阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第36号
土成町住民の栄養調査

医学班

 栢下淳・森谷浩明・岩品広敏・

 岩田晴美・植山篤則・岡田悟・東美江・

 合田展子・酒井徹・須江俊恵・

 新居佳孝・野田紀久子・細井陽子・

 松本敬子・森本淳子・吉岡昭子・

 森口覚・水沼俊美・坂井堅太郎・

 小川久子・岸野泰雄

 我々医学班は阿波学会総合学術調査の一環として農村医学班の調査と並行して土成町住民の栄養調査を実施した。土成町は、徳島県の西北吉野川中流の北岸に位置し、徳島市から 28km の地点にあり、東西 7.5km、南北 8.7km、標高 65m、東は上板町、西は市場町、北は香川県大川郡白鳥町に接している。
 町の面積の 30%は全般的に起伏の少ない平坦地で残り70%は山林で占めている。河川は阿讃山脈から源を発し、南流する宮川内谷川を中心に高尾谷川、九頭宇谷川等大小16河川が南に流れ吉野川に注いでいる。
 これら河川により展開された扇状形の耕地が阿讃山脈を背にして南面緩傾斜地を形づくっている。山腹の急傾斜面には畑地が開かれている。気候は年間を通じて比較的温暖で雨量が少なく年平均 1300mm 程度であり、時として冬季積雪を見ることがある。産業は、農業が主体で、特産物として、米、たばこ、野菜、果樹などがある。今回、ここに在住する住民の食物摂取量、生活時間、みそ汁塩分濃度及びアンケート調査を実施し、興味ある結果を得たので報告する。

〈調査方法〉
1)対象
 徳島県板野郡土成町農協に加入している農業従事者のうち、男性89名、女性102名、計191名に対して栄養調査を実施した。年齢は20歳代から70歳代まで、平均年齢は男性51.6±11.4歳、女性54.0±12.2歳であった。
2)期間
 平成元年8月8日から8月11日までの4日間にわたり実施した。
3)調査項目
 a)栄養摂取量
 調査を行う数日前に食事調査表を各自に配布し、調査の前日に摂取した食物の種類と目安量を記入してもらい、調査日に持参するように依頼した。調査日には個々の面接により食品モデルを提示し、各自が記入した食品目安量を調査員が再確認した上でグラム数に換算した。栄養摂取量および食品群摂取量などの算定にはパーソナルコンピューターを使用した。
 b)生活時間調査
 食事調査日の生活時間を記入してもらい、面接時に調査員が不明確な点を再確認し、生活時間の算定を行った。消費エネルギーは沼尻らの方法を用いた。各労作の活動代謝は以前の報告と同様の値を用いた。
 c)みそ汁の塩分濃度
 調査日に持参してもらったみそ汁について、堀場製作所製の HS−7 食塩濃度計により塩分濃度を測定した。
 d)アンケート調査
 アンケート用紙を各自に配布して記入を依頼し、面接時に調査員が不明確な点をもう一度確認したうえで、各回答を得た。

〈結果および考察〉
1)土成町住民の食糧構成
 土成町住民の食品群別摂取量は、「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)を100%として図1に示した。穀類は目安量をやや下回る程度の摂取量だった。油脂類はかなり低い値を示していた。たん白質源である豆類、魚類、肉類、卵類は、ほぼ目安量を充たしていた。また、乳類は目安量を大きく上回って摂取されていた。緑黄色野菜は、夏場でトマトを多く食べていたこともあってよく摂取されていた。果実類も同様に、夏場ですいかを多く食べていたこともありよく摂取されていた。小魚・海草類は目安量を大きく下回っていた。
2)年齢別にみた食品群別摂取
 「食品群別摂取量の目安」(速水氏案)を100%として各食品群別の摂取量を40歳未満、40歳代、50歳代、60歳以上に分けて検討した。その結果、穀類の摂取では、年齢による違いはみられなかった(図2)。いも類も同様に、年齢による違いはみられなかった(図3)。砂糖は、各年齢で女性が男性よりも高い摂取傾向を示し、特に50歳代以上の女性については、摂取量が男性の約2倍であった(図4)。油脂類は、年齢による差はあまりみられず全体的に低い値を示していた(図5)。
 たん白質源のうち豆類は40歳代でやや目安量を下回ったがその他の年齢ではほぼ充足されていた(図6)。魚類は、40歳代以上で目安量を充たしていた(図7)。しかし、肉類では、40歳未満および40歳代でよく摂取されていたものの年齢と共に摂取量は低下していた(図8)。卵類は全体的によく摂取されており(図9)、また乳類も各年齢ともよく摂取されていてよい傾向であった(図10)。
 淡色野菜は、60歳以上の年齢層ではよく摂取されていたが、それ以外の年齢層では目安量を下回っていた(図11)。緑黄色野菜は女性が男性よりよく摂取する傾向にあり、40歳未満の男性で目安量を下回った(図12)。また、果実類も同様に女性が男性よりよく摂取する傾向がみられたが、年齢による違いはみられなかった(図13)。
 ミネラル源である小魚・海草類は、年齢が高くなるとともに摂取量は増加していたが、平均して摂取量は低くなっていた(図14)。
3)栄養摂取量
 日本人の栄養所要量(第3次改訂)を100%としたときの土成町住民の平均栄養摂取量の比率(%)を図15に示した。脂肪の摂取はかなり低く、そのため、脂肪エネルギー比は低い値を示した。ビタミンB2、ナイアシンがやや所要量を下回っていた他は全般的に充足されており、たん白質もよく摂取されていた。また、ビタミンCは野菜の摂取が多かったためか、とくに高い値を示した。
4)年齢別にみた栄養摂取量(図16〜29)
 栄養素摂取状況においては、年齢の違いによる差はあまり見られず、どの栄養素もよく充足されていた。男女間の比較においても差はあまり見られなかったが、鉄の摂取量は男性が女性を上回り(図22)、ビタミンCの摂取量は女性が男性を上回る傾向があった。(図27)
5)みそ汁の塩分濃度
 図30は、みそ汁の塩分濃度を測定し、その濃度の度数分布を示したものである。塩分濃度は、0.6〜1.0%がピークになっているが、個人差が大きく全体の36%の人が推奨濃度である1.0%を越えていた。しかしながら、アンケート調査の結果ではほとんどの人が自分の家のみそ汁を塩辛いと思っておらず栄養指導の必要性が考えられる。また、実際の食塩摂取量も厚生省の推奨値である10gよりは多く摂取している人が55%もおり、指導による改善が望まれる。
6)アンケート調査結果
 食物摂取調査は1日の結果であるので、食生活の全貌をとらえるべく、栄養意識および食物摂取頻度について調べた(図31)。食品の組み合わせを考えている人は、女性に多くやはり女性の方が栄養意識は高いようだった。緑黄色野菜をよく食べると答えた人が多かったが、これは実際の調査結果と一致していた。また、油を使った料理をよく食べると答えた人は全体の 1/2 いたが、脂肪の摂取は低い傾向を示していた。欠食をする人は少なく、間食する人は多くいたが、摂取エネルギー量としては適度であり、全般に良好な結果であった。

