阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第39号
三好町農業従事者の栄養調査

医学班(徳島医学会)徳島大学医学部

 前川敬世・権美那・酒井徹・郡俊之・

 鍛治川知子・三輪仁美・坂下香緒里・

 篠原章治・中野博美・堀場一恵・

 森夏子・中川雅子・小川久子・

 坂井堅太郎・水沼俊美・森口覚・

 岸野泰雄

 我々医学班は阿波学会総合学術調査の一環として農村医学班の調査と並行して三好町農業従事者の栄養調査を実施した。三好町は、県北西部、吉野川上流域北岸に位置し、三野、三加茂、井川、池田各町と隣接しており、人口約6,200人の農山村である。この町の特産物として葉タバコ、ブロイラー、愛宕柿等が挙げられる。
 今回、ここに在住する農業従事者の食物摂取量、生活時間、みそ汁塩分濃度及びアンケート調査を実施したので報告する。
〈調査方法〉
1)対象
 徳島県三好郡農協に加入している農業従事者のうち、男性79名、女性95名、計174名に対して栄養調査を実施した。年令は30歳代から60歳代まで、平均年令は男性57歳、女性58歳であった。
2)期間
 平成4年8月4日から8月7日までの4日間にわたり実施した。
3)調査項目
 a)栄養素摂取量
 調査を行う数日前に食事調査表を各自に配布し、調査の前日に摂取した食物の種類と目安量を記入してもらい、調査日に持参するように依頼した。調査日には個々の面接により食品モデルを提示し、各自が記入した食品目安量を調査員が再確認した上でグラム数に換算した。栄養素摂取量および食品群別摂取量は、当班で作成したプログラムによりパーソナルコンピューター(日本電気 PC-9801RA)を用い算定した。
 b)生活時間調査
 食事調査日の生活時間を記入してもらい、面接時に調査員が不明確な点を再確認し、生活時間の算定を行った。消費エネルギーの算出は沼尻らの方法(22,23)を用いた。各労作の活動代謝は、以前の報告(1〜20)と同様の値を用いた。
 c)みそ汁の塩分濃度
 調査日に持参してもらったみそ汁について、堀場製作所製の HS−7食塩濃度計により塩分濃度を測定した。
 d)アンケート調査
 アンケート用紙を各自に配布して記入を依頼し、面接時に調査員が不明確な点をもう一度確認したうえで、各回答を得た。
〈結果および考察〉
 食糧構成および栄養摂取量の各グラフは、被検者全体(全体)および男女別の平均値で示した。
1)三好町農業従事者の食糧構成
 三好町農業従事者の食品群別摂取量は、「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)(24)を100%として図1に示した。穀類、いも類は目安量をやや下回る程度であったが、油脂類、小魚・海藻類はかなり低い値を示した。たん白質源である豆類、卵類、乳類、魚類、肉類は目安量を充たしていた。ビタミン源である緑黄色野菜、果実類、淡色野菜類もともによく摂取されていた。
2)年齢別にみた食品群別摂取
 「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)を100%として各食品群別の摂取量を30−49歳、50−59歳、60―69歳に分けて検討した。穀類の摂取は、全体的にほぼ目安量を充していた(図2)。いも類では、30−49歳、60−69歳において、目安量の約60%程度しか摂取していなかった(図3)。砂糖類は、全体的に摂取量は低く、特に男性でその傾向がみられた(図4)。油脂類は、各年齢とも摂取量が低く、目安量の半分程度でしかなかった(図5)。
 たん白質源のうち、豆類は、50歳以上ではほぼ充足されていたが、30−49歳において、やや不足気味であった(図6)。魚類は、全体的にほぼ目安量を充していた(図7)。肉類は、30−49歳でよく摂取されており、50歳以上においても目安量を充していた(図8)。卵類は全体的によく摂取されており(図9)、乳類も、全体的によく摂取されてはいたが、個人差がかなり見られた(図10)。
 ビタミン源である緑黄色野菜は、十分摂取されており(図12)、淡色野菜も目安量を充していた(図11)。また、果実類は30−49歳の男性で目安量の半分以下であった以外は、全体的によく摂取されていた(図13)。
 ミネラル源である小魚・海藻類は、30−49歳の女性以外は目安量の半分程度しか摂取されていなかった(図14)。
3)栄養摂取量
 日本人の栄養所要量(第4次改訂)(25)を100%としたときの三好町農業従事者の平均栄養摂取量の比率(%)を図15に示した。全般的によく充足されており、たん白質もよく摂取されていた。また、ビタミンCは緑黄色野菜の摂取が多かったためか、きわめて高い値を示した。ビタミンDの摂取は低値であった。
