阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第39号
三好町の真正クモ類

博物班(徳島県博物同好会)

              真鍋佳資

 はじめに
 筆者は、三好町総合学術調査にあたって、博物班真正クモ類の分野を担当したので、ここに調査の結果を報告する。三好町は徳島県の北西部にあたり、南に吉野川の清流を望み、北に標高 800m 級の阿讃山地があり、総面積54.46平方キロメートルの4分の3は山地である。全体の調査期間であった7月28日(火)より31日(金)までの4日間は晴天続きの乾燥状態であった。その後8月15日(土)雨後の湿った日に再調査をした。

 調査概要
1.調査地点と調査日
 1  東山峠  7月28日
 2  百々路  7月29日・8日15日
 3  男山   7月28日・8月15日
 4  八幡神社 7月29日
 5  滝久保  7月30日・8月15日
 6  貞安   7月28日
 7  増川   7月31日
 8  美濃田  7月30日
 9  昼間城跡 7月30日
 10  東山城跡 7月30日

2.調査方法
 樹上、石の下等はハンドソーティング、落葉の中はシフティング、木の枝はビーティング、水田、草原はスイーピング等により採集した。調査期間が短く、限られた調査範囲で乾燥状態だったせいか18科68種の分布、生息を確認したに止まった。今後精査すればもっと多数の確認を得られるに違いない。なお今回の調査に際し、冨島啓次氏の同行協力を得たことに感謝の意を表したい。
 採取目録と解説
  Atypidae ジグモ科
1.Atypus karschi Doenitz ジグモ
  日光の照射しない樹木の根元、石垣などの下に住み、地上及び地中に鉛筆ほどの管状の巣を作り、地上部の巣の表面を通る昆虫を捕食する。幼少の頃、巣を引き上げるとクモを捕えられるので、けんかをさせて遊んだ。
  Uloboridae ウズグモ科
  山地の日かげ・石垣の中などに小さい水平円網を張り、中央に渦巻状のかくれ帯をつけ、これにかかる小昆虫を捕食する。
2.Uloborus varians B■S. et STR. ウズグモ
3.Uloborus sybotides B■S. et STR. カタハリウズグモ
  Pholcidae ユウレイグモ科
  体は半透明で足が長く、ひ弱な感じで、家屋内外の暗い所に住み不規則な棚状の網を張り、巣に近づくと巣を揺すって相手をおどす。
4.Pholcus crypticolens B■S. et STR. ユウレイグモ
5.Pholcus phalangioides (F■SSLIN) イエユウレイグモ
  Theridiidae ヒメグモ科
6.Achaearanea tepidariorum (C. KOCH) オオヒメグモ
  屋内に多く、高層ビルの高所にも見られ、新築家屋に真先に侵入してくるのも本種である。成体は立体的な籠網を作り、すすはらいの時に困るのはこの巣である。
7.Achaearanea japonica B■S. et STR. ヒメグモ
8.Theridion chikunii YAGINUMA. バラギヒメグモ
9.Enoplognatha japonica B■S. et STR. ヤマトコノハグモ
10.Dipoena mustelina (SIMON) カニミジングモ
11.Episinas affinis B■S. et STR. ヒシガタグモ
12.Chrysso punetifera (YAGINUMA) ホシミドリヒメグモ
  Linyphiidae サラグモ科
13.Linyphia longipedella B■S. et STR. アシナガサラグモ
14.Linyphia yunohamaensis B■S. et STR. ユノハマサラグモ
  両種とも木の枝や草の間に皿を伏せたような形の網を張る。
  Urocteidae ヒラタグモ科
15.Uroctea compactilis L. KOCH ヒラタグモ
  家屋の壁、塀、樹幹等雨のかからぬ所に白色扁平な巣を作り、ここから通信線を放射状に出しこれに虫がふれると飛び出してきて捕らえる。
  Araneidae コガネグモ科
16.Araneus ventricosus L. KOCH オニグモ
  黒色または黒褐色の大型種で、人家附近から山地まで広範囲に住む。
17.Araneus ishisawai L. KOCH イシサワオニグモ
18.Araneus diadematus CLERCK ニワオニグモ
  本種はスカイラブで無重力状態での造網実験に用いられたことで有名である。
19.Araneus pentagrammicus (KARSCH) アオオニグモ
  緑色の美しいクモ。樹間にキレ網を張り、中央から引かれた呼び糸の先にある葉を巻いてその中にひそむ。
20.Neoscona scylla (KARSCH) ヤマシロオニグモ
21.Neoscona mellotteei (SIMON) ワキグロサツマノミダマシ
  和名はサツマの実(ハゼの実)に似ていることから名づけられた。夜網を張り、朝網をたたみ、昼間は葉末などに静止している。
22.Argiope amoena L. KOCH コガネグモ
  全国に最も普通な種で、セミ取りに用いるのはこのクモの網である。年中行事としてこのクモを戦わせて遊ぶ地方があり、鹿児島県の加治木町や高知県の中村市は有名。
23.Araneilla sp. ムツボシオニグモ
24.Zilla sachalinensis (SAITO) カラフトオニグモ
25.Argiope buruennichii (SCPOLI) ナガコガネグモ
26.Cyclosa octotuberculata KARSCH ゴミグモ
  円網を張り、中央に食べかす、塵、脱殻等を縦に連ね、クモはその中に静止すると、見分けがつきにくい。網を張りかえる時はゴミを新居に移す。野外に普通。
