阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第39号
三好町のザトウムシ

博物班(徳島県博物同好会)

    冨島啓次1)

 ザトウムシは蛛形綱に属する動物で、真正クモに似ているが、クモとはいろいろな違いがある。まず糸腺がなく、糸を出さない。頭胸部と体節構造をもつ腹部とが幅広く接している。また、非常に長い脚をもつものもあるが、長い脚が、この類の特徴とはいえない。ハエトリグモのように短いものもいる。
 だが、クモのような、たくましい生活力はなく、乾燥に弱く、湿度の安定した、森の中のような環境でなければ生息できないものが多い。
 現在、徳島県では開発が進み、残されている古い森林は少なくなった。三好町でも山間部に至るまで道路が整備され、古い樹林が残っているのは神社の近辺ぐらいになっている。今回の調査では社叢のみを調べたわけではないが結果として、それ以外の所ではほとんど発見できなかった。なお採集できた個体数はいずれの場所でも数匹であった。
 調査は、1992年7〜10月である。ザトウムシ類には幼虫で越冬し、初夏5月頃に成虫となる種もあるので、十分な調査ではないが、この期間の徳島県三好郡三好町のザトウムシの記録として、以下の3科7種を報告する。
 OPILIONES ザトウムシ目
  Phalangodidae アカザトウムシ科
1.Epedanellus tuberculatus Roewer  オオアカザトウムシ
  1992.7.29.増川・三所神社,'92.8.15.柳沢・日吉神社,
  赤褐色で、落ち葉の中にいる。脚の比較的短い種である。
2.Pseudobiantes japonicus Hirst ニホンアカザトウムシ
  1992.8.15.柳沢・日吉神社,'92.10.17.百々路・龍王神社,
  前種とよく似た種であるが、少し小型で体長は4〜5mm である。前者と同様、落ち葉の中にすみ、農薬にも比較的強く、県内でもまだ普通に見られる種である。また、触肢は捕獲型で鋭い爪がよく発達している。
  Sabaconidae ブラシザトウムシ科
3.Sabacon satoikioi Miyosi サトウアゴザトウムシ
  1992.8.15.柳沢・日吉神社,
  この種も落ち葉の中にすむ。リター性のものは農薬に影響されにくいものが比較的多いが、この科では、背甲は柔らかく、触肢はブラシのような形で武装していない。農薬に弱いためか、最近めっきり少なくなっている。三好町でも、ここの1♀のみである。
   Phalangiidae マザトウムシ科
4.Leiobunum japonicum Muller モエギザトウムシ
  1992.7.29.増川・三所神社,'92.7.30.内野,'92.7.31.滝久保・五柱神社,
  '92.10.17.中尾・貴船神社,
  マザトウムシ科に属するものは、脚の長いものが多い。この種も体長は3mm 位であるが、第2歩脚は8cm 余りもある。
5.Nelima nigricoxa Sato & Suzuki ナミザトウムシの一種
  1992.7.30.内野,'92.10.17.中尾・貴船神社,'92.10.17.百々路・龍王神社,
6.Nelima satoi Suzuki サトウザトウムシ
  1992.8.15.男山,
  前種に似て脚長の長い種であるが採集したものはまだ亜成体であった。谷川の水しぶきのかかるような湿った所を好んで生活している。
7.Gagrellula sp.
  1992.7.29.増川・三所神社,'92.8.15.柳沢・日吉神社,
  標高800mくらいの所までにでてくる。隣町の三野町大川山にでる G. distincta と似ているが、全身がほとんど黒く簡単に区別できる。

 ザトウムシの図鑑
鈴木正将 1960 北隆館原色動物大図鑑 第4巻:22〜25.
鈴木正将 1965 北隆館新日本動物図鑑 中巻:347〜355.
 ザトウムシ(盲珠類)の図鑑としては上のものがあるが、いずれも古く、その後かなり種名が変更されている。

1)徳島文理高等学校


徳島県立図書館