阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第36号
土成町における読書調査

読書調査班(徳島県立図書館)

 福本博・筆田浩資・植町徹・

 長尾由美子・小浜俊和(作表・作図)
 吉田隆(文責)

1.調査の目的と方法
 読書調査班は、従来から読書と図書館に関する住民の意識と実態を調査するため、アンケート調査を実施してきた。今回の調査でも、小中学生の父兄にアンケート用紙を配布し回収するという従前の方式を踏襲した。また、土成町では、昭和63年8月に町立図書館が開館したばかりであるが、町立図書館をはじめ、学校図書室や行政の責任者の方々の率直かつ貴重なご意見もお聞きした。

2.読書と図書館に関するアンケート調査


 アンケートの回答者は、小中学生の子を持つ、30代、40代の年齢層を中心とする男女であり、無作為抽出方法によるものでないこと。また、男女同数でないため、調査結果の性差を示す数値が必ずしも正確であるとは言えないことに注意されたい。
 以下、各問に対する回答の集計を表と図に示し(便宜上、問の番号と表・図の番号を一致させた)、アンケートの「その他(   )」欄内のように具体的に記述された回答をAとして掲げ、調査結果に対する調査班の分析・コメントをCとして掲げる。コメントについては、報告をできるだけ簡潔なものとするため、調査結果のうち特に注目すべき点についてのみ、主として図書館学の立場からのアプローチによって論述することにした。

問1〔情報源〕あなたは、知りたい情報や知識を何から得ていますか。(主なもの2つに○を)
 1.新聞  2.雑誌  3.書籍  4.テレビ  5.ラジオ  6.その他(   )


A:回答なし
C:一見常識の範囲内の調査結果であるが、新聞の比率が高いことは、日本的特色を示していると言えるだろう。新聞が今日果たしている社会的文化的役割は極めて大きいと言わなければならない。
 また、問1・問2を通じて、わずかながら男性が女性よりも本をよく読む傾向が見られる。

問2〔読書率〕あなたは、平均1か月間に何冊本を読みますか。(雑誌は除く)
 1.1冊  2.2冊  3.3冊  4.4冊  5.5冊以上  6.読んでいない


C:今回の調査で最も注目すべき数値が、ここに示されている。雑誌を除いた書籍読書率が約70%という、過去の調査に比較して突出した高い数値が示されたのである。
 この70%という数値の背景にあるものは、一体何であろうか。それは、おそらく、町内唯一の文化施設と言ってよい町立図書館の開館によるものだと考えられる。
 昭和63年度の徳島県内の公共図書館の実績を表わした順位表を見ると、人口当たりの登録人数、人口当たりの貸出冊数、蔵書1冊当たりの貸出冊数のいずれをとって見ても、トップからベストスリーの中にランクされており、土成町立図書館は、県内で最もアクティヴな図書館の一つなのである。さらにさかのぼれば、昭和46年以来約20年にわたって、町が配本車による熱心な配本活動を行なってきたことが、住民の高い読書率を支える要因となっていると思われる。
 このように、今回の調査では、図らずも、図書館の存在ないし活動が住民の読書率に大きな影響を及ぼすことを示唆する結果が得られた。このことは、すべての町村に図書館を建設する運動を展開していく上で、少なからぬ意義を持ちうるであろう。

問3〔読書の目的〕あなたは、どんな目的で本を読みますか。(主なもの2つに○を)
 1.仕事のため      2.趣味や娯楽のため     3.教養を高めるため
 4.子どもの教育のため  5.家庭生活に役立てるため  6.その他(   )


A:子どもと同じ本を読んでみる。暇つぶしのため。自分を戒めるため。
C:男女とも読書は、基本的には趣味・娯楽のための私的な営みであるとしつつ、男性では、仕事のため、教養を高めるため、と続くのに対し、女性では、家庭生活に役立てるため、子どもの教育のためと続く。男女の社会生活上の機能分担が、読書の目的にも反映されており、興味深い。

間4〔読書の分野〕あなたは、これからどんな種類の本を読みたいですか。(3つまで○を)
 1.宗教・哲学  2.歴史・地理  3政治・経済・財テク  4暮らし・健康
 5.教育     6.科学・技術  7.産業        8.文学・小説
 9.芸術     10.その他(   )


A:身近に役立つ本、図鑑、詩、生き方、料理、心理学。
C:読書の分野においても、全体的に観察する限り、男女の関心の相違を読みとることができる。すなわち、女性では、暮らし・健康、文学・小説、教育といった特定の分野に関心が集中するのに対し、男性では、それ以外に、政治・経済・財テク、産業、科学・技術といった各分野に比較的幅広く関心が分散する傾向を示す。

問5〔本の入手方法〕あなたは、読みたい本をどこで手に入れますか。(2つまで○を)
 1.書店  2.県立図書館  3.町立図書館  4.移動図書館  5.職場  6.家族・友人
 7.家庭文庫  8.その他(   )


