阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第36号
児童の生活実態とその意識

教育社会学班

  平木正直1)・伴恒信2)・
  小島敏子(文責)2)・

  石川昌代(文責)2)

1.調査の概要
 この調査は、子どもを取り巻く環境に目を向け、日常生活や人間関係、家族との過ごし方など、その行動や意識を、質問紙によって見ようとしたものである。
 調査対象は、土成町(徳島県)、堺市(大阪府)、大田区(東京都)の4、5、6年生で、その数は、下のような内訳になっている。各学校に質問紙を配布し、自記式調査で、平成元年6月下旬から7月下旬に実施した。
 堺市、大田区は、土成町の子どもの実態をより明確にするために、比較の対象として取り上げた。以下グラフ等を示す際、地域の区別の書かれていないものは、調査対象全体のデータから出た結果になっている。
 質問紙の項目は、全部で215項目で、内容は、生活時間、友人関係、学校外での活動、学校での様子、家庭での過ごし方などに関している。

2.調査の結果及び考察
(1)子どもたちの生活時間
 子どもたちの生活時間についていくつか質問した結果、土成町の子どもたちが、堺市、大田区の子どもたちに比べて、学校で過ごす時間が長くなっている。
 まず、下校時間について、大田区では、3時〜3時半(63.8%)、堺市では4時〜4時半(49.9%)が多かったのに比べて、土成町では、4時半〜5時が最も多く(35.6%)なっている。
 また、学校から帰った後の遊び時間については、大田区では、2〜3時間と答えた子どもが最も多かった(38.3%)が、土成町では、1〜2時間というのが全体の37%を占め最も多く、家で遊ぶ時間が他の地域よりも短い。
 さらに通塾状況については、大田区58.2%、堺市34%、土成町29.7%で、土成町の子どもは、他の2地域の子どもたちに比べて、通塾率が低く学校が高い比重を占めていることが分かった。

(2)子どもたちの学校の楽しさ
 子どもたちにとって、学校は生活の大部分を占めるものであり、学校での生活が子どもたちの生活全般、または、その後の生活に及ぼす影響は大きいものである。
 そこで、子どもたちがどのように学校生活を送っているのか、また、どのように学校生活に適応しているかを見るため、どんなときにどのように学校を楽しく感じているのかについて質問した。まず「あなたは、学校が楽しいですか。」という質問の結果を見ると、表1のようになる。


 学校が「とても楽しい」または「楽しい」と回答した割合を合計すると、全体の6〜7割を占めていることがわかる。さらに、「あなたが学校で楽しいと感じるのは、どんなときですか。」という質問に対しては、表2の結果を得た。


 この表は、土成町、堺市,大田区の地域別に数字を出し、それぞれ、上位3つの項目を示したものである。
 これを見ると、堺市、大田区では「友達ができたとき」が楽しいという回答が最も多いのに対して、土成町では、「友達よりテストの点数が良かったとき」が楽しいという回答が最も多くなっている。
 先に見たように、土成町では、堺市、大田区に比べて、塾に通っている子どもが少なかったにも関わらず、子どもたちのテストに対する関心が強いという結果が出た。
 このことに関連して、学校の楽しさと成績との関係を分析した結果が下の図1のグラフである。


 これを見ると、「とても楽しい」と答えている子どもの中には、成績がとても良い子が全体の32.9%で、最も高い割合を占めている。
 一方、「全然楽しくない」と答えた子どもでは、成績が「とても良い」(10%)と「悪い」(18.7%)と自己評価している割合が高くなっていて、成績が必ずしも子どもの学校の楽しさを規定するものにはなっていないといえる。
 次に、特に授業に注目して、どんな科目をどういう理由で好きなのかについて質問した。その結果、どの地域でも、子どもたちが好きな科目の上位に入るのは、体育、図工、クラブ活動であることがわかった。その科目が好きな理由では、「実験をしたり、作ったりできるから」、「運動したり、歌ったりできるから」が上位を占め、「グループで活動できるから」や「自分のぺースで勉強できるから」という回答も比較的多いことから、子どもたちは自分で動ける活発な授業を好み、そんな授業に楽しさを感じていると言える。

