阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第38号
半田町地区三波川変成帯の地質

地学班(地学団体研究会)

   塩田次男1)・西殿泰子1)・

   前原浩二1)・関幸代2)・

   青山多津子1)

 1.はじめに
 半田町地区を構成する地質体は、その大部分が、中生代ジュラ期末期〜白亜紀前期(150×106〜100×106年前)に形成され、白亜紀後期〜新生代古第三紀初期(100×106〜60×106年前)に変成された三波川高圧変成岩類である(Hara et al., 1990)。新生代第四紀(2.0×106年前〜現在)の未固結堆積物も認められるが、量的には少ない。
 三波川変成岩類は、主として、結晶片岩であるが、関東山地から九州佐賀ノ関半島まで総延長1000km余りにわたって、帯状に分布する。この帯状地帯は、地質学では三波川変成帯、単に三波川帯と呼ばれ、日本列島では最大規模の広域変成帯である。とくに、四国は、三波川帯が最大幅(約30km)で分布し、三波川変成岩類が模式的に発達する地域であり、世界的にも、変成帯の地質学的研究が最も進んだ地域の一つである。また、三波川帯は、西南日本では、北端は大断層、中央構造線で、領家帯、部分的に和泉層群帯と接し、南端は御荷鉾緑色岩類帯又は秩父帯、部分的に四万十帯と断層で接する。
 半田町地区は、上記のような三波川帯の中に含まれ、四国三波川帯の北帯部に位置する(第1図)。本報告では、当地区三波川変成岩類の地質構造、層序(岩層群の重なり状況)、岩石、鉱物を記載し、今回の研究で新しく判明したことについて述べる。

 2.地質構造および層序
 半田町地区の地質図および地質断面図は、第2、3図の通りである。

当地区の北部には、点紋片岩が普遍的に分布する点紋帯が位置し、南部にはその様な分布のない無点紋帯が位置する。前者は後者へ漸移的に変化する。当地区の北部は、当地区西隣の池田〜三加茂地域で、塩田(1976、1981)によって、発見・解析された辻おしかぶせ褶曲の延長部が発達する地域であり、北部では、おしかぶせ褶曲の南翼の岩層配列が明確に認められる。この辻おしかぶせ褶曲は、軸方向はEWで、軸面は北に緩く傾斜している。即ち、EW方向の軸をもつ南フェルゲンツの褶曲である。なお、おしかぶせ褶曲の地質体は、辻ナップと呼ばれる(塩田、1981、1985)。辻おしかぶせ褶曲が発達する地域の南側では、褶曲の南翼が切断され、剪断帯(塩田、1981、井内剪断帯)が形成されている。第2、3図で示されているように、この井内剪断帯では、岩層の連続が悪く、その分布状況が整然としない。そして、岩石構造においても、層面片理形成後の岩層の切断を示す剪断岩石構造がしばしば観察される。また、構造岩塊様のレンズ状小岩体も認められる。剪断帯の南限は、岩層の連続がよい、珪質片岩層を伴う塩基性片岩層で、点紋帯と無点紋帯の境界付近の点紋帯内に位置する。
 当地区の南部は、塩田(1976、1981)の南部単斜構造帯の延長部で、岩層は、大歩危複背斜の北翼部の構造特性を明瞭に示し、大局的には北への単斜構造をもつが、EWを軸方向として、両翼の開いた褶曲を南北方向に繰返し、いわゆるゆったりした波状構造を呈する。しかし、褶曲軸は長く連続せず、ところどころ、ドーム状又はわん状の褶曲となる。比較的大きいドーム状背斜の西半分が南部で明確に認められる(第2、3図)。上記のようなゆったりした波状構造は、辻おしかぶせ褶曲の軸面にも、比較的明瞭に、認められる。すなわち、波状構造は、辻おしかぶせ褶曲形成後に形成されたとみなされる(塩田、1976、1981)。したがって、当地区の構造は時相的にみると、古期から新期に向かって、層面片理、おしかぶせ褶曲、波状構造の順である。なお、岩石構造として、小褶曲が顕著に発達するが、層面片理に関わる褶曲としては、翼間角(θ)=0の同斜状褶曲、イントラフォリアル褶曲、根なしイントラフォリアル褶曲、シース褶曲があり、おしかぶせ褶曲に関わるものとしては、0<θ<70°のタイト褶曲・クロース褶曲、波状構造に関わるものとしては、30°<θ<120°のクロース褶曲・オープン褶曲が、それぞれ、多く認められる。
 原ら(1990)は、四国中央部において、三波川帯の基本的構造として、パイルナップ構造を帰納した。下位から上位へ、大歩危ナップI、大歩危ナップII、坂本ナップ、沢ヶ内ナップ、冬ノ瀬ナップ、猿田ナップI、猿田ナップIIの順に重なる構造である。構成岩石の特徴や、中央部から当地区への岩層の連絡状況から、当地区の地質体をそのナップ群に対比すると、第2、3図に示されるように、北部のおしかぶせ褶曲体と剪断帯の地質体は冬ノ瀬ナップ、南部の単斜構造体は坂本ナップと沢ヶ内ナップに相当する。そして、これらのナップ群は下位から上位へ、坂本ナップ、沢ヶ内ナップ、冬ノ瀬ナップの順に重なる。坂本ナップは、少量の珪質片岩を伴う塩基性片岩と、泥質片岩の互層からなる下部と、泥質片岩を伴い、主として砂質片岩からなる上部から構成されている。沢ヶ内ナップは、主に泥質片岩で、塩基性片岩、珪質片岩も含む。冬ノ瀬ナップは、主に塩基性片岩、泥質片岩で、砂質片岩、珪質片岩も含む。また、塊状粗粒塩基性岩や超塩基性岩も極少量含む。

