阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第35号
上那賀町の鳥類

鳥類班  増谷正幸・市原眞一・郡和治・

      曽良寛武・冨峯康代・西義一・

      西岡桂子・塗本香・長谷川清・

           松本久市・八巻吉子

1.はじめに
 上那賀町は徳島県の南部に位置する。山地が大部分を占め、北部の最高点は1433.5m(青の塔)、南部の最高点は1148.3m(神戸丸)で、それらから東へ高度を減じながら山地が続き、そこに源を発するいくつもの谷川が集まりながら、町の北部を西から東へ流れる那賀川に合流している。最低点は那賀川河床で約 100m。降水量は本県で最も多い方である。植生帯から見ると暖温帯から冷温帯にわたり、本来の自然が残っていれば多様な森林植生が見られるはずである。しかし本町の全林野中スギ、ヒノキ植林の割合が約90%にも達し、自然植生は二次林などの半自然植生を含めても非常に少ない。


 日本野鳥の会・徳島県支部は鳥類班として総合学術調査に参加し、上那賀町の野生鳥類を調査した。一般に野生鳥類は、季節、高度、植生によって種類や個体数、生息状況が変化するため、出来るだけ均一な自然環境ごとに1年間にわたる継続調査が必要である。
1988年5月〜1989年1月に、山地と那賀川流域を中心に現地調査を行なった。

2.調査目的と調査方法
 徳島県の植生帯は、海抜高度約 1000m までが暖温帯、1000m 以上が冷温帯である。潜在自然植生は、暖温帯は基本的にはシイ、カシ類を中心とする常緑広葉樹林であるが、高度が上がるにつれてモミなど針葉樹を混じえるようになり、落葉広葉樹も多くなる。谷沿いは渓谷林としてのイロハモミジ―ケヤキ群集となり落葉樹が優占する。冷温帯はブナなど落葉樹中心で、尾根筋はツガなど針葉樹が多くなる。山地の森林における鳥類相を調べる場合、これら植生帯ごとに調査する必要がある。調査方法は、日時に制約がある場合はライン・センサス法が適当である。全長1〜3km の調査コースを設け時速2km 程度で歩行し、調査者から半径 25m 以内で姿または鳴き声で確認した鳥の種類と個体数をすべて記録していく。出来れば歩き易い道が望ましい。回数は多いほど良いが、少なくとも春夏秋冬各1回ずつ行なえば鳥類相の概略がわかる。
 しかし上那賀町の場合、自然植生は断片的にしか残っていないため、植生帯別に調査コースを設定するのは絶望的であった。そこで、本町の森林のほとんどを占めるスギ、ヒノキ植林、伐採跡群落、造林地と二次林も含む自然林に近い林について合計5か所ライン・センサスコースを設定し鳥類相の現況を調べた(図1)。1年間にわたる調査は残念ながら行なえなかった。調査地と優占的な植生及びコース全長は次の通りである。
 1 霧越峠西方〜鰻轟山(モミ―シキミ群集に分類される自然林と二次林,約1.6km)
 2 姉谷〜吉野丸(伐採跡の若い群落,約2.0km)
 3 倉ケ谷造林地(スギ、ヒノキ林伐採跡の再造林地,約1.0km)
 4 松久保(スギ、ヒノキ植林,約2.2km)
 5 十二弟子峠周辺(スギ、ヒノキ植林,約1.5km)

3.調査結果
(1)ライン・センサスによる調査
 各調査コース別に、確認された鳥類の種類と個体数を表1〜5にまとめた。比較し易くするため、確認個体数は全長1km あたりに換算してある。
 1 霧越峠西方〜鰻轟山


