阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第35号
上那賀町の学校教育に対する意識調査(U)

教育社会学班

  平木正直・伴恒信・安倍敏夫(文責)

1.調査の目的
 目下のところ、地場産業の飛躍的な発展を期待することが困難な状況のもとで、昭年30年代より続く人口流出の波を食い止める事業は、次の世代を担う子供達の肩に大きくかかっている。
 このような事情から、上那賀町民の教育に向ける視線はおのずと熱いものになっており、剣道・軟式テニス・少年サッカーやバドミントンなど、社会体育も盛んに行われている。
 「上那賀町の学校教育に対する意識調査(I)」では、主に学校のきまりについて保護者の意識を中心として考察を進めた。本調査ではさらに、上那賀の保護者が子供の将来をどう考え、それとの関係で学校教育をどう捉えているかについて分析し考察を加えることにした。
2.調査の概要
1  調査の対象
 調査の対象は、上那賀町と徳島市の小学校高学年の児童及びその保護者、そして1年から6年までの学級担任とした。調査は上那賀町の小学校3校と徳島市内の小学校から3校を選んで協力をお願いした(表−1〜表−3参照)。

2  調査時期
 1988年6月中旬〜下旬

3  調査内容
(1)子供の将来について(保護者、児童)
(2)望ましい時間の活用のしかた(保護者、児童、教師)
(3)共同購入に対する意識(保護者、教師)


3.調査の結果と考察
1 子供の将来について(表−4参照)

 親は、自分の子が将来どんな大人になることを望んでいるのだろうか。そして、子供は自分の将来についてどんな希望を持っているのだろうか。このことについて、本調査では「1.大きな会社の社員になる」「2.幸せな家庭の父親(または母親)になる」「3.社会の役に立つ人になる」「4.自分の子供を自分より立派に育てる」「5.親と一緒に暮らし、面倒を見る」「6.恵まれない人のために働く」「7.余暇を活用楽しい一生を送る」の7項目について、我が子がそうなることを望むかどうか(児童については、そうなりたいと思っているかどうか)を調べた。
 まず、親として最も多くの人が望んでいるのは「幸せな家庭の父親(または母親)になる」ことで、74.0%の人が「望んでいる」または「わりあい望んでいる」と答えている。2番目に多かったのは「社会の役に立つ人になる」ことで、59.3%の人が「望んでいる」または「わりあい望んでいる」と答えている。反対にあまり望んでいないのは「大きな会社員になる」ことで、「望んでいる」または「わりあい望んでいる」と答えた人は僅か13.0%にすぎない。
 このような傾向は、徳島市の保護者の意識とよく似ているが、わが子に対する親の期待度は上那賀の方が強い。特に「親と一緒に暮らし、面倒を見る」ことを望んでいる親は、徳島市では7.9%と非常に少ないのに対し、上那賀では29.7%と4倍近い数になっている(p<0.001)。その理由として、都市部においては子供が将来親元を離れても比較的近い範囲に居住する可能性が高いことが予想されるが、働く場の少ない山間部においては子供が親と離れて生活する可能性が高く、しかもその場合にはかなり遠方にいってしまうということが考えられる。また「自分の子供を自分より立派に育てる」ことを望む親も、徳島市では11.8%と少ないが、上那賀では26.0%と多くなっている(p<0.001)。なお、上那賀と徳島市の保護者の意識の違いについては図−1を参照されたい。

