阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第38号
半田町における過疎実態と住民意識

徳島社会学班(徳島社会学会)

 桂啓人1)・長澤寛二2)・近藤孝造3)

 はじめに
 地方の時代と言われて久しいが、現在でも「過疎」は着実に進行している。これまで鈍化傾向を示していた過疎地域の人口減少率も1985年から1990年の5年間には5.6%と再び拡大の方向に転じた。過疎とは、人口の急激な減少により地域社会の基盤が変容し、生活水準及び生産機能の維持が困難になることであり、放置すれば自治体の衰退のみならず、地域住民の日常生活に重大な支障をもたらすことになる。それゆえ、過疎対策としてきめ細かい具体策を提示していく姿勢が必要である。半田町も例外ではなく激しい過疎の波にさらされており、早急な施策が迫られている。本研究は半田町の協力を得て、過疎実態の調査のみならず、過疎対策の具体的資料を提供することを目的として行われたものである。
 このような過疎の現状にかんがみ、最初に、過疎実態を客観的に把握するために主として2つの方法を用いた。まず第一に、過疎化の構造を要因モデルによって明らかにしようとした。先行研究として、満田久義氏の過疎構造モデル(1)を参考にさせていただいた。第二に、過疎の実態を数量的にとらえるために過疎の現状を示す幾種類かの尺度を設定し過疎指標とした。この過疎指標を用いて主成分分析を行い県下各市町村の過疎度を測定するとともに、半田町の相対的位置を明らかにしようとした。
 次に、過疎についての意識を把握することを目指しアンケート調査を行った。調査は、半田町在住の方及び半田町出身の町外の方に対して郵送法により実施した。人口流出の実態を把握するためには、実際に町を去っていった方々の意見がぜひとも必要であると考えたからである。アンケートの項目は、主として半田町に対するイメージ、郷土愛、移転の理由、過疎対策として特に半田町に望むことなどである。これらの項目を調査することでより多角的な観点から過疎についての住民の意識に迫れると考えたからである。

 第I部 過疎構造の計量化
1.過疎要因モデルの設定
 過疎現象の要因の分析と実態調査は、これまで多くの研究がなされ、また行政も様々な施策を講じて対処してきた。ここでは、過疎化がいかなる要因で生起するかをモデルによって明らかにしようとし、要因モデルを設定した。
 過疎現象は、直接的には農山村における人口流出によってもたらされる。ここでは、人口流出の要因を都市側のプル要因と農山村におけるプッシュ要因とに分ける。プル要因とは、労働力構造の変化と、収入・就業機会・福祉水準の都市と農山村との地域格差などである。これは総称として産業化・都市化の進展と呼ばれるものである。一方、プッシュ要因は、(1)経済的要因(農山村の経済活動水準の低下など)、(2)社会的要因(農山村の社会活動水準の低下など)、(3)人口的要因(出生率の低下など)、(4)社会意識的要因(地域社会の環境悪化による住民意識の低下など)に分けられる。住民意識の低下は、経済的・社会的・人口的要因によってもたらされる。社会意識的要因が、共同体への愛着を薄れさせ、ムラの将来に対する悲観的態度を増殖し、あるいはマチヘの憧れを生み出しムラからの離村行動を誘発すると考えられる。ここまでに述べたことを、図で示したのが下のものである。
 図1においては、先行研究である満田の過疎現象の要因モデルに含まれるプッシュ・プル要因の区別などの基本的構図は、そのまま受け継いだが、満田のモデルでは、プッシュ要因内の下部要因間の関係が不明瞭なので、下部要因に社会意識的要因などの名称を付けた。

2.過疎指標の収集
 上記の過疎化の要因モデルに基づいて過疎構造を計量化し、徳島県の過疎実態を探るために、県下50市町村に対して表1に示す12の過疎指標算出用データを準備した。過疎指標用データの収集は(1)人口的要因、(2)生産的・経済的要因、(3)社会的・文化的要因の3つのセクターから行った(2)。なお、社会意識面におけるデータを収集することはできなかったが、後のアンケート調査でこの点は明らかにされる。

