阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第37号
松茂町の方言

方言班 

  川島信夫(文責)・森重幸・金沢浩生

1.はじめに
 方言班は、3名が調査に参加し、森が主としてアクセントを、金沢が主に語法を、川島が語彙の調査に当たったが、ここでは語彙を中心に発表することにした。
 ところで、語彙といっても、その調査対象の範囲は非常に広い。外来者の1人が、短期間で、全般に立ち向かって成果の上らぬことは最初から分かっている。そこで筆者の試みた方法は、調査語の範囲を決めることと、対象を高年齢層に限定することであった。
 結果は以下のように、ごく一部に触れた不十分なものとなった。自分に出来なかったことを他の人に頼むのは心苦しいことであるが、地元の方々にお願いしたいことがある。
 それは、老人会などの活動の一環として方言調査を実施していただけないか、ということである。「言葉は文化のエッセンス(精髄)である」という。同じように方言は、その地方の文化のエッセンスだと思う。ともかく方言は貴重な文化財である。そして、今の高年層が内省観察(自分が今までに使ったり聞いたりした言葉を正しく思い出すこと)によって記録しておかねば永久に消滅してしまうものである。それに、方言の最高権威者は他ならぬ地元の人々だからである。
2.特徴的な方言
 孤立した方言(里言)は少ないものである。まして松茂町のように平地の中で他の市や町に囲まれている所では、なおさらのことだ。そこで、以下採り上げた数語も専用語ではないが、当町の特徴を示していると思われる里言についての考察である。
◇ハルタ(深田・一毛田)
 吉野川流域でも、最下流の低地にある松茂町には、湿田(深田)が多い。他の地方では田ん圃(ぼ)といえば裏作に麦などを作る二毛作以上が普通であった。そこで、ハルタといえば「春田」の字を当てて(春の初耕)などの意を表わすようだが、ここでは当たらない。
 ハルタは「墾(は)る田」で、ハッテ(鍬で打って)オガシテ(土を掘り起こして)作る田の意だ。深田は牛や馬を入れても腹がっかえて仕事にならぬので、トンガ(唐鍬)やクマデで墾っていた。そこでハルタと言えば一毛田をさすのだという(広瀬兵太郎氏談)。
◇デンダイ(広く田圃のつづく土地)
 吉野川下流域らしい風景だ。一・二毛田に関係なく、田圃ばかり見られる広々とした土地のことである。
 古い言葉で「田代」の字が当てられているが、現代までこの言葉が残っているのは、本県や淡路島・香川などの他は例が少ないようである。
◇ソラ・カミ・ウワテ(吉野川流域)
 上流地方のことをソラと呼ぶ例は香川県三豊郡の一例の他はあまりない(『日本方言大辞典』)ようだ。おもしろい言い方であるが、松茂町あたりでは、これがさらに細かく分けて呼ばれている。下流の方から見てウワテ(上手)、カミ(上)、ソラ(空)である。
 それぞれの範囲については個人差があるが、藍住から下流がウワテ、鴨島あたりになるとカミ、美馬郡あたりから上流になるとソラと呼ぶ人が多いようである。なお、シモ(下)という呼び方もあるが、これはウワテの方の人が松茂を指す言い方だという。海部郡で言うカミ・ウワテ・シモが、文化の源流カミガタ(京阪地方)を中心にして呼ぶのと比べて、注目すべき表現である。
◇セセナゲ(下水だめ)