A:スーパーマーケット、農協(家の光)、社会教育団体。
C:読みたい本を図書館で手に入れると回答された人の比率は、まだ高いとは言えない。何よりもまず、リクエストや相互貸借といった、図書館が利用者のために採用している諸制度を住民に知ってもらう必要があるだろう。また、図書館がリクエスト制度を運用するにあたって注意すべきことは、図書館独自の資料収集方針や予算による制約によって住民の利用を阻害することがあってはならないという点である。例えば、町立図書館が専門書は購入しないという収集方針を持つのであれば、県立図書館が専門書を収集し相互協力によって補完する、といった図書館相互の機能分担が適正に行なわれるべきである。

問6〔県立図書館への要望〕(問5で「県立図書館」と答えた人に)あなたは、県立図書館に何を望みますか。
A:新しい本をどんどん取り入れてほしい。市外に駐車場がついた24時間開放の図書館を建ててほしい。利用したことがないので、様子がわからない。
C:ここでは、「24時間開放」という貴重なご意見を頂いた。おそらく少なからぬ人たちが、このような図書館を理想に描いているであろう。しかし、完全にロボット化された未来の無人図書館は別として、少なくとも現在のところは、公共図書館の業務が「営業」でない以上、スーパーマーケットのように24時間営業形態をとることはありえないし、また、図書館には、救急病院のような「急迫性」も通常考えられないことから、このような図書館が出現する可能性はないと言ってよい。夜間開館については、問9で述べることにする。

問7〔町立図書館の利用率〕あなたは、町立図書館や移動図書館を利用したことがありますか。
 1.ある(問8へ)  2.ない(問9へ)


C:女性の利用率が、男性を約12%上回っている。

問8〔町立図書館の利用内容〕(問7で「ある」と答えた人に)どのような利用をされましたか。(該当するものすべてに○を)
 1.本の貸出し・閲覧  2.調査・研究に関する相談や問い合わせ
 3.読書会に参加    4.行事や催しに参加  5.その他(   )


A:回答なし
C:町立図書館を利用し、読みたい本を入手しているのは女性が多いが、調査・研究に関する相談や問い合わせ(レファレンス利用率)は、男性の方が女性よりも多くなっている。これは職業に基づくものであろう。

問9〔町立図書館を利用しない理由〕(問7で「ない」と答えた人に)どのような理由からですか。(2つまで○を)
 1.利用したい本がない(少ない) 2.開館時間中に利用できない
 3.設備や快適さに欠ける     4.本は買って読みたい  5.その他(   )


A:主婦なので長い時間をかけて読むから。時間に制約されずに読みたいから。読んだ本は残したいため。子どもが借りてきた本をたまに読んでいる。地理的に遠い。家から少し遠い。図書館まで遠い。遠いので車が必要だから。わたしの地区からだと少し遠すぎるため利用できない。時間がない。時間がなくなかなか行けない。読む暇がない。忙しい。借りに行く時間がない。子どもに手がかかって借りに行く時間がない。子どもが小さいため、利用しにくい。子どもが小さいため、なかなか読む時間がない。借りに行くのが面倒である。借りたり返したりするのが面倒くさいから。読みたいと思わない。あまり読まない。図書館にあまり興味がない。場所を知らない。
C:土成町立図書館は、日曜日は開いており、平日も午後7時までと、県内の公共図書館の中では、最も住民のニーズに沿った運営を行なっている。にもかかわらず、男性では74%、女性でも62%の人が、開館時間中に利用できないという理由をあげているのである。ここでの男女の比率の差12%は、そのまま問7で見た男女の図書館利用率の差となって現われていると見てよいだろう。
 ワーカホリックと批判される現在の日本の経済構造が悪い、と言ってしまえばそれまでであるが、従来のお役所的「9時から5時まで」型図書館では、年金生活者と子どもしか利用できないことも事実である。「いつでも、どこでも、だれにでも」図書館サービスを提供するという図書館の理念からすれば、夜間開館の問題は、今後図書館が避けて通ることのできない問題になると言えよう。要するに、この問題は、地域住民が「等しく図書館を利用する権利」なる観念的権利を、どれだけ具体的かつ切実に要求し、行政の努力を促してゆくかにかかっていると言える。
 また、その他の理由として、図書館までの距離が遠くて利用できないという意見も寄せられた。町立図書館は町の中央部に位置しているとは言っても、町の端からは4km余の道程がある。交通手段を持たない者にとっては、決して短い距離ではない。
 実は、この点に関して、教育長からひじょうに興味深いお話を伺った。町内16か所の集会所に図書室を置くという構想が、それである。集会所に分館的機能を付与することができれば、町内を漏れなくカヴァーする、全国的にも出色の図書館網が登場することになる。構想の実現を期待したい。

