阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第34号
板野町の鳥類

鳥類班

   増谷正幸・寒川芳彦・郡和治・

   曽良寛武・冨峯康代・新居正利・

   西岡桂子・藤憐子・峯勝久・

   山内美登利

1.はじめに
 板野町は徳島県の北東部に位置する。北部は山地で、阿讃山地(讃岐山脈)が東西に走り、最高点は約500mである。潜在自然植生は暖温帯常緑広葉樹林であるが、現植生はアカマツ林が多い。コナラなどの落葉広葉樹林も見られ、マツ枯れも拡がっており、次第に広葉樹優占の林相に移行しつつある。ただ、森林の伐採跡地や伐採後何年か経過した若齢林もよく見られる。
 南部は、山麓から吉野川流域にかけて拡がる徳島平野の一角を占め、農耕地や村落・市街地となっている。旧吉野川が北東に流れ、これに富ノ谷川、大坂谷川、黒谷川、宮川内谷川など北部の山地に源を発する中小河川が流れ込んでいる。
 日本野鳥の会・徳島県支部は鳥類班として総合学術調査に参加し、板野町の野生鳥類を調査した。野生鳥類は季節によって種類・個体数・生息環境が変化するので、ほぼ1年間にわたって調査を実施した。


2.調査地区と調査方法
 主として次の4つの項目について現地調査を行った。
  1 ライン・センサスによる調査
  2 宮川内谷川における生息調査
  3 旧吉野川の水辺・湿地性鳥類
  4 ハス田地帯のシギ・チドリ類
 また、鳥類目録を作成するため、板野町在住の会員を中心として、町内各地で調査を行ない、確認された種類を記録していった。


3.調査結果
(1)ライン・センサスによる調査
 山地の森林3か所、平野部の農耕地1か所、計4か所について幅50mの調査コースを設定し(図2参照)、

時速2km程度で歩行して、コース内で姿又は鳴き声で確認し得た鳥の種類と個体数をすべて記録していった。調査コースの全長は、1 が約3km、2 〜4 が約2kmであった。結果は表1〜4に示す通りである。なお、前年度までの総合学術調査などと比較し易くするため、表の値は全長1kmあたりの確認数に換算してある。