 今は見られないが、近年まで各戸で、炊事場近くの地面に掘った小池のことで、ゾーシの洗い水などを流しこんでいた。水は自然に地下へもしみこむが、たまり過ぎると大川まで運んで捨てていた。近くの堀は洗濯などに利用したので、昔の人は決して汚さなかったという。低平地ならではの施設であった。なお、セセナギはセセナゲの転訛で、この方言は、前記辞典によるとほぼ全国的に分布している。
◇ツギクサ・マツナグサ(すぎな)
 今回の調査では、動植物の里言については、国立国語研究所編集の「日本言語地図」にあるものについてだけ当たった。その結果、地図の上で、本県関係に載っていない里言が二つ以上出たのはこれだけであった。
 とくに地域性を表わすものでもなく、変わったものでもないが、以上の理由で採り上げてみたのがこれである。
 ツギクサは、地図の上で一点(池田町)のツギツギと同じ系統の(継ぎ草)の意であろう。
 この呼び名は、県外では高知・愛媛県の各1点の他、本州・九州の各地に散在している。子供の遊びから出た名であろう。
 マツナグサは、本県に多いマツナ(松菜)・マツグサ(松草)の同類である。

◇ナモト(波元)
 長原は漁業地帯で、他の地域と異なる里言がかなりある。そのうち、この語は古い言葉らしく、『松茂町誌』には載っているが、今はほとんど消えている。あえてこの語を採り上げたのは、古語を探る手がかりになるかと思ったからである。
 『風土記逸文』の阿波国に、「奈佐(なさ)の浦。奈佐と云(い)ふ由は、その浦の波の音、止む時なし。依(よ)りて奈佐と云ふ。海部(あま)は波をば奈と云ふ。」とある。と同学の田中省造氏に教えられて、波をナと言う方言を求めていて巡り合った一つがこれである。『町誌』には「波元」の字を当て「砂地に波のくずれる所」と説明している。
 似た語の、なぎさ(渚)は古語でありながら現在の共通語でもある。この語源説はいろいろあるが、ギサを際と解したら最も分かりやすい。ギサは、本県でも古語が豊富とされる那賀奥地方で、際と同じような意味の方言だ。ここでも波はナである。
◇オヨガレン(水泳禁止)
 語彙というよりは語法に属するが、ナモトの消えかけに対して、これはピチピチ生きた方言である。
 写真は、今夏、広島橋の南詰付近で見かけた立て札で、戦前なら「この川で 泳ぐべからず 警察署」と俳句の出来そこないのような文語調になったことろだ。
 民主主義の世になって制札の言葉もやさしくなった。相手が子供だとなおさらだ。口語調で分かりやすく書かねばならぬ。だが、「およいではいけません」の標準語では、長たらしくてしまりがない。ここは方言の出番だ。「あぶない!」と大きく赤字(残念ながら消えかけているが)で注意を引きつけ「およがれん」で決めた。
 方言は母の言葉。簡潔で、しかも温かく、そして効果的な方言の制札である。

3.里言集
 共通語でなく、ある地域だけ通用する言葉(いわゆる方言)を、方言学では里言という。松茂町だけの里言は見つからなかったが一応五十音順に並べてみた。
 ア
アイシュー(句) じゃんけんことば。
アイソモコソモナイ(句) 無愛想。
アカミ 魚が群集したために海が赤くなること(長原)。
アガリハナ 玄関。
アギト あご。
アキレフンバル(句) あきれはてる。
アケスケ 開放的な言行。
アゲル(動) 嘔吐する。
アサイキ・アサッパチ・アサッパラ 早朝。
アズル(動) もてあます。
アダタン(句) 手にあまる。
アツカマシー(形) 騒がしい。
アテガウ(動) 当てる。与える。
アッコ あそこ。
アッチ・アッチャ あちら。
