阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第33号
海部町の植物分布について

植物班 阿部近一・木内和美

1.概 況
 海部町は県南に位置し、北は海南町、西と南は宍喰町と接し、東は大平洋に面した町で、海岸線は短く、東西の奥行きも、わずか8km余りの狭い面積の町である。


 国道55号線添いの明現山・城山の周囲に広がる奥浦・鞆浦が町の中心となり、母川の上流に開けた川西地区は静かな農村地帯を形成している。
 本町を取り囲む山々は、鈴が峯(395mを始め400m余りの山が最高であるが、山が深いことと二次林である杉・ひのきが早くから植林され、これらの需要の伸び悩みから伐採適齢樹がおい茂り、保水力を助けているため母川は年中水量に富み、速い流れとなっている。


 年平均気温は17℃を越え、年間降水量も3,000mmを越すため、県北と比べると、高温・多湿・多雨で、その上、16℃の亜熱帯性植物分布限界線に包まれていることもあって、それ等が植物分布の上に大きく影響している。アコウ、ミサオノキ、コバンモチ、オガタマノキ、ヒロハミミズバイ、サザンカ等を始め、世界の北限の自生地となっているヤッコソウ等の亜熱帯性植物の分布が多く見られ、本県の暖地性植物を知る上からも見逃すことのできない町である。

 

2.河川・休耕田に見られる植物
1  母川と支流
 町の中央を母川が流れ、馬路川、居敷川、西敷川、外谷川、槇山川、馬場川など多くの小谷から母川に注いでおり、母川の流れは、海部川の川口で海部川と合流し、大平洋に流れこんでいる。母川橋の下には、沈水性のササバモ、ヤナギモ、フサモ、セキショウモが急流に揺れながら繁茂している。また挺水性のコウホネの群生やミクリが流れのゆるやかな所や川岸に広い面積を占めている所もある。野江川・居敷川の流れのよどんだ所に、オグラコウホネが浮葉しており、セキショウモと混生している。富田の河川改修された用水には、ホソバミズヒキモがわずかながら浮葉し、ナガエノミクリ・フサモも見られ、川岸には、マコモの群生が見られた。
2  櫛川の溜池
 古くから灌漑用として利用されて来た溜池で、櫛川の溜池と呼んでいる。面積は約2,400平方メートル位の山麓に造られた池である。用水の整備と共にその用がなくなり、今では逸出したハスが一面におおい岸辺には、マコモ・ショウブ(サトイモ科)が生え、浮葉性のヒシが水面をおおい、その下に沈水性のイトヤナギモ・タヌキモが生育して、食用ガエルの住む落ちついた池となっている。数百株あるタヌキモの中で一株だけが長い花茎を水面から出し、黄色の花を咲かせていた。