 国土地理院発行地形図に示された‘霧越峠’の西約 850m にある石碑の裏を起点とし、ほぼ尾根沿いに西方へ鰻轟山山頂まで調査した。尾根の南側は海南町になる。海抜高度約 750〜1046m。広葉樹にモミ、ツガなど針葉樹が混じる林で、低い所はカシ類など常緑広葉樹が多いが、高度が上がるにつれてヒメシャラ、コハウチワカエデなど落葉広葉樹が多くなる。低木層はシキミ、アセビ、林床はミヤマシキミなど常緑広葉樹が多く、ササにおおわれている所もある。針葉樹大木の古い切株が多くあり、落葉樹の低木林があるなど、完全な自然植生とはいえないが、ほぼ自然林とみてさしつかえないと思われる。
 生息鳥類はほぼ森林性のもので占められ、暖温帯性と冷温帯性のものが混在しているのが注目される。暖温帯性鳥類の代表種はメジロ、ヒヨドリで、ヤマガラもその傾向があるとされる。特に目立つのはヤマガラである。本種は大木・古木にできた樹洞やすきまに営巣し、昆虫など小動物を捕食する。堅い木の実の殻を巧みに割って中の実もよく食べる。
メジロは常緑広葉樹との結びつきが強い。ヒヨドリは繁殖期には確認されず秋冬期にみられたのは興味深い。冷温帯性鳥類の代表種はオオアカゲラ、コガラ、ゴジョウカラである。
繁殖期の調査回数が少なかったため、繁殖しているかどうか明らかにできなかった。ヤマドリ、アオバト、アオゲラ、コゲラ、ミソサザイ、トラツグミ、クロツグミ、ヤブサメ、キビタキ、オオルリ、エナガ、ヒガラ、シジュウカラ、カケスは暖温帯、冷温帯どちらの林にも生息する。このうち、アオバト、キビタキは繁殖期は冷温帯性落葉広葉樹林に多い。トラツグミ、クロツグミは徳島県では数が少ない。ヒガラはモミ、ツガなど針葉樹の多い林を好む。
 一般に、山地の高度が上がるにつれて冬の気候が厳しくなるので、鳥類の越冬には適していない。しかし、ここでは冬期にも多くの種類が生息する。留鳥性のものの他、冬鳥としてルリビタキ、シロハラ、ツグミ、キクイタダキ、クロジ、アトリ、ウソが渡来する。冷温帯性鳥類の冬期の漂行地としても重要である。
 自然林には大木・古木・枯木が多く、それらにできた樹洞やすき間、裂け目に営巣する鳥も多い。キビタキ、ヒガラ、ヤマガラ、シジュウカラなどがそれにあたる。
 この調査コースの自然環境によく対応した鳥類相がみられる。


 2 姉谷〜吉野丸
 海川谷西俣上流の姉谷との出合を起点とし、姉谷沿いに登り海抜 650m 付近から尾根伝いに登って吉野丸山頂西方約 300m の稜線手前まで調査した。海抜高度約 530〜1070m。姉谷沿いは自然林伐採後何年か経過した落葉樹主体の若い灌木林〜ヤブ状地である。約 700〜900m 間の調査コース西側にはわずかに自然林の残る一角がある。ヒメシャラ、コハウチワカエデ、リョウブ、クマノミズキなどの落葉広葉樹、カシ類などの常緑広葉樹にモミ、ツガなど針葉樹が混じり、低木層・林床はソヨゴ、ヒサカキ、シャクナゲ、アセビ、ミヤマシキミが茂る(モミ―シキミ群集)。そこから上は自然林の伐採跡である。伐倒された樹木が放置されていた。
 生息鳥類は少ない。伐採直後の所ではほとんど見られなかった。最も優占する群落である若い灌木林〜ヤブ状地では、繁殖期に確認されたのは林縁(えん)性のウグイス、ホオジロなどごくわずかであった。冬期も少なかったが、カヤクグリ、アオジ、ベニマシコなどこのような環境を好む種類が見られた。森林性鳥類は餌探しや移動の途中立ち寄るだけである。ただ、7月4日にはアオバトが多く記録され、キイチゴ類の実のなったヤブにいた。本種は木の実(堅果、漿果)を好んで食べる。そのため、生活圏の中に自然林と共に、天然更新の途上にある若い群落が存在することもある程度は必要でないかと思われる。姉谷沿いにはヤマセミ、キセキレイ、カワガラスなど渓流性のものが生息する。森林性鳥類は、この調査コースでわずかに残る自然林内で主として見られた。特にコサメビタキは、今回の上那賀町調査では繁殖期にはここだけでしか確認されなかった。しかし、この林も12月12日に行ってみると伐採されつつあった。


 3 倉ケ谷造林地
 スギ、ヒノキ林を伐採し再造林した中の作業道沿いに調査した。海抜高度約 600〜700m。
樹高約3mまでのスギ、ヒノキ苗の植わった若い植林地である。
 生息鳥類は極めて少ない。生息出来るのはキジバト、ウグイス、ホオジロといった林縁(えん)性のものくらいで、それも個体数は非常に少ない。

 4 松久保
 大殿地区の那賀川に架かる橋の北詰めを起点とし、単車道を北西へ上り松久保集落の送電線鉄塔下まで調査した。海抜高度約 250〜480m。ほぼスギ、ヒノキの植林で、間伐・枝打ちの遅れた若い林が多い。所々広葉樹の林がわずかに残る。
 生息鳥類は少なく、鳥類相は貧弱である。鰻轟山より冬期は温暖であるにもかかわらず、1月調査で確認された種類・数とも非常に少なく、越冬地としても適していない。
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 5 十二弟子峠周辺
 十二弟子峠旧道の成瀬側、林道内山線との分岐を起点とし、十二弟子峠から海川側の人家の手前までを調査した。海抜高度約380〜500m。ほぼスギ、ヒノキの植林であるが、大木が多い壮齢林で、広葉樹も少し混じり低木層に広葉樹がよく茂る所もある。所々広葉樹の林がわずかに残る。
 生息種は森林性のものが多いが、林縁性のものもかなり見られた。森林性の種類・数とも鰻轟山より少ないが、松久保より多い。


