阿波学会研究紀要


このページでは、阿波学会研究紀要論文をご覧いただけます。
 なお、電子化にともない、原文の表記の一部を変更しています。

郷土研究発表会紀要第32号
石井町住民の健康診断結果について

農村医学研究班

 麻植協同病院
  坂東玲芳・細井憲三・村田孝・

  久保博・居村剛(以上内科)・

  坂東章二(放射線科)・

  北室友也(眼科)・

  大久保岩雄・内藤高子・梯保江・

  藤川恵子(以上検査部)・

  武知恒子・後藤恵子・藤本幸子・

  中坂美恵(以上看護部)・

  松浦一・高木伸幸・林敬子・玉置研介  

  (以上事務部)
 厚生連健康管理部
  蔭山哲夫・遠藤博久・正田茂・

  川人信二・杉本英雄・林まゆみ・

  原茂子

1.はじめに
 本学会の30年の歩み(1)〜(11)にみられるように、私達の農村医学班が、この研究に参加してから、昭和59年で丁度、10年の節目を過ぎた。第1回の神山における調査(2)は、私達、麻植協同病院のスタッフが担当したが、くしくも11回目の石井町も、麻植協同病院がこれに当たることとなった。石井町は、私達の病院の東端にあたる診療圏の地域でもあるので、勇躍して、本調査に着手した。そこで、今回初めての企画として、従来は、農業者(農協組合員)を主な対象としていたものを、新たに、一般住民ことに、商工組合員にも拡げることを試みて、心よく協力して載いた。よって、本調査研究の主題も、石井町農業者でなく、石井町住民とすることができたのである。

 

2.対象と方法
 表1に、健康診断対象者男子125名女子130名、計255名を年代別、職業群別に分類し、その平均年令とともに表示した。

農協組合員は、石井町農協により各支部毎(本部、浦庄、高原、藍畑)約50名を選んでいる。商工組合員についても、特に条件をつけず、希望者としたものである。この表にみられるように、職業群別では、男56%、女50%と専業農業者がその半ばを占め、年代別では、男子75.2%、女子90%と大部分が40代と50代で、それぞれ経営主体者であると考えられた。その平均年令は、男子51.3才、女子49.7才で、従来の本研究調査とほとんど同様であった。また、職業群別にみた年令差もみられず、職業群間の健康状態の比較は、可能と考えられた。
 表2に、検査方法ならびに、検査結果の判定規準を示した。

ここに示したように、1日ほぼ50名を対象として、生理機能検査、検尿、血液学的、血液生化

イ:正常 ロ:軽度異常、経過観察、日常生活可 ハ:異常、要注意
ニ:異常、要再検、要精検 ホ:病的要治療
※シスメックE−3000使用
※※日本電子製 JCAVS500 型オートアナライザー使用
※※※(1)貧血者率の算出には男子 13.9g/dl 以下、女子 11.9g/dl 以下を貧血者としている。
 (2)TC240mg/dl 以上を高 TC 血者としている。
 (3)rGTP も同様、50u/ml 以上高 GTP としている。

学的諸検査、問診に始まる内科的診察、胸部および胃部の間接X線検査、眼底、眼圧検査等の総合的身体検査を施行した。集団健診としては、かなり高レベルのものであると考えている。
 これらの集団健診施行日は、7月31日、8月1、2、3日の連続4日間を農協組合員を対象とし、また、1ケ月後の8月31日には、商工組合員の健診を施行した。

 

3.集団健診結果と考察
 1)既往症について
 表3に問診時の訴えによる既往症の概要を示した。

男子の52.8%、女子の62.3%になんらかの既往症が認められた。男子では表の如く、胃十二指腸潰瘍がもっとも多く、以下、高血圧、潰瘍以外の胃腸疾患、心疾患、肝蔵病等が上位を占め、女子では、第1位が貧血で以下、高血圧、腎、心、胃腸疾患が多いものであった。特異的疾患が多いと言う傾向は認められなかった。
 2)嗜好について
 問診により、アルコール類の摂取と、喫煙について調査した。アルコ−ル類の摂取について年代別にみると、表4の如く、各年代ともほぼ同様に、約50%の人達が常習的に毎日ないし、ほとんど毎日の飲酒習慣があり、飲まないと答えた人は、20.8%、ときどき飲む28.0%であった。

 

