阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第38号
半田町住民の栄養調査

医学班(徳島医学会)

 新居佳孝・合田展子・権美那・酒井徹・

 川口泰広・前川敬世・中川雅子・

 岡村真理子・小川祐代・鍛治川知子・

 河上洋子・郡俊之・野神琴子・

 三輪仁美・遠藤マツヱ・小川久子・

 坂井堅太郎・水沼俊美・森口覚・

 岸野泰雄1)

 我々医学班は阿波学会総合学術調査の一環として農村医学班の調査と並行して半田町住民の栄養調査を実施した。半田町は、徳島市から西へ約 52km、吉野川中流域南岸に位置し、占野川沿岸沖積地、町の中央部を南北に貫流する半田川下流域に広がる平坦部および集落、耕地の点在する山間部の3地形から構成される農山村である。
 また、温暖多雨な気候で豊富な水に恵まれていることから、産業は農業が主体で、特産物には半田そうめん、あたご柿、こんにゃく、茶などがある。
 今回、ここに在住する住民の食物摂取量、生活時間、みそ汁塩分濃度及びアンケート調査を実施し、興味ある結果を得たので報告する。
〈調査方法〉
1)対象
 徳島県美馬郡農協半田支所および八千代支所に加入している農業従事者のうち、男性59名、女性61名、計120名に対して栄養調査を実施した。年齢は40歳代から70歳代まで、平均年齢は男性57.1±7.3歳、女性55.4±7.6歳であった。
2)期間
 平成3年7月30日から8月2日までの4日間にわたり実施した。
3)調査項目
 a)栄養素摂取量
 調査を行う数日前に食事調査表を各自に配布し、調査の前日に摂取した食物の種類と目安量を記入してもらい、調査日に持参するように依頼した。調査日には個々の面接により食品モデルを提示し、各自が記入した食品目安量を調査員が再確認した上でグラム数に換算した。栄養素摂取量および食品群別摂取量などの算定にはパーソナルコンピューター(日本電気 PC−9801RA)を使用した。
 b)生活時間調査
 食事調査日の生活時間を記入してもらい、面接時に調査員が不明確な点を再確認し、生活時間の算定を行った。消費エネルギーは沼尻らの方法を用いた。各労作の活動代謝は以前の報告と同様の値を用いた。
 c)みそ汁の塩分濃度
 調査日に持参してもらったみそ汁について、堀場製作所製のHS−7食塩濃度計により塩分濃度を測定した。
 d)アンケート調査
 アンケート用紙を各自に配布して記入を依頼し、面接時に調査員が不明確な点をもう一度確認したうえで、各回答を得た。
〈結果および考察〉
1)半田町住民の食糧構成
 半田町住民の食品群別摂取量は、「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)を100%として図1に示した。穀類、いも類は目安量をやや下回る程度であったが、油脂類はかなり低い値を示した。たん白質源である豆類、卵類、乳類、魚類は目安量を充たしていたが、肉類は目安量を下回った。緑黄色野菜は、夏場でトマトなどを多く食べていたこともあり、果実類、淡色野菜類とともによく摂取されていた。しかし、小魚・海草類は目安量を下回っており、特に女性ではかなり低い値を示した。
2)年齢別にみた食品群別摂取
 「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)を100%として各食品群別の摂取量を40歳代、50歳代、60歳以上に分けて検討した。穀類の摂取は、40歳代、50歳代で女性が男性より低い傾向がみられた(図2)。いも類では、40歳代、50歳代では目安量の50%程度しか摂取していなかった(図3)。砂糖類は、各年齢で女性が男性よりも高い摂取傾向を示したが、全体的にわずかしか摂取されていなかった(図4)。油脂類は、各年齢とも摂取量が低く、特に40歳代、50歳代では目安量の半分にも達していなかった(図5)。
 たん白質源のうち、豆類は、各年齢ともほぼ充足されていた(図6)。魚類は、40歳代、50歳代の男性で目安量を下回っていた(図7)。肉類は、女性の摂取量が各年齢とも低く、特に40歳代ではきわめて低い値を示した(図8)。卵類は全体的によく摂取されており(図9)、乳類も、60歳以上の女性で目安量をやや下回っていた以外はよく摂取されていた(図10)。
