阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第33号
海部町・海南町住民の栄養調査

医学班

  吉岡あや子・久木野憲司・戸羽正道・

  小林直道・原田千春・内村直子・

  大江律子・斉藤雅美・佐野弘子・

  寺井弘美・松岡千誉美・松岡理佳・

  村上五月・水沼俊美・鈴木和彦・

  浦美恵子・小川久子・森口覚・

  岸野泰雄

 われわれ医学班は阿波学会総合学術調査の一環として、農村医学班の健康調査と並行して、海部町・海南町住民の栄養調査を実施した。海部町・海南町は、徳島市の南東約90kmに位置し、東は太平洋に面し西は四国山地の一部に属し、産業は主として漁業、農業、林業が中心に行われている。
 今回は食物摂量、生活時間、味噌汁塩分濃度およびアンケート調査を実施し、興味ある結果を得たので報告する。


 <調査方法>
1) 対 象
 徳島県海部郡海部町(川西支所)および海南町(海南、川上両支所)の農協に加入している農業従事者のうち107名(男64名、女106名)について下記の調査を実施した。年齢は31から80才、平均年齢(男)55.5才、(女)54.3才であった。
2) 期 間
 昭和61年7月22日から25日までの4日間にわたり実施した。
3) 調査項目
 a) 栄養摂取量
 調査を行う数日前に食事調査表を各自に配布し、調査の前日に摂取した食物の種類と目安量を記入してもらい、調査日に持参するよう依頼した。調査日には個々の面接により食品モデルを提示しながら、各自が記入した食品目安量を調査員が再確認したうえでグラム数に換算した。栄養摂取量および食品群別摂取量などの算定には、徳島大学情報処理センターのコンピューター・FACOM・M360を使用した。
 b) 生活時間調査
 食事調査日の生活時間を記入してもらい、面接時に調査員が不明瞭な点を再確認し、生活時間の算定を行った。消費エネルギーの算定は、沼尻らの方法に従った。
 c) みそ汁の塩分濃度
 日立・堀場社製の食塩濃度計によりみそ汁の塩分濃度を測定した。
 d) アンケート調査
 栄養意識と食物摂取頻度調査には各アンケート用紙を各自に配布して記入を依頼し、面接時に調査員が不明確な点を再確認した上で回答を整理した。調査表の作成に当って山上ら、藤沢ら、細谷らの方法を参考にした。