(3)先生との関わり方
 小学生は、担任の先生と接している時間がとても長い。そこで、担任の先生との関わり方について、いくつか質問した。その結果が下の表3である。表3にあるような9つの項目について、それぞれ「よくある」「ときどきある」「ほとんどない」「まったくない」の4つのうちから、あてはまるものを選ぶという形で質問した。ここには、「よくある」と回答した割合のみ載せた。


 他の2地域と比べて、土成町で高い割合を示しているのは、「自分から先生に話しかける」と、「先生に言いたいことを手紙や日記に書く」という項目である。また、「先生のようになりたいと思う」や「先生は自分のことをよく分かってくれている」という項目でも土成町がかなり高い割合を示している。
 しかし、「先生は自分のことを良く分かってくれている」という項目については、次の表4に示すように、「まったくない(分かってくれていない)」と答えた子どもも、土成町で比較的多い。このように、先生が自分のことをわかってくれていないと感じている子どもたちは、先生に「もっと自分のことを分かって欲しい」という願望を抱いていると考えることができる。

(4)学校の楽しさを規定する要因
 ここでは、先に触れたような学校の楽しさを規定する要因について、子どもの行動を中心に分析してみた。その結果を示す前に、ここで用いている「指標」について説明する。
 右の表5に示す4つの項目は、子どもたちが、どれほど規範に適合しているかを聞いた質問である。それぞれの項目(質問)毎に「いつもする」「ときどきする」「ほとんどしない」「まったくしない」という4つから当てはまるものを選ぶという形で回答してもらった。そして、「いつもする」=2点、「ときどきする」=1点、「ほとんどしない」=−1点、「まったくしない」=−2点のように、それぞれの回答に得点を与え、4つの項目それぞれの回答について得た得点を合計したものが表5の「点数」にあたる。その点数を5段階に分けたものが表5の「指標(1〜5)」である。


 ここでつくった指標は「規範適合指標」と名づける。つまり、この指標の数値が大きいほど、規範によく適合していることになる。これと同じ方法で、子どもたちが人間関係に対応しているかを見るものとして「人間関係対応指標」、どれぐらい自己表現できているかを見るものとして「自己表現指標」を作った。それぞれに含まれている項目は、次ページの表6に示してある。


 次に、これらの指標を用いて、子どもたちの自己表現力や社会性、また規範適合力が、学校の楽しさとどのような関係があるのかを分析した。


 まず、前ページの図2は、学校の楽しさと「自己表現指標」との関係をグラフ化したものである。これを見ると、「自己表現指標」の高い子どもほど、学校を楽しいと答えている割合が高いことがわかる。自己表現指標に入る項目には、自分の意見をはっきり言ったり、先生に対して積極的に質問したりする行動が含まれている。こういう行動がよくできる子どもに、学校が楽しいと感じる傾向が見られることから、授業への積極的な参加や、先生との直接的な接触が、学校の楽しさを規定する要因となっていると考えられる。


 また、上の図3は、学校の楽しさと「人間関係対応指標」との関係を分析し、グラフ化したものである。これを見ると、「人間関係対応指標」の高い子どもほど学校を楽しいと感じている割合が高いことがわかる。
 学校に限らず地域社会や公共の場において、人間関係を踏まえてさまざまな場面で適切な行動がとれる子どもは、学校のなかでの活動にも、自主的に関わって行くものと考えられる。そして、こういう子どもが、学校で楽しいと感じる傾向がある。


 しかし、最も顕著な傾向が見られたのは、「規範適合指標」と学校の楽しさとの関係である。上の図4を見ると、「規範適合指標」の高い子どもほど学校を楽しいと感じている割合が高くなっている。規範適合指標の高い子どもは先生に叱られることが少なく、学校の規範に対しても無理なく適合できるために、学校が楽しいと感じることが多いと考えられる。

