阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第35号
上那賀町の読書調査

読書調査班

  清水博・新孝一・山城秀代・山本みち
  安藤美穂・井上洋子

1.はじめに
 上那賀町における読書の状況を調査するために、読書調査班では、座談会及び読書アンケート調査を行った。
2.上那賀町について
1 あらまし
 上那賀町は那賀川の上流に位置し、面積175.13平方キロメートル、南北約 15km、東西約 19km に及ぶ広大な地域を有している。その大半は急峻な山岳地帯であり、木頭杉などの山林によって占められている。町の有力な産業は木材を中心とする林業関係で、最近ではユズを特産品としている。
 昭和31年9月30日、宮浜村と平谷村が合併し上那賀村となり、翌32年1月1日に上木頭村の海川地区を編入合併して同時に町制を施行し現在に至っている。昭和62年10月1日現在の人口は2939人で、人口密度は1平方キロメートルあたり16.8人である。合併した新町制施行以来の10年ごとの人口推移は表1のとおりである。
 上那賀町だけの現象ではないが、山村地帯の各町村に共通していることは人口の減少である。表1からもわかるように、新町制がスタートしてから減り続け、現在では合併時の半数以下になっている。児童・生徒数についても同様なことが指摘されるが、出生数の減少がさらに拍車をかけていると思われる。

2 読書運動
 上那賀町が新町制をスタートした昭和32年ごろから県下一斉に読書運動が盛んになってきた。読書は本来個人の営みであるが、社会教育の一環として集団読書として取り組んだものである。35年から40年ごろにかけて運動は最高潮に達したが、なかでも丹生谷地方(那賀川流域)はとくに活発であり、その中心地は上那賀町であった。たとえば昭和38年度の県読書振興大会は、秋山ちえ子氏を迎えて盛大に開催されたが、この会に出席するために上那賀町から100名以上の読書グループ会員が大型バスを貸し切って参加したという。
 その後、テレビの普及、核家族化、婦人層の職場進出など様々な要因が重なり、昭和45年ごろから読書運動は急速に下火となり、現在では衰退している。読書運動は県立図書館の移動図書館の利用者が中心となった運動であったが、今日では図書の利用と読書運動は直接の関係はなくなっている。また読書運動の衰退にともなって図書の利用も減少しており、上那賀町においても昭和40年代をピークにして順次少なくなる傾向にある。現在では大人よりも、児童・生徒の利用に重点がおかれている。
3.読書についての座談会
 日時 昭和63年8月2日 13時30分から15時30分
 場所 上那賀町公民館
 出席 上那賀町教育長 宮本明
  平谷中学校長 粟田進
  桜谷小学校 野々宮安子
  海川小学校 桜田弘江
  桜谷郵便局 小岸徳市
  上那賀町教育委員会 横山尚純
  読書調査班
 始めに、教育長の、阿波学会学術調査への期待の旨の挨拶があり、次に学校や家庭、地域社会での読書について話し合った。
1 現状
 桜谷小学校では、読書の時間を朝15分間設け、給食の時間に読み聞かせを行っている。
小学校低学年の子は本を最後まで読む子が多いが、高学年の子は最後まで読む子は少ない。
県立図書館からの本は学級に置いてある。学級での読書指導が良く行われている。
 海川小学校では、校内放送におはなしのテープを流している。感想文を書いてもらっている。県立図書館からの本は学級に置いてある。
