阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第34号
板野町の植物相

博物班 阿部近一・木内和美・真鍋邦男

1.自然概況
 板野町は、讃岐山脈の南面に拡がり、北西を鉢伏山(439.4)、大坂峠(392.6)の背稜を堺として香川県の引田町に接し、北東を標高286.8m、414.3m、277.1mの綾線によって、鳴門市と相連なる。南半は、吉野川の沖積地帯で、西部は上板町、東部は藍住町に接し、南部はそれらの地域を狭んで吉野川を控え、平地部の中央を宮川内川が流れて、下流は旧吉野川に合流する。
 本町の総面積は、36.14平方キロメートルで、森林面積は、1,878haに及ぶ。その地層は、山地部が和泉砂岩層で、山麓を中央構造線が東西に走り、平地部は沖積層からなっている。また、気象状況は、板東観測所測定の徳島地方気象台発表の10ケ年平均の気温や降水量をみると次表の通りで、年平均気温は16.0℃、降水量は1,368mmに過ぎない。これをみると、気温はかなり高いが、雨量は極めて少なく、日本でも屈指の寡雨地帯にあることがうかがわれる。また、土質が和泉砂岩層の砂質土で、しかも、讃岐山脈南面の傾斜地にあることから、かなり乾燥度の高い地域であることが推測される。したがって、山腹や山麓には、貯水用の溜池が各所に設けられ、ジョガマル池を始め、計12ケ所を数えることができる。また、平地には、宮川内谷川を始め旧吉野川の中、小流が、水田や田畑をうるおしている。


2.植物相の概観
 本町の植生を概観すると、アカマツ林が最も多く、また近年まで最も多かった。しかし、最近はマツクイムシの被害によるアカマツ(クロマツを含む)林の全面的枯死で、本町を含む讃岐山脈一帯の植物相は、著しくその景観を変えつつある。したがって、本町一帯に、優占したアカマツ林が、現在どの様に変貌しつつあるか、その潜在植生を踏まえながら、その推移の状況を見きわめる事は、極めて興味深いことでもある。
 先づ、その自然植生を考究すると、植物は、その生活活動を営むに、C5°以上の気温環境が必要とされている。したがって、前記気象表によって、吉良・川喜多両氏の提唱する「暖かさの指数」を算出すると、131.8℃となり、日本の植物帯からいうと、暖温帯の照葉樹林帯にあることを示す。さらに、本町(板東観測所に代表)のクライモグラフ(気候図表)を作製すると、次の通りである。


 この図表によって、年間の最高・最低月を結ぶ線が、X軸となす角をみると、57度で、勿論90°以内にあることから、日本の外帯、即ち表日本型であることを示す。こうしたことから、本町の植物相を推測すると、日本外帯型の暖温帯の植物分布域に当ることは明らかである。その樹林は、今日全く見る影もないが、唯一、大宮の八幡神社境内に残るものがそれを代表し、その昔を物語る唯一の代表的樹林と謂うことができる。
 かつては、本町もその全域がこの様な樹林であったが、長い歴史の間に木材資源として、或いは薪炭材として、伐採に次ぐ伐採が繰返される中に、乾燥と貧栄養に適応した陽生樹のアカマツが優占する樹林に置き代えられるに至ったものである。然し、自然は決してそうした不自然な営みを許すものではない。日本全土を襲ったマツクイムシの大発生がそれで、目下原植生の復元へと、その更新が進みつつある。しかし、こうした天然更新の途中相をみると、それは、潜在植生ともいうべき、シイ・カシを中心とした照葉樹林への移行ではなさそうである。即ち、現実は、アカマツ林に次ぐ、次の代償植生としてコナラ林の発達が各所にみられる、アカマツ林に次ぐコナラ林の発達、その途中相が、次の自然植生を担う現実の姿であるようである。