3.主成分分析による過疎度の測定結果
 選択された12の過疎指標算出用の変量の相関行列を用いて、主成分分析を行い過疎に関する情報をできるだけ多く含む総合指標(主成分)を作成し、それによって過疎構造を定量的に明らかにしようとした。主成分の計算方式としては、相関係数の2乗の最大化を用いた(3)。分析の結果、第1主成分の固有値は7.70961で比率(寄与率)は64.25%であった。計算された第1主成分が何を意味しているかは標準化された変量Zの係数の符号と絶対値の大きさによって解釈できる(表2参照)。そこで、表2を見ると第1主成分との正の高い相関を示す指標は、C3「老年人口指数」、C11「林野率」、C2「人口減少率」、C7「第1次就業者比率」、C4「死亡率」であるから、これら5つの指標を解釈すると、すべて「過疎地域の構造的特性を示す指標」であり、係数が大きいほど過疎であることを示す。したがって過疎指標と言える。一方、負の高い相関を示している指標は、C8「財政力指数」、C1「人口密度」、C6「出生率」、C14「犯罪率」、C10「集落医療水準」、C12「交通事故発生率」、C16「水道普及率」であるから、これら7つの指標を解釈するとすべて「非過疎(過密)地域の構造的特性を示す指標」であり、したがって非過疎指標と言える。

 

 (注1)資料出所
 〈水道普及率〉は「徳島県市町要覧平成2年」〈犯罪率〉は「徳島県警調査資料平成2年」上記2つ以外の指標は「市区町村の指標平成2年」による。
 (注2)計算式
 第1次就業者比率=第1次産業就業者数/全産業就業者数、財政力指数=基準財政収入額/基準財政需要額で昭和59年度〜昭和62年度の3か年平均、集落医療水準=診療施設数/総集落数、犯罪率=犯罪件数/人口(千人あたり)、交通事故発生率=交通事故発生件数/道路実延長、水道普及率=〔{(上水道+簡易水道+専用水道+飲料水供給施設)給水人口}/{住民基本台帳(H2.3.31)+外国人登録人口)〕×100

 このZの係数の分析結果から第1主成分は「過疎」ないしは「非過疎」を示す総合指標と考えられるので、これを「過疎総合指標」と名付ける。主成分の解釈については、変量プロットの分布状況も補助的に用いた(図2参照)。


 このように過疎総合指標は、過疎構造を定量的に示しているのでこれを尺度として対象市町村を過疎地域と非過疎地域とに区分してみる。
 過疎総合指標は、12の過疎指標の重み付き平均で表されるので、i番目の市町村の第1主成分(過疎度)の得点は、fi = CiZi1+C2Zi2+・・+C12Zi12 で計算する。
 各市町村の過疎総合指標に基づく得点を「過疎得点」とする。次に、50市町村の主成分得点に基づき「重過疎地域」「準過疎地域」「準都市地域」「都市地域」に分けた(4)。その結果、表3からわかるように半田町は、重過疎地域に位置づけられ県下でも11番目の過疎地であり、その状況が深刻であることがわかる。
これをプロットしたのが図3である。

第II部 アンケート調査の分析
1.アンケート調査実施の概要
 ア 調査方法 郵送による質問紙法
 イ 対象   半田町に居住の方と半田町出身の町外居住者の方
 ウ サンプルの抽出方法と回収結果(表4)


  抽出方法
 (1)町内居住者
   選挙人名簿から無作為抽出。
 (2)町外居住者
   阿波半田ふるさと会会員(その7割は京阪神在住。)から200名、町出身者名簿から100名無作意抽出。
 エ データの採用
   回収結果は上の表の通りであるが、回答に不備のあるものはデータとして採用しなかった。
 オ 調査結果の分析
   分析の視点としては、主として次の2点を重視した。
  a 半田町内居住者と町外居住者間における意識の差を明確にすること。
  b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者の意識の差を明確にすること(5)。