 平谷中学校では、読書の時間を水曜日の6時間目にとってある。中学生は、進路のことやスポーツに忙しく、本を読む時間のゆとりが無い。図書室を充実させたい。
 郵便局では、郵便局部内から配本をしてもらっている。自主的に世話をして、各家庭の庭先まで本を持っていくことができれば読書は行われる。
 上那賀町では、学校の図書費は3万〜5万円であったが、今年は10万円にした。もっと図書費をつけたい。県立図書館から配本された本は、町民サロンに置いてある。町民サロンの開館日を広報し、住民の利用しやすい時間に開けたい。
 徳島県には、昭和63年度末で県内に15の図書館ができる。平成2年度に、徳島市八万町向寺山に県立図書館の新館が開館する。
2 討議
 上那賀町はスポーツ少年団があり活発にスポーツが行われている。共働きの家庭が多いので、放課後における青少年の健全な育成にスポーツが役立っている。
 親が本を読めば、子供も本を読む。家庭で親が子供に本の読み聞かせをしていると、その子供の語彙が多い。
 何を読むかというと、新聞は毎日読む。テレビは、ニュースを見る。本は、碁や将棋・お茶・生花などの趣味の本、健康についての医学の本を読むことが多い。新しい本を読みたいが、読む時間が無く、本を手に入れにくい。
 生徒も教育課程全般において過密スケジュールになっている。図書館も本屋も無いので、学校の図書室の役割は重要であり充実させたい。
 頭の老化の予防のためにも読書は良い。
 思考力や基本的な学力を養う上にも、読書は重要である。
 何といっても、読書をする時間のゆとりがない忙しい毎日である。時間作りが課題である。テレビをあまり見ていると本を読む力は落ちてくる。テレビを切って読書をする時間を作らないといけない。現代では情報が多過ぎて選択をする能力が必要になっている。
 昭和35年から40年にかけては、上那賀町の読書活動は大変盛んであったが、林業不況が社会活動全般に影響を与えてきている。
3 これからの取組み
(1)国語の時間に先生が本を読んでくれたのを今だに覚えている。学校に読書クラブを作ったらどうか。
(2)町民大学に読書教室を作ると良い。
(3)家庭教育学級で、お母さんやお父さんが本を読んで子供に聞かせてあげる。
(4)公民館図書室の活用をはかる。開館時間を延長して、5時以降や土曜日の昼からも使用できるようにしたい。
(5)学校の図書室は生徒の読書にとって重要であり、充実させよう。
(6)本屋に行くのも遠く、注文をしても遅い。本を身近で利用できるよう、市町村に図書館を作ってほしい。
 見学
 8月2日の午前中に桜谷小学校、平谷小学校、平谷中学校の図書室を見学させて頂いた。
 桜谷小学校の図書室
 図書室は2階にあり、運動場が見渡せる明るい部屋で手を洗う設備もあり、本が良く整備されていた。県立図書館の本は学級に置かれて利用されている。学級では、「読書チャンピン」や「読書のあと」という表が貼られていて、良く読書指導が行われているのを感じた。スポーツ少年団の活躍がすばらしいが読書も良く行われているのを感じた。
 平谷小学校の図書室
 県立図書館から配本された本が置かれてあり、県立図書館用、学校図書用の貸出ノートが置かれていた。当館の巡回配本図書が利用されているのは嬉しい。当館としても活用されるよう努力したい。
 平谷中学校の図書室
 立花文庫が置かれていた。多感な青少年時代に良書を読むことは人格形成にも重要なので、手にとってみたくなる新しい本を置くと良いと思う。