4)年齢別にみた栄養摂取量
 栄養素摂取状況においては年齢の違いによる差はあまり見られず、どの栄養素も比較的充足されていた(図17〜27)。男女間の比較では、ビタミンAが各年齢とも女性は男性に比べ高い摂取量を示した(図23)。
5)みそ汁の塩分濃度
 図30は、みそ汁の塩分濃度を測定し、その濃度の度数分布を示したものである。塩分濃度は、男女とも1.2〜1.4%をピークに、全体の65%以上の人が推奨濃度である1.0%を越えているにもかかわらず、アンケート調査の結果ではほとんどの人が自分の家のみそ汁を塩辛いと思っておらず、栄養指導の必要性が考えられる。また、全体の食塩摂取量は12.1gで全国平均とほぼ同じであるが、厚生省の推奨値である「10g 以下」よりは多く、指導による改善が望まれる。
6)アンケート調査結果
 食物摂取調査は1日の結果であるので、食生活の全貌をとらえるべく、栄養意識および食物摂取頻度について調査した(図31)。
 食品の組合せを考えている人は、女性が男性の2倍近く、やはり女性の方が栄養意識は高いと考えられる。緑黄色野菜をよく食べると答えた人が多かったが、これは実際の調査結果と一致していた。男女とも約7〜8割の人が間食をすると答えたのに対して、問題となる様な過食及び欠食をする人は少なく、全般に良好な結果であった。
〈まとめ〉
 三好町農業従事者の食生活は、食品群別摂取量、栄養素別摂取量ともに一部のものを除いてよく充足されており、大きな問題となるような過剰摂取もみられず、エネルギーバランス(表1)も良好であった。しかし、油脂類については、全体的に男女とも目安量の約半分と低く、このことは油を使った料理が少なかったためと思われる。農村地区では一般にたん白質が不足しがちであるが、三好町ではそのような傾向はみられなかった。これは、魚類、乳類、卵類、豆類がよく摂取されていることによると思われるが、乳類の摂取については、多い人と少ない人との差が大きかったため、摂取の低い人は乳類を摂るように心がけることが望ましい。また、小魚・海藻類の摂取は全体的に低く、カルシウム摂取の点からも摂取量を増やす必要がある。
 野菜類は、夏場ということもあってよく満たされていた。とくに、緑黄色野菜については十分に摂取されており良好な結果となった。
 食塩摂取量は、12.1g と厚生省の推奨値である「10g 以下」よりやや高く、それを塩辛いと感じていなかった。このことから、三好町農業従事者の多くの人は塩辛い味付けに慣れていると思われ、食塩摂取と高血圧などの成人病との関連からも栄養指導の必要がうかがわれた。

〈参考文献〉
1)手塚朋通ら:脇町地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、19,57,1973
2)高橋俊美ら:宍喰地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、20,73,1974
3)中西晴美ら:上勝町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、21,103,1975
4)上田伸男ら:神山町の栄養調査、郷土研究発表会紀要、22,191,1976
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6)山本 茂ら:山城町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、24,131,1978
7)鈴木和彦ら:市場町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、25,123,1979
8)森口 覚ら:池田町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、26,183,1980
9)高間重幸ら:上板町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、27,79,1981
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11)角田みどり:鷲敷町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、29,131,1983
12)河村純夫ら:鴨島町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、30,83,1984
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