 元来コナラ林は、中間温帯によく発達する。自然植生では、山の標高に従って、常緑広葉樹林から落葉樹林へ、暖温帯林から冷温帯林(その代表はブナ林)へと移行する。その途中相に於いては、よくこのコナラ林(或いはクリ)が発達する。しかし標高の低い本地帯に於いて、何故こうした樹林が発達するのであろうか。誠に興味ある問題というべきである。
 本地帯の最高点は、標高439mの鉢伏山で、仮りに高度100mを増す毎に0.5°(或いは0.6°)の気温差をつくるとしても、その頂上の平均気温は13.8℃で、決して低温域であるとはいえぬ。本県では、中間温帯へと移行する標準高度は、凡そ500mと推定しているが、本地域(最高439m)では、まだまだその最下部にも達してはいない。その様な低山帯に、何故こうしたコナラを中心とした中間温帯林が発達しつつあるのであろうか。これこそは、誠に大きな関心事である。
 大坂峠道やまた大坂西谷地域では、アカマツ林やその後地の谷沿いに、モミの大木(周1.91m)やケヤキの大木(1.91〜1.59m)を到る所に散見するが、これらもまた、冷温帯によく発達する樹種である。この地域に、こうした種類の分布を見ることからしても、この地域が、そうした植物の分布を可能にする何かの要因のあることをうかがうことができる。)
 わが隣県の香川県は、本県に最も隣接するにもかかわらず、動植物の分布に於いて、本県とは著しくかけ離れた分布の様相を呈する事が少なくない。それは、香川県が讃岐山脈を境として、緯度的に若干北寄りにあるのみならず、安山岩的地質要因や、さらに本県の裏側、所謂ウィンターサイトにあるということも若干考えられないではない。したがって、本県に於けるこうした分布も、極めて興味深いものとして、正に特記すべきものと考えられる。
 また、山腹や山麓にある池沼を始め、低地を流れる中・小流には、特異な植物やまた池沼・河川地帯に普通にみる水草や水辺植物が多いが、このことも本町の一つの特徴といえる。
(1)ケヤキ林の残る西谷
 本町の標高が95mの、大坂字川向には、西谷川が流れている。その谷川に沿って、幹周150〜200cmのケヤキが点在し、また数本が林立して珍らしい樹林をつくる。その上部は、広く伐採が進んでいるが、その一帯に自生する植物を列挙すると、次の通りである。


高木類
 ケヤキ(周1.91、1.72、1.59m外)、アラカシ、エノキ、アカメヤナギ(周2.21m)
中高木類
 ヤマモモ、イヌマキ、モミ、ネズ、カゴノキ、ヤブツバキ、タラヨウ、ナナメノキ、ナラガシワ、アカメガシワ、コナラ、テリハコナラ、クヌギ
低木類
 マンリョウ、ヒサカキ、オオフユイチゴ、ナワシログミ、イヌツゲ、イヌザンショウ、サンショウ、キブシ、ナンバンキブシ、イヌビワ、ウシコロシ、ウツギ、コマユミ、ガマズミ、ナワシロイチゴ、オオバヤシャブシ
草本類
 コモチシダ、オオバノイノモトソウ、ホラシノブ、ホシダ、タチシノブ、クマワラビ、タチツボスミレ、ホタルカズラ、ミズヒキグサ、コヤブタバコ、コセンダングサ、ハダカホオヅキ、ヒメウズ、セントウソウ、オカトラノオ、コバノタツナミソウ、ヒヨドリジョウゴ、ヤクシソウ、シラスゲ、ヘビイチゴ、セイタカアワダチソウ、ボタンズル
(2)国道徳島引田線大坂峠筋の二次林
 大坂峠は、本県と香川県を結ぶ古い国道の峠で、その高さは標高261.3mにある。東谷から峠に至る道筋には、マツクイムシの被害によって枯れたり、或いは枯れつつあるアカマツ林が多くみられる。その跡には、コナラ林やクヌギ、ノグルミなどの広葉落葉樹が多くみられる。中でも、モミ、ナラガシワ、ケヤキ、ウリハダカエデなど、暖温帯から冷温帯への中間温帯に見られる樹林への混生が目立つ。県南とは、気温差がそう大きく変らないのに、その植物の景観が非常に異なる様相を呈している。


 またアカマツ林は、マツクイムシの被害によって、すでに多くの枯死跡をみるが、まだ残っている中には、特に、クロマツがいたる所混生し、中でも、アカマツとクロマツの自然雑種アカクロマツ(アイクロマツ)の点在が目立つ。この一帯は、峠を越すと、香川県の瀬戸内海に近接するため、クロマツが内陸部にも多く侵入するのかも知れない。また後述のウバメガシが多いのも、その一環と考えられる。
 また、アカマツ林の下部層には、モチツツジ、コシダ、ウラジロなどの群落がみられ、道路沿いの岩壁には、所々ウバメガシがよく繁茂する。ウバメガシは、貧栄養や耐乾性が強く、この様な内陸部まで入り込んで、その繁茂をみるのは、珍らしい分布といえる。
(3)鎧橋〜ジョガマル周辺の植物