4.アンケート調査
 町内の幼稚園、小学校、中学校を通じて、児童・生徒の保護者2名ずつに回答していただいた。回答者数は、男性226人、女性249人、合計475人。上那賀町の人口が、2,939人(昭和62年10月現在)なので、町内の約16.2%の方々の回答を得られたことになる。

 〔情報や知識を得る手段〕
問1 あなたは、知りたい情報や知識を何から得ていますか。(主なもの2つに○を)
 1.新聞
 2.雑誌
 3.書籍
 4.テレビ
 5.ラジオ
 6.その他

 情報や知識を得る手段としては、新聞とテレビを選んだ人が圧倒的に多く、8割以上にのぼっている。それに比べて、雑誌や書籍を挙げた人は非常に少ない。
 このように大きな差ができたのは、新聞・テレビが情報の迅速性において優れているというだけでなく、書籍・雑誌に比べてずっと身近で入手しやすいという理由からではなかろうか。

 〔平均1か月の読書量〕
問2 あなたは、平均1か月間に何冊本を読みましたか。(雑誌は除く)
 1.1冊
 2.2冊
 3.3冊
 4.4冊
 5.5冊以上
 6.読んでない

 表4は、平均1か月間に何冊の本を読んだかという問いに対する回答人数を示したものであり、図2はそれを帯グラフに表わしたものである。雑誌は除くこととした。全体をみると、表4、図2からも明らかなように読んでいないと答えた人が、53.1%で過半数を超えている。次いで、1冊、2冊、3冊となっており、5冊以上と答えた人は1.3%である。
1冊と答えた人は27.8%であることから、ほとんどの人が1か月に1冊か、あるいは本を読まない状況にあると言えよう。これは、問8で図書館や図書室を利用したことがないと答えた人の理由と重ねて考えると、図書館の存在等の読書環境の問題、さらに回答者の92.7%が40代以下の世代であることを考えると、余暇時間が取りにくいこと、あるいは余暇時間を読書以外の目的に使うことが多いのではないか、とも考えられる。また、男女別にみても差がほとんどなく読書冊数の点でも同様の傾向にあると言える。共働き家庭が多く両親とも余暇時間が取りにくいという状況があるのかもしれない。

 〔読書の目的〕
問3 あなたは、どんな目的で本を読みますか。(主なもの2つに○を)
 1.仕事のため
 2.趣味や娯楽のため
 3.教養を高めるため
 4.子供の教育のため
 5.家庭生活に役立てるため
 6.その他

 読書の目的として最も多いのは、全体としては、趣味や娯楽のため(55.6%)であり、次いで仕事のため、家庭生活に役立てるため、子供の教育のため、教養を高めるための順になっている。このうち、趣味や娯楽のためと教養を高めるためについてはほとんど性差は認められないが、仕事のためと家庭生活に役立てるため、子供の教育のためという項目については、性差が比較的はっきりと現われている。趣味や娯楽のために本を読む人が男女とも半数以上いるという点から、読書を自分の楽しみのためのものとして位置づけている人が多いのではないだろうか。また、仕事、家庭生活、子供の教育の各項目の性差については、楽しみのための読書の一方、それぞれの関心事や興味に沿った読書をしている結果だろう。

 〔これから読みたい本〕
問4 あなたは、これからどんな種類の本を読みたいですか。(3つまで○を)
 1.宗教・哲学
 2.歴史・地理
 3.政治・経済
 4.暮らし・健康
 5.教育
 6.科学・技術
 7.産業
 8.文学・小説
 9.芸術
 10.その他

 表6、図4からわかるように、全体として最も多いのは、暮らし・健康の分野であり、特に女性の70.3%の人がこの分野を選択しているのが特徴的である。身近な事柄に関する情報収集の手段として、本は重要な役割を果していると言えよう。また、文学・小説を読みたいという人も44.0%あり高い支持を得ている。

 〔本の入手方法〕
問5 あなたは、読みたい本をどこで手に入れますか。(2つまで○を)
 1.書店
 2.図書館・公民館
 3.職場
 4.家族・友人
 5.家庭文庫
 6.その他(   )

 本の入手は「書店」で、というのが86.9%と最も多く、次いで「図書館・公民館」が10.9%、「職場」が8.4%と続いている。
 問8で「本は買って読みたい」としている人がかなりいることを考え合わせると、書店が町内にないにもかかわらず遠くまで本を買いに行くのは、読みたい本を所有する満足感があるからだと思われる。また、図書館(室)の存在そのものがあまり身近なものにうつっていないのかもしれない。
 男性では、「書店」の次に「家族・友人」が多くなっている。

 〔図書館・図書室の利用の有無〕
問6 あなたは、図書館や公民館の図書室を利用したことがありますか。
 1.ある
 2.ない

 図書館や図書室を利用したことがある人は、全体の約4分の1にとどまっている。男女別にみてみると、女性(28.9%)の方が男性(23.5%)をやや上回っている。

 〔図書館・図書室の利用内容〕
問7 (図書館や公民館の図書室を利用したことがあると答えた人に)どのような利用をされましたか。(該当するものすべてに○を)
 1.本の貸出し・閲覧
 2.調査・研究に関する相談や問いあわせ
 3.読書会に参加
 4.行事や催しに参加
 5.レコード・カセットブックの貸出し
 6.その他(   )

 図書館や図書室の利用については本の貸出し・閲覧が圧倒的に多く、女性では図書館(室)を利用したことのある人全員がそうである。全体でみても約95%の人が貸出し・閲覧をしている。その他いろいろな利用方法があるが、いずれも10%未満になっている。

 〔図書館・図書室を利用しない理由〕
問8 (図書館や公民館の図書室を利用したことがないと答えた人に)どのような理由からですか。(2つまで○を)
 1.図書館が近くにない
 2.利用したい本がない(少ない)
 3.開館時間中に利用できない
 4.設備や快適さに欠ける
 5.本は買って読みたい
 6.その他(   )

