阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第34号
板野町における読書生活の実態と課題

教育社会学班

  平木正直・伴恒信・大原延恵(文責)

1.研究の目的
 1986年3月に出された『板野町振興計画書』によれば、「潤いのある文化の香り高い町づくり」の1つとして、「家庭教育学習環境の充実」、「生涯教育の観点からの社会教育の整備」などがあげられている。
 生涯教育の基礎である自己教育力を養う方法として、読書することを子どもの頃から習慣づけることが重要な手段として考えられる。読書する子を育てることは、板野町において、今後の重要な課題になるであろうと考える。そこで、「読む子・読める子」と、「読まない子・読めない子」とを比較することで、現代の板野町の子どもたちの読書に関わる生活を把握し、どの様な環境が、「よく読む子」を育てるのかを探ることを目的とした。
 町内には、図書館はなく、三つある公民館の内の一つ、中央公民館に図書館が設けられている程度である。図書館の有無だけが、読書する子どもを育てる環境要因ではないと考え、家庭環境など広い範囲で調べた。


2.方法
 小学校5、6年生を対象にして、1987年5月に、児童と、その保護者に質問紙調査を実施した。その内訳は、表1の通り。


 読める子と、読めない子を区別するために、担任の先生に、それぞれの児童の読解力を「音読できて、しかも段落ごとに要点を読み取れるかどうか」を基準として、3段階で評価してもらった。読書量は、1か月に何冊ぐらい本を読んだかを、質問紙の中で尋ねた。


3.結果と考察
《読書生活の実態》
 まず、読書生活の概観を述べていく。
 資料の表や図に、読解1、読解2、読解3とあるが、読解1が、一番読解力の高いことを意味し、読解3が、読解力の低いことを意味する。


 男女別にみた場合、女子の方が、男子よりもたくさん読むという結果になっており(表3参照)、読解力についても、女子の方が、男子よりも、高い傾向にある(表2参照)。また、女の子の方が、読書好きである傾向もうかがえる(図1参照)。

そして、6年生よりも、5年生の方がよく読んでいる傾向にある(表3参照)。たとえば、1か月に1冊も本を読まない子は、5年生では6.9%であるが、6年生では9.6%いる。逆に、1か月に11冊以上読む子は、5年生では22.9%いるのに、6年生では9.1%にとどまっている。この調査と同じ時期に、小学校4年生から、6年生を対象にして、毎日新聞社が、全国的な調査をおこなっている。そこで、5月1か月に読んだ本の冊数と比べてみたが(表3参照)、板野町の子どもたちの読書量と、全国の子どもたちの読書量とに、差はみられなかった。
 図2は、好きな本の種類を調べた。その結果、「漫画(34.1%)」が一番人気があり、次に、5年生では「物語(19.7%)」6年生では「地理や歴史の本(15.0%)」となっている。男女別にみると、「漫画」の次に、女の子は「物語」「推理小説」が、男の子は、「ファミコンゲームブック」「地理や歴史の本」が続き、男女の好みの違いがくっきりと出ている。
 印象に残った本の書名は、表4の通りで、毎月とっている学習雑誌は、表5にそれぞれ、多いものから順に示した。印象に残った本は、十人十色で、子どもの読書の多様化を表している。


 本を読む場所として1番多かったのは、「自分の部屋」、次に「居間」で、2つ合わせると89.8%となったのに対し、学校の図書室は、わずか4%にしかならなかった。これは、学校図書室の開室時間など、利用しやすさとも関係するのではないかと思われる。あるいは、家の方が、落ち着いて読書する雰囲気になるのかも知れない。そこで、学校図書館などの利用率について調べた。
 表6は、学校図書館、学級文庫、公民館の利用率を学校別に調べた結果である。まず学校図書館は、東小学校の6年生が、50%が利用しており、月に1−2回利用する子は25%いる。西小学校の6年生は、93.5%が利用しており、月に9回以上利用する子が41.9%もいる。また、西小学校の5年生は、89.7%が利用しており、月に9回以上利用する子が55.2%もいる。全体では、69.3%が、月に1回以上利用している。


 学級文庫の利用は学校図書館の利用率よりも高く、月に3−4回利用する子が33.3%おり、全体では92.5%が、月に1回以上利用している。西小学校の6年生は、学級文庫を全員が利用しており、月に3−4回利用する子が54.8%いる。学級文庫の利用率が学校図書館よりも高いのは、利用しやすさが、大きく関係するのではないかと思われる。
 板野町には、公民館があり、公民館の中に、図書館がある。その公民館の利用であるが、39.7%の児童が利用している。ところが、保護者は、5.1%しか利用していない。保護者の中には、徳島県立図書館や、鳴門市立図書館にまで出向いている人もみられた。
 児童の公民館の利用率を学校別にみると、東小学校の6年生は63.4%、5年生は、65.7%が利用している。そして、西小学校の6年生は、3.2%、5年生は17.2%が利用している。ところが、南小学校の6年生で利用しているのは1人だけであり、南小学校の5年生の中に利用者はいない。
 地理的に1番近い東小学校は、公民館の利用率が大変高いが、残り2つの小学校の児童は、ほとんど利用していない。東小学校の児童と、その他の小学校の児童でこれほどまでに、公民館の利用率に差がみられたことは、小学生の行動範囲のほかに、学校での読書指導の力のいれ方にも関係があるのではないかと考えられる。他の調査でも、図書館の地理的な距離は、図書館利用に差を与えなかったことが、明らかになっている。
《家族と読書》
 読解力の高い子どもの保護者の97.8%は、自分の子どもが、いまどんな本を読んでいるかを知っており、43.8%が、今年になって、子どもと同じ本を読んだことがあると答えている。それに比べて、読解力の低い子の保護者で、子どもと同じ本を読んでいるのは31.7%にとどまっている(子どもと読んだ同じ本の書名は、表8参照)。表7では、こんなふうに、読解力の高い子どもの保護者、読書量の多い子の保護者は、子どもの読んでいる本に、より関心を示し、実際にその本を手に取って読んでいることを示している。