2.クロス集計表による分析
1 半田町に対するイメージ
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 半田町に対するイメージを「温かい」と答えた人は町内居住者(44.9%)よりも町外居住者(68.3%)に多い。町外居住者は「温かい」と答えた割合が最も高いのに対し、町内居住者は「どちらとも」いえないと答えた割合が最も高い(49.6%)。「冷たい」と答えた人は町内居住者にごく少数(5.5%)みられただけである(表5参照)。


 「好きな」と答えた人も町内居住者(45.7%)よりも町外居住者(72.5%)に多く、町内居住者「どちらとも」いえないという回答が多くみられた(45.7%)。「嫌いな」と答えた人は、総じて少ない(5.7%)(表6参照)。


 よって、町外居住者の方が,町内居住者よりも半田町に対してプラスのイメージを持つ傾向にある。
 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 「温かい」というイメージを持つ人は、移転希望者(31.3%)よりも永住希望者(53.3%)の方が多い。永住希望者は「温かい」と答えた割合が最も高いのに対し、移転希望者は「どちらとも」いえないと答えた割合が最も高い(60.4%)(表7参照)。


 「好きな」というイメージを持つ人も、移転希望者(30.6%)よりも永住希望者(56.8%)の方が多い。永住希望者は「好きな」と答えた割合が最も高いのに対し、移転希望者は「どちらとも」いえないと答えた割合が最も高い(51.0%)(表8参照)。


 「面白い」と答えた人は永住希望者(12.7%)、移転希望者(4.1%)とも少なく、「どちらとも」いえないと答えた人が永住意志保持者(77.5%)、移転希望者(55.1%)とも最も多い(表9参照)。


 「自由な」というイメージを持つ人は、移転希望者(18.0%)よりも永住希望者(37.0%)の方が多い。「どちらとも」いえないと答えた人が永住希望者(46.6%)、移転希望者(42.0%)と最も多い(表10参照)。


 よって、永住希望者の方が、移転希望者よりも半田町に対してプラスのイメージを持っていることがわかる。移転希望者の回答は、どの項目に対しても「どちらとも」いえないが最も多い。

2 郷土愛
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 半田町に「郷土としての愛着」を〈感じている〉(「感じる」と「やや感じる」の合計。以下同じ。)人は、総じて多い(85.1%)。町内居住者と町外居住者の内訳は、それぞれ78.8%と91.9%で、愛着を〈感じている〉人は町内居住者よりも町外居住者に多くなっている。愛着を「感じる」と答えた人についても、町内居住者(48.9%)よりも町外居住者(76.6%)に多い(表11参照)。


 したがって、町外居住者の方が、町内居住者よりも半田町に対して郷土愛を持つ傾向にある。
 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 半田町に「郷土としての愛着」を〈感じている〉人は、移転希望者(58.5%)よりも永住希望者(91.4%)の方が多くなっている。また、愛着を「感じる」と答えた人も、移転希望者(25.5%)よりも永住希望者(63.4%)の方が多い。愛着を〈感じてない〉(「余り感じず」と「全く感じず」を合わせたもの)と答えた人は、永住希望者(8.5%)に対して移転希望者(41.2%)はかなり多い(表12参照)。


 したがって、永住希望者の方が、移転希望者よりも半田町に対して郷土愛を持つ傾向にある。

3 劣等感
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 半田町が「都会と比べて劣っている」と〈感じている〉(「感じる」と「やや感じる」の合計)人は、多くなっている(77.2%)。町内居住者と町外居住者の内訳は、それぞれ79.7%と63.9%で、劣等感を〈感じている〉人は町外居住者よりも町内居住者に多くなっている。劣等感を「感じる」と答えた人についても、町外居住者(41.2%)よりも町内居住者(57.9%)の方が多い(表13参照)。


 したがって、町内居住者の方が、町外居住者よりも都会に対する劣等感を感じる傾向に

4 半田町の「昔」と「今」を比べると
 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 〈現在肯定派〉(「やや今よし」と「今がよい」の合計)は、〈過去肯定派〉(「昔がよい」と「やや昔よし」との合計)よりは多い(前者58.7%、後者23.7%)。〈現在肯定派〉は永住希望者の69.1%を占めるが、移転希望者では42.0%となっている。また、永住希望者は「今がよい」と答えた人が最も多い(35.8%)のに対し、移転希望者は「どちらとも」いえないと答えた人が最も多い(28.0%)(表14参照)。