 ビタミン源である淡色野菜は、40歳代の男性で摂取量がやや少なかったが、緑黄色野菜は各年齢でよく摂取されていた(図11、12)。また、果実類は40歳代で目安量の半分程度であったが、50歳代、60歳以上では、全体的によく摂取されていた(図13)。
 ミネラル源である小魚・海草類は、40歳代、50歳代で摂取量が低く、その結果全体として摂取量が低くなっていた(図14)。
3)栄養摂取量
 日本人の栄養所要量(第4次改訂)を100%としたときの半田町住民の平均栄養摂取量の比率(%)を図15に示した。脂肪の摂取はかなり低く、そのため、脂肪エネルギー比は低い値を示したが(図29)、全般的によく充足されており、たん白質もよく摂取されていた。また、ビタミンCは緑黄色野菜の摂取が多かったためか、きわめて高い値を示した。
4)年齢別にみた栄養摂取量
 栄養素摂取状況においては年齢の違いによる差はあまり見られず、どの栄養素も比較的充足されていた。しかし、カルシウム、ナイアシンの摂取において40歳代および60歳以上の女性で所要量を下回った(図21、26)。男女間の比較では、鉄が各年齢とも女性は男性に比べ低く,所要量を下回った(図22)。
5)みそ汁の塩分濃度
 図30は、みそ汁の塩分濃度を測定し、その濃度の度数分布を示したものである。塩分濃度は、男女とも0.8〜1.0%をピークに、全体の45%以上の人が推奨濃度である1.0%を越えているにもかかわらず、アンケート調査の結果では殆どの人が自分の家のみそ汁を塩辛いと思っておらず、栄養指導の必要性が考えられる。また、実際の食塩摂取量は平均約 11.7g で全国平均とほぼ同じであるが、厚生省の推奨値である 10g 以下よりは多く、指導による改善が望まれる。
6)アンケート調査結果
 食物摂取調査は1日の結果であるので、食生活の全貌をとらえるべく、栄養意識および食物摂取頻度について調査した(図31)。食品の組合せを考えている人は、女性が男性の3倍近く多く、やはり女性の方が栄養意識は高いと考えられる。緑黄色野菜をよく食べると答えた人が多かったが、これは実際の調査結果と一致していた。間食をする人は、女性で多くみられたが、欠食する人は少なく、全般に良好な結果であった。
〈まとめ〉
 半田町住民の食生活は、食品群別摂取量、栄養素別摂取量ともによく充足されており、大きな問題となるような過剰摂取もみられなかった。しかし、油脂類については、40歳代、50歳代の男女で特に低く、そのため脂肪エネルギー比も低くなっている。したがって、もう少し油を使った料理を増やすなどの工夫が望まれる。農村地区では、たん白質が不足しがちであるが半田町では、そのような傾向はみられなかった。これは、魚類、乳類、卵類、豆類がよく摂取されていることによると思われるが、乳類の摂取については、多い人と少ない人との差が大きかったため、摂取の低い人は乳類を摂るように心がけることが望ましい。また、小魚・海草類は、女性の摂取が低く、カルシウム摂取の点からも摂取量を増やす必要がある。
 野菜類は、夏場ということもあってよく満たされていた。とくに、緑黄色野菜については十分に摂取されており良好な結果となった。
 食塩摂取量は、11.7 g と厚生省の推奨値である 10g 以下よりやや高く、多くの人は塩辛いみそ汁を飲み、それを塩辛いと感じていなかった。このことから、当町の人は塩辛い味付けになれていると思われ、食塩摂取と高血圧などの成人病との関連からも栄養指導の必要があろう。

〈参考文献〉
1)手塚朋通ら:脇町地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、19, 57, 1973
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5)鈴木和彦ら:牟岐町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、23, 143, 1977
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29)岸野泰雄ら:地域別にみた徳島県内住民の栄養摂取と身体状況との比較―とくに高血圧を中心に―、阿波学会30年史・記念論文集、125-135、1985

1)徳島大学医学部


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