アッパイ 美しい(幼)。
アナイニ・アナナ(副) あのように。あんな。
アナンポ 穴。
アバ おばさん(長原)。
アバサカル(動) あまえる。ふざける。
アババイ(形) まぶしい。
アバハル(動) かすむ。
アヒタ 明日。
アマタレコイ(形) あまい。
アムナイ。(形) 危い。
アラカラ(副) 初めから。
アラク(動) 距離がへだたる。
アリシニ(副) あるだけ。
アレッパシ(副) あれだけ。
アワテサク あわて者。
アイジョーニ(副) 上手に。
アンニャ・アンニャン 兄。
アンマレ(副) あまり。
アンネ 姉。
アンバ 網場。網が沈まぬためにつける浮木(長原)。
アンポ・アンポンタン ばか。(幼)

 イ
イイタクリ 無理な放言。
イガル(動) 大声でさけぶ。
イキスギモン なまいきな者。
イキドーシイ(形) 苦しい。呼吸困難。
イコル(動) 発熱する。いきおいづく。
イサミダンジリ じゃじゃうま。
イサマシ 出産。
イシナゴ お手玉。
イズル(動) ゆずる。
イソガハジマル(句) 磯開き(長原)。
イタイ(形) 風呂などの湯が熱い。
イッケ 親類。
イッコン 一つ。
イッシニ(副) たびたび。
イテクル(動) 行く。
イナサ 東南風。漁夫の恐れる風(長原)。
イニシナ 帰る時。帰る途中。
イビワ 指輪。
イヤシリ 連作をきらうこと。
イラウ(動) さわる。なぶる。
イロスケ 好色者。
イロベル(動) からかう。
イロマク(動) 顔色を失う。あわてる。
イワタ 大きい石。
インガンゴシオスエル(句) やぶれかぶれになって腰をすえる。
イングリチングリ ちぐはぐ。ふそろい。
 ウ
ウサル(動) 流行が過ぎる。
ウセル(動) 行く。来る。なくなる。
ウソバチ ほら。放言。でたらめ。うそ。
ウチカタ あなたの家。貴家。
ウチマ 親類。
ウチンク 私の家。
ウッチャ 私(女)。
ウッチャイ 打ち合い。
ウツル(動) よく似合う。
ウツワ 団扇(うちわ)。
ウンズリイル(動) じっと考えこむ。
ウンカゴブジ のんきなこと。
ウンダマス (動)だます。
 エ
エイチュー じゃんけんのことば。
エクソイキ(副) むちゃくちゃに。
エゴ 水流の湾曲部。
エット・エットコト(副) 久しく。
エップ おくび。げっぷ。
エッポド(副) よほど。
エマキ 巴巻。潮先が二つに分かれ、白泡とともに押し上がること(長原)。
エライ(形) 苦しい。
エライコッチャ(句) 大変なことだ。
 オ
オイ・オイウツ 不足金・不足金を支払う。
オガ 鋸(のこぎり)くず。
オカア 母。
オガス(動) 鋤(す)く。
オキナミ 沖南。東南に吹く風(長原)。
オキナライ 沖北風。北風の少し北に片寄って吹くこと(長原)。
オクキ 漬け菜。
オゲッタ うそ。うそつき。
オコライ・オコライナシテ ゆるして。
オゴロ・オンゴロ 土竜(もぐら)。
オジクソ おくびょう者。
オシマイ 化粧。
オシャチ でしゃばり。
オショーシナ(形動) 気の毒な。
オチクレル(動) 墜落する。
オチョーバイ 追従。きげんとり。
オチョクル(動) からかう。
オチラシ いり麦の粉。はったい粉。
オチン おやつ・子供に与えるほうび。
オッチラ(副) ゆっくり。
オツベカエリ でんぐり返し。
オツベタチ さか立ち。
オトイ(形) 恐ろしい。
オトー 父。
オトーミ 物を貰った時の返しに入れる小さな品物。
オトゴ・オトンボ 末っ予。
オニャー 幼稚な者。