 3.岩石および鉱物
 当地区三波川帯の構成岩石は、大陸性堆積岩起源の泥質片岩、砂質片岩、珪質片岩、海洋地殻起源の塩基性片岩、珪質片岩、塊状粗粒塩基性岩、超塩基性岩である。超塩基性岩を除く岩石は、曹長石の斑状変晶(点紋)の形成の有無によって、点紋片岩と無点紋片岩に区分される。泥質片岩において観察される主な変成鉱物は、石英、曹長石、白雲母、緑泥石、ザクロ石、スチルプノメレン、グラファイト、緑簾石、方解石、スフェーン、電気石、燐灰石である。また、塩基性片岩で観察される主な変成鉱物は、石英、曹長石、白雲母、緑泥石、緑簾石、緑閃石・ウインチャイト・バロアサイト・クロス閃石・藍閃石などの角閃石、パンペリー石、スチルプノメレン、方解石、スフェーン、電気石、燐灰石である。変成鉱物の多くは、形態定向配列や格子定向配列を示し、変成岩の多くに片理やリニエーションを形成している。なお、リニエーションには、二つの面構造の交線や微褶曲軸のものもある。
 塩基性片岩の変成鉱物の組み合わせや、塩基性片岩中の角閃石から求められる、当地区の変成岩形成(変成作用)のP(圧力)、T(温度)条件は、5〜7kb、200℃〜300℃位である。また、角閃石には累帯構造が認められるが、このことから判断すると、当地区の変成岩は、これらの条件範囲の中で、P、T条件の異なる複数回の変成作用を受けたようである。一般に、三波川変成帯におけるP、T条件の空間的変化、即ち変成相系列は、P/T勾配が大きく、高圧型と呼ばれる(都城ら、1975)。この様な条件の場を地球表層に求めるとすれば複数のプレートの収束境界であり、それらの中でも、プレート沈みこみ帯がふさわしいとされている。このことは第4図で示される。