(2)鰻轟山西方、吉野丸西方山地
 鰻轟山山頂(海抜1046m)からさらに西方と、吉野丸(1116m)の西方を尾根伝いにライン・センサス終了後時間の許す限り調査し、姿又は鳴声で確認した種類を記録した(表6、7参照)。植生は、暖温帯上部のモミ―シキミ群集(ゴガクウツギ―モミ群集)に分類される針広混交林と冷温帯落葉広葉樹林の推移帯に当たる。前者は一部にスギ、ヒノキ植林があるものの、ほぼこの自然林と二次林である。後者は稜線から南の海南町にかけては自然林〜二次林がかなり残されているが、上那賀町側はほとんど伐採されてしまっていた。したがって確認された鳥はほとんどが稜線から海南町側にかけてである。
 鰻轟山西方では調査回数が少なかった割には種類数が多い。アカショウビンのように渓流沿いの深い林を好む鳥も記録された。尾根から谷にかけて自然林がまとまって保存されているためであろう。低山の常緑広葉樹林に多いメジロが 1000m 前後まで見られるのも興味深い。吉野丸西方では冷温帯性鳥類(オオアカゲラ、コガラ、ゴジュウカラ)も確認された。どちらの地域でも12月にはほとんど見られなかった。調査時間と回数が限られていたためもあろうが、高度が高く稜線沿いの山地は、冬期の気候・気象が厳しいため生息条件は悪い。そのため、より高度の低い林へ漂行して越冬するのである。すなわち、これらの鳥によっては繁殖期に生活する林の下方にも自然林がなければいけないのである。