5 町の将来
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 半田町の将来については、当分「現状のまま」が続くと答えた人が最も多い(43.6%)。「さびれる」と答えた人は、町外居住者(18.0%)よりも町内居住者(45.8%)の方が多い。町内居住者では「さびれる」と答えた人が最も多く、「現状のまま」(38.7%)、「繁栄する」(9.9%)と続くが、町外居住者では「現状のまま」(49.2%)と答えた人が最も多い(表15参照)。


 したがって、町内居住者の方が、町外居住者よりも町の将来に対して悲観的であるといえよう。
 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 永住希望者の回答では当分「現状のまま」が続くというものが44.3%で一番多く「さびれる」(42.0%)、「繁栄する」(12.5%)と続く。移転希望者は「さびれる」(52.0%)が最も多く、「現状のまま」(30.3%)と続く(表16参照)。


 したがって、移転希望者の方が、永住希望者よりも町の将来について悲観的であるといえよう。

6 転居理由
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 「高所得が得られないから」という理由に対して
 〈思う〉(「そう思う」と「やや思う」との合計)と答えた人は、総じて多い(90.0%)。町内居住者と町外居住者の内訳は、それぞれ95.0%と84.1%で、町外居住者よりも町内居住者の方が多くなっている。また、「そう思う」と答えた割合は町内居住者が73.6%、町外居住者が47.1%と大きな差がでている(表17参照)。


 したがって、町内居住者は、町外居住者よりも経済的な問題を転居理由とみる傾向があることがうかがえる。
 「都会にあこがれるから」
 〈思う〉(「そう思う」と「やや思う」との合計)と答えた人は、町内居住者(52.9%)より町外居住者(68.0%)の方が多い(表18参照)。


 したがって、町外居住者は、町内居住者に比べて転居理由を都会への憧れに求める傾向がある。
 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 「近所つきあいが面倒だから」という理由に対して
 〈思う〉(「そう思う」と「やや思う」との合計)と答えた人は、総じて少ない(6.7%)が、永住希望者(15.3%)の方が移転希望者(36.0%)よりも少なくなっている(表19参照)。


 「親戚・知り合いが町外にいるから」という理由に対して
 〈思う〉(「そう思う」と「ややそう思う」との合計)と答えた人は、総じて少ない(23.8%)が、永住希望者(19.1%)の方が移転希望者(32.0%)よりも少なくなっている(表20参照)。

7 過疎対策
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 過疎対策として町内居住者はおもに「企業誘致」(44.0%)、「地場産業の育成」(14.9%)、「国道・県道の整備」(14.9%)と答えている。町外居住者はおもに「地場産業の育成」(43.3%)、「企業誘致」(30.8%)、「観光・リゾート開発」(10.0%)と答えている(表21参照)。


 「企業誘致」への期待は町外居住者に比べと町内居住者に多く、逆に「地場産業の育成」への期待は町内居住者に比べて町外居住者に多い。「住民の福祉の向上」や「国道・県道の整備」は町対居住者に多くなっている。「農林業の振興」や「観光・リゾート開発」は、余り期待されていない。