 国道徳島引田線の鎧橋からジョガマル池に至る一帯はムク、エノキやヤマザクラ、ケヤキを含む雑木林がよく発達する。その主な植物を挙げると次の通りである。
高木類
 エゴノキ、ムク、エノキ、ヤマザクラ、ケヤキ
中高木類
 ヤブニッケイ、マルバアオダモ、コナラ、カゴノキ、リョウブ、ネズ、ヤマモモ、ノグルミ、アキニレ、ソヨゴ、ナナメノキ、ゴンズイ、ナラガシワ、ヤブツバキ、クヌギ、ハゼノキ
低木類
 ヤマコウバシ、カンコノキ、ネジキ、カマツカ、ヒサカキ、ウバメガシ、ネズミモチ、イボタノキ、ヤブムラサキ、ヌルデ、コバノガマズミ、ガマズミ、ウツギ、イヌザンショウ
草本類
 ウバユリ、チゴザサ、コシダ、ウラジロ、ベニシダ、ホシダ、ヒメジソ、タチドコロ、ヤイトバナ、ホソバヤイトバナ、カエデドコロ、クサスギカズラ、ホタルカズラ、シマカンギク、ヤマカモジグサ、オカトラノオ、ツルニンジン、ヤブマメ、トキリマメ、オトコヨモギ、ネコハギ、ヒヨドリバナ、オオフユイチゴ、シラヤマギク、アキノキリンソウ、シュンラン、ナツヅタ、ヤブマオ


3.社叢に残る自然林
(1)大宮神社
 JR大宮駅の近くに大宮神社がある。以前はずいぶん広大な樹林でおおわれていたようであるが、公民館の建設によって、その樹林が2分されるのみならず、目下もその伐採がみられる。それでも、その背後の樹林は、本町でも数少ない昔の自然状態を残す樹林として、高く評価されている。今その組成を調べてみると
高木層
 コジイ(周2.53m)、ヤマモモ(2.72)、アカマツ(1.23)、スダジイ(1.54)、ヒノキ(1.74)、スギ(2.75)
亜高木層
 タイミンタチバナ、ヤブツバキ、コジイ、サカキ、クロバイ、ヒノキ、モチノキ、マメヅタ
低木層
 コジイ、アラカシ、コムラサキ、シロダモ、ヒメユズリハ、カナメモチ、アセビ、モチノキ、イヌビワ、ヤブツバキ、トキワガキ、コバノガマズミ
草本層
 ヒサカキ、カクレミノ、ネズミモチ、タイミンタチバナ、サルトリイバラ、マンリョウ、クチナシ、クスノキ、コジイ、ヒメユズリハ、キズタ、イヌマキ、ミツバアケビ、マツラニッケイ、ムク、ツタ、ヒイラギ、ノブドウ、トキワアケビ、コバノガマズミ、ザイフリボク、ビナンカズラ、カナメモチ、ヤマウルシ、ヤツデ、フユイチゴ、ナガバジャノヒゲ、コシダ、コクラン、ギンラン、ヤブラン
などで、ほとんどが常緑照葉樹で占められており、暖地を代表せる社叢として、極めて貴重な樹林といえる。また、境内に広がるクマザサは、多分、古く栽植されたものと思われる。さらに境内の下部に残された樹林では、目通りの周が2.00mにも達するコジイが優先して、その樹冠を拡げ、その周辺には、ヤブツバキ、アカメガシワ、ネズミモチ、シャシャンボ、ヒイラギ、オンツツジ、イボタノキ、モチツツジ、アセビ、カクレミノ、ネジキ、リョウブ、ナツフジ、カナメモチ、ヤブムラサキ、ヤブコウジ、タイミンタチバナ、ヤマハゼ、モチノキ、ビナンカズラ、クスノキ、アケビ、イスノキ、ハゼ、ツクバネガシ、エノキ、ムク、イヌビワ、センダン、アオツヅラフジ、ヤダケ、カエデドコロなどの中・小木や草本が林内を埋める。


