阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第38号
半田町の河川漁労

民俗班(徳島民俗学会) 湯浅良幸1)

1.はじめに
 今回の調査は、河川における漁業、とりわけ漁具、漁労方法、漁業慣習等についてを明らかにすることを目的とした。とくに今日の河川漁労は、昔(昭和10年代に限定しても)と比較して大きく様変わりをしている。かつては県下それぞれの河川においてアユ、ウナギ等を主とした専業漁師が存在したが、現在ではそうした人は殆ど見られない。多くが趣味や季節的に出漁する人たちである。
 ダム築造による河川の変容、経済構造及び食生活の変化も河川漁労に大きく影響を与えている。そうしたことは魚種、漁具、漁業慣習にも顕著に見られる。今回は紙数の制約により調査内容についてはその一部しか報告することは出来ないが、他については平成5年に刊行される『徳島県漁業史』にて発表したいと考えている。
 町内には吉野川のほか半田川、高清谷川、東谷川、大惣谷川、大藤谷川等が流れているが、魚労については吉野川以外記述することは少ないので、発表は吉野川に限定した。


2.魚具と漁労
 はじめに昭和10年代吉野川生息の魚類と生息場を調査した貴重な資料を図示したい。生息魚種を調査した資料は少なくないが、生息場所を明示した資料は比較的少なく学術的にも貴重である。生息場の図で水深を表す表示は、吉野川のような大きな河川の場合、魚の生息地点、それはとりもなおさず“魚の住み分け”を示す場所を意味する場合が多い。河川漁労の調査では欠かせないものである。


 ここに表示された魚種は今日と大差のないものではあるが、それでも相違点は見られる。タイワンドジョウ、ブラックバスなどは当時存在していなくて後に吉野川へ流入、繁殖したものである。たとえばハス、ニゴイなどは旧来の魚種を駆逐する勢いでありアユ漁などにも打撃を与えている。漁法も大分変わってきている。とくに禁止漁法、許可漁法のため姿を消したり珍しくなったものもある。
 最近では魚類の住み分けが崩れて、だいたいが渕へ集中する傾向が見られる。アユは川底へのヘドロの堆積や砂利採取により川が汚濁したため川筋の中央部にしかいないという話も聞いた。上記の調査以外の魚でウグイ(ニゴイ)ギギ、ハゼ、エビ、ハス、ブラックバス、タイワンドジョウ、キンギョ、アイカケ(ゼンゴ)、ガナハン(赤ナマズ)、ヒガイ(鰉、コガネジンゾク)等が見られ、その一方ヤツメウナギなどは見かけなくなった。ニゴイなどはアユの稚魚に混って放流されたものが繁殖したものである。

3.主な漁具
 釣り、建網、投げ網、投網、刺網、ハエ縄、瀬張り網、カナツキ、モジ、ハイビン、オケブセ、ジュズ釣り、シャクリ、石タタキ等があるがハイビン、ジュズ、石タタキ(ゲンノウタタキ)は見られなくなった。許可漁法については魚具、魚種によって許可条件が決められているが、詳細については省略したい。網、釣り、モジ等については漁法も多く当然魚具の種類も多い。たとえばモジをみても主としてアユ、ウナギ、カニをとるが、形も大小があり材質もタケ、針金、プラスチック、板、ヤナギ等を使い、すべて漁師の手づくりであった。かつてはサオ、ウキ、シャクリ、ビク、オモリ、箱メガネも同様であり、網、タモ、カナツキも業者から購入するほかたいてい村内に器用な人がいてそれらの人に製作を依頼していた。そのためモジ、タモなどの大きさ、材質、技法にも著しい差があり、これが模式的なものである、というものを特定出来なかった。たとえば写真で紹介したモジを見ても5種類の材料を使い大きなものは長さ2m に及ぶものがあり小さなものは 40cm 程度のものもあった。それらのすべては計測、撮影してあるが、稿では繁雑過ぎるので意識的に割愛した。

 特殊な漁法 これらは公然として行れたものでないため禁止漁法というべきかも知れない。サンシヨの皮、葉、アセビ、アオキの皮をすりつぶして川へ流すとウナギ、魚が浮きあがる。ゲラ(どの植物か未確認)の皮、葉を強く踏むと汁が出る。それを川へ投入する。葉藍を槌でたたいて砕いたものを川へ流すと魚が浮く。
 カニ漁 大きく分けてジュズ、オトシモジ、メカゴ、ヤヤがある。ジュズはやや大きなミミズを数十匹糸に通して束にする。それを2m ほどのタケの先端にくくりつけ川が濁ったときカニのいそうな所でゆっくり動かす。カニはミミズの匂いに誘われジュズにくいつく。
 オトシモジはオンナダケ(メダケ)を 3.3m くらいに切りそろえラッパ(筒)状に強く束ねる。口のみを開けてここから入ったカニは外へ出れない構造となっている。メカゴ、ヤヤ(胴丸状)はそれぞれモジに石を乗せて流れないよう川底へ沈める。夕方に沈めて翌朝引き上げる。餌はサナギ、サケカスミソなどがよく、そのままではすき間から流出するのでネンドと混ぜて団子にしておく。現在ウナギモジは使われているが、カニ漁する人は珍しくなっている。
 今回の調査に当たって大川清(90歳)、川口彰一(77歳)、森本正明(72歳)、林武信(73歳)、森本■(67歳) 市村計美(65歳)、岡本勇(63歳)、西尾武明(70歳)、安達定善(60歳)、篠原俊次、青本幾男(写真撮影)の各氏及び半田町教育委員会の皆様方にはたいへんお世話になりました。心から御礼申しあげます。


徳島県立図書館