オネバ 大根のかいわれ葉。
オバ・オバタ 尾。
オヒナル(動) 起床する。
オブカス(動) 驚かす。
オブケル(動) 驚く。
オベト・ベト 最後(順位)。
オマハン・オマン おまえ。あなた。
オマンク あなたの家。
オミーサン 雑炊。
オモッショイ(形) おもしろい。
オヤチ いらぬことをする。
オヤリナシテ(句) 下さい。
オヨーハン・ヨーハン 夕食。
オリカニ(副) 時どき。
オロ 支柱(農耕用)。
オワイゴ 鬼ごっこ。
オンデンガエシ 仕返し。
オンビキ かえる。ひきがえる。
オンボロシャガマ 蓬(ほう)髪。乱髪。
 カ
カー(動) 下さい。
カーバリツク(動) かわきつく。
……カイ・カエ(助) 早う行かんカイ(早く行きなさい・行こう)。
ガイニ(副) たいそう。
カイマワリ 曲り角。
カギ どろぼう。
カケダシ 掛出。網に入る魚が通りすぎぬように、垂直の網を沈めて魚を導くもの(長原)。
カザ 臭気。
カサゴータ がま。
カサニノル(句) 相合い傘になる。
カザム(動) においをかぐ。
カザル(動) におう。
カショウ(動) 手助けする。
カタクマ 肩車。
カタデ(副) まったく。まるで。
カチアタル(句) 衝突する。
カチ・カッチン なま煮え飯。
カバエル(動) あまえる。ふざける。
カべ かび。
カベガネル(句) かびが生える。
カワクルシー(形) のどがかわく。
カンコーリ 氷。
ガンギ くれ割り(農具)。
カンダチグモ 神立雲。夕立雲(長原)。
カンポタオス(句) 困る。苦労する。
 キ
ギスイ(形)きつい性情。非情・薄情な。
キタラ 北隣り。北側。
キッチリ(副) ちょうど。
キナハレ(句) 来なさい。
キビル(動) 出し惜しむ。
キューイ(形) けわしい。
ギューチチ 牛乳。
キョービ 今どき。
キョロイ(形) のろい。
キョロキョロ(副) うかうか。
キリモン 着物。
キンカクシ さるまた。パンツ。
 ク
クータイ 無駄。
クサシ(接尾) 仕事の途中で放置すること。しくさし。
クジカス(動) 捻挫(ねんざ)する。
クジュム(動) うずくまる。隠れ潜む。
グズイ(形) のろい。
グズッタ 機敏でない。
クソヤカマシイ(形) さわがしい。
クソタレル(句) こまる。
クチタタク(句) 憎まれ口をいう。
グチナゴ 蛇。
クナイサン 苦労知らず。
クラッシャゲル(動) なぐる。
グロ 叢(むら)。ばらぐろ。わらぐろ。
クヮイクラワス(句) 着かざる。
グヮイセン(句) 都合が悪い。
クワル・コワル(動) うずく。痛む。
クンダラ・グンダラ おしゃべり。雑談。
 ケ
ケール(動) 消える。
ケケスバラ かや原などの荒地。ケケスはよしきり。
ゲシナル(動) 就寝する。
ケソケソ(副) 冷遇するさま。
ゲッソリ(副) がっかり。つかれる。
ゲッタリ(副) つかれているさま。
ケツワル(句) 仕事などを途中で放棄する。
ゲト・ゲトベ 最後(順位)。
ケブタイ(形) 煙い。敬遠する。
ケント・ケントー 外見。外聞。見当。あて推量。
ケントガワルイ・ヒトシケナイ(句) はずかしい。外聞が悪い。
ケンド 篩(ふるい)。
ケンド(助) けれど。
 コ
コーシャク 講釈。もったいぶった説明。
コイヤゲル(動) 困りはてる。
ゴータ 蛙(かえる)。
コートナ(形動) 地味な。高尚な。
ゴータレ 因業者。
ゴーチュー 農村。いなか。
コーネツ ヘりくつを言う者。へりくつを言うこと。
コーバン 小鳥かご。