3  休耕田と湿田
 母川の流域には、肥沃な稲田が広がり、やや谷川にはいった所には、減田政策の影響を受け休耕田がふえている。長い間放置された休耕田には、特異な植物の分布も見られる。馬場谷、松木谷、富田、大井、靹浦の休耕田には、背丈程あるカサスゲが一面におい茂りカンガレイ、セリ、チゴザサ、ホタルイ、ヤマイ、ミゾソバ、コシロネ、コウガイゼキショウ、ヤノネグサ、チョウジタデ、ヌマトラノオ、キツネノボタン、ヒメクグ、アキノウナギツカミなどの混生が見られる。中でも松木谷のミズトラノオは珍しい。
 絶えず水のよどんでいる湿田には、コナギ、ヤナギスブタ、トリゲモ、キクモ、ミズオオバコ、タヌキモ、ハリコウガイゼキショウ、シカクイなどの水生植物が見られた。
 野江の北面の山側で、冷たい谷川の湧水が流れる所には、ヘラオモダカ、オオミズゴケがやや広い面積にわたって自生している。県下では、比較的標高のある湿原に見られるが、暖地の本町にその自生をみるのは、分布上おもしろい。
4  河川敷
 河口に近い母川河川敷には、ツルヨシが縦横に根茎を伸ばし、秋ともなれば、長い穂を川風になびかせている。アカメガシワ、クサギ、ウツギなどの樹木やツユクサ、イヌクグ、ヨモギ、ヤブジラミ、アカネ、カヤ、ヘクソカズラ、ツルマメ、ヤブマメ、カラスウリ、カナムグラ、イタドリ、ウシハコベ、オオアレチノギク、アキノノゲシ、コセンダングサ、ヒメジョオン、オオバコなどや帰化植物のキダチコンギクが貧栄養、乾燥に耐えながら生えている。一部の湿地には、珍しいコガマが群生し、またオギは根茎を地下に縦横させ、その未端から茎が直立し、ススキより大きく密な花穂が陽光を受けて、秋風に揺れている様は、秋の風物詩となる。
5  馬場谷
 母川の上流の谷で杉、ひのきの二次林でおおわれているが、南面の斜面には、一部雑木林があって、それを利用して昔ながらの炭焼が行われている。海部郡では、この櫛川(山本さん)と宍喰町の2か所だけが、毎年10月から3月まで炭焼として残されている由。
 雑木を伐採する方法として牟岐、日和佐などでは、択伐といって手首以下の太さはそのまま残し、次に伐採できるまでの間を短くし、赤松の侵入を防ぎやせ地にならない方法をとっている。ところがここでは、伐採し易いという理由で皆伐即ちすべてを切り、その中から必要なものだけを利用する方法をとっているとのことだった。
 集められた薪炭材の種類を見せてもらうと、7割位がアラカシで、次にウバメガシ、ネジキ、ヤマザクラの順であった。アラカシ、ウバメガシは、薪炭材としてその質が一番よく、白炭としてかつては盛んに阪神方面に積み出された。その焼き方は、1,000〜1,100℃で約13日間焼き、それを取り出して灰をまぶして24時間かけてひやす方法をとっている。アラカシ、ウバメガシ以外の雑木は黒炭焼きで、火を止めるとかまの中で自然に冷えるまで待って取り出す方法である。

 