(3)那賀川流域
 那賀川沿いはスギ、ヒノキ植林が多いが、所々シイ、カシ類など常緑広葉樹が茂る所もある。ここにはオシドリが生息する。主として冬鳥として渡来し、長安口ダム上流部の流れのゆるやかな水面や岸辺の木の枝などにとまっているのが多数観察された。秋冬期はシイの実やドングリ類が主食である。繁殖期にも那賀川と支流の谷川で少数観察されているので繁殖している可能性がある。大木・古木にできた樹洞に営巣する。巣箱を利用することもある。本種の生活には、河川や谷川・渓流沿いにシイ、カシなど常緑広葉樹のよく茂った自然林が存在することが不可欠である。
 その他、カイツブリ、ゴイサギ、ササゴイ、アオサギ、マガモ、トモエガモ、シマアジ、イソシギ、ヤマセミ、カワセミなどが記録された。
(4)特記すべき種について
1  ブッポウソウ
 夏鳥として渡来し繁殖するが、徳島県での生息地は限られている。大木のある林と周辺にすむ。見張らしのよい所にとまっていて、近くを飛ぶセミ、コガネムシなど昆虫に飛びかかって捕食する。鳴き声は‘ブッポーソー’ではなく‘ゲゲッ’である。大木の樹洞に営巣するが、木の電信柱に嘴で穴を掘ったり、キツツキ類の古巣、橋や建造物のすき間、巣箱も利用することがある。上那賀町では、春森地区那賀川沿いのチップ工場屋根裏での営巣が知られていた。今回、出合地区の那賀川沿いでも確認された。
2  ヤイロチョウ
 夏鳥として本州、四国、九州に渡来し繁殖するが、分布は限られている。南方系の鳥である。本県でも記録は非常に少なく、‘謎の鳥’、‘幻の鳥’と言われている。高知県では何か所か生息・繁殖地が知られている。山地のよく茂った深い林にすみ、主に地上で生活しミミズなどを捕食する。今回の調査で、6月に鰻轟山北方の海川谷東俣上流部のモミ―シキミ(コガクウツギ―モミ)群集の自然林でさえずり声が確認された。生息地の自然環境も含めたさらに詳しい調査が望まれる。その結果によっては、さらに別の生息地を見つけるための貴重な資料が得られる可能性もある。しかし、周辺の海南町側や吉野丸〜神戸丸では、生息の可能性があったかも知れない同じような林がすでに大規模に伐採されてしまった。本種を本当の‘幻の鳥’にしないためにも自然林の保護が望まれる。
3 キバシリ
 ほぼ全国的に分布するが数は少ない。山地の針葉樹林に生息し、針葉樹の幹の根元かららせん状に回りながら上がって行き、また次の木の根元に飛び移る動作を繰り返しながら餌の昆虫など小動物を探す。枯れ木、朽木の樹洞や裂け目に営巣する。徳島県での記録は非常に少ない。生態もよくわかっていない。しかし、今回の調査で5月30日に霧越峠東方海南町との境のスギ植林で一群が観察され、幼鳥に給餌しているのが確認された。6月13日には鰻轟山西方海南町との境のスギ、ヒノキ植林で2羽見られた。秋冬期には、松久保、十二弟子峠のスギ、ヒノキ林でエナガ、シジュウカラ類、キクイタダキらと混群を形成していた。本種は県内ではスギ、ヒノキ植林で見られることが多い。しかし営巣場所は自然林の方が得やすいはずである。本来の生息地はどのような植生の林であるのか。詳しく調査すれば各地で確認される可能性があり、生態の解明に期待が持たれる。
4.まとめと提言
(1)まとめ
 上那賀町の山地の鳥類の生息状況を主として調査した。しかし、スギ、ヒノキ植林の割合が90%にも達し、自然林は断片的にしか残っていないため、ライン・センサス調査コースを選定するのは困難であった。結局、暖温帯下部と冷温帯では断念せざるを得ず、部分的な定点調査を行なうにとどまった。センサスを行なったのは、暖温帯上部のモミ―シキミ(コガクウツギ―モミ)群集の針広混交林、自然林伐採跡の若い群落、スギ・ヒノキ植林伐採跡の再造林地、スギ・ヒノキ植林(2か所)、計5か所である。それらの調査結果をまとめてみるとおよそ以下のようになる。
 暖温帯山地で生息可能な種類は、森林性留鳥がヤマドリ、アオバト、アオゲラ、コゲラ、ヒヨドリ、ミソサザイ、トラツグミ、エナガ、ヒガラ、ヤマガラ、シジュウカラ、キバシリ、メジロ、イカル、カケスなど。森林性夏鳥がサシバ、ジュウイチ、ツツドリ、ホトトギス、アカショウビン、ヤイロチョウ、クロツグミ、ヤブサメ、センダイムシクイ、キビタキ、オオルリ、コサメビタキなど。森林性冬鳥がヤマシギ、ルリビタキ、シロハラ、キクイタダキ、クロジ、マヒワ、ウソなどである。高度が上がるにつれてヒヨドリ、イカルなどは少なくなる。逆にアオバト、トラツグミ、ヒガラ、ジュウイチ、ツツドリ、クロツグミ、キビタキ、コサメビタキなどは確認頻度が高くなる傾向がある。これは、種本来の特徴によるものの他、現在の植生や開発のされ具合など人間活動の影響もかなりあると思われる。暖温帯上部のモミ―シキミ群集の自然林は、現在の上那賀町では最も貴重な森林性鳥類の生息地である。特にヤイロチョウの確認は特筆すべきである。
 スギ、ヒノキ植林では種類・数とも少ない。しかし、自然林や広葉樹二次林の残存林分、日当たりのよいやぶ、灌木林、草地、農耕地などが周辺にあるか、或いは年月を重ねて壮齢大木林になり、広葉樹が混在したり低木層が発達して安定してくると鳥類相はある程度多様になる。