図中の曲線で示されるように、典型的な高圧型変成作用のP、T条件は、大陸や海洋の地下の条件からは掛け離れており、一致はしないけれども、沈みこみ帯の最低温度の部分の条件に近い。高圧型変成作用の条件が、沈みこみ帯最低温度部分のそれと一致しないのは、沈みこみ帯で変成作用の起こる場が、最低温度部分より高温の部分であるためである。したがって、図中では示されなかったが、高圧型変成作用の条件は、沈みこみ帯で変成作用が起こるとみられる場のそれとは一致するようである。なお図で示されるように、当地区の変成岩のP、T条件の領域は、典型的な高圧型変成作用曲線のすぐ下側付近に位置する。

 4.おわりに
 今回の研究によって、四国東部三波川帯北縁部の地質構造特性、すなわち、北から南へ向かっての、辻おしかぶせ褶曲帯、井内剪断帯、大歩危複背斜北翼部の特徴である、ゆるやかな波状を伴う北への単斜構造帯の配列(塩田、1976、1981)が存在することは、半田町地区においても、明確となった(第5図)。さらに、新しく判明したと思われることは、次の通りである。

 当地区南部に広く分布する砂質片岩岩層群(第2、3図)は、これまでの研究(剣山研究グループ、1975など)では、一つの岩層群としては記載されていない。剣山研究グループ(1975)の詳細な研究でも、それの上位の泥質片岩岩層群などを含めて、一つの岩層群(友内山層)として記載されている。砂質片岩岩層群には、多量の砂質片岩が含まれているが、泥質片岩岩層群などには、砂質片岩が極めて少ない。したがって、砂質片岩岩層群は、区別して、記載するのが適切であると考える。また、当地区東隣の貞光町端山の貞光川流域にも、砂質片岩岩層群(剣山研究グループ、1975、端山層)が、比較的広く分布するが、この岩層群は砂質片岩が粗粒で、泥質片岩が殆ど含まれていない。これらの特徴は、上記の、当地区の砂質片岩岩層群には見られない。しかも両者は連続せず、間に、かなりの厚さの、泥質片岩と塩基性片岩からなる岩層群が存在し、貞光川流域の砂質片岩岩層群は、この岩層群を狭んで、当地区の砂質片岩岩層群の下位に位置する。したがって、岩質や構成岩石からして、貞光川流域の砂質片岩岩層群は、原ら(1990)の大歩危ナップII、当地区の砂質片岩岩層群は、坂本ナップに、それぞれ、属し(第2、3図)、両者は異なった地質単元の岩層群であると考えられる。

 文献
原 郁夫・塩田次男・秀  敬・岡本和明・武田賢治・早坂康隆・櫻井康博,1990:四国中央部の三波川変成岩の P-T-t-D path. 月刊地球,12,419−424.
Hara, I., Shiota, T., Takeda, k., Okamoto, K. and Hide, K., 1990:The Sambagawa Terrane. In:Pre-Cretaceous Terranes of Japan (ed. Ichikawa, K.), Report of IGCP 224, 137-163.
剣山研究グループ,1975:四国東部三波川結晶片岩地域の堆積盆の変化(その1)―貞光川地域の地質.地団研専報,19,71−76.
Mason, R. ,  1990:Petrology of metamorphic rocks 2nd edition. Unwin Hyman, London.
都城秋穂・久城育夫,1975:岩石学II 岩石の性質と分類.岩波書店.
塩田次男(1976):徳島県井川町辻地域の三波川結晶片岩の地質構造.小島丈児先生還暦記念文集,154−159.
塩田次男,1981:四国東部池田−三加茂地方三波川結晶片岩の構造地質学的・岩石学的研究.徳島大 学芸紀要(自然),32,29−65.
塩田次男,1985:四国東部三加茂−山川地方三波川変成帯の辻ナップ.徳島大 学芸紀要(自然),36,13−20.
Yardley, B. W. D., 1989:An introduction to metamorphic petrology. Longman, Harlow.

1)徳島大学総合科学部 2)広島大学理学部


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