 山地の森林と平野部の農耕地に分けて、調査結果を考察してみたい。


1 山地の森林
[自然環境等の概観]
(a)コース1
 高徳本線・線路の東を起点とし、斜面を上り、尾根南斜面〜尾根の山道を鳴門市との境界まで調査した。海抜高度約60〜400m。アカマツ主体の林であるが、コナラ、ヤマザクラ、クマノミズキ、ノグルミ、クリ、ウラジロノキ、アカメガシワ、カキなどの落葉広葉樹、ヤマモモ、カゴノキ、シロダモ、カシ類などの常緑広葉樹もよく混じる。低木層はヒサカキが多い。伐採跡がほとんど無く、道路によって寸断されておらず、下方の冨士谷、富ノ谷まで含めてよく茂った林である。なお、線路沿いの平坦地の林は高木層のアカマツがほとんど枯れたが、低木層の広葉樹の発達は良好である。
(b)コース2
 大坂越の南西約1.2km地点を起点とし、南方へ東斜面〜尾根の山道を調査した。海抜高度約340〜440m。アカマツの他、コナラ、クヌギ、クマノミズキ、ヤマザクラ、ノグルミ、リョウブ、ネムノキ、ウラジロノキなど落葉広葉樹、シロダモ、ヤブニッケイ、ソヨゴなど常緑広葉樹が混じる。ヒノキ植林が一部にある。下方はマツ枯れが進んでいる。
(c)コース3
 大日寺北方を起点とし、黒谷沿いにダム貯水池へ至り、渓流沿いに上って鉢伏山の少し下まで調査した。海抜高度約80〜400m。大日寺北〜ダムの間はマツ枯れが進んでいるが、代わって他の広葉樹がよく茂っている。貯水池から上の渓流沿いの林は、クマノミズキ、エノキ、ムクノキ、ケヤキ、イヌシデ、クヌギ、ヤマザクラ、ノグルミ、クスノキなど広葉樹主体の林である。モミの大木もある。低木層はヤブツバキ、アオキが多い。
[調査結果と考察]
 各コース共通の優占種は、留鳥系がトビ、キジバト、アオゲラ、コゲラ、ヒヨドリ、ウグイス、エナガ、ヤマガラ、シジュウカラ、メジロ、ホオジロ、カワラヒワ、イカル、カケス、ハシブトガラス、夏鳥系がツバメ、ヤブサメ、センダイムシクイ、冬鳥系がルリビタキ、シロハラ、アオジである。サシバ、ホトトギスも夏鳥として渡来する。各コースとも秋冬期(非繁殖期)に個体数が増える。
 低山地のアカマツ主体に他の広葉樹が混じるか、或いは広葉樹を主とし尾根筋などにアカマツがはえる二次的な自然林で予想される鳥類相とほぼ一致する。個体数は徳島市・眉山北東部と比べると少ないが、海部町・西敷川沿いのスギ植林地より多い。眉山北東部や石井町・野鳥の森では繁殖期にほとんど確認されなかったアオゲラ、センダイムシクイ、イカル、カケスが生息する。山地の標高がより高く、面積的にも拡がりがあり、広葉樹の割合が高い林が存在するためであろう。アオゲラは、枯木を掘って昆虫の幼虫を捕食するので、枯れたアカマツの存在も重要である。イカルは、徳島県下の他の地域では冬期に数が多いが、板野町周辺では周年よく見られる。
 ミサゴ、ハチクマ、ヤマドリ、アオバト、クロツグミ、オオルリ、サンコウチョウが繁殖期に生息確認されたのも重要である。このうちミサゴは魚を主食とするワシタカ類で、海岸部や大きな川の河口に見られることが多いが、採餌場からかなり離れた山林で営巣することがある。ハチクマはトビより少し小さいワシタカ類で、夏鳥として渡来するが数は少ない。アオバト、サンコウチョウは広葉樹の多いよく茂った林に生息する。ヤマドリ、オオルリは谷沿いのよく茂った林を好む。クロツグミは徳島県では数少ない夏鳥である。
 しかし、ミソサザイとキビタキは繁殖期には確認されなかった。他に繁殖期における生息が期待されながら確認されなかった種類として、ミゾゴイ、ツツドリ、サンショウクイ、カワガラス、トラツグミ、コサメビタキ、ヒガラなどが考えられる。このうち、ミゾゴイとトラツグミは夜間さえずり、数も少ないので発見は困難である。カワガラスは渓谷に生息する。阿讃山地・徳島県側の分布の東限は現在上板町泉谷である。ヒガラはモミなど天然性針葉樹大木の多い林に生息する。コース3 の渓流沿いの林で生息が期待されたが確認されなかった。板野町ではこのような林が少ないので生息の可能性は低い。コサメビタキは過去には繁殖期の記録がある。
 冬鳥として渡来越冬するものは、優占種以外にノスリ、ヤマシギ、ツグミ、ジョウビタキ、キクイタダキ、ミヤマホオジロ、クロジ、ウソ、シメなどである。
 次に、各コース別に特徴を考察する。
(a)コース1
 ミサゴ、ハチクマ、トビ、サシバの4種類のワシタカ類が繁殖期に確認された。広い面積にわたってよく茂った林が拡がり、深い谷があり、道路によって寸断されていないのが幸いしていると思われる。1987年7月9日に下方の冨士谷、富ノ谷を調査した所、先に挙げた優占種の他、ハチクマ、ヤマドリ、オオルリ(幼鳥)、サンコウチョウも確認された。谷底から尾根までよく茂った林が残されているのは非常に貴重なことである。
 また、10月20日にはマミジロ、シロハラ、マミチャジナイなどのツグミ類やアトリが多く見られた。渡り鳥の渡りコースとしても重要な位置にあることを示すものである。
(b)コース2
 生息確認数は3つのコースの中で一番少ない。7月29日は多いが、これはアマツバメが上空を通過したためで、これを除くとかなり少なくなる。数の少ない理由として、調査コースが尾根又は尾根に近かったためと、下方の林がアカマツ主体である上に大木の少ない若い林であるためではないかと考えられる。一般に尾根筋は気象条件が厳しく樹木も矮小化するので野生動物の生息には適していない。
 5月18日にノゴマのオスが2羽確認された。本種は徳島県では数少ない旅鳥として通過していくので貴重な記録である。この地域の山地も渡り鳥の渡りコースとして重要である。
(c)コース3