(5)家族との過ごし方
 自己表現力や人間関係に対応する力、また、規範に適合する力が、学校の楽しさと関連することが分かった。それでは、それらの力はどういうところで育まれるのであろうか。


 その視点で、子どもたちの家庭生活に注目し、家庭でどのように過ごしているかについていくつかの質問したが、その結果をまとめたのが、上の表7である。そこに示した10の項目について「よくする」「ときどきする」「ほとんどしない」「まったくしない」の中から、あてはまるものを選ぶという形で質問したのだが、ここでは、「よくする」と答えた割合のみ示した。
 個々の項目を見ると、土成町では、「夕食の後、家庭でおしゃべりをする」「よその家族を訪問する」「家族で出かけるときに、友達も誘う」が、他の地域に比べて、高い割合を占めている。
 一方、「家族揃って旅行する」「よその家族と一緒に旅行する」「家族で映画や美術館に行く」の項目では、「よくする」と回答した割合が土成町で最も低くなっている。
 これらの結果から、土成町では、地域のなかでの家族同士の交際は、他の地域に比べるとよく行なわれているが、文化的な活動や、家族での外出は、都市部から離れているという環境条件から、日常的には、あまり行なわれていない。

(6)子どもの成績への両親の関心
 両親が、子どもの成績にどれくらい関心をもっているかを見るため、「両親の成績への関心の指標を作った。方法は、これまでに出てきた指標と同じである。どのような項目を使ったかは、右の表8の通りである。


 そのようにして作った指標の、どこにどれくらいの割合が分布しているかを県別に分析し、グラフ化したのが上の図5である。これを見ると、両親の成績への関心が最も高いことを指す指標5において、土成町が最も高い割合を示していることがわかる。また、関心が比較的低いことを示す、指標3、4、5においては、土成町が最も低い割合となっている。
 このことは、土成町の両親が、子どもの成績に高い関心を持っていることを表していると言えよう。
 またそのことが、先の「(2)子どもたちの学校の楽しさ」にあった、土成町の子が「友達よりテストの点数が良かったとき」学校が楽しいと多く答えていた結果にも関連しているのではないかと思われる。つまり、土成町の両親が子どもの成績に強い関心を持っていることが、土成町の子どもたちが、テストの点数に強い関心を持つということに反映しているということが言えるのではないだろうか。

(7)子どもたちが将来就きたい職業
 最後に、子どもたちの将来の夢について聞いた質問の結果を示す。「おとなになったら、どんな仕事をしたいですか。」という質問について自由に答えてもらった。


 その結果を分類し、地域別に上位5つを示したのが前ページの表9である。
 これを見ると、どの地域でも、子どもたちの最も多くが選んでいるものは、同じになっている。男の子は「スポーツ関係」、女の子は「教職」である。なお、それぞれの分類に主にどのような職業が含まれているかは、下の表10に示した。


 なお、表10の分類は、例えば、大工さんやコックさんは何かを作る仕事、パイロットやカーレーサーはかっこいい乗り物に関係のある仕事、のように、子どもたちがその仕事に抱くであろうイメージを重視して作った。
 子どもたちが将来なりたい仕事については、他の研究でも、調査されている。それらの研究でも、男子にはスポーツ選手、女子には小学校などの先生が、最も支持されていた。これらは、小学生が最も夢を描く職業と言えよう。
 また、全体に、夢が堅実志向になっている事も感じられる。表9を見てもわかるように子どもたちが選んでいるものは、日々の生活の中で、身近に触れているものや、テレビなどで頻繁に見ることのできる職業になっている。つまり、子どもたちの持つ経験が、将来に抱く夢に影響していると言える。
 様々な機会を利用して、いろいろな職業に触れたり、働いている人を見たりして、職業に関する経験を豊富にすることも、子どもたちの夢を広げる意味で重要だと言えよう。

1)徳島大学 2)鳴門教育大学


徳島県立図書館