コーヤサン 便所。
コギ たきぎ。
コグル(動) くぐる。
コケラグモ 鱗雲。片々と空を流れる雲。(長原)
ゴジャブラ・ゴジャブロ 間違い。冗談。
コスイ(形) 我利我利のさま。ずるい。
コズク(動) 咳(せき)をする。
ゴゼン 食事。
コソバカス(動) くすぐる。
ゴツイ(形) 強いこと。
コッシャエル(動) 作る。
コッチャ こちら。
ゴッツォー ごちそう。
コデニユウ(句) 小束にする。
コトヤケ 大きなあざ。
コナイニ こんなに。
コナス(動) 調製する。
コマチコイ(形) 小さい。小心な。
コビッチャ・コブ・コベソ 子供。
コブル(動) かじる。しゃぶる。
コロット(副) すっかり。
コワリ くわしい説明。子細。
コンリンザイ(副) 決して。
 サ
……ザ(助動) ホレぐらい出来ザ(出来ぬことがあろうか)。
サイサイ(副) たびたび。
サカニシ 下西。西北風(長原)。
サキダチ 一家の働き手。仕事の中心的人物。
サクイ(形) もろい。
サゲル(動) 下痢する。
サシ 果実の虫くい。
サシハマ 高下駄。
サスル(動) 撫(な)でる。
サダチ にわか雨。夕立。
サッキニ(副) 先ほど。
サデル(動) 集める。
サドコイ(形) すばやい。敏捷な。
サノボリ 田植え終わりの祝い。
サビル(動) 選別する。
サラ 新品。
サンゾーバリ 三ぞう張。沖に土俵を沈め浮標をつけ、常に網を張り三隻で漁をすること(長原)。
サンバイ 田植初めの祭り。
 シ
ジイモ 里芋。
シオカラゴエ しわがれ声。
シオブチ 潮斑。潮流によって海水に見られる変化をいう(長原)。
シカヤシ しかえし。
シズカイ 斜交。
シテル(動) 捨てる。紛失する。
シナイコ やり直し。
シニイル(動) 内出血する。
シバク(動) なぐる。
シミッタレ けちんぼ。
シヤッキン しっかりしている。
ジャマクル(動) じゃまする。
シャンシャン(副) 早く。
シュム(動) しみる。
ショータネユ 菜種油。
ショータレ(形動) だらしなくする。
シヨウチ・シオウチ 津波。
ジョーニ(副) たくさん。
ショーモナイ(形) つまらない。
ショーラシイ(形) まじめな。
ジルイ(形) ぬかるんだ状態。
ジルタ ぬかるみ。
シロモク 白無垢(しろむく)。
シワシワ・ジワジワ(副) 静かに。
シワット(副) そろっと。
シンケイヤミ 小心者。
シンケン 真実。
シンダイ(形) つまらない。くたびれること。
 ス
スカべ 色ずき。
スゴク(動) しごく。脱穀する。
スカマ 方角違い。当て外れ。
スガリ 最適期が過ぎること。
スカンポ からっぽ。当てはずれ。
スキアミ 結節。極細糸の網(長原)。
ズツナイ(形) 切ない。
スベ わらしべ。わらの穂。
スベクル(動) すべる。
スボキ わらずと。すね。包茎。
スマッコ すみ。
ズルガエ 無条件の交換。
スンデノコト(副) 危機一髪。
 セ
……ゼ(助) 先に行くゼ(行くよ)。
セキタン 石油。
セギル(動) せきたてる。
セコイ(形) 苦しい。
セセナゲ 下水みぞ。
セドル(動) 少しずつ運ぶ。
セビル(動) ねだる。
セメンダル 肥満した人。
セラウ(動) うらやましがる。
セル(動) こみ合う。
センキョー 先日。
センセ(句) しなさい。
 ソ
ゾーシ 台所の後かたづけ。
ゾーツケナイ(形) 大きすぎ。不細工な。
ゾーワタ はらわた。
ソグル(動) 選別する。
ソゲブキ そぎぶき屋根。