 3つのコースの中で生息個体数が一番多い。広葉樹の多い谷沿いのコースであるためと思われる。カイツブリ、ミサゴ、カワセミ、キセキレイ、ミソサザイ、オオルリなど谷川やダム貯水池などの水系と強く結びついた種類が見られるのも特徴である。
 大日寺北〜ダム間と、それより上の渓流沿いのコースでは自然環境に違いがあるため、生息種にも若干の変化があった。前者は車道沿いであるため林縁的要素が強い。後者は谷沿いのよく茂った広葉樹の多い林である。そのため、前者ではジョウビタキが、後者ではルリビタキが見られ、環境の違いによりすみ分けている。またサンコウチョウは、6月11日に渓流沿いの林(海抜高度約180m)で造巣中のつがいが発見され、6月22日にはオスが抱卵中であった。ところが8月10日にはダムの南の林(同約100m)で親子連れ(2成鳥・3+幼鳥)が確認された。このことは、本種に限らず森林性鳥類の繁殖には、営巣場所としてよく発達した薄暗い林と、ヒナに与える餌(昆虫など)の見つけ易い林縁的要素の強い明るい林との両方が必要であることを示している。すなわち、いろいろな要素を含む多種多様な植物群落が存在する林分が広い面積にわたって保存されていること(これを総称として‘自然林’という)が、鳥類のみならず他の野生動物の生息にとって不可欠であるということである。
 シメが6月22日に大日寺の北で発見された。これは特記すべきである。一般に本種は本州以南では冬鳥である。何らかの理由で渡って行けなくなったのか、或いは繁殖しているかも知れないのか、後者である可能性もあり今後さらに調査してみる必要がある。
 なお、ダム貯水池から北方の山地のうち、北西側の林は現在上の尾根まで伐採中である。調査コースに選んだ北東側の渓流沿いの林は保存されるそうであるものの、もし伐採地がさらに別方向にも広がるなら鳥類相に悪影響を及ぼす可能性が高い。数が少なく、より良好な森林環境を好む種類から姿を消して行くであろう。
2 平野部の農耕地
 犬伏〜古城〜那東間(県道の南)を調査した。海抜高度6〜8km。水田と畑が主で、人家は終点の県道近くにある。エノキ、ムクノキ、アキニレ、ヤナギ類など樹木が点在しササやぶもある。小川や用水はコンクリート護岸されたものもあれば、ほぼ自然状態のものもある。
 生息種は、人里、草地、林縁、湿地、水辺的環境に生息するもので構成され、かなり多種多様である。人里・農耕地によく適応しているものはキジバト、ツバメ、スズメ、ムクドリ、ハシボソガラス、ドバトなどである。アマサギ、ヒバリ、ハクセキレイ、タヒバリは丈の短い草地、泥地、湿った農耕地で昆虫、クモなど小動物を捕食する。オオヨシキリとセッカは高茎草本群落に生息し、前者は湿地性、後者は乾燥した草原性である。草地や農耕地周辺に樹木が点在し灌木やヤブがあるような林縁的環境を好むものは、モズ、ホオジロ、カワラヒワ(以上留鳥系)、ジョウビタキ、ツグミ、ウグイス、アオジ(以上冬鳥系)などである。ヒヨドリとシメは主として秋冬期に生息し、前者はムクノキ、エノキや人家の庭木の木の実を、後者はそれらの種子を食べる。
 湿地や水辺に生息するサギ類(ゴイサギ、ササゴイ、チュウサギ、コサギ、アオサギ)、イソシギ、タシギ、バンなどもかなり多い。小川や用水がコンクリート護岸でなく自然状態のものもまだ残っていて水草が繁茂する湿地や泥地があるためである。バンは繁殖もしていると思われる。
 しかし、このコースの西部は農地が整然と区画されているため、鳥類相はかなり貧弱、単純であった。ただ、乾いた造成地のような所ではコチドリが営巣している可能性がある。
(2)宮川内谷川
 旧吉野川との合流点から上板町との境界(井利橋)まで調査した。堤防内で姿又は鳴き声で確認し得た鳥のうち、ここで生活の全部〜一部を依存していると思われる種類をすべて記録した。結果は表5に示す通りである。


