阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第37号
松茂町の真正蜘蛛類

博物班  真鍋佳資

 はじめに
 筆者は1990年の夏と秋の下記の期間、阿波学会松茂町総合学術調査に参加し、松茂町の真正蜘蛛類を調査した。松茂町は徳島県の東北部に位置し、高い山はなく、飛行場を中心に開発が進み、耕作地と市街地で占められている。調査期間が短く、限られた調査範囲であったにもかかわらず、19科58種の分布、生息を確認した。蜘蛛類の適応能力の高いことを示しているのであろう。今後も急激な開発をひかえ、農薬や排ガス・排煙の散布・排出を規制し、快適な環境を保持されるよう願ってやまない。
 なお、今回の調査に際し、同定では坂東治男氏・採集では秋山義弘氏のご援助をいただいた。紙上ながら厚く感謝の意を表したい。

1.調査地域および調査日
 1.松茂海岸・防潮林5 (1990.8.2)
 2.観音寺・三神社1 呑海寺・春日神社2 (1990.9.4)
 3.不動院・春日神社3 (1990.10.21)
 4.松茂海岸・防潮林5 春日神社4 (1990.11.10)
2.調査方法
 樹上、石の下等はハンドソーティング、落葉の中はシフティング、木の枝はビーティング、水田、草原はスィーピング等により採集した。
採集目録
 Atypidae ジグモ科
1.Atypus Karshi Doenitz. ジグモ
  Dictynidae ハグモ科
2.Dictyna foliicola BOS. et STR. ヒナハグモ
  Uloboridae ウズグモ科
3.Uloborus varians B■S. et STR. ウズグモ
4.Uloborus sybotides B■S. et STR. カタハリウズグモ
 Oecobiidae チリグモ科
5.Oecobius annulipes (LUCAS). チリグモ
 Pholcidae ユウレイグモ科
6.Pholcus crypticolens B■S. et STR. ユウレイグモ
7.Pholcus phalangioides (Fuss LIN). イエユウレイグモ
 Theridiidae ヒメグモ科
8.Achaearanea tepidariorum (C. KOCH). オオヒメグモ
9.Achaearanea japonica B■S. et STR. ヒメグモ
10.Theridion chikunii YAGINUMA. バラギヒメグモ
11.Enoplognatha japonica B■S. et STR. ヤマトコノハグモ
12.Anelosimus crassipes (B■S. et STR). アシブトヒメグモ
13.Dipoena mustelina (SIMON). カニミジングモ
 Linyphiidae サラグモ科
14.Linyphia yunohamaensis B■S. et STR. ユノハマサラグモ
15.Ummeliata insecticeps (B■S. et STR). セスジアカムネグモ
 Urocteidae ヒラタグモ科
16.Uroctea compactilis L. KOCH. ヒラタグモ
 Araneidae コガネグモ科
17.Araneus ventricosus L. KOCH. オニグモ
18.Araneus isisawai KISHIDA. イシサワオニグモ
19.Araneus diadematus CLERCH. ニワオニグモ
20.Neoscona scylla (KARSCH). ヤマシロオニグモ
21.Argiope amoena L. KOCH. コガネグモ
22.Argiope buruennichii (SCPOLI). ナガコガネグモ
23.Cyclosa octotuberculata KARSCH. ゴミグモ
24.Cyclosa argenteoalba B■S. et STR. ギンメッキゴミグモ
25.Nephila clavata L. KOCH. ジョロウグモ
 Tetragnathidae アシナガグモ科
26.Leucauge magnifica YAGINUMA. オオシロカネグモ
27.Tetragnatha praedonia L. KOCH. アシナガグモ
28.Tetragnatha maxillosa THORELL. ヤサガタアシナガグモ
29.Tetragnatha sguamata KARSCH. ウロコアシナガグモ
 Agelenidae タナグモ科
30.Agelena limbata THORELL. クサグモ
31.Tegenaria domestica (CLERCK). イエナグモ
32.Coelotes luctuosus (L. KOCH). メガネヤチグモ
 Oxyopidae ササグモ科
33.Oxyopes sertatus L. KOCH. ササグモ
 Lyeosidae コモリグモ科
34.Pardosa pseudoannulata (B■S. et STR). キクヅキコモリグモ
 Pisauridae キシダグモ科
35.Dolomedes sulforeus L. KOCH. イオウイロハシリグモ
36.Perenethis fascigera (B■S. et STR). ハヤテグモ
 Clubionidae フクログモ科
37.Clubiona jucunda (KARSCH). ヤハズフクログモ
38.Chiracanthium japonicum B■S. et STR. カバキコマチグモ
39.Trachelas japonica B■S. et STR. ネコグモ
 Gnaphosidae ワシグモ科
40.Zeloles pallidipatelis (B■S. et STR). マエトビケムリグモ
 Thomisidae カニグモ科
41.Bassaniana decorata (KARSCH). キハダカニグモ
42.Mismenops tricuspidatus (FABRICIUS). ハナグモ
43.Mismenops japonicus (B■S. et STR). コハナグモ
44.Mismena vatia (CLERCK). ヒメハナグモ
45.Oxytate striatipes L. KOCH. ワカバグモ
46.Lysiteles coronatus (GRUBE). アマギエビスグモ
 Philodromidae エビグモ科
47.Philodromus aureolus CLERCK. コガネエビグモ(腹白型)
48.Philodromus subaureolus B■S. et STR. アサヒエビグモ
 Salticidae ハエトリグモ科
49.Menemerus confusus B■S. et STR. シラヒゲハエトリ
50.Plexippoides doenitzi (KARSCH). デーニッツハエトリ
51.Carrhotus xanthogramma (LATREILLE). ネコハエトリ
52.Phintella versicoler (C. KOCH). メスジロハエトリ
53.Euophrys undulatovittata B■S. et STR. イナズマハエトリ
54.Silerella vittata (KARSCH). アオオビハエトリ
55.Menemerus himeshimensis DON. et STR. イソハエトリ
56.Plexippus paykulli (AUDOUIN). チャスジハエトリ
57.Phene atrata (KARSCH). カラスハエトリ
58.Myrmarachne japonica (KARSCH). アリグモ