(2)伊田八幡神社
 伊田の八幡神社は、周囲が稲田に囲まれた独立の社叢で、面積も広いという程ではない。しかし、高木層から草本層に至るまで、安定した自然林で、本町では数少ないホルトノキ、カゴノキ樹林として、極めて貴重な暖地の社叢を残すものといえる。その組成をみると
高木層
 ムクノキ(周4.15m、3.65m)、カゴノキ(1.65)、ホルトノキ(1.51)、ナナメノキ(1.61)、クスノキ、クロガネモチ、ナギ
亜高木層
 ヤブツバキ、ヤブニッケイ、アラカシ、クスノキ、クロガネモチ
低木層
 コクサギ、ネズミモチ、アオキ、アケビ、ナンテン、イヌビワ、カラタチバナ、フヨウ
草本層
 ヤマアイ、ジロボウエンゴサク、カテンソウ、リュウキュウヤブラン、ヤブミョウガ、ヤエムグラ
 この外、一地域には、メダケの群落もみられる。
 この社叢の中に、僅かながらカラタチバナが赤い実をつけていたが、これは、県内でも数少ない分布で、よく自然の環境条件に恵まれた地域として、本調査のよい収穫の一つと考えられる。
(3)大日寺と地蔵寺
 四国霊場四番札所の大日寺は、その片隅にタラヨウ(モンツキシバ)が高く茂り、下部は、周、3.07m、2.98mに2岐するが、県下一を誇るタラヨウの巨樹ということができる。さらに、境内には、コヒロハハナヤスリが、地表の各所にその姿を現わし、県内でも珍しい分布を示す。
 また五番札所の地蔵寺は、山麓にあって、その境内がよく整理されている。しかし、参拝者の足を踏み入れない所には、よく自然が残されており、暖地にみられるミミズバイなどの自生も確認された。
4.河川、池沼の植物
(1)旧吉野川
 旧吉野川は、本町の上水道水源地付近で、宮川内谷川と合流している。板西療養所付近の河川敷には、栽植されたメタセコイヤ(2.10m他6本)ユーカリ(1.68m)が群生し、下部には、クズやカナムグラがこれを蔽う。また、スイバやイノコヅチの外帰化植物のメリケンカルガヤ、セイタカアワダチソウが勢いよく繁茂する。
 川岸には、カワヤナギ、アカメヤナギの点在や群生が見られる。川岸には、マダケ、ハチクが河辺を蔽う。また、水面は到る所ホテイアオイによって埋められ、カモの群れが静かに遊泳する。誠に風情に富む光景と言う外ない。さらに、水流中には、セキショウモ、ササバモ、マツモ、コカナダモなどの沈水性植物が流れに従い、オオフサモがそのよどみに繁茂して、ホテイアオイと棲分けている。


(2)宮川内谷川
 町の平野部のほぼ中央を東西に流れる宮川内谷川は、平時は水量が乏しく、流れのよどむ所が少なくない。こうした所には、ホテイアオイが大繁茂し、江川橋辺りでは、橋桁を中心にその浮葉が一面に水面をおおい、著しく水流を妨げている。
 堤防には、カラスノエンドウ、ノゲシ、コセンダングサ、ギシギシ、カナムグラ、ギョウギシバ、イヌトクサの外、ツルマンネングサ、アメリカスズメノヒエなど珍しい帰化植物もみられた。また、河岸には、ツルヨシ、メダケの群落もみられ、沈水性のイバラモは珍しい分布といえる。
 古城の黒谷川では、沈水性のイトヤナギモ、エビモ、マツモ、浮遊性のオオフサモがみられた。
 羅漢字吉田の小川では、マツモ、オオフサモ、エビモ、コカナダモなどの水生植物がそのゆるやかな流れにみられた。
(3)ジョガマルの池
 国道引田・徳島線の鎧橋下から、標高150mの山合いには、古くから利用されているジョガマルの池がある。溜池としては、県下でも広大なものの一つに挙げられる。深さはそう深くはなさそうで、水辺からゆるやかに深まり、土質はさらっとした沼である。そこには、浮葉性のジュンサイが全水面を蔽うている。県下では、極めて珍しい分布で、その群落は県下一。県内には、池田町の中津山山頂の池に、その群生をみるが到底この池に及ぶべくもない。この外、浮葉性のミズヒキモ、沈水性のスブタ、ホッスモ、浮遊性のノタヌキモなどが目立ち、挺水性のものでは、サンカクイ、ガマ、ヨシなどが南部の水辺の一隅に群生する。中でもノタヌキモは、川島町など県下でも珍しい分布を示し、ジュンサイとともに、この池の古さを物語る。


