阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第33号
海部町の読書と図書館要求

読書調査班

  棚橋満雄・新孝一・寺井素子・

  水上英俊・奥本博子・笠井祥子

I 読書環境
 海部町には図書館がない。公民館図書室があるが、蔵書数3000冊、年間増加冊数100冊(児童書は0冊)と乏しい。県立図書館から移動図書館(積載冊数2000冊)の巡回があるにしても、3カ月に1度、巡回地は公民館前の1カ所だけ、駐車時間1時間半、あまり便利な条件ではない。書店も1件しかない。隣の海南町の書店に行くことも多いようである。
 もっと細かく見て身近な場ではどうか。海部町は商業の奥浦地区、漁業の鞆浦地区、農業の川西地区という構成になる。教育委員会、役場、商工会、漁協、農協をたずねてみた。読書施設の面では、(教育委員会、役場は公民館図書室と同じ敷地内にあるが)どこも読書施設といったものはなく、その場に応じた専門書がいくらか並んでいるという具合だった。また、農家の人は農協が、というように健康診断や各種講習会などの世話をしているが、読書に関することはしていないらしい。
 組合でも家族でも、入手したい情報や興味のあること、知りたいことはあるが、その方法を知らないでいる。たとえば漁協では、水産試験場から資料を得ているが、海部町は捕獲する漁業が中心なのに対し、水産試験場では養殖などに関する資料が主で、知りたい情報が少ない、他にどこからか得るべきかも知らないという状況である。県立図書館には、官公庁をはじめ、多くの団体から、あらゆる方面の資料が送られてきている。海部の漁協のような専門的なことに直接答えられなくても、類縁機関名簿などから間接的なサービスができるのではないかと思う。
 こどもの読書環境について、学校、保育園をたずねてみた。海部中学校、東小学校、西小学校、双葉保育園、東保育園、西保育園である。(幼稚園はない)
 小・中学校には、それぞれ図書室があり、学校のある日は毎日、図書委員の生徒が昼休みに開室している。各クラスにも学級文庫を置いたり、読書の時間をとったり、読書指導に関する活動も行っているが、図書室を利用する児童は限られている。全国学校図書館協議会(SLA)では、学校図書館(室)の蔵書は、現在の多様な学習内容に応ずるため、学校の規模の大小にかかわらず、一定量を備えなければ機能をなさない、と基準を定めた。昭和52年の学校図書館数量基準である。その中の蔵書最低基準冊数と年間購入冊数、そして、蔵書数と予算の全国平均と県平均も出してみた。(表1〜3)蔵書数の全国平均がSLAの定めた最低基準を下回っている。これは、基準が高すぎるのではなく、全国的な水準が低いのである。海部町では、さらに少なく、一概には言えないが、やはり、こうした基準は、こどもたちにとって魅力のある学校図書館として機能するために必要だろう。


 3つの保育園には、1〜6才児がいる。保育室や廊下に本棚を置き、昼寝前、帰る前といった時間に先生が読み聞かせを行っている。図書購入費がないために、他からの捻出など、先生方が協力し、まかなっている状態である。

 

II 読書状況
 Iで、図書室など読書環境についてみた。次に、読書状況や図書館に関する意見・要望をみる。関係者に集まっていただいた座談会、移動図書館利用者の声、小・中学校生徒の家族に協力していただいたアンケートにより述べる。
1.座 談 会
 教育長をはじめ、公民館図書室・各学校・保育園、読書友の会、そして、海南町立図書館からも集まっていただいた。
 Iでみてきた小・中学校、保育園の問題点が中心に話された。
 保育園では、幼児は与えられる本を喜んで見るので、とにかくもっと本がほしいが、図書費がなく、苦心している。県立図書館から学校やグループに50冊単位で貸し出すサービスの説明があると、すぐに希望が出されたが、傷めることや紛失の心配からためらう声もあった。しかし、読まれるほど本が傷むのは仕方のないことであり、本は読まれるためにあるのだから、図書館としては利用される方が嬉しい。
 小・中学校では、児童の活字離れが言われているが、学校図書館を全く利用しない児童が赤川次郎の本なら数十冊も読んでいる、というような例がある。幼児と違って、読書に対しても多様な要求が芽生えてくるのに、学校図書館の本が借りられない理由として、
・読みたい本がない
・かたい本が多い
・(学校で好んで揃える)全集物はとっつきにくい
などがある。図書費や蔵書数も要因であるが、ここでは、選書が問題となった。図書室担当の先生がいるが、授業もあり、クラスも受け持ってでは時間的にも難しい。県立図書館のこども室で、利用度の高い児童図書のリストなど出してほしい、こどもの本の研究集会など主催してほしい、という要望が出された。
 幼児期から高校生までの学年別に読書量をみると、小学生>幼児>中学生>高校生という順に多く、小学校高学年、中学生から落ち込むようである。
 他に、海南町立図書館に対して、海部町民は利用できないか、といった質問が出るなど、関心が寄せられた。
2.移動図書館利用者の声
 県立の移動図書館をいつも熱心に利用している方に話を伺った。
 かなり以前から利用しているが、それ以前はほとんど友人との貸し借りで本を読んでいた。利用しはじめた頃は、古い本、かたい感じの本が多いと思い、興味がわかなかったが、読むうちに、広い範囲の本が揃っていることの良さがわかり、今ではおもしろくなっている。リクエスト・サービス(こんな本が読みたいと希望が出されたら、図書館では可能な限り準備しておく、という予約制度。)については、これまで知らなかった。ちょうど読みたい本が、海部町の手前の巡回地点で、先に借りられてしまうことがよくあったそうである。
3.アンケート
 毎年、この調査で行っているものの内容に2、3手を加え、対象者についても、各家庭でできるだけ2枚(保護者の男女)に回答していただくようにし、男女差もみられるようにした。男性149人、女性176人、合計325人に回答していただいた。集計・分析結果は次のとおり(表4)。