3.数量化理論による分析
 本節では、過疎現象による外部環境の変化が地域住民の社会生活や価値観・行動様式にどのような影響をおよぼしているかを解明し、個人においてこれらがどう意識されているかを分析する。とくに多変量間の関係を数量的手法によって定量的に明らかにし、社会意識相互の関連をより詳細に把握するために数量化理論を採用して分析を行う。
 一般にアンケート調査の回答などの質的データは互いに関連しあって何らかの定性的な特徴を全体としてのかかわりの中でもっていると考えられる。しかし、通常はこの定性的な特徴は把握しにくいものである。そこで質的データを定量的なデータに変換することにより、定性的な面もかなり明白に把握されることが期待できる。数量化理論は、この定性的な特徴を定量的な数値に変換する手法の総称である。ここでは、種々ある数量化理論のうち最もポピュラーな林の数量化理論の内の2類と3類を用いて分析した。
 数量化理論2類は、サンプルが属するグループをもっともよく判別するように複数の質的データ(説明変量)のカテゴリーに数値を与えようとする方法であり、量的データで用いられる判別分析を質的データに応用したものとよべる手法である。2類では、質的データの判別への貢献度はアイテム・スコア(係数)として数量化される本節では、町内居住者と町外希望者の各グループ、永住希望者と移転希望者の各グループの違いの原因をさぐるために用いている。
 数量化理論3類は、変量とサンプル間にある種の相関関係を定義し、それを最大にするような内的規準を設定し、似たようなパターンをもつ変量どうしには似たような数量を与え変量間の関係を把握しようとする手法であり、質的データと量的データの差はあるが、第I部で用いた主成分分析とよく似た性格をもつ手法である。また、同じことをサンプル間でも行えるが、スペースに限りがあるため、本節では変量間の関係をさぐるために用いた。
 このように数量化理論は、質的データがもつ定性的な情報からできるだけ有効な情報を取り出すことを目的とする解析法である。
1 半田町に対するイメージ
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 半田町に対する「イメージ」について、カテゴリー間の関係を探るために、林の数量化理論3類を用いてみた。回答のあったカテゴリーを反応ありとし(1)を入力、回答のなかったカテゴリーは反応なしとして(0)を入力して処理した。次に、町内居住者と町外居住者とのイメージの差をみるために、この2つのカテゴリーを加えて各カテゴリーの相関を求めた。各変量のカテゴリースコアをまとめたのが(表22)であり、これをわかりやすいようにプロットしたのが(図4)である。なお、各カテゴリーの名称は表22を参照してほしい。


 ここで、横軸は、右にいくほど町内居住者に多いイメージ、左にいくほど町外居住者に多いイメージと解釈できる。「5.冷たい」、「11.嫌いな」、「14.つまらない」などが町内居住者と相関が高いイメージである。さらに、町内居住者と相関が高いカテゴリーの間に「冷たい−嫌いな」、「つまらない−不自由な−貧しい」の2つのグループがみられるのがわかる。町外居住者と相関が高いカテゴリー間にも、「豊かな−面白い」、「自由な−温かい−好きな」の2つのグループがみられる。総体的にみてプラスイメージが町外居住者に多く、マイナスイメージが町内居住者に多い。これは、クロス集計分析によってもある程度明らかにされたことであるが、町内居住者の方が半田町をより厳しい、現実的な眼でみていることを示している。逆に、町外居住者は、年齢が比較的高い層であることもてつだって、「故郷は遠きにありておもうもの」式の甘い評価が多いか、あるいは半田町を離れて半田町のよさを再確認したものと予想される。
 縦軸は、「冷たい−嫌い−豊かな」がプラスに、「どちらともいえない」の多くがマイナスに属していることから、「はっきりしたイメージとあいまいなイメージ」の対立を表している軸と考えられる。
 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 次に、永住希望者と移転希望者のある人とのイメージ(各カテゴリー)差の比較を数量化理論3類を用いて同様の方法で行ってみた(表23.図5参照)。同じ町内でも移転希望者は「嫌いな−つまらない−冷たい−不自由な」というイメージに相関が強く、永住希望者は、「面白い−豊かな−自由な−好きな−温かい」というイメージを強くもっているのがわかる。半田町から出ていこうとしているかいないかの社会意識の差は、個人の半田町へのイメージの違いに明瞭に現れている。

2 郷土愛、劣等感、「今と昔」の比較、町の将来
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 次に、郷土としての半田町に対する評価をきいてみた。「3.郷土愛」、「4.劣等感」、「5.今と昔の比較」、「6.町の将来像」の各アイテムを同じ数量化理論3類で比較してみた。ただし選択肢が異なるので、「今と昔の比較」では「今がよい」、「やや今がよい」とする回答を反応あり(1)とし、その他の項目への回答を反応なし(0)として処理した。「町の将来像」については「ますます繁栄する」、「現状のまま」を反応あり(1)とし、その他の項目を反応なし(0)として処理した。「町内−町外」の比較では、町外居住者に半田町に対して楽観的な評価をする人がが多いといえる(表24、図6参照)。