 次は、どのくらい読み聞かせをしているのかを調べた(図3参照)。

ここでは、読書量の多い子ほど、家の人に読み聞かせてをしてもらっている割合が高いことがわかった。また、読書量の多い子は、読んでもらったおはなしの名前を質問したとき、その名前が書けている。表9に、その具体的な書名を示した。


 本を選んだり読んだりするときに、最もよく相談をする人は誰かを尋ねたところ、1か月に11冊以上読む子も、まったく読まない子も、「相談する人がいない」が、それぞれ41.7%、64.5%で、1番多い項目となった(図4参照)。

11冊以上読む子の2番目に多かったのが「友達」で28.3%、次に「母親」23.3%、そして「父親」「兄弟」と続く。まったく読まない子の2番目に多かった項目が「友達」で16.1%、「兄弟」9.7%、そして「父親」「母親」と続いている。「先生」と答えた子は、2人しかおらず、母親、友達、兄弟が、本を選ぶときのアドバイザーとなっているようである。
 アドバイザーのなかで、比較的多かった、母親、父親、兄弟などの家族の読書についてみていく。「家の人が本を読んでいるところを見たことがありますか」という質問で、母親、父親、兄弟、その他の家族のそれぞれについて、小説、雑誌、仕事に関する本、趣味の本、漫画、その他の本を、読んでいるところを見たことがある、見たことがない、に分けて聞いた。
 まず、「母親がなんらかの本を読んでいるところを見たことがある」と答えた子どもが、93.6%なのに対して、「父親がなんらかの本を読んでいるのを見たことがある」と答えた子どもは、84.5%であった。また、読解力の高い子ほど、母親が本を読んでいる姿をよくみていることが、表10からもわかる。

そして、母親については、「雑誌を読んでいるところをみたかどうか」という項目で、読解力の高い子と低い子との差が有意であった。
 父親が読んでいる本で、1番多かったものは、「仕事に関する本」で、29.6%の子どもが、父親がこの種の本を読んでいる姿を見ている。父親は、1か月に11冊以上読む子の読書アドバイザーとしても、第3位にあげられている。父親については、読書量の多い子は、少ない子よりも、「父親がなんらかの本を読んでいる」と回答している割合が高くなっている。その他に読書量の多い子と少ない子について差が出たものは、「父親が趣味の本を読んでいる」「父親が漫画を読んでいる」の各項目であった。「父親が小説を読んでいる」という項目では、読解力の高い子のうちの24.0%が、父親が小説を読んでいるところを見たことがあり、読解力の低い子は、10.0%しか、父親が小説を読む姿を見ていない。読解力の高い低い、読書量の多い少ないに有意差が出た項目の多さからも、父親の本を読んでいる姿を見ることが、子どもの読書に深い関係があることがわかる。
 兄弟については、「趣味の本を読んでいる」という項目で、読書量の多い子と少ない子に有意な差がみられた。読解力の高い子と低い子について、有意な差が出たのは、「小説を読んでいる」「雑誌を読んでいる」「趣味の本を読んでいる」「漫画の本を読んでいる」の、各項目であった。
 また、小説、学習雑誌、新聞に分けて、保護者が子どもにそれぞれについて読むことを勧めるかどうかを聞いたところ、1か月に11冊以上読む子の保護者の66.7%、まったく読まない子の保護者では、72.0%が、新聞を読むことを勧めている。学習雑誌については、11冊以上読む子の保護者は80%、読まない子の保護者は、88.5%が勧めている。そして小説については、11冊以上読む子の保護者の75.9%、まったく読まない子の保護者の76%が、読むことを勧めると答えている。いずれも、たくさん読む子の保護者よりも、まったく読まない子の保護者の方が、読むことを勧めているパーセンテージが高い。つまり、親が口で読書を勧めることよりも、親自身が本を読んでいる姿を子どもにみせることの方が、子どもの読書により深い関係があるといえる。
《余暇活動と読書》
 表11は、家族のレジャー活動について、休日に家族と出かけるかどうかを調べた結果である。

