住民自身がチェックできるようにすることも必要である。そうしなければ住民の意見を「聞き置く」だけで行政機関の主導により計画が策定、遂行され、住民参加制度が形骸化する恐れがあるからである。
 以上の問題点を踏まえた上で「三好町総合計画」および「三好地区ふるさと市町村圏計画」を検討してみたい。この二つの計画の策定に際してはいずれも住民の意識調査がなされており、特に前者については詳細な調査が行われ、充実した報告書が作成されている。これらの調査は住民の意見を反映した計画を策定しようとする試みであり、上記2 b)、c)の型の参加に類するものである。しかし、意識調査自体は住民の要望を直接計画に反映させるための手続ではなく、調査によって明らかとなった住民の要望が実際にどの程度計画に反映され、さらに実現されたかどうかは、別途検討を要する問題である。また、現地での聴き取り調査結果からは、計画の趣旨、意義が必ずしも住民に周知されておらず、計画に参加するという意識も希薄であり、行政主導の色彩が強いように思われる。今後の課題としては、計画の実施段階でも住民が意見の反映の状況を知ることができるようにするとともに、単なる意識調査にとどまらない住民参加手続の採用を検討する必要があろう。
6 まとめ
 地域の生産と生活の活性化が急がれるべきことは多言を要しない。三好町においてもそのための取り組みが展開されていることをわれわれは調査で確認し、多くの示唆を得た。それにも拘らず、地方圏振興が困難であることは紛れもない事実であり、従来にない対応が必要とされるのである。われわれは今回の調査において町内に限定することを避け、三好郡全体の中で三好町がいかなる位置にあるのかということを重視した。そのことの意味は上述した通りである。そして従来にない対応の一つとして、広域的視点を確認してきた。このことも含め、地域の産業振興を成功させるためにはより活発な論議が求められている。この報告は論議資料としての意味を持つはずである。
 この調査を進めるに当たって、三好町役場や教育委員会をはじめ多くの機関・個人のご協力をいただいた。ご多忙の中、われわれの身勝手な注文に極めて好意的に対処していただいたことに、末尾ながら深く感謝申し上げたい。この報告がこのようなご協力に充分応えていないという批判は甘んじて受けねばならない。もとより地域の実践的要求に応える研究を進めることはわれわれの共通の意思であり、率直なご批判やご教示を受けることを願っている。
 この報告書は5名の参加者の素稿と討論を調査班長・中嶋が編集して作成した。また、徳島大学総合科学部に事務局をおく「地域問題研究会」(代表・三井)において、調査課題の設定や資料検討の作業を行った。
〈注〉
1)ただし徳島市などは生産基盤が増大しつつあり、若年層の比重が高いために出生率が相対的に高く維持されているという点で三好町のおかれた状況とは異なっている。
2)ここでの地域区分は以下の通り。「東部 I 」:松茂町、北島町、藍住町、板野町、上板町、石井町。「中央地区」:吉野町、土成町、市場町、阿波町、鴨島町、川島町、山川町、美郷村。
3)システム科学コンサルタンツ『三好町地域構造分析』(三好町総合計画策定資料)1989年、26頁。
4)三好郡行政組合『三好地区ふるさと市町村圏計画』1991年。
5)システム科学コンサルタンツ『三好町の住民意識』(三好町総合計画策定資料)1989年、43頁。
6)佐藤英善「計画策定手続の問題点」(雄川・塩野・園部編『現代行政法大系』第3巻、有斐閣、1984年)131頁以下を参照のこと。

*班員の所属は全て徳島大学総合科学部


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