3.社叢と自然林
1 轟大明神


 居敷谷は居敷峠を越えると那佐湾に通ずる谷で、峠の標高は、200m余りだが成長した二次林でおおわれ水量も豊かな谷である。幅2m程の道がとぎれた所に轟大明神の鳥居がある。その奥に小さな祠が祀られ、左側に落差6m程の瀧がある。その祠は、イスノキが優占する次の様な樹林で囲まれ、落ちついた森となっている。その組成は次の通りである。
( )中の数字は目通りの幹の周囲
高木層
 杉(325)、ヤマザクラ、イロハカエデ(118)、イスノキ(165、129、103)、ヤマモモ(181)、アラカシ(118、106)、コジイ(113)、ツクバネガシ(289、131)
亜高木層
 イスノキ(優占)、アラカシ、ツゲモチ(174、89、65)、ツクバネガシ、ネジキ、サカキ(52)、カナメモチ(46)、オンツツジ(33)
低木層
 オンツツジ、タブノキ、カマツカ、ウンゼンツツジ、ヒノキ、イスノキ、サカキ、アセビ、ヤブツバキ、シロバイ、ホンシャクナゲ、コジイ、ルリミノキ(優占)、センリョウ、カナメモチ、ヒサカキ、モッコク、イズセンリョウ、ネズミモチ、ツゲモチ
草本層
 ヤブコウジ、シロバイ、ルリミノキ、ベニシダ、トウゲシバ、タカサゴキジノオ、ヤマビワ、シシガシラ、アリドウシ、ナツフジ、シュンラン、ミヤマノコギリシダ、オオキジノオ、ツルコウジ、イタビカズラ、ミゾシダ、ヒトツバ、サカキ、コジイ、タイミンタチバナ
 山ふところに抱かれたこの社叢は、ひときわ目立つ太い樹はないが、平均した太さで各層をおおっており、樹種と株数が多い。中でも、暖地のツゲモチは、目通りの幹の周囲が174cmに達し、それを中心に、10株程の群生が見られた。これは、県下でも珍しい群生地として、本調査の大きな収獲の一つといえる。また、海岸から数kmの距離で、しかも標高80m位のこの地にホンシャクナゲの群落をみるなど、まことに貴重な社叢といえる。
2  芝の森
 高園、芝、野江地区の氏神さんとして信仰されてきた芝の森は、海部川の堤防添いに安定した森を形成している。本町では最も巨樹老木の多い森で、よく保存されている。
 その組成をみると
高木層
 クスノキ(359、269、226)、ムク(413、437、282)、スギ(412、395)、ウラジロガシ(228、140)、タブノキ(320、238)、モウソウチク
亜高木層
 ウラジロガシ、アラカシ
低木層
 ヤブニッケイ、イヌマキ、モッコク、アラカシ、アオキ、ヤブツバキ、イヌビワ、ミサオノキ(45)、ネズミモチ、ハマクサギ、ムクロジ
草本層
 ネズミモチ、イズセンリョウ、ヤブツバキ、ムサシアブミ、ベニシダ、フモトシダ、ヤブコウジ、ヤブラン、ヒサカキ、シュロ、ナガバジャノヒゲ、シロダモ、ミズヒキ、キズタ、ツタ
 独立した森で、風通しがよく乾燥している。ミサオノキの周45cmは、県下一の太さと考えられる。毎年花、実をつける。
3  杉尾神社
 櫛川地区の氏神神社として、戦時中は武運長久を祈願して特に崇拝されてきた。稲田に囲まれた山麓の杉尾神社は、コジイを中心とする社叢で、珍稀な植物が多数宝蔵されている。中でもヒロハミミズバイ・サザンカは本県唯一の自生地で、分布の北限と考えられる。
高木層
 コジイ、ツクバネガシ、ヤマザクラ、スギ、イヌシデ
亜高木層
 イスノキ、ヒロハミミズバイ、サザンカ、ハゼノキ、ツゲモチ、サカキ、シロバイ、ヤブニッケイ、カナメモチ、ネムノキ、ヤマビワ
低木層1
 ヒロハミミズバイ、アセビ、サカキ、コジイ、ヒサカキ
低木層2
 オンツツジ、マツラニッケイ、モチノキ、シロダモ、ネジキ、ヒロハミミズバイ、シロバイ、サザンカ、カンザブロウノキ
草本層
 センリョウ、カンザブロウノキ、コジイ、コシダ、ヒサカキ、ベニシダ、マルバウツギ、ルリミノキ、サザンカ、シュンラン、ヤブニッケイ、カナメモチ、ツチトリモチ、キジノオシダ、マンリョウ、ササクサ
4  明現神社
 町の中心にあり、商店街に囲まれた独立した小山で、憩いの場となっている。標高は、約50m位で、頂上は明現神社の境内となっている。シイの優占する社叢で、戦後台風で北面の樹木が多数折れて倒れたため、伐採されて桜並木となり、桜の名所となっている。社殿の背後と南斜面に古い植生が見られ、貴重な樹林が残されている。その組成は
高木層
 コジイ、スダジイ(331、296)、コバンモチ(187)、クスノキ、スギ(334)、イヌマキ、ヤマモガシ
亜高木層
 イスノキ(145、120)、ヤブツバキ、ヤマビワ、タブノキ(296)、タイミンタチバナ、ヤマモモ、コジイ
低木層
 タイミンタチバナ、ミミズバイ、ルリミノキ、センリョウ、ミサオノキ、オガタマノキ(55)、ヤマモガシ、コジイ、サカキ、タブノキ、ツゲモチ、コバンモチ、モッコク、ヒメユズリハ
草本層
 ヤッコソウ、ミミズバイ、ベニシダ、アリドウシ、コジイ、イヌビワ、ヒトツバ、カナメモチ、ルリミノキ、ヤマビワ、イヌマキ、ハナミョウガ、ヤブツバキ、センリョウ、タイミンタチバナ、ササクサ
 シイの林下には、11月上旬からヤッコソウが発生する。暖地性の樹種が多く、県下でも珍しい社叢の一つである。独立した丘陵で、乾燥が強いため、低木、草本層の発育はよくないが、ヤッコソウの世界の北限地として、天然記念物の指定を受けている。