ソソハイ(形) 注意散まんな。軽卒な。
ソバエ にわか雨。
ソラ・カミ・ウワテ・シモ 吉野川流域地域の呼び方。(上流から順に)。
ソロット・ソロリト(副) ゆっくり。そっと。ひそかに。
ソンダケ(句) それだけ。
 タ
……ダア(助動) あるダア(だろう)。
ダイイ(形) だるい。
ダイキ 台木。海中に浮かせて網を結びつけておくもの(長原)。
タイソーナ(形動) 大儀な。いやな。
タオル(動) 道を曲る。
タカフグリ 高下駄。
タカラバチ 竹皮製の笠。
タカンマ・カカンボ 竹馬。
……ダス(助動) ほうダスデ(ですか)。
ダスイ(形) しまり方がゆるい。
タズラ 竜雲。竜の形をした雲(長原)。
タチル(動) 立つ。
タッサン 母。
タッスイ(形) つまらない。
タテリハザカル 立ちはだかる。
タネン 自然。
タブネ うたた寝。
タモコ 袂(たもと)。
ダンナイ(句) 差支えない。
タンネル(動) 尋ねる。
 チ
チギル(動) もぎとる。収穫する。
チビッタレ けちんぼ。
チビット(副) 少し。
チャイスル(動) たたく(幼)。ぬすむ。
チャコチャコ 容易。
チャチ 不正。
チューズカミ はやがてん。
チューデ(副) そらで。暗記。
チョーキ 丁稚(でっち)。
チョーナウチ かまきり。
チョーヤブリ 祭礼など共同作業の清算とその祝い。
チョケ ひょうきん者。
チョコマイ(形) 小さい。
チョッコ 人を軽めることば。
チョットコマ しばらくの間。
チリチリスル(句) 恐れる。
チンチンニナル(句) 仲よしになる。
チンブツ 沈没。
 ツ
ツイ(副) じき。すぐ。
ツカ・ツカイ・ツカハレ(動) 下さい。
ツギクサ すぎな。
ツクツクボーシ つくし。
ツクマム(動) しゃがむ。
ツズキ 接近。
ツツイチ(副) せいいっぱい。
ツツク(動) うずく。
ツバエル(動) 増長する。
ツマエル(動) かたづける。仕舞う。
ツラクル(動) ぶら下げる。
ツロクスル(句) つり合う。
 テ
……デカ・デカイ(助) ……ですか。
テクラ たきぎ用の松の小枝を切って束ねたもの。
テシコイ(形) いじっぱりな。
テシブイ(形) がんこな。テシコイ。
テダル(動) 同行する。
テニアワン(句) 手におえない。
テマゾン 骨折り損。
テレコニナル(句) あべこべになる。
……デワ(助) ……ですよ。
テングヮ 唐鍬。手鍬。
テンコ・テンコツ・テンクツ 頂上。山頂。
デンダイ 広い田畑地。
 ト
トエル(動) 泣く。
トーカラ(句) 早くから。
トーリモノ 妖怪(ようかい)。
トカキ とかげ。
ドクショーナ(形動) ひどい。毒々しい。
ドクレル(動) すねる。
トコマエル(動) 捕らえる。
ドダイ(副) まるっきり。
ドッケシ 毒消し。どくだみ。
ドッチャ どちら。
ドッヌケ 健忘症。機敏でない者。
トッパクロ うそ。放言。でたらめ。
トナリハタ 隣り近所。
トヨイ(形) 遠い。
トバス(動) 疾走する。
トリサガス(動) ちらかす。
トロイ・トロコイ(形) のろい。
ドロタンボ ぬかるみ。
ドロベタ 地面。
トンガラシ とうがらし。
トンガリゴエ 怒声。
ドンチャンビヨリ 晴雨不安定な天候。
トンボジョーリ わらぞうりの一種。
 ナ
ナーンジャ(感) 何にも。
……ナイ(助) ね。そうですナイ(ね)。
ナカジャク 中傷。
ナガセ 梅雨。
ナギタン 菜切り包丁。
ナグラ 風にあおられ寄ってくる波(長原)。
ナゴイ(形) 天候がおだやかな。