 ところで、子供達は自分の将来についてどのような意識を持っているのだろうか。「なりたい」または「わりあいなりたい」と答えた児童が多かったのは「余暇を活用して楽しい一生を送る」(66.6%)と「幸せな家庭の父親(母親)になる」(63.6%)である。反対に、「なりたい」または「わりあいなりたい」と答えた児童が少なかったのは「大きな会社の社員になる」(13.3%)と「恵まれない人のために働く」(23.3%)である。
 上那賀の児童と徳島市の児童と比較した場合、双方ともよく似た傾向にあるといえるが、全体的にみて上那賀の児童の方が自分の将来についてあまり多くを望んでいないようである。特に「自分の子供を自分より立派に育てたい」と思っている児童は、徳島市では76.3%であるのに対し、上那賀では56.6%と少なく(p<0.001)、また「社会の役に立つ人になりたい」と思っている児童も、徳島市の64.7%に対し、上那賀では40.0%と少ない(p<0.01)。
 このように、保護者同士の比較では上那賀の方が我が子に対する期待が大きいのとは対照的に、子供同士の比較ではむしろ上那賀の方が将来についてそれほど大きな期待を抱いていないことは興味深い。子供の将来に対して親が多くを望んだとしても、それが必ずしも子供自身の願望に直接結び付くとは限らないようである。
2 生活時間の活用について
 児童が生活時間をどのように活用するのが望ましいと思うかは、それぞれの家庭のしつけ方など、教育方針によってまちまちである。したがって、我が子をどんな大人に成長させたいという思いがおのずとここ(時間の活用のしかた)現れると考えられる。
 普段1日のうちで、寝ている時を除いて最も長いのは学校にいる時間である。そのため、児童が家庭で過ごす時間はあまり長いとはいえない。特に上那賀町の場合は校区が広いために、学校と家庭の距離が遠い児童が多いということからなおさらである。学校から家に帰ってからしなければならないことや、やりたいこと(親の立場から、させたいこと)はいろいろあり、1日24時間では足りないというのが多くの家庭の実情ではなかろうか。その少ない時間を、親や教師はどのように活用するのがよいと考えているのだろうか。それを調べるため、本調査では「1.学校の宿題」「2.家の手伝い」「3.友達との遊び」「4.読書」「5.夜更ししない」の5項目を設定し、何を優先させるべきかという意識を探ってみた。なお、児童には、「あなたのおうちの人は、どちらが大事だと言うでしょう。」という問い方で、子供の目からみた親の意識を調べた。その結果、最も優先度の高かったのは「学校の宿題」で、それに続いて「夜更ししない」「家の手伝い」「友達との遊び」となっており、「読書」は最下位であった。(表−5参照)

 上那賀と徳島市の保護者を比較して、意識に大きな違いがみられたのは「学校の宿題」対「友達との遊び」で、徳島市では43.0%の保護者が「学校の宿題」より「友達との遊び」を優先させたいと考えているが、上那賀で「友達との遊び」を優先させたいと考えている保護者は24.1%と少ない(図−2参照)。これは、上那賀では徳島市と違って学習塾があまり開設されておらず、子供の学力保障を学校教育に依存せざるを得ないといった事情が関係しているものと思われる。

 次に、「学校の宿題」対「夜更ししない」では、徳島市の保護者の43.3%が「夜更ししない」ことが大事だと考えているが、上那賀の保護者の場合はわずかに16.7%で、「学校の宿題」が大事だと考えている人(29.6%)の方が多く、勤勉で責任感の強い地域性が保護者の意識に反映されているようである。また、徳島市の場合、児童の50.3%が「親は『学校の宿題』が大事だと言う」と答えているように、保護者と児童の回答に大きな食い違いがみられ(図−3参照)、睡眠時間を確保することの方が学校の宿題をすることより大切だと思いつつも、わが子に対して無意識のうちに「宿題をしなさい」といってしまっている親が多いことを窺わせる。

 「友達との遊び」対「読書」では「読書」が大事だと考える保護者が多い(図−4参照)中でも上那賀の保護者の場合「友達との遊び」を重要視する人は7.4%と極端に少ない。これは、「読書」を勉強の一部と考え、「遊び」よりも「勉強」が大事だと捉えているがらではないだろうか。