 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 「永住−移転」の比較では、永住希望者に今の方がよいとし、町の将来を悲観的に考えず、郷土愛の強い人が多い。また、今の方がよいと考えることと、郷土愛を感じることは町内の人においては殆ど同じ意味グループを形成している(表25、図7参照)。


 さらに、「永住−移転」を外的基準として数量化理論2類(質的データの判別分析)を行ったところ、判別に最も貢献しているアイテムは「郷土愛」(レンジ3.284)であり、カテゴリーでは郷土愛を「感じる」、「やや感じる」が永住意志に貢献している。次に、判別に貢献しているのは「劣等感」(レンジ1.218)であり、カテゴリーでは劣等感を「全く感じない」が永住意志に貢献している(表26参照)。数量化理論2類では判別に大きく貢献しているアイテムのレンジは大きく、カテゴリ・スコアの絶対値が大きいカテゴリーほど大きな影響を与えていることがわかっている。

3 転居理由
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 転居理由に関しては、各アイテムヘの「そう思う」、「ややそう思う」の回答を反応あり(1)とし、「余り思わない」、「全く思わない」の回答を反応なし(0)として数量化理論3類で処理した(表27、図8参照)。町内居住者が「5.つきあい面倒」と相関が高い程度で、町内居住者と町外居住者との間にそう明確な関係はみいだされなかった。縦軸を基準とすると、転居理由間に、文化・生活関連(「10.医療施設少し」、「11.娯楽施設少し」、「9.文化施設少し」)グループ、社会関係関連(「8.町外に親戚」、「7.配偶者少し」、「5.つきあい面倒」)グループ、経済関連(「12.交通不便」、「3.低所得」、「4.職場なし」)グループという3つのグループが形成されているのがわかる。


 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 数量化理論3類でみてみると、移転希望者があげる転居理由には社会関係関連(「5.つきあい面倒」、「8.町外に親戚」)、生活関連(「10.医療施設少」、「11.娯楽施設少」)が多く、永住希望者は経済関連(「3.低所得」、「4.職場なし」、「12.交通不便」)の理由をあげる人が多いが、相関はあまり高くない(表28、図10参照)。数量化理論2類を用いた分析でも、判別に最も貢献しているのは「8.町外に親戚」(レンジ2.178)、「5.つきあいが面倒だから」(レンジ1.226)、「7.配偶者が少し」(レンジ1.134)という社会関係・人間関係の要因である。回答の絶対数としては最大の「3.低所得だから」(レンジ1.500)の回答も無視できないが、「永住−移転」の意志決定の違いに貢献しているのはとくに人間関係の影響が大きいことが、以上の2つの分析から指摘できよう(表29参照)。

4 過疎対策
 a 町内居住者と町外居住者との比較
 同じく数量化理論3類によって各アイテム間の関係を考察してみた。過疎対策としては、町内居住者は「6.住民福祉向上」、「7.国道・県道の整備」の生活関連の対策、「8.観光・リゾート開発」、「3.企業誘致」の外資導入による開発を期待しており、現実的で生活に密着した対策を望んでいるといえよう。他方、町外居住者は「4.地場産業の育成」、「5.農林業の振興」に相関が高く、町の自助努力による個性豊かな町づくりを期待しているといえよう(表30.図10参照)。ただし、クロス集計表をみればわかるように、「農林業の振興」を過疎対策としてあげた回答の絶対数は少なく、このアイテムに関してはデータとして余り客観性はないといえる。


 b 半田町内居住者の中で永住希望者と移転希望者との比較
 町内居住者間の比較を数量化理論3類で行ってみると、移転希望者があげる過疎対策は「5.農林業の振興」、「8.観光・リゾート開発」と相関が高く、やや現実性に乏しいといえる。永住希望者は「4.地場産業の育成」、「6.住民福祉の向上」、「3.企業誘致」に相関が高く、現実的な対策を希望しているのがわかる。したがって、町外居住者よりも、町内居住者のほうが、また移転希望者よりも永住希望者のほうが行政に対して、現実的なニーズをもっているといえよう(表31、図11参照)。