 森林が伐採された直後は鳥類はまったくすめなくなる。その後放置すると、草本類が繁茂し、次いで先駆的な陽地性木本が進出して灌木林〜ヤブ状地になる。すると、このような環境を好む林縁(えん)性のコジュケイ、キジバト、モズ、ウグイス、ホオジロなどがすむようになり、冬鳥〜旅鳥としてカヤクグリ、ジョウビタキ、ミヤマホオジロ、アオジ、ベニマシコなどが渡来するようになる。このような植物群落は餌となる木の実(特に漿果)や昆虫・クモなど小動物が多いので森林性鳥類も餌探しに訪れ、冬期の漂行地の一部として利用するようになる。再生力の強い樹木は切株から萌芽し、次弟に大きくなって林らしくなると、カワラヒワや疎林性のカッコウ、ヨタカなどの夏鳥、ツグミ、アトリ、マヒワ、エゾビタキなどの冬〜旅鳥も渡来する。さらに天然更新が進んで二次林から目然林へと回復するにつれて繁殖できる森林性鳥類が増える。その進み方は、周囲にどれだけ自然林が残されているかにも左右される。いわゆる普通種はほぼ回復すると思われる。しかし、元々数が少なく特殊な環境を好む種類も生息できるようになるかどうかはわからない。一旦伐採された自然林がまた元の林に回復するには数十〜数百年もかかり、永久に失われてしまう生物種も多々あると思われる。鳥類についてもまったく同じことが言える。
 伐採跡にスギ、ヒノキを植林すると事情はまったく違ってくる。苗が小さいうちは下草刈りが行なわれるので林縁(えん)性鳥類もすみづらい。苗が成長し林らしくなっても林の構造が単調で腐植層の発達が悪いので鳥類も含めた生物相は貧弱である。また、間伐・枝打ちなど手入れを怠って林床に陽光がまったく当たらないような林も生息には適していない。
 冷温帯まで高度が上がると、ヒヨドリ、メジロ、イカルなどはほぼ姿を消し、代わってオオアカゲラ、コガラ、ゴジュウカラなどが出現する。生息種は多様である。冬期は生息条件が悪くなるので、留鳥性のものでも低山へ移動することがある。上那賀町では冷温帯性自然林はほとんど残っていない。最高点(青の塔;1433.5m)周辺は若い二次林で、神戸丸(1148.3m)〜吉野丸(1116.3m)方面は大規模に伐採された。
 (2)提言
1  鰻轟山周辺の自然林は尾根から谷底まで現状のまま保護していただきたい。
2  那賀川流域の広葉樹林もこれ以上減らすことなく保護していただきたい。
3  長期的な視野に立てば、スギ、ヒノキだけでなくいろいろな樹木が生えている方が、鳥類など野生動物のためだけでなく、人間の精神・文化面も含めた本当に豊かな安定した生活のためにも必要であると思われる。手入れの行き届かない人工林は、場合によっては自然林に復元させることを考えてみてはいかがなものであろうか。
5.上那賀町鳥類目録
 1988年5月〜1989年2月の現地調査で記録された種名を掲げる。上那賀町は広いので、全域の1年間を通しての調査は行なえなかった。平野部の調査も十分でなかった。さらに詳しく調べれば記録種が増えると思われる。重要な種類、行動については、観察年月日、場所、海抜高度、個体数、行動、観察者名を入れた。また、繁殖が確実に又はほぼ確認されたか、或いは確認はされなかったが県内の他の市町村における調査資料の蓄積や、今回の現地調査での徴候・印象などから本町での繁殖が確実と思われるものには◎印、繁殖可能性があるものには○印を付けた。
    カイツブリ目 PODICIPEDIFORMES
 カイツブリ科 PODICIPITIDAE
1.カイツブリ Podiceps ruficollis ○
 1988.7.3 春森 220m 1 那賀川長安口ダム貯水池で〈西,松本〉
    コウノトリ目 CICONIIFORMES
 サギ科 ARDEIDAE
2.ゴイサギ Nycticorax nycticorax
 1988.7.31 上海川 350m 2 海川谷川で〈西,松本,塗本,他〉
3.ササゴイ Butorides striatus
4.アオサギ Ardea cinerea
 1988.7.11 那賀川長安口ダム貯水池 220m 2 水面の浮遊物にとまる〈増谷〉
    ガンカモ目 ANSERIFORMES
 ガンカモ科 ANATIDAE
5.オシドリ Aix galericulata ○
 1988.7.3 海川 1♀ 〈西,松本〉
 1988.7.31 徳ケ谷 3♂ 〈西,松本〉
 1988.11.13 長安52,徳ケ谷口8,大戸39,出合80±,下司23,合計202±
いずれも長安口ダム貯水池で 220m〈西,松本〉
6.マガモ Anas platyrhynchos
 1988.11.3 下司 220m 8 那賀川長安口ダム貯水池で〈西,松本〉
7.トモエガモ Anas formosa
 1989.2.12 徳ケ谷口 220m 16 長安口ダム貯水池で〈西,松本〉
8.シマアジ Anas querquedula