4.小島
 小島は、手倉の湾から150m程の洋上にあって標高50m、周囲約800m位の小島で、スダジイ、モチノキ、ヒメユズリハなどを中心とした照葉樹林でおおわれている。戦後魚付き保安林として保護せられて、豊漁を祈願し、頂上に祠が祀られている。スダジイの林下には、毎年ヤッコソウが多数発生し、植物学上からも貴重な位置にある。参考のためその植物を列挙すると、ミミズバイ、スダジイ、マツラニッケイ、イヌビワ、テイカカズラ、ヒメユズリハ、クスノキ、サカキカズラ、シロダモ、ヤマモガシ、サルトリイバラ、ツルグミ、イヌマキ、アリドウシ、ヤブツバキ、モッコク、ヤブコウジ、センリョウ、ネズミモチ、ホソバイヌビワ、ムベ、タブノキ、ヤマウルシ、スダジイ(230、100)、コバンモチ(35)、マンリョウ、カクレミノ、ハゼノキ、オガタマノキ、ヤツデ、モチノキ、タイミンタチバナ、ヒサカキ、マサキ、ハマヒサカキ、ナワシログミ、サネカズラ、テリハノイバラ、クロマツ、ナガバジャノヒゲ、ヤブラン、キシュウスゲ、ヒトツバ、ベニシダ、ハマナデシコ、ハナミョウガ、クズ、ムサシアブミ、ヒロハテイショウソウ、タチドコロ、ツワブキ、ヤイトバナ、イタドリ、ハマアザミ、アゼトウナ、ナンカイアオイ
 特に離島性はないが、天然記念物に指定される牟岐町津島に勝るとも劣らぬ代表的な照葉樹林が自然そのままに生育し、ヤマモガシ、コバンモチ、オガタマノキの外ヒロハテイショウソウやナンカイアオイをはじめ、特に世界の北限ヤッコソウが隔離的に保存せられることは貴重な分布といえる。


5.海岸線に見られる植物
 本町の海岸は、砂浜がほとんどなく、断崖が海に迫って、所謂岩山海岸となる所が多い。それらの岩壁にはクロマツやウバメガシの外ハマヒサカキ、マサキ、マルバシャリンバイ、ソヨゴ、ハマキイチゴなどの小木や、ツワブキ、アゼトウナ、シオギク、ホラシノブ、ハマホラシノブ、オニヤブソテツ、イシカグマなどの草本がよくみられる。また小島などでは、ヒロハテイショウソウやキノクニスゲの群生が見られて珍しい。


6.特記すべき植物
(1)暖地性の樹木
1  ヒロハミミズバイ(ハイノキ科)
   四国・九州(日向、種子島、屋久島)一琉球に自生する樹木で、県下では杉尾神社が唯一の自生地。葉は狭長楕円形で厚く硬い。花は11月下旬頃に径8〜10mmで、白色の無梗の小花が葉腋に集まってつく。
2  サザンカ(ツバキ科)
 九州・四国の山中に自生する小喬木で、ヒロハミミズバイと同様杉尾神社が唯一の産地。大小50本余りを数え、10月頃から咲き花弁は白色で5個、園芸品には形、色の変異が多い。
3  アカメヤナギの群落
 川岸や湿地を好んで生える。赤芽柳の意味で、若葉が紅色を帯びるからである。他の柳と比べると葉が広く円いからマルバヤナギともいう。蟹谷橋の下流に大群落が見られる。
4  ミサオノキ(アカネ科)
 操の木の意で、他の色の中に生えても常に青々として色が変わらないので、操の堅固なことにたとえ名がついた。暖地性の常緑低木で高さ約3m、葉は短かい柄があり対生。夏に多くの花が集まる短い集散花序を、葉と対生して枝の横に出し、1節置きに葉より短い約16mmの黄色の花を平開する。核果は秋に赤褐色、のち黒熟し翌春まで残る。
5  ヤマモガシ(ヤマモガシ科)
 暖地に生える常緑樹で葉はよく茂げる。枝は紫褐色、葉は上半部に荒いきょ歯があるか、あるいは全縁で、若い葉は明瞭な荒い刺尖きょ歯があり、革質で無毛、夏に葉腋から10〜15cm位の総状花序を出し、多数の柄のある白花をつける。
6  ビロウドイチゴ(バラ科)
 四国では、本町と高知県にのみ自生する落葉低木。全体にもうせん状の短毛が密生しているので、手にふれると滑らかな感じがする。茎にはとげが散生する。3月末から下向きの花を小枝に1個つける。花は白色、がく裂庁は5個、内外両面ともにもうせん状に短毛がある。
7  マテバジイ(ブナ科)
 ツブラジイとスダジイを総称して単にシイと呼ぶが、マテバジイはシイより南方系の樹木で、葉は多く繁り、葉質は厚く大きい。堅果は翌年の10月に成熟し、褐色で堅く2〜2.5cmくらいでシイよりはるかに大きい。県下唯一の産地。庭園木として利用されている。