 岸辺はかつて護岸されたと思われるが、現在はヤナギ類、オニグルミ、ヌルデなど樹木が点在し、灌木、竹、ササやぶもある。流水の付近は湿地状になり川幅もかなり広いため、ヨシ、ガマなど湿性高茎草本群落がびっしりと拡がっている部分も多く、やや高い所は乾性の草本群落が拡がっている。魚やカメ(クサガメ、イシガメと外国産の野生化種)も多く生息する。
 生息種は、先に見た農耕地コースと共通する種類が多いが、湿地・水辺性のものがより多いのが特徴である。特に、カイツブリ、バン、オオヨシキリが多く生息し繁殖している。カルガモも繁殖していると思われる。カワセミは小魚を捕食するため訪れる。ヒクイナは警戒心が強く繁殖期は主に夜間さえずるため発見が因難である。今回は秋に記録されたが、当地の環境から見て繁殖している可能性もある。他の湿地・水辺性のものは、ゴイサギ、ダイサギ、コサギ、コガモ、クサシギ、イソシギ、セキレイ類などである。8月14日にはアマサギが21羽、水草の上や岸辺の湿地に見られた。
 宮川内谷川は、湿地・水辺性鳥類にとって貴重な生息地である。

(3)旧吉野川
 旧吉野川は流れが比較的ゆるやかで、コンクリート護岸された所が少なく、ヨシや水草が繁茂し、岸辺に樹木や竹やぶがあるため、水辺・湿地性鳥類や魚、カメなどの重要な生息地になっている。カイツブリ、カルガモ、バン、カワセミなどが繁殖する。ゴイサギ、ササゴイ、ダイサギ、チュウサギ、コサギ、アマサギやコアジサシが採餌に訪れ、サギ類は岸辺の樹木を休息やねぐらに利用している。オオバン、ユリカモメ、セグロカモメなどは冬鳥として渡来する。特にオオバンは県内では数が少なく分布も局地的であるので旧吉野川は貴重な生息地である。
 冬期はカモ類が多くなる。1987年11月〜88年2月に確認された種類は、マガモ、カルガモ、コガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ、ヒドリガモ、アメリカヒドリ、オナガガモ、ハシビロガモ(以上淡水ガモ)、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ(以上潜水ガモ)で、合計12種であった。調査者の諸般の事情により種類別の個体数などのデータが執筆者の手元に届いていないため、ここでは1984年と85年のデータを表6に示す。