 1988.11.3 徳ケ谷口 220m 3 長安口ダム貯水池で〈西,松本〉
    ワシタカ目 FALCONIFORMES
 ワシタカ科 ACCIPITRIDAE
9.トビ Milvus migrans ◎
 1988.5.5 姉谷上流(650m)〜吉野丸(1116m) 1 伐採跡上空〈増谷〉
10.サシバ Butastur indicus ◎
 1988.7.11 オソ谷上流部山林 650m 1 鳴き声〈増谷,市原〉
11.クマタカ Spizaetus nipalensis ○
 1988.5.5 姉谷沿い 550m 1 飛翔〈増谷,市原〉
 1988.11.21 ゴケンゴヤ谷 610m 1 小さめのイノシシを襲う〈増谷,市原〉
    キジ目 GALLIFORMES
 キジ科 PHASIANIDAE
12.コジュケイ Bambusicola thoracica ◎
 1988.6.13 鰻轟山西方 910m 4+ヒナ・1成鳥 林縁(えん)部を四方八方へ走ったり飛んだりして散りヤブヘ隠れる〈増谷,市原〉
13.ヤマドリ Phasianus soemmerringii ◎
 1988.6.18 白石トンネル旧道 300m 3ヒナ・1♀・1♂ 道を横切る〈増谷〉
14.キジ Phasianus colchicus ◎
    チドリ目 CHARADRIIFORMES
 シギ科 SCOLOPACIDAE
15.イソシギ Tringa hypoleucos
 1988.4.10 拝宮口 240m 1 〈西,松本,塗本,長谷川〉
16.ヤマシギ Scolopax rusticola
    ハト目 COLUMBIFORMES
 ハト科 COLUMBIDAE
17.キジバト Streptopelia orientalis ◎
18.アオバト Sphenurus sieboldii ◎
 1988.7.4 姉谷 670m 1幼鳥・1成鳥 広葉樹の枝にとまる〈増谷,市原〉
 1988.7.4 吉野丸北西方 800m 2 キイチゴの実になるヤブで〈増谷,市原〉
   ホトトギス目 CUCULIFORMES
  ホトトギス科 CUCULIDAE
19.ジュウイチ Cuculus fugax ○
 1988.6.13 鰻轟山西方 920m 1 さえずり声〈増谷,市原〉
20.カッコウ Cuculus canorus ○
 1988.6.13 鰻轟山西方 950m 1 さえずり声〈増谷,市原〉
21.ツツドリ Cuculus saturatus ○
 1988.6.13 霧越峠西方 750m 1 さえずり声
22.ホトトギス Cuculus poliocephalus ◎
   フクロウ目 STRIGIFORMES
  フクロウ科 STRIGIDAE
23.アオバズク Ninox scutulata ○
 1988.5.3 海川 350m 1 さえずり声〈西,松本〉
24.フクロウ Strix uralensis ○
    ヨタカ目 CAPRIMULGIFORMES
 ヨタカ科 CAPRIMULGIDAE
25.ヨタカ Caprimulgus indicus ◎
 1988.6.26 轟 550m 1巣・1卵・1ヒナ・1♀ 6月28日に残りの1卵フ化〈西,松本,塗本,長谷川〉
 1988.7.25 六丁 450m 1 林のヘリの地上から舞上がりスギ枝にとまる〈増谷〉
    アマツバメ目  APODIFORMES
 アマツバメ科  APODIDAE
26.アマツバメ Apus pacificus
   ブッポウソウ目 CORACIIFORMES
  カワセミ科 ALCEDINIDAE
27.ヤマセミ Ceryle lugubris ◎
28.アカショウビン Halcyon coromanda ◎
 1988.5.23 古屋川西 400m 1 さえずり声〈増谷,市原〉
 1988.6.13 鰻轟山西方 900m 1 針広混交自然林でさえずり声〈増谷,市原〉
 1988.6.18 成瀬 420m 2 十二弟子峠東の谷沿いのスギ林で〈増谷,市原〉
 1988.7.3 海川谷東俣 1〈西,松本〉
29.カワセミ Alced atthis ◎
   ブッポウソウ科 CORACIIDAE
30.ブッポウソウ Eurystomus orientalis ◎
 1988.5.24及び7.3 出合 230m 1♀・1♂ 那賀川沿い〈西,松本〉
   キツツキ目 PICIFORMES
  キツツキ科 PICIDAE
31.アオゲラ Picus awokera ◎
32.オオアカゲラ Dendrocopos leucotos ○
 1988.5.5 吉野丸西方 1030m 1 尾根のモミ枯木にとまる〈増谷,市原〉
 1988.12.27 鰻轟山北東方 890m 1 広葉樹の根元をしきりにつつく〈増谷〉
33.コゲラ Dendrocopos kizuki ◎
   スズメ目 PASSERIFORMES
  ヤイロチョウ科 PITTIDAE