(2)珍しい寄生植物
 1  ヤッコソウ(ヤッコソウ科)
 全体が乳白色で、鱗片葉の開いた姿は奴のそでを広げた姿に似ているので、ヤッコソウと名づけられた。ヤッコソウはヤッコソウ科で、シイの根に全寄生する一年生の草本である。
 明治40年、高知県清水町で発見された。本県では、昭和9年海部町奥浦の明現神社で発見されてから、城山、小島、宍喰町の鈴が峯の頂上附近一帯、久保の八坂神社裏山にも自生が確認された。世界には、台湾、カンボジヤ、メキシコ、スマトラ、ボルネオ、パプア、ニューギニアなどで6種類が発見されており、いずれも熱帯性のものである。その内の一種が日本に自生し、本県は世界の北限の産地として、分布上貴重である。
 ヤッコソウの発生時期の条件として湿度と気温があげられる。平均気温は、17℃〜20℃が適温とされ、湿度が低く乾燥した状態になる11月上旬頃発生する。シイの根に人工的に接種を試みられたが今だに成功した例がない。それだけに限られた地域、限られたシイノキにのみ発生する。寄生主の根の太さは多少違うが、人の指位の太さのものが多いようだ。寄生した部分には、更に細い根が多数つき、養分などの供給を盛んにしている。1本のシイノキに寄生する個体数は、まちまちだが多い樹で1,316個、少ない樹で673個を数えた年もあった。昭和59年、60年と大発生を確認した小島、明現神社が61年には、皆無の状態であった。その原因は何かさだかでない。


 ヤッコソウは、変わった形態をしている。そこで主な体の部分とはたらきについて説明する。
イ、根茎 発生の初期に寄生主植物の皮層部分に豆粒のようにふくれあがった部分ができ、その頂の部分に割目が生じ、やがてヤッコソウが生まれる。その皮層部分が根茎で茎をささえる。
ロ、鱗片葉 葉の退化変形したもので乳白色をしており、葉緑体がないので光合成できないから寄生主から養分など全てもらう。鱗片葉は茎に4〜6対対生して、上になる程大きい。
ハ、花被 花弁とがくの両者を花被という。花被は子房の外側にぴったり密着してすっぽりおおっている。これが花弁とがくの変形した花被である。花被の成長は、鱗片葉が左右にそりかえって奴の姿になるまで続く。
ニ、受粉 めしべの柱頭におしべ筒がすっぽりかぶさっている。この時期をおしべ期という。花被の成長が止まるとおしべ筒と花柱との境目に離層ができ、おしべ筒はやがて落下する。その後にめしべの柱頭と花柱が姿を現わす。この時期に密を親ってくる小鳥、虫などによって受粉が行われ、受粉がすむとめしべの柱頭の部分だけ黒化していく。
ホ、果実期 受粉しないヤッコソウは、鱗片葉など全体が黒化してしぼんでいく。受粉したものは子房の部分が肥大を始める。果実が熟してくると、子房と花柱との境に離層ができ、やがて上部が落下し、内部から粘液性に包まれた種子が押し出されるようにして出てくる。この無数の種子が次の世代を作るのにどういう役を果たすのか、果たさないのか未だ不明である。ではどのようにして発生するのか一説として、1年生であるヤッコソウが枯れた時、ヤッコソウの根端の細胞が一部残る。それが核分裂を繰り返しながらシイノキの根端に向って移動する内に、次の世代になるものが生まれて、皮層の一部が盛り上ってくる。そうなるまでの期間が4〜6年かかるのではないかという説もある。ヤッコソウの発生についてはわからないことが多い。
 2  ツチトリモチ(ツチトリモチ科)
   ハイノキ属の根に寄生する。根茎は肥厚粗大で、大小不同の球状塊に分裂し、淡黄褐色で、これから鳥もちを作る。橙赤色の肉質鱗片上に濃赤色の卵状楕円形をした赤穂が1個つく。雄株は未だ発見されていないが、種子は単性生殖によってできる。
(3)腐生植物
 1  ホンゴウソウ(ホンゴウソウ科)
   南方系の葉のない多年生草本で、樹かげの枯葉の間にはえ、紫色の小形で高さ約5cmの小草本。夏から秋にかけ開花し、小形で紫色の総状花序をして茎に頂生する。雌花は多くの子房が集まりまり状になる。県南に稀。
 2  ヒナノシャクジョウ(ヒナノシャクジョウ科)
   暗い森林内にはえる白色で無葉の多年生草本。茎は1本細く直立し、長さは3〜8cmくらい。夏2〜10くらいの白色花が茎の先に集合して開花する。本町では本調査がはじめての発見。
 3  ギンリョウソウ(イチヤクソウ科)
   山地の暗い木陰にはえ、高さ約8〜12cm、花茎、鱗片葉、花序は白色で林下にひっそりはえる姿から幽霊草ともいう。
 4  クロムヨウラン(ラン科)
   無葉ランで葉がない。ラン科には無葉、無葉緑素のため菌の力を借りたり、腐生したものから養分をもらって成長するものが若干ある。花茎は黒褐色、花は灰褐色で7月20日頃半開。核果は花茎にほとんど直角につくこともクロムヨウランの特徴の1つである。
   クロムヨウランより花茎が短く、5月下旬頃に咲くウスギムヨウランも自生する。共に貴重な分布といえる。
(4)カンアオイ類
 1  ツチグリカンアオイ(ウマノスズクサ科)
   高知県・宍喰町、本町に自生し、ミヤコアオイに似るが、がく片の内側に縦横の溝があること、花期が5、6月頃などで区別できる。
 2  モモイロカンアオイ(ウマノスズクサ科)
   花色が桃色がかっていることからつけたが、黄、赤、白などの混生で、花色、葉の絞など変化が多く一様でない。花期は1月頃。その他ナンカイアオイも自生している。花期は冬。
  サイシン(細辛)と呼ぶ人もいるがこれは別種である。
(5)水生植物
   コウホネ・オグラコウホネ(スイレン科)
   母川の流れのゆるやかな所に挺水性のコウホネの群生が見られる。葉はオグラコウホネに比べると肉厚で広く大きい。