時期は、越冬カモ類が本来の生息適地にすむのが可能な狩猟解禁前の11月初旬とした。淡水ガモ類が多いが、潜水ガモ(海ガモ)も生息しているのが特徴である。前者は岸辺、水面、浅い水中の水草やその種子、藻などを食べる。ホテイアオイを食べているのも観察されている。後者は水中や水底の貝、小魚、甲殻類などが主食で、植物質のものも食べる。ヨシやガマの群落は休息や隠れ場所としても利用される。
 1985年11月2〜15日にはカンムリカイツブリが、1986年10月26日〜11月13日には国の天然記念物マガンも記録されている。
 この流域は、従来は銃猟可能で狩猟期間中(11月15日〜2月15日)はカモ類はほとんど他の安全な場所に移動しいなくなっていたが、1987年11月から5年間、大寺橋から上流部分が銃猟禁止区域に指定されたため、一冬通して生息出来るようになった。
(4)ハス田などのシギ・チドリ類
 板野町平野部の川端、大寺、高樹、苅辺、古城、唐園、犬伏、那東などハス田の多い地帯では、他の環境には見られない様々な内陸湿地性シギ・チドリ類が生息する。ハスやタバコを刈った後浅く水が張られた所や湿田、休耕田、畦、泥地、湿地などが主な生息場所で、1987年にはタマシギ(タマシギ科)、コチドリ、イカルチドリ、ムナグロ、ケリ、タゲリ(以上チドリ科)、トウネン、ヒバリシギ、ウズラシギ、ハマシギ、アオアシシギ、タカブシギ、ソリハシシギ、オグロシギ、タシギ、(以上シギ科)、アカエリヒレアシシギ(ヒレアシシギ科)が記録された。大きさは様々で(全長約15〜38.5cm)、それぞれの嘴や足の長さ、習性に応じて地表、土中、泥中、水虫の小動物を捕食している。春(4〜5月)と秋(8〜10月)の渡りの途中に立ち寄って行くものが多いが、タマシギは繁殖し、ムナグロ、ケリ、タゲリ、タシギは越冬している個体もいる。特にケリとタゲリの生息にはこのような環境が広い面積にわたってまとまって存在することが必要である。
 1984〜86年には上記の種類の他、ダイゼン、オジロトウネン、オバシギ、エリマキシギ、キリアイ、アカアシシギ、コアオアシシギ、オオジシギが記録された。ハス田地帯の内陸湿地はこれらシギ・チドリ類にとって極めて重要な渡り中継地点で、採餌だけでなく、長い渡りの疲れをいやす休息地でもある。しかし宅地開発、農地整備、かさ上げ、排水工事やビニール・ハウス化などにより次第に少なくなっている。
(5)その他
 今回の調査で記録された種類で、今まで本稿で触れられなかったもののうち、徳島県下での記録の少ないものや生息地の限られているものは、1 留鳥として周年生息し繁殖する、2 夏鳥として渡来・繁殖する、3 渡り・移動の途中立ち寄る、4 冬鳥として渡来・越冬するものに分けると、1 フクロウ、2 アオバズク、ヨタカ、3 コチョウゲンボウ、ヒレンジャク、ノビタキ、サメビタキ、ノジコ、4 オオタカ、ツミ、クイナ、トラフズク、ハチジョウツグミ(ツグミの亜種)、などが挙げられる。