考察
 クモはその形態から、人に嫌われているが、有害昆虫を捕食するので、人間生活に利益していることに注目すべきである。市街地のマンションにおいても、壁にはオオヒメグモやヒラタグモ等が生息し、植木や街路樹にはコガネグモ・ジョロウグモ・クサグモが巣をはっていて、毎日害虫を捕食している。海岸よりのサツマイモ畑で調査したところ、一株あたり無数といえる程のセスジアカムネグモが観察された。また4 の春日神社の壁からチリグモ・ヒナハグモが多数生息していたことが確認され、月見ケ丘の海岸からイソハエトリが確認されたことを報告したい。

紹介
 採集したクモのうち、主要なものを数種紹介したい。

 コガネグモ 体長20〜30ミリ。円網の中央にX字状のかくれおびをつけている。子供がセミとり等にこの網を使ったり、けんかさせたりして遊ぶ。年中行事としてこのクモを戦わせて遊ぶ地方があり、鹿児島県の加治木町や高知県の中村市は有名である。

 オオシロカネグモ 体長11〜13ミリ。渓流の水辺、水面上に水平円網を張る。足や腹部の白斑が光線のぐあいで銀色に光るので、この名がつけられたのであろう。生体に刺激を与えると、腹部の斑紋が急に太くなる。

 ユウレイグモ 体長3〜5ミリ。野外で見られる小型種で、草間や低木、家屋の縁の下、神社の灯篭の中等に不規則な網を張り、危険を感じると網をゆすって警戒する。長い歩脚に輪紋がある。

 ウズグモ 森林の中の低木の間、樹木の洞穴の中等に水平円網を張り、中央に雁木状のうずまきのかくれおびをつける。かくれおびの中央に、体長4〜6ミリのクモが生息しており、巣をつつくと、クモは地上におりて逃げる。

 ササグモ 体長10ミリ。草間を走りまわり、巧みにジャンプして虫を捕える。卵は葉の上に産みつけ、親は卵の上におおいかぶさって保護する。近頃、スギタマバエが杉の新芽を害するのであるが、ササグモは天敵としてスギタマバエを捕食するので、杉の植林に利用されている。

 イソハエトリ 体長9ミリ。海浜性のハエトリグモで海岸の礫の間、岩上に住み、松茂海岸のテトラポットで見つかる。行動が敏捷で捕えにくい。頭部、胸部は黒色、腹部も黒色であるが、前方から側方へかけて白毛がはえており、灰色のように見える。


徳島県立図書館