ナシニナル(句) なくなる。
ナスイ(形) 味がうすい。
ナスクリツケル(句) 他に転嫁する。
ナダベラ 海辺。
ナブラ 魚群(長原)。
ナモト 波元。砂地に波のくずれる所(長原)。
ナンバ とうもろこし。
ニーヤン 兄。
ニオ 水流の深み。
ニカエ 二階。
ニゴリゴエ だみ声。
ニシラ 西隣。
ニヤス(動) 煮る。
 ヌ
ヌクモル(動) 温まる。
 ネ
ネイナイコ・ヌイナイコ 縫い直し。
ネカラ・ネッカラ(副) 根本から。
ネサス(動) 発酵させる。
ネバリコム(動) 強談判する。
ネチャリットスル(句) ねばりつく。
ネブル(動) なめる。
 ノ
ノーナカス・ノーナル(句) 失う。
ノッパイサン 勝手気ままな人。浪費を気にせぬ人。
ノッポン 長身の人。のんきもの。
ノフゾーナ(形動) だらしない。
ノンノイサン 神仏(幼)。
 ハ
バイヤイ うばい合い。
ハイリョー(動) 下さい。
ハガイタラシー(形) しゃくにさわる。
ハガエ 翼。
ハザグイ 間食。
ハシカイ(形) かゆい。動作が機敏な。
ハシクリマール(句) 走りまわる。
ハスワジ 三角地。斜めの土地。
ハゼノケル(動) 除外する。
ハチコル(動) はびこる。
ハチケントビ とのさまがえる。
ハッシャグ(動) 乾燥する。喜び騒ぐ。
ハッチャウ(動) ぶつかる。
ハッチャス(動) なぐる。
ハツモグリ 初潜水。漁期がきて初めて潜水すること(長原)。
ハナ 鼻。岬の俗称(長原)。
ハナグス 鼻つまり声。
ハバイイ(形) まぶしい。
ハミ・ハメ まむし。
ハミ 家畜の飼料。
ハリマース(動) なぐる。
バンカタ・バンゲ 夜。夕方。
バンチャ 四番目の食事。茶の子・朝食・昼食・晩茶・夕食のうち。
 ヒ
ヒガシモノ 東物。真東風(長原)。
ヒガシラ 東側。東の家。
ヒガナイチンチ(句) 終日。
ヒダリギッチャ(チョ) 左きき。
ヒダリマイ 左前に着ること。家運が衰退すること。
ヒダルイ(形) 空腹で体がだるい。
ヒツコイ(形) しつこい。
ヒトイキ(副) しばらく。
ヒトシケナイ(形) はずかしい。
ヒトツナライ 北風。真北から吹く風(長原)。
ヒナヤミ 火あそび。
ヒヌケル・ヒンケル(動) 乾いてしわがよる。
ヒネル(動) 古くなる。
ビビル(動) 震動する。
ヒョコスカ(副) 時折り。
ヒラベタイ(形) ひらたい。
ヒンズ 余分。
 フ
ブエン 塩干加工していない鮮魚。
ブク 服喪。
ブサイクナ(形動) 格好が悪い。
フズクル・フズクリツケル(動) 嫌なことを他人におしつける。
ブスヌケル(動) 抜けおちる。
ブル(動) 漏(も)る。
フルセ 老成した生物。勤続年数の長い人。古いボス。
フルツク ふくろう。
フンドシニツツム(句) 女房が主導権をにぎる。
 ヘ
ベーロ 舌。
ヘスバル(動) ちぢむ。
ベタニ(副) 一面に。
ヘタル・ヘタレル(動) へたばる。
ヘチャコチャ あべこべ。
ヘツ へつらい。
ヘドチン あべこべ。
ヘベタマツク(動) 平伏する。
ヘラコイ(形) ずるい。
ヘンソスル(動) ねたむ。
 ホ
ホーキンサン 耳下腺炎。
ホーケニスル(句) ばかにする。
ホーデ(句) そうですか。
ホーホースル(動) かわいがる。
ホール(動) 投げる。捨てる。
ホコ そこ。
ボショニナル(句) ずぶぬれになる。
ホゼル(動) 掘り出す。
ホダ 足。
ホテ(接) そして。
ホテッパラ 腹。
ホテル(動) 死ぬ。
