阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第35号
上那賀町の学校教育に対する意識調査(T)

教育社会学班

   平木正直・伴恒信・西村敏雄(文責)

1.調査の概要
 上那賀町は徳島県の南西部に位置しており、南に海部山脈、北に剣山山脈の一分脈が東西に連なり、そのほぼ中央を西から東にかけて那賀川が貫流している。地勢は急峻で山岳が重なり、西に高く東に低く傾斜している。那賀川の本流及びその支流の川岸にわずかな平地があるにすぎない典型的な山間地域である。
 上那賀町は昭和31年、宮浜村、平谷村が合併して上那賀村となり、よく昭和22年1月1日に、上木頭村の海川地区を編入合併すると同時に町制を発足させ現在に至っている。人口は発足時には七千人余りであったが、昭和61年4月現在では、三千人余りとなり、過疎化が進んでいる。この原因は働き場所を求めて若者を中心に市街地へ転出する人が多いためであるが、そこで本町では産業振興に重点をおいて様々な行政施策をおこなっている。
その代表的な例として地域の特徴を生かした第一次産業の振興に力をいれ、特に林業はその中心をなしている。しかし最近の社会情勢の変化にともない木材価格は著しく不安定であり、そのため、ゆずや緑茶の産地化を積極的に進めている。そして農業、林業基盤を充実させるため、農道や林道の整備を町政の主要な1つとしているのである。(町勢要覧参照)この様な教育環境にある上那賀町には学校教育施設が、幼稚園が3つ、小学校が3つ、中学校が2つあり、園児・児童・生徒数あわせて約410名が在園・在学しているのである。(昭和61年現在)これら子どもの数もだんだんに減少傾向にあり昭和65年には約250名となることが予想されている。
 本調査はこの様な教育環境にある上那賀町の教師、児童、保護者の教育関係者や、住民が学校のきまりやしつけについてのどの様な意識を持っているか市街地のそれと比較することによって明らかにすることにある。
 そして具体的な分析項目は、学校のきまりについての実態の意識、学校のきまりに対する理解とし、それぞれの項目ごとに分析することとした。
 市街地の保護者と比較するかたちで調査を実施したのは、保護者の学校教育に対する教育要求が地域によって違っている事を明らかにした先行研究があるが、具体的に学校教育のきまりやしつけについて保護者の意識を調査したものは少ない。
 徳島県の市街地である徳島市と過疎地である上那賀町の保護者の意識をそれぞれ比較することで上那賀町の保護者の学校に対する意識を明らかにしたい。
 調査対象者は小学校高学年の保護者とした。対象地域は徳島市の小学校三校、上那賀町の小学校三校で合計六校の保護者の意識調査を実施した。上那賀町の対象校は全数調査である。徳島市は市街地、山村地の区分に分ければ、市街地三校、山村地三校となる。
 調査方法は、各学校の児童を通じて保護者に調査票をわたし、各学校で回収をお願いした。調査対象数は次の通りである。

2.意識調査の結果及び考察
(1)生活指導としつけについての保護者の意識
 表1の項目に示された様な能力の育成のための生活指導は学校の指導、家庭のしつけのどちらが重要か、あるいはどちらも同じ様に重要かを聞いてみた。

 上那賀町の保護者は徳島市の保護者と比べると「家庭」でしつけると答えた人の割合は少ない。そして学校も家庭も「どちらも同じくらい」と答えた人が徳島市の保護者と比べると多くなってきているのである。「挨拶が出来る」では徳島市の保護者の60%が「家庭」
の教育を重視しているのに対して上那賀町の保護者は37%にすぎないし、「どちらも同じくらい」と答えたのは徳島市が34%に対し上那賀町は54%となっているのである。他の項目でも一部を除いては、ほぼ同じ傾向にあるが「交通ルールを守って自転車に乗ることが出来る」などは、最もその傾向が出ている。すなわち徳島市の保護者の44%が「家庭」教育を評価しているのに対して上那賀町の保護者は18%しかあげておらず、逆に学校教育に対して31%(徳島市は15%)、学校も家庭も「どちらも同じくらい」評価しているものが51%(徳島市は41%)となっているのである。

(2)きまりの必要性についての保護者の意識
 次に保護者にきまりの必要性について表―2の項目で聞いてみた。

 いずれの項目においても上の様な「きまり」が「必要」とする保護者は、徳島市より上那賀町の保護者が多いのである。
 「体操服、上くつの色や形をそろえる」では徳島市の保護者は、61%余りが「必要」、24%が「必要でない」と答えているのに対して上那賀町の保護者は、82%が「必要」、12%が「必要でない」と答えている。
 以下「手下げ袋ではなくランドセルを使う」においては、徳島市の保護者の51%が「必要」、22%が「必要でない」、上那賀町では「必要」が64%、「必要でない」が14%となっている。「窓の開け方を一定にする」では徳島市では、「必要」が12%、「必要でない」が51%、上那賀町がそれぞれ28%、36%、「朝は決まった班で登校する」では徳島市は8%と72%に対して上那賀町では、33%と37%、「校内放送が流れたら気をつけの姿勢で聞く」では徳島市が22%に55%、上那賀町が25%と51%、「給食中はだまって食べる」では徳島市が18%、54%、上那賀町が32%と46%となっているのである。
 この中で特に「朝は決まった班で登校する」の項目では上那賀町の保護者は、徳島市の保護者と比べて「必要」の割合を高く上げているが、これは上那賀町はスクールバスなどでのバス通学が多いためと考えられる。

(3)教師、児童、保護者の三者からみた学校のきまり
 次にこれらの校内規則に対して教師、児童、保護者の3つの立場からそれぞれの意識はどの様になっているのかを「体操服の規格」「窓をきまった方向に開ける」の項目でみてみる。なお「体操服の規格」は「家庭と日常的に関わりのあるきまり」、「窓をきまった方向に開ける」は「形式的なきまり」である。以下図1、図2でそれをあらわすが、これらの数字は教師ついては「効果がある」、児童はこのきまりが大事であると「思う」、保護者はきまりが「必要である」の回答を示している。

 図1よりわかることは上那賀町の教師、児童、保護者共に「体操服の規格」をつくることに徳島市のそれらと比較して肯定的な回答を出していることである。徳島市の教師は58%が「効果がある」と答えているのに対して上那賀町の教師は72%、児童では徳島市が45%が「思う」と答えたのに対し上那賀町52%、保護者の場合は徳島市が61%、上那賀町は82%となっている。
 図2から徳島市と上那賀町の教師と児童は同じ傾向を示していることがわかる。つまり徳島市の教師と児童は上那賀町の教師や児童と比べて高い割合で「窓をきまった方向に開ける」という「きまり」に対して「効果がある」、「大事だと思う」と答えているのである。しかし保護者は逆の傾向を示しており、上那賀町の保護者は徳島市の保護者より上述のきまりに対して「必要」と答えた割合が高いのである。


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