 まとめ
 われわれは、過疎化による地域解体に対処しうる地域社会の可能性を探るために、(1)過疎地域の構造、とくに、その人口・経済・社会・財政の諸側面での構造的特質を定量的に解明することをめざして、「過疎現象の要因モデル」を提示するとともに、主成分分析法によって「過疎総合指標」を求め、過疎地域の分析を行った。次に、(2)過疎地域の現状と様態を解明するために、半田町住民および出身者にアンケート調査を実施し、クロス集計による2変量間の分析を行った。その際主として、「町内居住者と町外居住者」、「永住希望者と移転希望者」の意識の差を明確にするという2つの視点からその様態を把握しようとした。さらに、(3)これを受けて、多変量間の関係を数量的手法によって定量的に明らかにし、過疎現象による外部要因の変化が地域住民の郷土へのイメージや愛着度あるいは将来像にどのような影響をおよぼしているかを解明し、個人においてこれらがどう意識されているかを分析した。これらの分析によって、半田町における過疎の実態がより詳細に解明された。最後に、過疎対策として二三の提言も試みたい。
 まず、確認されたことは、半田町の過疎の実態が厳しいものであることである。そして、20歳未満で町を去った人々が59.0%を占めていることから、この過疎を引き起こした最大の要因は、中学校卒業時もしくは高校卒業時の都会への流出であることがわかった。これは、われわれの「過疎化の構造要因モデル」でも予想されていた事実である。
 次に、明らかになったのは、住民の多くが望んでいることは、高所得が得られ、より適当な職場が得られる環境であった。つまり、過疎問題に抜本的に取り組もうとすると雇用を創出することが先決であり、町づくりの基礎は経済的条件の整備にあるといえる。
 さらに細かく、住民の意識の分析結果をみてみると、移転希望者の半田町へのイメージは永住希望者のそれと比較すると、暗い・マイナスイメージが強くでていることがわかった。移転希望者をひきとめるには半田町をより魅力ある町として活性化していく必要があろう。また、移転希望者と永住希望者の転居理由で大きな違いがみられるのは、社会(人間)関係の要因であった。移転希望者に人間関係を気にする人が多いことから、過疎対策の一つとして、豊かな人間関係の育つ町づくりも望まれよう。

 謝辞
 本調査の実施については、半田町役場総務課課長補佐・篠原俊次氏はじめ関係者の方に御多忙のところ便宜をはかっていただいた。また、調査結果の分析については「LOTUS 1-2-3 活用 多変量解析」(オードマン株式会社)等を用いたが、オードマン株式会社室長・長谷川勝也氏はじめスタッフの方に分析の手順等指導いただいた。記して深く感謝の意を表したい。
(注)
(1)満田久義『村落社会体系論』ミネルヴァ書房、1987、116−123ページ。
(2)徳島県総務部地方課『徳島県市町村要覧』財団法人 徳島県市町村振興協会、1991。総務庁統計局『市区町村の指標』財団法人 日本統計協会、1990。
(3)石原辰雄他『LOTUS 1-2-3 活用」多変量解析 共立出版、1990、124−140ページ。
(4)地域の区分は、過疎得点によって次のように行った。
 1 重過疎地域:過疎得点が1.50以上の15市町村
 2 準過疎地域:過疎得点が0.20〜1.50の14市町村
 3 準都市地域:過疎得点が−2.50〜0.20の13市町村
 4 都市地域:過疎得点が−2.5以下の8市町村
(5)調査票の問8−1とのクロス集計結果。ただし、この設問の選択枝の「1.これからもずっと住み続けたい」を選んだ人を永住希望者(89人、62.7%)とし、「2.当分は住み続けたい」、「3.できれば町外へ移転したい」、「4.ぜひ町外へ移転したい」、「5.どちらともいえない」を選んだ人を移転希望者(53人、37.3%)として分析した。

1)城北高校 2)徳島市立高校 3)徳島工業短期大学


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