ホナケンド(接) そうだけれど。
ボニ 盂蘭盆(うらぼん)。
ボロッタ 粗悪品。老朽品。
ホロセ のみ・蚊などにかまれて出る発疹。
ホンナラ(接) それでは。
 マ
マイカド・マエカド 先年。先日。従前。
マイダレ 前掛け。
マガル(動) じゃまになる。
マクイツク(動) からみつく。
マクバル(動) きちんと分配する。
マクリコム(動) 投げこむ。
マケル(動) あふれる。こぼれる。
マザク(動) 間引く。
マタイ(形) おとなしい。味がうすい。
マッサラ 新品。
マドウ(動) 弁償する。
ママイゴト ままごと。
ママルッコイ(形) 丸い。
マンマイサン 神仏(幼)。
マン 運。
マンデ(副) まるで。
 ミ
ミズタンボ・ミゾタ ぬかるみ。みぞ。下水溝。
ミソツケル(句) 不始末する。
ミゾバナ 畦の端。
ミテツカ(句) 見て下さい。
ミミゴ みみだれ。
 ム
ムカワリ 一周忌。
ムコッチ 向こう。
ムネクソガワルイ(句) 気分が悪い。
 メ
メーボ 麦粒腫。
メッソーモン 向こう見ず。乱暴者。
メンドイ・メンドクサイ(形) むずかしい。めんどうな。
 モ
モシキ 藻塩木。風に波打際へ打ち上がる木(長原)。
モシャ・モシャカス あばた。
モチモサゲモナラン(句) どうにもならない。処置に困る。
モッチャゲル(動) 持ち上げる。
モッチャソビ もてあそぶこと。
モドク(動) 結んだものを解く。
モドル・モンテクル 帰ってくる。
モノゴ 容器。
モブル(動) まぶす。
モメル(動) あつれきがおこる。
モンキ 子供のゲーム中止のタイム。
モンシャク もめごと。
 ヤ
ヤカラ むりを言うこと。
ヤケハタ やけど。
ヤセギス やせた人。
ヤタラニ(副) 沢山に。
ヤット・ヤットコト(副) 久しく。
ヤドーシ・ヤドシ 青大将。
ヤニコイ・ヤネコイ(形) 弱い。頼りない。
ヤネ 上膊部。
ヤネ やに。樹脂。
ヤマシナライ 北東風(長原)。
ヤリコイ(形) やわらかい。
ヤンダ(副) あまり。
 ユ
ユーフシニ(句) 言うように。
ユルリ いろり。
 ヨ
ヨーケ(副) たくさん。
ヨーサ 夜。
ヨーダチ 夕立。
ヨガナヨシテ 終夜。夜どおし。
ヨコユウ(動) 無理を言う。
ヨソウ(動) 飯を盛る。
ヨソウバリ 一隻の船で網の中に餌をまき魚群の来るのを待ち一挙に網を上げる漁法。四隻張。
ヨナオシ(句) 地震の時の唱えことば。
ヨモクレル(動) 酔ってくどくど言う。
 ラ
ランカ らんかん。
 リ
リーキモ さつまいも。
リンモチ 地上げ。
 ロ
ロクサマ・ロクスッポ(副) 十分に……ない。全く……ない。
ロクナ(副) 満足な。十分な。
 ワ
ワカイシ 若い衆。
ワケナシ(句) 取り返しのつかぬ失敗。失敗をくやむ言葉。
ワシ・ワッシ 私(男)。
ワヤテコ 駄目になったこと。
ワルソ 腕白者。
 ン
ンマイ(形) おいしい。
4.おわりに
 今回の報告は主として里言集となった。この中には、現在の会話では使われていないものもあるが、聞き言葉として古い方言も残した。なお、これは『松茂町誌』を底本とし、今回の調査で収集した里言を加えて作成したものである。先人のご労作に敬意を表するとともに積極的にご指導下さった福田吉治氏や、快く取材に応じて下さった方々のご好意と、町当局の行き届いたご配慮に心からお礼を申し上げたい。


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