 図書館や図書室を利用しない理由に、全体で、1「図書館が近くにない」 2「本は買って読みたい」 3「開館時間中に利用できない」からと答えている。特に1位の「図書館が近くにない」は、約70%の人が理由にあげている。
 上那賀町の場合、宮浜地区の町民サロンと公民館、さらに海川・平谷の両支所に本を備えている。図9は、それぞれの位置を示し、各地点を中心に半径 1.5km の円を描いたものである。一般に、図書館(室)へは距離にして 1.5km 以内にあるのが望ましいとされている。

 〔図書館・図書室への要望〕
問9 図書館や公民館の図書室を利用しやすくするためには、どうすればよいと思いますか。(3つまで○を)
 1.近くに図書館を設ける
 2.利用者の要望に見合った本を置く
 3.休館日や利用時間を工夫する
 4.利用手続きを簡単にする
 5.利用者が相談しやすい専門職員をおく
 6.設備や快適さに配慮する
 7.施設を拡充する
 8.特にない
 9.その他(  )

 近くに図書館を設けてほしいという要望が最も多く、半数以上にのぼっている。次いで利用者に見合った本を置く、休館日や利用時間を工夫する。利用手続きを簡単にする、といった要望が多い。

 〔子供の読書への期待〕.
問10 あなたは、お子さんの読書に何を期待しますか。(2つまで○を)
 1.子供自身が楽しんで読めること
 2.創造力を養い、心を豊かにすること
 3.知識が増し、視野を広げること
 4.文字がよく読め、読解力を増すこと
 5.本をきっかけにして親子の交流をはかること
 6.子供の読書にあまり関心がない
 7.その他(   )

 親が子供の読書に期待することは様々であろうが、子供自身が楽しんで読めること、また、読書によって子供の創造力が養われ、心が豊かになることを期待する、と答えた人がともに半数以上にのぼっている。それに対し、子供の読書にあまり関心がないと答えた人はわずか1.5%にすぎない。

5.まとめ
 今回、座談会及び読書アンケート調査を通じて、上那賀町の読書調査を行った。ここで読書アンケート調査の結果を中心に簡単にまとめてみたい。
 上那賀町の読書傾向としては、読書を趣味や娯楽、あるいは家庭生活に役立てるためのものとして位置付けている人が多い。読書の趣味の方向としては、暮らしや健康、あるいは小説や文学作品、また教育についてなどが多い傾向にあった。さらに読みたい本の入手方法では書店で購入する人が圧倒的に多い。しかし、書店が町内にないことを考え合わせると、せっかく読みたい本があっても誰もがすぐに手に入れることができるという状況は考えにくい。ここで公共の図書館・図書室の果たさなければならない役割は大きいのであるが、これらの公共施設を利用したことがあるかという問いに対して、あると答えたのは約4分の1であり、これらの利用者の約95%が本の貸出しや閲覧のために利用したと答えている。また、利用したことのない人の理由としては約70%の人が、図書館が近くにないことを挙げている。上那賀町が山間部に位置することや、面積が広いことを考えると地理的な条件が、住民と図書室を遠ざけているひとつの要因であると言えよう。アンケートの結果からもこのことが裏付けられており、図書館や公民館の図書室の利用をしやすくするためにはどのようにすればよいかという問いに対し、過半数の人が近くに図書館を設けることを挙げている。また、利用者の要望に見合った本を置くという意見も非常に多い。

6.おわりに
 書店や図書館・図書室が近くにないこと、また、読書できる時間のゆとりがなかなか取りにくいことなどから、本を読みたい気持ちはあっても、時間はないし本も手に入れにくいというのが現状のようだ。
 しかし、上那賀町はかつて読書運動の中心的役割を担っていた町である。座談会では意欲的な意見が出された。今後、再び読書の盛んな町になる可能性がある。
 住民のひとりひとりが自然な形で読書を生活の一部に取り入れるためには、身近に図書館・図書室があること、そこに住民の要求に沿った本があること、そして利用しやすいことが必要である。このような条件を整えていくためには、読書の楽しさをひとりでも多くの住民が味わえるようPRにも努めなければならないだろう。また、学校の図書室を充実させ、子供に読むことの喜びを与えてあげられる環境を整えることも大事である。


徳島県立図書館