 <結果および考察>
1) 食糧構成(図1)
 食品群別摂取量を59年度国民栄養調査を100%として比較した。穀類、いも類、菓子類、卵類、淡色野菜、海草類はほぼ国民栄養調査結果と同じであった。油脂類、肉類、牛乳、乳製品は低く、それに反し魚介類、豆類は高い摂取量を示した。特に高い摂取量を示したものは緑黄色野菜であった。
2) 年齢別にみた食品群別摂取(図2−図8)
 食品群別摂取量を同じく59年度国民栄養調査を100%として比較し、年齢別に示した。
 穀類についてみると、男が全年齢を通じて摂取量が高く、女では30代が高く、それ以上の年齢ではほぼ基準値であった。いも類では、40代女を除き全体的に低い摂取量を示していたが、男に比べ女が高い傾向を示した。菓子類は、40代で高い摂取を示し、特に女に著しかった。油脂類については、全年齢、男女ともに低く、特に50代以上では50%以下であった。豆類は、一般に高い摂取量を示した。魚介類については、30代以外、全体的に高い摂取量を示し、特に男にその傾向が強かった。肉類は、逆に30代に高く、それ以外の年齢で低い摂取量を示した。卵類については、全年齢・男女とも高く、特に30代で高い摂取を示した。牛乳・乳製品は、全般的にやや低い傾向にあったが、ほぼ充足していた。淡色野菜についても、ほぼ基準値に近い値を示した。緑黄色野菜については、全体的に高い摂取量を示した。果実類は、1.5ないし2倍の高い摂取を示した。海草類については、30代、40代でやや低いが、50代・60代で高い摂取を示した。
3) 栄養摂取量(図9−図17)
 住民が1日に摂取した栄養摂取量について栄養所要量を100%として、その比率で示した。たん白質はやや高い値を示したが、脂肪および脂肪エネルギー比は低い値を示した。その他の熱量、カルシウム、ビタミン類は、男女とも所要量を充たしていた。次に年齢別に栄養所要量との比率を示した。まず熱量についてみると、各年齢を通じて所要量を充たしていた。糖質エネルギー比は、ほぼ全年齢を通じて基準値であったが、脂肪エネルギー比は、全年齢とも低い値を示した。たん白質は、各年齢とも栄養所要量をかなり上回っていたが、動物性たん白質においては栄養所要量とほぼ同じ値を示した。脂肪については、全年齢、男女ともに所要量をかなり下回った。また動物性脂肪においても同じ傾向がみられた。ビタミンAについては、ほぼ充足していた。ビタミンB1についても同じ傾向にあった。ビタミンB2についても各年齢層で充足していた。ナイアシンについても同じ傾向にあった。ビタミンCについては、所要量の約2倍以上の値を示した。カルシウムについては、30代の男女について低い値を示したが、その他の年齢ではほぼ充足していた。鉄については、30代女に約 1/2 の値で低値を示した以外、ほぼ所要量を充たしていた。
4) エネルギーバランス(表1)
 生活時間調査より推定した消費エネルギー値と食物摂取調査より得た摂取エネルギーとの比率をみてみると、いずれも1.05および0.95で、男女ともエネルギー出納はバランスがとれていた。
5) みそ汁の塩分濃度
 みそ汁の塩分濃度を測定し、その濃度の度数分布を図18に示した。1.0〜1.2%の濃度が、最も多いが、男においては1.2〜1.4%の濃度もかなり多く、塩分濃度の高いみそ汁を摂取していることがうかがわれた。
6) アンケート調査(図19)
 食習慣の調査についてみると、食事の組み合わせについての意識は、男の場合より女の方が高く、気を配って食事をしていると考えられた。みそ汁は、辛いと思う人が案外少なく、むしろ辛くないと思っている人が大半を占め、実際のみそ汁塩分濃度が1.2〜1.4%と高い値を示したことから、住民の塩辛さに対する味覚の変化をも含めて、塩分摂取に対する栄養指導が、十分に行われる必要があろう。


 <ま と め>
 夏期のみの調査であるが、熱量については過不足なく、エネルギーバランスもよくとれていた。各栄養素別にみると、たん白質の摂取量は高く、主として魚介類や豆類からの摂取によるもので、肉類は低い値を示した。油脂類の摂取は低く、それは脂肪摂取量の低値に反影されているが、油脂を用いた調理が多くなっても良いと考えられる。カルシウムおよび鉄の摂取量がいずれも30才代において低値を示したが、特に女での鉄の不足が目立った。最後に摂取しているみそ汁塩分濃度は比較的高いものを摂取しているにもかかわらず、各人は辛いと考えておらず、この点を十分念頭にいれながら食生活の改善をはかる必要があろう。


<文  献>
1)手塚朋通ら:脇町地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、19、57、1973
2)高橋俊美ら:宍喰地区住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、20、73、1974
3)中西晴美ら:上勝町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、21、103、1975
4)上田伸男ら:神山町の栄養調査、郷土研究発表会紀要、22、191、1976
5)鈴木和彦ら:牟岐町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、23、143、1977
6)山本 茂ら:山城町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、24、131、1978
7)鈴木和彦ら:市場町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、25、123、1979
8)森口 覚ら:池田町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、26、183、1980
9)高間重幸ら:上板町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、27、79、1981
10)黒田耕司ら:貞光町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、28、151、1982
11)角田みどり:鷲敷町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、29、131、1983
12)河村純夫ら:鴨島町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、30、83、1984
13)近藤孝司ら:羽ノ浦町住民の栄養調査、郷土研究発表会紀要、31、87、1985
14)沼尻幸吉:エネルギー代謝計算の実際、第一出版 1978
15)鈴木 健ら:公衆栄養、医歯薬出版、1981
16)厚生省公衆衛生局栄養課:昭和59年改訂日本人の栄養所要量、第一出版、1984
17)藤沢良知ら:栄養指導ハンドブック、第一出版、1978
18)細谷憲政ら:公衆栄養活動の展開、第一出版、1977
19)森口 覚ら:農業従事者(徳島県下)の栄養摂取と身体状況、栄養と食糧、33、No.5、335〜341、1980


徳島県立図書館