34.ヤイロチョウ Pitta brachyura ○
 l988.6.13 鰻轟山北方 800m 1 針広混交自然林でさえずり声〈増谷,市原〉
   ツバメ科 HIRUNDINIDAE
35.ツバメ Hirundo rustica ◎
36.コシアカツバメ Hirundo daurica ◎
 1988.7.29 小浜 180m 町役場19巣,山村開発センター5巣,宮浜中学校12巣,上那賀病院3巣など〈郡,西岡,増谷,八巻〉
37.イワツバメ Delichon urbica ○
 1988.7.3 海川 420m 10 海川谷東俣沿い〈西,松本〉
  セキレイ科 MOTACILLIDAE
38.キセキレイ Motacilla cinerea ◎
39.ハクセキレイ Motacilla alba
40.セグロセキレイ Motacilla grandis ◎
  ヒヨドリ科 PYCNONOTIDAE
41.ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis ◎
 1988.12.27 霧越峠西方 760m 4 常緑広葉樹の多い林で〈増谷,市原〉
   モズ科 LANIIDAE
42.モズ Lanius bucephalus ◎
 1988.5.5 姉谷上方 900m 1 伐採跡地で〈増谷,市原〉
   カワガラス科 CINCLIDAE
43.カワガラス Cinclus pallasii ◎
 1988.8.8 源太谷 320m 2 380m 1〈増谷,市原〉
 1988.8.29 海川谷東俣上流ゴケンゴヤ谷 620m 2 〈増谷,市原〉
   ミソサザイ科 TROGLODYTIDAE
44.ミソサザイ Troglodytes troglodytes ◎
   イワビリ科 PRUNELLIDAE
45.カヤクグリ Prunella rubida
 1988.12.12 姉谷 570m 3 伐採跡群落の低灌木にとまる〈増谷,市原〉
 1988.12.12 吉野丸北方 850m 2 低木林〜ヤブ状地で〈増谷,市原〉
   ヒタキ科 MUSCICAPIDAE
  (ツグミ亜科 TURDINAE)
46.ルリビタキ Tarsiger cyanurus
 1988.12.27 鰻轟山 1000m 1♀型 針広混交自然林で〈増谷〉
47.ジョウビタキ Phoenicurus auroreus
 1989.1.25 松久保 480m 1♂ 畑のヘリの杭にとまる〈増谷〉
48.トラツグミ Turdus dauma ◎
 1988.6.13 鰻轟山 980m 2 針広混交自然林で〈増谷,市原〉
 1988.7.4 吉野丸西方 1050m 1 海南町との境の尾根の地上〈増谷,市原〉
 1988.8.1 鰻轟山北東方 870m 1 針広混交林でさえずり声〈増谷,市原〉
 1988.8.29 海川谷東俣 530m 1 さえずり声〈増谷〉
49.クロツグミ Turdus cardis ◎
 1988.6.13 鰻轟山北東方 870m 1 針広混交林でさえずり声〈増谷,市原〉
 1988.7.11 霧越峠東方 700m 1♂ 海南町との境のスギ植林でエサをくわえてスギの枝にとまり警戒音を出す〈増谷,市原〉
 1988.8.1 鰻轟山西方 900m 1 針広混交林でさえずり声〈増谷,市原〉
50.シロハラ Turdus pallidus
 1988.12.27 鰻轟山北東方 890m 2+ 針広混交自然林で〈増谷〉
51.ツグミ Turdus naumanni
 1988.12.27 鰻轟山北東方 890m 3+ 針広混交自然林で〈増谷〉
  (ウグイス亜科 SYLVIINAE)
52.ヤブサメ Cettia squameiceps ◎
53.ウグイス Cettia diphone ◎
54.センダイムシクイ Phylloscopus occipitalis ◎
55.キクイタダキ Regulus regulus
 1988.12.27 鰻轟山北東方 900m 2 針広混交自然林で〈増谷〉
  (ヒタキ亜科 MUSCICAPINAE)
56.キビタキ Ficedula narcissina ◎
 1988.6.13 鰻轟山北東方 880m 1 針広混交林でさえずり声〈市原,増谷〉
 1988.6.13 鰻轟山 1000m 1 針広混交自然林でさえずり声〈増谷,市原〉
57.オオルリ Cyanoptila cyanomelana ◎
58.エゾビタキ Muscicapa griseisticta
 1988.9.11 東尾 650m 50± 〈西,松本〉
59.コサメビタキ Muscicapalatirostris ◎
 1988.7.4 姉谷上方 800m 3 針広混交自然林で〈境谷,市原〉
   エナガ科 AEGITHALIDAE
60.エナガ Aegithalos caudatus ◎
   シジュウカラ科 PARIDAE
61.コガラ Parus montanus ○