問10〔町立図書館への要望〕町立図書館を利用しやすくするためには、どうすればよいと思いますか。(3つまで○を)
 1.利用者の要望に見合った本を置く  2.休館日や利用時間を工夫する
 3.利用手続きを簡単にする      4.職員を増員する
 5.設備や快適さに配慮する      6.施設を拡充する
 7.特にない             8.その他(   )


A:移動図書館を増やす。回ってくる回数が少ない。図書館が遠いため、近くまで来てほしい。もっと町内すみずみまで来てほしい。もっと小地域まで回ってほしい。停車場所をもう少し多くしてもらいたい。移動の場合、毎月第○曜日の○時というように決めておくとよい。窓口の所に時間を書いておいてほしい。スリッパに替えるのが不便。土足のままにしてほしい。
 日曜しか利用できないため、本は読み終わっても返せない時があるので、貸出期間を3週間ぐらいにしてほしい。貸出日数を本人の希望に任せる。予約制。
 夜9時ぐらいまで利用時間を延長してほしい。
 漫画本を減らしていくこと。
 なるべくたくさんの本を置いてほしい。もっと多くの本を置くこと。冊数を多くしてほしい。
 なんとなく入って行きにくい。明るいイメージを与えて、図書室の周囲の庭で読書ができるような気軽さで利用できればよいと思う。以前利用したことがあるが、閲覧するには暗かったように思う。
 以前、移動図書館で借りて読んでいたが、返したはずの本が、まだ返ってないと言われ、なんとなく煩わしくなってやめた。
 利用したことがないのでわからない。
C:土成町立図書館がコメントすべき事項であるので省略する。

問11〔子どもの読書への期待〕あなたは、お子さんの読書に何を期待しますか。(2つまで○を)
 1.子ども自身が楽しんで読めること。  2.創造力を養い、心を豊かにすること
 3.知識が増し、視野を広げること    4.文字がよく読め、読解力を増すこと
 5.本をきっかけにして親子の交流をはかること
 6.子どもの読書にあまり関心がない。  7.その他(   )


A:回答なし
C:ほぼ例年どおりの調査結果であるので、コメントは省略する。

3.学校図書室の現状と問題点
 土成町には、小学校2校と中学校1校があり、それぞれ図書室を備えている。いずれの図書室も古い本が多く、新本を購入したくとも、図書購入費が少額であるため購入できずにいる、というのが現状である。土成小学校では児童が汗を流して作った玉ねぎを売って得られたささやかな代金で、図書を購入する「玉ねぎ文庫」の話を聞いた。教育効果にも配慮した自助努力に感心させられる反面、図書購入費が少ないということも感じさせられた。各学校とも、読書の時間を設定するなど、児童生徒が読書に親しむよう配慮を行なっているが、多読賞表彰による読書の奨励は人権問題だ、とする問題提起がなされている自治体もあるようである。
 最近の小学生の読書傾向としては、学習漫画のような視覚に訴えるものが、好んで読まれている。
 学校図書室と町立図書館のかかわりについては、中学生の場合は、学校と町立図書館との距離が近く比較的利用に便利であるが、小学校低学年児童で家が遠い場合は、町立図書館の利用は困難であるので、まず第一に学校図書室自体の図書を充実することが望ましい。また、町立図書館には、児童生徒の読みたい本が少ないという意見もあり、次善の策として、学校側の作成した図書リストを町立図書館に提出し、予算の豊富な町立図書館でそれを購入、学校図書室に貸出すこと、が学校側の要望として出された。
 いずれにせよ、学校図書室と町立図書館との密接な協力関係の確立が望まれる。

4.総括
 確かに、町長の言われるように、「図書館をつくっても何のもうけにもならない、と考える町民性」が、土成町の年配者の一部にはあるのかもしれない。しかし、若者や子どもが町立図書館の開館を喜んでいるのは事実であるし、30代、40代の働き盛りの年代層においても極めて読書率が高いことは、アンケート調査結果が示すとおりである。土成工業団地、四国縦貫道インターチェンジ建設で、土成町も転機を迎えつつある。この時期に若い人に喜ばれる文化施設を充実発展させることは、土成町の将来にとって大きなプラスとなるであろう。教育が投資なら、読書も投資である。読書によって土成町の未来を背負って立つ有為の人材が一人でも二人でも出てくれば、図書費の投資など安いものである。その意味で、平成元年度に町立図書館の図書費として2,000万円の予算を計上された町長・町議会の英断に敬意を表すると同時に、土成町における読書、図書館活動の一層の発展を期待したい。
 最後に、冒頭でも紹介したように、今回の調査では土成町住民の方々をはじめ多くの方々に快く協力して頂いた。深く謝意を表したい。


徳島県立図書館