 また、鳥以外にもニホンザル、シカ、ホトケドジョウ、タイコウチが見られ、テンのものと思われるフンがあり、頭骨も採集された。


4.まとめと提言
 板野町の野生鳥類について、およそ次のことが明らかになった。
1 山地の森林で繁殖すると思われる鳥類はかなり多種多様である。しかし繁殖期における生息が期待されながら確認されなかった種類もあった。
 森林性鳥類の生息・繁殖にとってプラス要因である広葉樹主体のよく発達した自然林の存在と、マイナス要因である伐採地や若い林とを比べると、後者の面積が広いためである。
2 渡りの季節に一時立ち寄る旅鳥と、越冬のために訪れる冬鳥は種類・数とも多い。これらは山麓部や林縁的環境でより多く見出される傾向にあった。
 繁殖活動をしない渡り・越冬期の鳥類は、食物・休息・ねぐら確保という条件が満たされれば人里的な場所にも生息し得る。その点板野町の山すそは山林、農地、ため池、小川、草やぶ、集落など様々な環境が入り混じり、余り都市化・人工化されていないので、これらの鳥類の生活には好都合である。山地に林縁的環境が多いのもいくつかの種類の旅鳥・冬鳥にとってはかえって良い面もある。
3 平野部に生息する鳥類も多種多様である。中小河川、用水、神社の森、竹やぶ、草地、湿地、農耕地、集落など様々な環境があり、人工化された所もあるがそうでない所もあり、それぞれに適した環境で生活し得るからである。
4 宮川内谷川は湿地・水辺性鳥類にとって貴重な生息地である。
5 旧吉野川も同様であり、銃猟禁止区域に指定されたためカモ類の越冬地として重要である。
6 ハス田地帯は内陸湿地性シギ・チドリ類の渡り中継地点、越冬地として極めて重要である。
7 徳島県内で記録の少ない珍しい種類も多く記録された。板野町の地理的位置が鳥類の渡りコースに当たっているためである。
 全体的にみて、現在の板野町は鳥類だけでなく他の野生動物にとっても貴重な生息地であるといえる。
 しかし、計画中の四国縦貫自動車道が建設されると、道路周辺の乱開発・都市化を招き、それが他の地域にも急速に押し寄せてくることが懸念される。現在割合調和を保っているように見える人間と自然の関係が崩れ、野生動物の生息環境が悪化するのみならず、人間の精神にも悪影響を及ぼし人々が住みづらくなるのは確実である。
 必要最低限の保護措置として次の6点の提言を挙げておきたい。
1 コース1 の山地の森林は下方の冨士谷、富ノ谷から上部の尾根まで、まるごとそっくりまとめて保存されるべきである。
2 コース3 の山林のうち、特にダム貯水池から上の渓流沿いの森林も現状のまま厳正に保護されるべきである。
3 マツ枯れは、原則としてそのまま放置すべきである。そうすれば元の自然植生に回復し、生息出来る鳥類の種類も増える可能性が高い。
4 宮川内谷川は少なくとも現在の自然環境が維持されることが望ましい。
5 旧吉野川は吉野川から分水している水門で水量が調節できるので、コンクリート護岸にする必要はない。
6 ハス田など内陸湿地に渡来するシギ・チドリ類の生息環境が将来にわたって維持されるように、何らかの保護策を考えていただきたい。

 


5.鳥類目録
 1987年1月〜88年2月に板野町で記録された種名を以下に掲げる。本町在住会員諸氏の御尽力により記録種は133種に上り、観察記録も厖大なものになった、しかし紙数の制約により本稿では具体的な記録は割合せざるを得なかった。それらは、より詳しい調査報告書、記録・目録集をまとめる機会があればそちらに譲りたい。
 なお、繁殖が確認されたもの、或いは過去の記録、今回の現地調査での徴候・印象などから本町での繁殖がほぼ確実なものには◎印、繁殖可能性が高いと考えられるものには○印、繁殖可能性もあるがさらに詳しい調査が必要なものには△印を付けた。
 

カイツブリ目 PODICIPEDIFORMES
 カイツブリ科 PODICIPITIDAE
1.カイツブリ Podiceps ruficollis ◎
 

コウノトリ目 CICONIIFORMES
 サギ科 ARDEIDAE
2.ゴイサギ Nycticorax nycticorax
3.ササゴイ Butorides striatus
4.アマサギ Bubulcus ibis
5.ダイサギ Egretta alba
6.チュウサギ Egretta intermedia
7.コサギ Egretta garzetta
8.アオサギ Ardea cinerea
 

ガンカモ目 ANSERIFORMES
 ガンカモ科 ANATIDAE
9.マガモ Anas platyrhynchos
10.カルガモ Anas poecilorhyncha ◎
11.コガモ Anas crecca
12.ヨシガモ Anas falcata
13.オカヨシガモ Anas strepera
14.ヒドリガモ Anas penelope
15.アメリカヒドリ Anas americana
16.オナガガモ Anas acuta
17.ハシビロガモ Anas clypeata
18.ホシハジロ Aythya ferina
19.キンクロハジロ Aythya fuligula
20.スズガモ Aythya marila
 

ワシタカ目 FALCONIFORMES
 ワシタカ科 ACCIPITRIDAE
21.ミサゴ Pandion haliaetus ◎
22.ハチクマ Pernis apivorus ◎
23.トビ Milvus migrans ◎
24.オオタカ Accipiter gentilis
25.ツミ Accipiter gularis
26.ノスリ Buteo buteo
27.サシバ Butastur indicus ◎
 ハヤブサ科 FALCONIDAE
28.ハヤブサ Falco peregrinus
29.コチョウゲンボウ Falco columbarius
30.チョウゲンボウ Falco tinnunculus
 