  オグラコウホネは居敷川、野江川など流れのゆるやかな所に生え、葉柄を横に切ると中空で葉は水面に浮いている。夏に長く直立した緑色円柱形の花柄の先に、1個の黄色の花を上向きに開く。河骨の意味で、根茎がちょうど白骨のようなのでこの名がついた。海部町の他県南に一部自生。
(6)その他
 1  チョウジソウ(キョウチクトウ科)
   5月上旬に紫色の花を茎の頂上に集散状に開く。その花の形が丁字(チョウジ)に似た草であるという。産地は北海道、本州が中心で本町が南限でなかろうかと思う。本県唯一の産地。埋立てられ現在わずかしか残っていない。移動して保護する必要がある。
 2  ミズトラノオ(シソ科)
  本州・四国・九州の水辺にはえる多年草で、地下に細長くはう枝をだし繁殖する。茎はやわらかく基部は横にはってから直立する。葉は普通3〜4枚輪生し柄はない。夏から秋にかけ茎の頂に長さ3cm位の円柱状の花穂をだし、紫色で小形の唇形花を多数密につける。虎の尾に似ているという。県下では、本町と海南町のみ。
 海部町は面積は狭いが地形、気象条件に恵まれているため、数多くの珍稀な植物の自生が見られた。琉球列島、九州南部、高知県を経て海部町まで分布を広げながら、海部川を渡り切れない植物が本町にとどまっている。ヤッコソウ・サザンカ・ヒロハミミズバイ、クロムヨウラン・ツチグリカンアオイ・モモイロカンアオイ・クサナギオゴケなどがある。また北方系の植物で県下の南限と考えられる、チョウジソウ、シダ類のヘビノネゴザ、ヤマドリゼンマイなどがある。誠に魅力1杯の町と言える。これ等の植物を大切に保護するには、少なくとも社叢を中心とした自然林を伐採しないことと、保護対策の措置を特に望んで終りとする。


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