 水辺や湿地には、ヒメオトギリ、コケオトギリ、ミズハナビ、シンジュガヤ、エゾヒカゲノカズラが所々に群生する。
 この池は、周囲の樹林や、水質・水量・水深・水温・土質などの環境要因が、よく水生植物の繁茂を促し、県下でも貴重な水生植物の多産池となっている。従って長くこの環境を維持するよう望んで止まぬ。なお水中動物として、特にヒルが多く、淡水魚もいくらか生息するようであるが、この度は、珍しい二枚貝のトブシジミが確認されたことは、本調査の大きな収獲の一つといえる。
(4)中谷の池
 中谷には、県道をはさんで左右に池があるが、水草は生育しないようである。ただ、水辺には、海岸によくみるヒトモトススキが生育し、ヰ、ツボクサ、チゴザサ、オオテンツキ、ミズハナビ、ガンクビソウなどがみられる。またアカメヤナギの外、ネザサ、ゴキダケ、スダレヨシなどの笹類が珍しい。
(5)蓮華池
 徳島工業短期大学の近くにある広大な池で、水面には、浮葉性のヒシが一面に大繁茂する。岸辺には、ガマ、ショウブ、マツモの混生がみられる。
(6)松谷か池
 松谷か池は、水源の小谷から土砂の流入が目立たしい。沈水性のエビモの繁茂をみたが、水辺の湿地では、オオハリイ、ヒナガヤツリ、トキンソウ、オヘビイチゴ、イヌガラシ、アレチノギク、アゼムシロ、エノキグサ、ハシカグサ、チドメグサ、スギナ、アゼトウガラシ、サンカクイなどが群生し、中でも、ミズユキノシタの大繁茂がみられた。
(7)吹田の小池
 カワノ技研の横に設けられた。30坪程の小池ではあるが、そこには、ジュンサイの浮葉がみられ、水辺には、テンツキ一種、サンカクイ、ツボクサ、アキノウナギツカミなどが目立たしい。この池は、もう少し広いものであったが、近年工場の建設などで縮小されたらしい。ジュンサイやサンカクイなどは、古い分布を示すもので、小さいながら貴重な池といえる。
5.板野町の巨樹・老木


6.本町の帰化植物
キク科−オニノゲシ、ホウキギク、アレチノギク、ヒメムカシヨモギ、コセンダングサ、センダングサ、アメリカセンダングサ、ヒメジョオン、セイタカアワダチソウ、オオアワダチソウ、ヒメヒマワリ、ベニバナボロギク、ダンドボロギグ、チチコグサモドキ、オナモミ、オオオナモミ、オオアレチノギク
ゴマノハグサ科−オオイヌノフグリ
ナス科−タマサンゴ、センナリホオヅキ
ヒルガオ科−マルバアサガオ、マメアサガオ
アカバナ科−アレチマツヨイグサ、コマツヨイグサ、オオマツヨイグサ
アリノトウグサ科−オオフサモ
ミソハギ科−ホソバヒメミソハギ
アオイ科−タチアオイ、フヨウ
トウダイグサ科−コニシキソウ
ベンケイソウ科−ツルマンネングサ
マメ科−シロツメクサ、オオヤハズエンドウ
アブラナ科−マメグンバイナズナ
ナデシコ科−ムシトリナデシコ、オランダミミナグサ
オシロイバナ科−オシロイバナ
ヒユ科−イヌビユ、ホソアオゲイトウ
アカザ科−シロザ、ケアリタソウ
タデ科−オオケタデ、ヒロハギシギシ
アヤメ科−ニワゼキショウ、ヒメヒオオギズイセン
ミズアオイ科−ホテイアオイ
トチカガミ科−コカナダモ
イネ科−セイバンモロコシ、アメリカスズメノヒエ、ジュズダマ、カラスムギ、ネズミムギ、ナギナタガヤ、ヒメコバンソウ、キシュウスズメノヒエ、メリケンカルガヤ