キジ目 GALLIFORMES
 キジ科 PHASIANIDAE
31.コジュケイ Bambusicola thoracica ◎
32.ヤマドリ Phasianus soemmerringii ◎
33.キジ Phasianus colchicus ◎
 

ツル目 GRUIFORMES
 クイナ科 RALLIDAE
34.クイナ Rallus aquaticus
35.ヒクイナ Porzana fusca ○
36.バン Gallinula chloropus ◎
37.オオバン Fulica atra
 

チドリ目 CHARADRIIFORMES
 タマシギ科 ROSTRATULIDAE
38.タマシギ Rostratula benghalensis ◎
 チドリ科 CHARADRIIDAE
39.コチドリ Charadrius dubius ◎
40.イカルチドリ Charadrius placidus △
41.ムナグロ Pluvialis dominica
42.ケリ Microsarcops cinereus
43.タゲリ Vanellus vanellus
 シギ科 SCOLOPACIDAE
44.トウネン Calidris ruficollis
45.ヒバリシギ Calidris subminuta
46.ウズラシギ Calidris acuminata.
47.ハマシギ Calidris alpina
48.アオアシシギ Tringa nebularia
49.クサシギ Tringa ochropus
50.タカブシギ Tringa glareola
51.キアシシギ Tringa brevipes
52.イソシギ Tringa hypoleucos
53.ソリハシシギ Xenus cinereus
54.オグロシギ Limosa limosa
55.ヤマシギ Scolopax rusticola
56.タシギ Gallinago gallinago
 ヒレアシシギ科 PHALAROPODIDAE
57.アカエリヒレアシシギ Phalaropus lobatus
 カモメ科 LARIDAE
58.ユリカモメ Larus ridibundus
59.セグロカモメ Larus argentatus
60.コアジサシ Sterna albifrons
 

ハト目 COLUMBIFORMES
 ハト科 COLUMBIDAE
61.キジバト Streptopelia orientalis ◎
62.アオバト Sphenurus sieboldii ○
 

ホトトギス目 CUCULIFORMES
 ホトトギス科 CUCULIDAE
63.カッコウ Cuculus canorus
64.ホトトギス Cuculus poliocephalus ◎
 

フクロウ目 STRIGIFORMES
 フクロウ科 STRIGIDAE
65.トラフズク Asio otus
66.アオバズク Ninox scutulata ◎
67.フクロウ Strix uralensis ◎
 

ヨタカ目 CAPRIMULGIFORMES
 ヨタカ科 CAPRIMULGIDAE
68.ヨタカ Caprimulgus indicus ◎
 

アマツバメ目 APODIFORMES
 アマツバメ科 APODIDAE
69.アマツバメ Apus pacificus
 

ブッポウソウ目 CORACIIFORMES
 カワセミ科 ALCEDINIDAE
70.カワセミ Alcedo atthis ◎
 

キツツキ目 PICIFORMES
 キツツキ科 PICIDAE
71.アオゲラ Picus awokera ◎
72.コゲラ Dendrocopos kizuki ◎
 