この項目では、1か月に11冊以上読書する子の家族の94.5%が、1年に1回以上どこかに出かけると答え、まったく読まない子の家族は、83.3%が出かけると答えており、その差は有意であった。合わせて、どのようなところに出かけるかについても調べたが、「ショッピング」「ハイキング」「美術館」など、出かける場所などとは関係がなかった。読書量の多い子の家族は、出かける割合が高いが、それは、家族のレジャー活動が活発ならば、自分の周りの世界も広がって、本を手にするきっかけも増えるのではないかと考えられる。
 図5は、保護者への質問で、最近よくすることはなんですか、と聞いて保護者の余暇活動について調べたものである。

読書量が、1か月11冊以上の子どもの保護者は、テレビを見ることが少なく、仕事をしたり、スポーツをすることが他の保護者よりも多い。保護者のテレビ視聴時間を調べても、読書量の多い子の保護者の方が、テレビ視聴時間が短かった。また、読書量の多い子の保護者ほど、趣味を持っており、趣味に関する本の蔵書数が多いこともわかった。
 つぎに、子どもが最近よくすることを調べた。読解力の高い子は、29.2%で「スポーツをすること」が1番多く、ついで、「テレビを見る」「本を読む」「漫画を読む」と続いている。それに対して、読解力の低い子は、23.7%で「テレビを見る」がもっとも多く、22.0%で「スポーツをする」「漫画を読む」「ファミコンをする」と続く。


 読書量との関係は図6に示したが、よく本を読む子は、「本を読む」という項目の次に、「スポーツをすること」があげられている。本を読まない子は、スポーツをすることがもっとも多いが、2番目に多い「テレビを見る」が32.3%にもなっている。テレビ視聴をもっともよくすると答えた子と、ファミコンをもっともよくすると答えた子のパーセンテージを合わせると、11冊以上読む子は、20.1%、まったく読まない子は42%となり、本を読まない子が、いかにテレビのブラウン管の前に座っているかを表している。一般的に、本を読む子のイメージが、家にこもりがちのように思われているが、本を読まない子の方が、家の中で、テレビを見たり、ファミコンに熱中したりしているようである。実際のテレビ視聴時間は、図7に示したが、本を読まない子ほど、長時間テレビをみていることがわかる。

また、ファミコンの保有率も、読書量の多い子は、低く、読書量の少ない子ほど、ファミコンに費やす時間が長くなっている。その他子どもの生活時間の中で、大きな割合を占めるものにお稽古事、勉強時間がある。読解力・読書量ともに、お稽古事をしている子の方が、していない子よりも高くなっており、1日の勉強時間も長くなっている。
 つぎに、本を読む子のイメージが、どの様に描かれているのかを調べた。子どもに聞いた「本をよく読む子に対するイメージ」は、読解力の低い子の26.7%、本を読まない子の51.6%が、「暇な子」という項目に、答を集中させている(図8参照)。子ども全体を通じてみると、「勉強のできる子」が25.3%、そして「良い子」が20.5%、「暇な子」は19.2%となっている。


 図9では本を読む理由を尋ねた。まったく本を読まない子の51.6%が、本を「ひまつぶしになるから」という理由で読むと答えている。つまり、本を読まない子は、本はひまつぶしのために読むのだから、本を読む子というのは、暇な子なのだ、と思っているようである。ところが、実際の生活時間を見てみると、読解力の高い子、本をよく読む子は、お稽古事などをしている割合が高く、スポーツなどをよくし、勉強時間も長く、休日には家族と出かけたりして、読まない子よりも、忙しい生活をしていることが、今までの調査結果から明らかである。


 保護者の、本をよく読む子に対するイメージであるが、読解力の高い子の保護者は、「その他」という項目が32.9%で1番多くなっている。これは、本を読む子に対するイメージが、非常に多様であることを示している。その次に、「賢い子」23.5%、「良い子」21.2%と続いている。それに対して、読解力の低い子の保護者は、「勉強のできる子(26.8%)」、「賢い子(25.0%)」の順になっている。保護者全体を通じてみると、「賢い子」が1番多く24.2%、ついで「良い子」「その他」と続き、「暇な子」は、3.1%で、もっとも回答の少なかったものになっている。ここに保護者と子どもの、本を読む子へのイメージの違いが、くっきりと出ている。


4.まとめ
 読解力、読書量、共に、家庭環境との関係が深いことが以上の調査結果からわかる。そのなかで、漫画でも、雑誌でも、仕事に関するものでも、どんな種類の本でもよいから、母親、父親、兄弟などが、本を読む姿を見せることが大切である。また、今子どもがどんな本を読んでいるのかに関心を持つこと、たまには、子どもの読んでいる本を読んでみること、読み聞かせをしてやることなど、読書に直接関係のあるもののほかに、家族で休日に出かけたりして、子どもの好奇心をおおいに刺激することも、子どもの読書に関係のあることがわかった。
 また、公民館の利用は、公民館に近い、東小学校の児童しか利用していないというような状況であるので、やはり、小学生の行動範囲に合わせて、本を置く場所を設けること、学校ぐるみの読書指導が行われることが望ましいのではないかと思う。


徳島県立図書館