27.Cyclosa argenteoalba B■S. et STR. ギンメッキゴミグモ
28.Nephila clavata L. KOCH ジョロウグモ
29.Gasteracantha kuhlii C. KOCH トゲグモ
  吉野川以北では初記録である。
  Tetragnathidae アシナガグモ科
30.Leucauge magnifica YAGINUMA オオシロカネグモ
31.Leucauge blanda (L. KOCH) チュウガタシロカネグモ
32.Menosira ornata CHIKUNI キンヨウグモ
33.Tetragnatha praedonia L. KOCH アシナガグモ
  渓流や池の上、イネの葉等に水平円網を張り、足が長い。
34.Tetragnatha vermiformis EMERTON シコクアシナガグモ
35.Tetragnatha squamata KARSCH ウロコアシナガグモ
  Agelenidae タナグモ科
36.Agelena limbata THORELL クサグモ
  平地から山地にかけて樹間、生垣の間に漏斗状の巣を作る。棚網には縦糸が張られ、これにふれた虫は下のシート網に落ちて捕食される。秋に多面体の卵のうを作り、親はこれを保護する。
37.Tegenaria domestica (CLERCK) イエタナグモ
  家の隅などに棚状の網を張り、その奥に漏斗状の逃げ道がある。
38.Cybaeus nipponicus (UYEMURA) カチドキナミハグモ
39.Coelotes exitialis L. KOCH クロヤチグモ
40.Coelotes luetuosus (L. KOCH) メガネヤチグモ
  以上3種は崖の地面、倒木や石の下等に見られる。
  Oxyopidae ササグモ科
41.Oxyopes sertatus L. KOCH ササグモ
  草間を徘徊し、巧みにジャンプして虫を捕らえる。卵は葉上に生みつけられ親はこれを保護する。近時スギタマバエの天敵として杉の植林に利用されている。
  Lueosidae コモリグモ科
42.Paedosa pseudoannulata (B■S. et STR.) キクヅキコモリグモ
  水田に多く分布し、害虫駆除に貢献している。
  Pisauridae キシダグモ科
43.Dolomedae sulforeus L. KOCH イオウイロハシリグモ
44.Perenethis fascigera (B■S. et STR.) ハヤテグモ
  以上2種は巣を作らず、草間を徘徊し、巧みにジャンプして虫を捕らえる。
  Clubionidae フクログモ科
45.Chiracanthium japonicum B■S. et STR. カバキコマチグモ
46.Clubiona japonicola B■S. et STR. ハマキフクログモ
  以上2種はイネ科植物の葉を折り曲げて産室を作る。子グモは母親の体を食いつくす。親は自己の体を子グモに与えて死んで行く。
47.Trachelas japonica B■S. et STR. ネコグモ
48.Orthobula crutifera B■S. et STR. オトヒメグモ
  以上2種は体長3mmと微小な種で、シフティングによって得られた。
  Anyphaenidae イヅツグモ科
49.Anyphaena pugil KARSCH イヅツグモ
  Heteropodidae アシダカグモ科
50.Micrommata virescens (CLERCK) ツユグモ
51.Heteropoda forcipata (KARSCH) コアシダカグモ
  徘徊性のクモで人家に入りこむこともある。ゴキブリ等を捕らえる。
  Thomisidae カニグモ科
52.Xysticus croceus FOX ヤミイロカニグモ
63.Bassaniana decorata (KARSCH) キハダカニグモ
54.Misumenops Tricuspidatus (FABRICIUS) ハナグモ
55.Oxytate striatipes (L. KOCH) ワカバグモ
56.Misumenops japonicus (B■S. et STR.) コハナグモ
57.Lysiteles coronatus (GRUBE) アマギエビスグモ
  Philodromidae エビグモ科
58.Philodromus aureolus CLERCK コガネエビグモ
59.Philodromus subaureolus B■S. et STR. アサヒエビグモ
60.Thanatus miniaceus SIMON ヤドカリグモ
61.Tibellus tenellus (L. KOCH) シャコグモ
  Salticidae ハエトリグモ科
62.Menemerus confusus B■S. et STR. シラヒゲハエトリ
63.Plexippoides doenitzi (KARSCH) デーニッツハエトリ
64.Carrhotus xanthogramma (LATREILLE) ネコハエトリ
65.Phintella versicoler (C. KOCH) メスジロハエトリ
66.Plexippus paykulli (AUDOUIN) チャスジハエトリ
67.Myrmarachne japonica (KARSCH) アリグモ

 おわりに
 クモはその形態から人に嫌われているが、有害昆虫を捕虫するので、人間生活に利益するところ計り知れない。イネ一株あたり30匹ほどのクモが生息し、毎日害虫を捕食してくれているのを、農薬で駆除することに換算すると多額になる。今後無農薬栽培の必要性が説かれ、クモの研究は人類の将来に必要不可欠のものとなるに違いない。
 採集したクモのうち、主要なものを数種紹介したい。家のまわりや林の中で普通に見られるものである。


徳島県立図書館