〈まとめ〉
 土成町住民の食生活は、食品群別摂取量、栄養素別摂取量ともによく充足されており、大きな問題となるような過剰摂取もみられなかった。しかし、油脂類の摂取が低く、脂肪エネルギー比も低くなっているため、もう少し油を使った料理を増やすなどして油脂類を摂ることが望ましい。農村地区では、たん白質、鉄、カルシウムが不足しがちであるが土成町では、そのような傾向はみられなかった。これは、乳類がよく摂取されていることによると思われる。
 野菜類は、夏場ということもあってよく充たされていた。とくに、緑黄色野菜についてはアンケート調査でもよく食べているという結果がでており、このような食習慣の継続が望ましい。
 食塩摂取量は厚生省の推奨値(10g以下)をこえる人が55%もおり、みそ汁の塩分濃度も厚生省の推奨値(1.0%以下)をこえる人が36%もいた。この点は食塩摂取と高血圧などの成人病との関連からも栄養指導の必要があろう。

〈参考文献〉
1)手塚朋通ら:脇町地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、19,57,1973
2)高橋俊美ら:宍喰地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、20,73,1974
3)中西晴美ら:上勝町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、21,103,1975
4)上田伸男ら:神山町の栄養調査、郷土研究発表会紀要、22,191,1976
5)鈴木和彦ら:牟岐町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、23,143,1977
6)山本 茂ら:山城町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、24,131,1978
7)鈴木和彦ら:市場町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、25,123,1979
8)森口 覚ら:池田町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、26,183,1980
9)高間重幸ら:上板町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、27,79,1981
10)黒田耕司ら:貞光町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、28,151,1982
11)角田みどりら:鷲敷町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、29,131,1983
12)河村純夫ら:鴨島町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、30,83,1984
13)近藤孝司ら:羽ノ浦町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、31,87,1985
14)戸羽正道ら:石井町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、32,121,1986
15)小林直道ら:板野町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、33,97,1987
16)久木野憲司ら:上那賀町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、34,89,1988
17)鈴木健ら:公衆栄養、医歯薬出版、1981
18)沼尻幸吉:働く人のエネルギー消費、労働科学研究所、1980
19)沼尻幸吉:活動のエネルギ―代謝、労働科学研究所、1987
20)速水 泱:栄養所要量の改訂に伴う食品群別摂取量の目安の私案、栄養学雑誌、43,209,1985
21)厚生省保健医療局健康増進栄養課:日本人の栄養所要量(第3次改訂)、第一出版、1984
22)厚生省保健医療局健康増進栄養課:国民栄養の現状(昭和62年版)、第一出版、1987
23)森口 覚ら:農業従事者(徳島県下)の栄養摂取と身体状況、栄養と食糧、33,335,1980
24)森口 覚ら:地域別(徳島県下)にみたみそ汁中の塩分摂取量、医学と生物学、104,27,1982
25)Kishino Y et al.:Preventive effect of fish-rich diet on hypertensive diseases : nutrition survey in Tokushima. Tokushima J. Exp. Med. 35,107,1988

 


徳島県立図書館