スズメ目 PASSERIFORMES
 ヒバリ科 ALAUDIDAE
73.ヒバリ Alauda arvensis ◎
 ツバメ科 HIRUNDINIDAE
74.ツバメ Hirundo rustica ◎
75.コシアカツバメ Hirundo daurica △
76.イワツバメ Delichon urbica
 セキレイ科 MOTACILLIDAE
77.キセキレイ Motacilla cinerea ◎
78.ハクセキレイ Motacilla alba
79.セグロセキレイ Motacilla grandis ◎
80.ビンズイ Anthus hodgsoni
81.タヒバリ Anthus spinoletta
 サンショウクイ科 CAMPEPHAGIDAE
82.サンショウクイ Pericrocotus divaricatus △
 ヒヨドリ科 PYCNONOTIDAE
83.ヒヨドリ Hypsipetes amaurotis ◎
 モズ科 LANIIDAE
84.モズ Lanius bucephalus ◎
 レンジャク科 BOMBYCILLIDAE
85.ヒレンジャク Bombycilla japonica
 ミソサザイ科 TROGLODYTIDAE
86.ミソサザイ Troglodytes troglodytes
ヒタキ科 MUSCICAPIDAE
(ツグミ亜科 TURDINAE)
87.ノゴマ Erithacus calliope
88.ルリビタキ Tarsiger cyanurus
89.ジョウビタキ Phoenicurus auroreus
90.ノビタキ Saxicola torquata
91.イソヒョドリ Monticola solitarius
92.マミジロ Turdus sibiricus
93.トラツグミ Turdus dauma
94.クロツグミ Turdus cardis ○
95.アカハラ Turdus chrysolaus
96.シロハラ Turdus pallidus
97.マミチャジナイ Turdus obscurus
98.ツグミ Turdus naumanni
(ウグイス亜科 SYLVIINAE)
99.ヤブサメ Cettia squameiceps ◎
100.ウグイス Cettia diphone ◎
101.オオヨシキリ Acrocephalus arundinaceus ◎
102.メボソムシクイ Phylloscopus borealis
103.センダイムシクイ Phylloscopus occipitalis ◎
104.キクイタダキ Regulus regulus
105.セッカ Cisticola juncidis ◎
(ヒタキ亜科 MUSCICAPINAE)
106.キビタキ Ficedula narcissina △
107.オオルリ Cyanoptila cyanomelana ◎
108.サメビタキ Muscicapa sibirica
109.エゾビタキ Muscicapa griseisticta
110.コサメビタキ Muscicapa latirostris ○
(カササギヒタキ亜科 MONARCHINAE)
111.サンコウチョウ Terpsiphone atrocaudata ◎
 エナガ科 AEGITHALIDAE
112.エナガ Aegithalos caudatus ◎
 シジュウカラ科 PARIDAE
113.ヤマガラ Parus varius ◎
114.シジュウカラ Parus major ◎
 メジロ科 ZOSTEROPIDAE
115.メジロ Zosterops japonica ◎
 ホオジロ科 EMBERIZIDAE
116.ホオジロ Emberiza cioides ◎
117.ホオアカ Emberiza fucata
118.カシラダカ Emberiza rustica
119.ミヤマホオジロ Emberiza elegans
120.ノジコ Emberiza sulphurata
121.アオジ Emberiza spodocephala
122.クロジ Emberiza variabilis
 アトリ科 FRINGILLIDAE
123.アトリ Fringilla montifringilla
124.カワラヒワ Carduelis sinica ◎
125.ウソ Pyrrhula pyrrhula
126.イカル Eophona personata ○
127.シメ Coccothraustes coccothraustes △
 ハタオリドリ科 PLOCEIDAE
128.スズメ Passer montanus ◎
 ムクドリ科 STURNIDAE
129.ムクドリ Sturnus cineraceus ◎
 カラス科 CORVIDAE
130.カケス Garrulus glandarius ◎
131.ハシボソガラス Corvus corone ◎
132.ハシブトガラス Corvus macrorhynchos ◎
(野生化種)
133.ドバト カワラバト(Columba livia)を家禽化したものが国内に持ち込まれ野生化したもの ◎


参考文献
(1)日本野鳥の会徳島県支部目録部 1988:徳島県鳥類目録 日本野鳥の会徳島県支部
(2)高野伸二 1981:日本産鳥類図鑑 東海大学出版会
(3)増谷正幸 1986:眉山の鳥類 徳島県自然保護協会調査報告第5号「眉山」 徳島県自然保護協会 p.11〜27
(4)増谷正幸 1986:石井町の鳥類 総合学術調査報告「石井町」 郷土研究発表会紀要第32号 阿波学会・徳島県立図書館 p.57〜79
(5)増谷正幸 1987:海部町の鳥類 総合学術調査報告「海部町」 郷土研究発表会紀要第33号 阿波学会・徳島県立図書館 p.93〜110


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