1  情報を得る手段としては、男女とも新聞、テレビ、雑誌の順に比率が局い。
2  県立図書館の利用状況は、直接来館する以外にさまざまな利用方法があるが、全く利用したことのない人が男女とも約8割。図書館は疎遠なものとなっている。
3  最近1カ月の読書は、全く読んでない人が男―63.8%、女―55.7%と過半数である。読んでいる人では、男性の場合、2〜3冊が多く、5冊以上の人も割合いるが、女性は、1冊が最も多く、あとは少なくなっている。
4  定期購読をしている新聞・雑誌。新聞については、1〜3紙を購読しており、約70%は徳島新聞を購読している。雑誌を購読している人は、2割程度。女性に比べて男性の方が多い。その内容は多様で、男性は一般的なもの、職業上のもの、女性は家庭生活に関するものが多い。
5  本を読む動機は、
(男)1「店頭で見て」2「新聞広告を見て」3「新聞・雑誌の書評を見て」
(女)1「新聞・雑誌の書評を見て」2「店頭で見て」3「新聞広告を一見て」
6  本を読む目的は
(男)1「趣味のため」「娯楽のため」3「職業上のため」となるが、ほとんど差はない。
(女)1「趣味のため」2「娯楽のため」3「子供の教育のため」となり、女性はやはり、子供の教育に熱心である。
7  本の入手方法は、「自分で購入」が男女とも8割以上、次に「友人から」、となっている。図書館などは少なく、自己負担が大きい。
8  図書館の蔵書についての希望は、
(男)1「スポーツ・娯楽」2「歴史・伝記・地理」3「農林・水産」
(女)1「家事・家庭・育事」2「保健衛生・健康」3「歴史・伝記・地理」
女性は、家庭関係のものへの関心が強い。
9  余暇の過ごし方は、
(男)1「ラジオ・テレビ」2「ごろ寝・休息」3「スポーツ」
(女)1「ラジオ・テレビ」2「買物」3「読書」
男性の4位が「読書」となっている。
10  図書館などの整備については、男女とも図書館設置の希望が約50%、公民館図書室の整備希望を加えると70%になる。読書施設の充実を望む人は多い。
11  自分の子供の読書について、男性では、
「自主性にまかせる」という人が約70%。他に、「学校図書館の利用をすすめる」とか「本を買い与える」となっている。女性では、「自主性にまかせる」と「学校図書館の利用をすすめる」とが、半々である。やはり、女性(母親)の方が子供のことに積極的である。

 

III まとめ
 読書環境としては、貧しい状態と言わなければならない。それでも、読書に対する欲求がないのではない。公民館図書室や県立の移動図書館を熱心に利用し、期待を寄せている人がいる。身近に読書施設がなくても、月に一冊でも、書店で買ったり友人に借りたりして、本を読んでいる人が多い。読書施設が充実すれば、密度の濃いサービスが得られる。読書の幅も広がり、情報を得るための仲介にもなる。
 県立図書館では、「図書館とはどんなものか」「図書館では何ができるか」が誤解されていたり、知られていなかったりしたことから、PRの必要性をあらためて認識し、今後の改善に生かしていきたい。(実際、調査を行った7月から後の巡回の時までに、学校への配本等、手が加えられた。)
 学校図書室や保育園にしても、図書館(読書)の果たす役割に対する理解が増せば、改善されやすいだろう。
 この調査が、今後の海部町の読書振興や図書館活動に、役立つことを期待して結びとする。


徳島県立図書館