 なお、教師の意識を調べたところ、各質問項目とも上那賀と徳島市の間にそれほど大きな差はみられなかった。本県の場合、教員の配置について広域交流等による人事が行われており、おそらくそれが原因でこのような結果になったものと思われる。
3 共同購入についての意識
 小学校では、児童が学習に使う学用品を購入する際に、保護者の手数を省いたり少しでも安く購入できるようにとの配慮から、学校主導による共同購入が広く行われている。共同購入の対象になる学用品としては一般的に次のようなものが挙げられる。絵の具、習字道具、笛や鍵盤ハーモニカなどの楽器、水着、算盤、裁縫道具等々である。共同購入することにより「児童が使用するのに適した品を迷うことなく入手することができる。」とか「指導しやすく指導の効果も上がる」といった肯定的な声が多く聞かれる反面、一部には「必要のない物まで買ってしまうから無駄が生じる」とか「普通に買った方が安く買える」など、共同購入に対する否定的な意見も少ないながら聞かれる。
 そこで、子供の学用品を実際に買う立場にある保護者はこの問題をどう捉えているのか、また、共同購入を進める立場にある教師はどう考えているのかを探ってみた。
 まず、共同購入することによって「安く買える」かどうかについてみると(図−5参照)教師の70.7%は「安く買える」と思っているが、保護者で「安く買える」と思っているのは56.3%と以外に少ない。特に都市部においてはスーパーマーケット等、入手経路が豊富にあるだけに一概に安く買えるとはいえないので、学校側も保護者の意見を積極的に取り入れる必要があろう。

 また、「指導する上で、都合がいい」かどうかについてみていくと(図−5参照)、教師の93.8%は共同購入のメリットを認めており、保護者の77.1%を大きく上回っている。これは、共同購入が保護者の想像以上に指導の効率化に寄与しているということである。
 次に、「必要でないのに買う児童がでる」かどうかについてはどのように考えているのだろうか(図−7参照)。不必要なのに買う児童がでる恐れがあると危倶する教師は38.4%で、そのような危惧を抱いていない教師(44.6%)よりも少ない。しかし、保護者の場合は「必要でないのに買う児童がでる」と心配する者(46.2%)はそうでない者(22.8%)を上回っている。おそらく、算盤や裁縫道具のように、使用頻度の少ないものは兄弟・姉妹で共用できるにもかかわらず、子供が共用を嫌がるといったケースを親たちは体験しているからこのような結果になったのであろう。したがって、共同購入が本当に保護者の経済的負担を軽減することになるのかどうかを改めて検討する必要があると思われる。

 最後に、共同購入に対してズバリ「賛成できる」かどうかについて調べた(図−8参照)その結果、保護者の70.4%、教師の80.0%が「賛成できる」または「わりと賛成できる」としていることがわかった。そして、地域別にみると、徳島市の保護者よりも上那賀の保護者の方が共同購入を支持しており、共同購入のメリットがより大きいことがこの結果にあらわれているものと思われる。
4.まとめ
 上那賀の保護者の学校教育に対する意識を徳島市の保護者の意識と比較しながら検討してきたが、そのまとめを以下に述べる。
1 上那賀の保護者は子供の将来について多くの希望を抱き、且つ子供に対する期待度が高い。特に「幸せな家庭の父親(母親)になること」や「余暇を活用して楽しい一生を送る」ことを望む人が多いことなどから、子供の幸せを願う気持ちがことのほか強いことがわかる。
2 上那賀の保護者は、我が子が将来子供を持ったとき、さらに立派な子供を育て上げることができるようになることを強く願っていることや、生活時間の活用のしかたについても友達との遊びより読書時間を優先させたいと考える人が多くいることなどから、社会的上昇志向が強いことが窺われる。
3 上那賀の保護者で、学校の宿題を大事だと思う人や学校がすすめている共同購入に賛同する人が多いことや、校内規則の必要性を認める人の割合が高いことは、上那賀の保護者の学校に対する信頼度が高いことを示している。学習塾がほとんど存在しない本町においては、学校に対する信頼と期待は都市部の地域にはみられないものといえよう。


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