7.特記すべき植物
(1)ジョガマル池の特異な水草
a. Brasenia schreberi J. F. Gmel. ジュンサイ
 スイレン科の浮葉性多年生の水草。根茎は地中を横走し、よく分枝するので、池一面に広がることが多い。本町のジョガマル池や吹田の小池に自生するが、特にジョガマルのものは、本県最大の群落である。県内には、現在池田町などに僅かに生き残るが、本ジョガマルのものは、分布的にも、群落的にも、極めて高く評価される。
b. Utricularia aurea Lour. ノタヌキモ
 浮遊性の食虫植物で、葉に多数の捕虫胞をつけ、夏秋の頃、花茎を伸ばして黄色の花を開く。県内には、川島町などの外、産地が少なく、本町のものは、その群生地として特記すべきである。
 ジョガマル池は、この外、サンカクイを始め、数多くの水草や水辺植物が生存するので、是非保護対策を講ずべきものと考える。
(2)Hemerocallis vespertina Hara. ユウスゲ
 ユリ科の多年生草本で、夏季の夕方淡黄色の大きな花を開く。県内では、牟岐町の大島や阿南市の伊島に見られる外、その産地が知れず、本町三軒屋の馬越池下の草原に僅かにこれを見るのは珍しい分布といえる。
(3)Stachys japonica Uigr. var. intermedia Ohw. イヌゴマ(チョロギダマシ)
 シソ科の多年生草本で、湿地に生える。県内には自生が少なく、本町の黒谷川南側水流沿いなどに稀に見られ、珍しい分布を示す。


(4)Ophioglossum petiolatum Hook. コヒロハハナヤスリ(フジハナヤスリ)
 ハナヤスリ科の小形なシダ植物で、高さ8〜20cmに過ぎない。県内には分布が少なく、本町四番札所の大日寺にわずかに生育するが、珍しい分布地として特記したい。
(5)Eguisetum ramosissimum Desf. var. ripense Tagawa タカトクサ
 トクサ科のシダ植物で、イヌドクサに比べると茎は非常に高く、1.2〜2mに達する。本町西中富の宮川内谷川堤にみられ、珍しい分布と考えられる。
(6)Najas marina Linn. イバラモ
 沈水性の一年生草本で、雌雄異株。茎や葉縁に刺をもつので、この名がある。本町大寺の旧吉野川に生えて珍しい。
(7)Pinus densi-thunbergii Uyeki アカクロマツ (アイクロマツ)
 アカマツ×クロマツ。本町の国道引田・徳島線の大宮から大坂峠に至る間には、アカマツに交わって到る所クロマツが混生する。また、その中には、両種の雑種と見られるものが多く目立つ。異なった景観といえる。
(8)大宮八幡神社のシイ林
 大宮八幡神社には、コジイ・スダジイを中心とした見事なシイ林がある。
戦前は、県下でも屈指の社叢であったが、戦後境内に公民館が建設されたり、また最近は、裏山の林内が伐り荒らされたりしている。何とかその保護と保存に努力されないものか、惜しまれてならぬ。
(9)伊田八幡神社のホルト・カゴノキの暖地性樹林
 本八幡神社の詳細は、社叢に残る自然林で述べたが、周4.15mのムクノキを始め、暖地を代表するホルトノキやクスノキ・カゴノキ・ナナメノキなどの巨樹の外、低層にはアオキ・コクサギなどがみられ、さらにカラタチバナの分布をみるなど、極めて貴重な社叢といえる。


(10)ケヤキとモミの分布
 Delkova serrata Makino. ケヤキ
 Abies firma Sieb. et Gucc. モミ
 この両種は、ともに冷温帯に広く分布するものである。それが、暖温帯の低山で、しかもやや海岸寄りの、本町の国道引田・徳島線の大宮上部、松浦開発工業砕石場の入口や、大坂西谷地域に分布して、その大木をみることは、極めて興味あることといわざるを得ない。
(11)Quercus aliena Blume ナラガシワ
 ブナ科の落葉高木で、コナラに比し、葉は非常に大形で、縁辺には波状か深波状の歯牙があるので容易に区別できる。本町の大宮一帯や犬伏地域にも見られるが、県下的には、そう多いものではない。
(12)Ilex latifolia Thunb. タラヨウ
 モチノキ科の常緑高木で、よく谷間に生える。葉面を火であぶったり、傷つけると黒変するので、モンツキシバともいう。四番札所の大日寺には、周3.07mの大木があり、県下一を誇る。
(13)Phragwites Karka Trin. セイタカヨシ
 (セイコノヨシ)
 セイタカヨシは、イネ科の多年草で、ヨシに似て稈はより高い。宮川内谷川の河岸に群生する。また、旧吉野川の河川敷にはオギ Miscanthussacchariflorus Benth. が生え、長い地下茎を出して群生する。ススキに似て、銀白色の大きな穂が風になびく様は実に見事で、古来よく詩材として詠ぜられる。


徳島県立図書館