 1988.5.5 吉野丸西方 1030m 1 海南町との境の尾根でさえずり声〈増谷〉
 1988.8.1 鰻轟山 970m 2 針広混交自然林で〈増谷,市原〉
 1988.12.27 鰻轟山北束方 870m 1 落葉広葉樹の多い林で他のカラ類、ゴジュウカラ、コゲラらと共に行動する〈増谷,市原〉
62.ヒガラ Parus ater ◎
63.ヤマガラ Parus varius ◎
 1988.12.27 鰻轟山北東 890m 15± 針広混交林地上で落葉をかき回す〈増谷〉
64.シジュウカラ Parus major ◎
   ゴジュウカラ科 SITTIDAE
65.ゴジュウカラ Sitta europaea ○
 1988.5.5 吉野丸西方 1030m 1 海南町との境の尾根でさえずり声〈増谷〉
 1988.7.4 吉野丸西方 1030m 1 海南町との境の尾根でエナガ、ヒガラ、ヤマガラ、シジュウカラ、センダイムシクイ、ウグイスと共に行動する〈増谷,市原〉
 1988.12.27 霧越峠西方 800m 2 広葉樹林で常に落葉樹の幹にとまる〈増谷〉
   キバシリ科 CERTHIIDAE
66.キシバリ Certhia familiaris ◎
 1988.5.30 霧越峠東方 700m 4+ 海南町との境のスギ植林でスギの幹にとまり給餌する〈市原,増谷〉
 1988.7.11 オソ谷上流部 650m 1 海南町との境の若いスギ林でエナガ、センダイムシクイ、ヒガラ、シジュウカラ、メジロと共に行動する〈増谷〉
 1988.6.13 鰻轟山西方 910m 2+ スギ、ヒノキ林でスギ幹にとまる〈増谷〉
 1988.8.1 鰻轟山西方 930m 1 海南町との境 ヒノキ幹にとまる〈増谷〉
 1988.10.18 松久保 340m 1 スギ、ヒノキ林でコゲラ、ヤマガラ、シジュウカラ、メジロと共に行動しスギの幹にとまる〈増谷,市原〉
 1989.1.25 十二弟子峠東方 430m 2 スギ林でキクイタダキと共に〈増谷〉
   メジロ科 ZOSTEROPIDAE
67.メジロ Zosterops japonica ◎
 1988.8.1 鰻轟山 1040m 2 針広混交自然林で〈増谷,市原〉
 1988.12.27 鰻轟山北東方 840m 2 針広混交自然林で〈増谷〉
   ホオジロ科 EMBERIZIDAE
68.ホオジロ Emberiza cioides ◎
69.ミヤマホオジロ Emberiza elegans
 1988.12.12 吉野丸北方 850m 3+ 低木林〜ヤブ状地で〈増谷,市原〉
70.アオジ Emberiza spodocephala
 1988.12.12 吉野丸北方 850m 2+ 低木林〜ヤブ状地で〈増谷,市原〉
71.クロジ Emberiza variabilis
 1988.12.27 霧越峠西方 780m 1♀ 広葉樹の多い林の地上〈増谷,市原〉
   アトリ科 FRINGILLIDAE
72.アトリ Fringilla montifringilla
 1988.10.31 鰻轟山北東方 880m 10+ カバノキ科樹木の葉裏をつつく〈増谷〉
73.カワラヒワ Carduelis sinica ◎
74.マヒワ Carduelis spinus
 1989.1.25 海川東 380m 30± スギ、アカマツに群れる〈増谷〉
75.ベニマシコ Uragus sibiricus
 1988.12.12 姉谷 600m 3+ 伐採跡の低灌木林で〈増谷,市原〉
76.ウソ Pyrrhula pyrrhula
 1988.12.27 鰻轟山北東方 870m 2+ 落葉広葉樹の多い林で〈増谷,市原〉
77.イカル Eophona personata ○
 1988.6.18 松久保 500m 1 鳴き声〈増谷,市原〉
 1988.7.20 松久保 500m 1 さえずり声〈増谷,市原〉
 ハタオリドリ科 PLOCEIDAE
78.スズメ Passer montanus ◎
   ムクドリ科 STURNIDAE
79.ムクドリ Sturnus cineraceus ◎
 カラス科 CORVIDAE
80.カケス Garrulus glandarius ◎
81.ハシボソガラス Corvus corone ◎
82.ハシブトガラス Corvus macrorhynchos ◎

 参考文献
1)日本野鳥の会 1980:鳥類繁殖地図調査1978 第2回自然環境保全基礎調査 動物分布調査報告書(鳥類)全国版 日本野鳥の会
2)宮脇昭(編著)1982:日本植生誌 四国 至文堂
3)森本康滋(代表)1982:5万分1現存植生図「北川」 第2回自然環境保全基礎調査(植生調査)環境庁
4)森本康滋(代表)1985:5万分1現存植生図「桜谷」 第3回自然環境保全基礎調査(植生調査)環境庁、
5)日本野鳥の会徳島県支部目録部 1988:徳島県鳥類目録 日本野鳥の会徳島県支部


徳島県立図書館