職業別にみると、専業農業者は、兼業農家ないし非農業の人達に比し、常習飲酒は少ないのではないかと考えられ、この結果は、後述するγ―GTPその他の諸検査結果と合致するものであった。また、平均飲酒量は、日本酒換算1日1.8合であった。女子の飲酒は、毎日の習慣的飲酒は僅か2名であったが、33.9%の女性は、時々飲むと答えた。男女ともアルコール摂取者は、今後とも漸次増加するのではないかと考えられる。
 日本人のアルコール摂取は、他の先進諸国に比し、現在のところでは、むしろ少ない方であるが、最近の経済の発展、生活様式の変化等により飲酒習慣は、拡大増加しつつあることが、報告(12)(13)せられている。職業的には、農業や商業者等に多いとの報告もある。最近アルコール依存症の増加も社会的に注目せられているところであり、それまでには至らないとも後述するように、肝障害や肥満、糖尿病との関連は、石井町民において否定できず、適度の飲酒とはなにか、この面での積極的な対応も必要と思われる。
 喫煙についてみると、最近、男子の喫煙者率(14)は、僅かであるが低下しつつあるようで、喫煙者率は58.4%であった。日本人平均の66.1%よりは、やや低いように思われる。1日本数も年令とともに僅かづつ低く、高令になると自己抑制ができているのではないかと考えられるが、疫学上にも、この傾向は証明せられている。いずれにしても、喫煙は、全ての成人病の危険因子と言ってよく、この悪癖を速かに断つような運動の拡大が望まれる。
 3)診断結果の概要
 診断結果は、1異常なし、2経過観察(軽度の異常あるも、日常生活に支障なし)、3要注意(若干の異常あり、日常生活上要注意だが、医療を要するほどではない)、4要再検または精検、5要治療の5段階による指導区分とした。このうち、1、2、3を正常ないしほぼ正常、4、5を異常として、異常者率ほか、指導区分による結果の総排をみると、表5の如き結果であった。

男子125名中53名(42.4%)に異常をみず、72名(57.6%)の異常者率をみた。女子では130名中75名(57.6%)が正常、55名(42.3%)が異常を示し、男子では、ほぼ60%が異常、女子では40%が異常であるとの結果となった。このように男子の異常者がやや多いのは、ごく一般的な傾向であり、また当然のことながら、加令とともに異常者率も高くなる。表6は、職業別、年代別に異常者率をみたもので、男女とも40才代より50才代の年代に異常が多くみられ、また、職業群別では、専農群と非農群の間には、大差はないと考えられる。

一種兼農の女子の異常者率がもっとも低かったのは、予想外の結果であった。対象者が少数のためかもしれない。今後なお、検討を要するところである。
 図1に、男女別に主要な異常の内容につき、多いものから図示した。

胃X線検査の要再検者は、男子27.1%、女子15.8%と男女とも異常の1位を占めたが、この男女計47名の要再検者の精検結果等は後述する。また、高尿素窒素を示したものも男女とも多かったが、これは、おそらく夏季の新陳代謝の亢進によるものであろうと考えられ、明らかな腎機能の低下によるものと考えられたのは2名であった。
 注目すべきは、男子の肝機能異常者、高血糖、高γ−GTP者が比較的多くみられたことで、後述する平均値でも明らかなように、過栄養、過飲酒の影響であろうと考えられる。同様に、男女とも高コレステロール者も異常のうち多数を占め、肥満者率が高いこととともに、いずれも、その原因は、現在の日本人の食べすぎ傾向を示しているものと考えられるが、一方、高血圧者が少なかったことも注目すべき良好な結果と言うことができよう。
 表7に主要な検査結果の平均値を職業群別に示した。

血色素量、赤血球容積率等、貧血に関する検査では、男女とも標準値にあり、職業群間の差異も認められない。γ−GTPは、アルコール摂取に関連する胆道系酸素として知られているが、男子一種兼農群、非農群では明らかに高く、非農群と、専農群との差は有意である。非農の商工業者は、アルコール摂取が多いことを示すものと考えられる。
 脂質の血清総コレステロールの平均値は、高い方に属し、特に専農群は高くて 200mg/dl を超し、非農群との内に有意差をみた。その割に、HDL−C がさほど高くないことは、その意義については後述するが、脂肪のとり方に工夫を要する点と考えられる。
 血糖値は、特に非農群に異常に高い。常習飲酒の影響が考えられる。さらにどの職業群も、肥満度平均は約10%高い。
 以上の如き、主要な検査の結果は、石井町住民は、職業を問わず、過栄養にあるのみならず、一部アルコールの過摂取の傾向があることを示すものであると言って過言ではない。以下、検査結果の各々について検討する。
 4)肥満度、肥満者率について
箕輪の標準体重表(15)より、肥満度を算出して、その結果を表8に示した。


(+)20%の肥満度を有する者を肥満者とすると、男女とも、この肥満者率は20%を超える高率となり、職業群別では、二種兼農家婦人は40.7%に、また、非農家婦人も30.4%の高率に肥満者が認められた。これに対し、専業農家婦人の肥満者率は13.8%で、比較的低く、労働の影響によるものと考えられた。これらの肥満者率を地域別に示したのが図2である。

ここに示したように、男女とも石井町住民は、肥満者はもっとも多い地帯に属する。肥満が成人病の危険因子として大きい要因をなしていることを考えると、成人病対策上、今後の栄養摂取に大きい警戒をなげかけているものと思われる。
 5)血清コレステロール値について
 血清脂質として、今回は、血清総コレステロール(以下TCと略)と高比重リポ蛋白コレステロール(HDL−C)について測定した。さきに表7で示したように、石井町住民のTCの平均値は204と高く、専業農業者は、非農業者に比し有意に高値を示し、表9にみられるように、高TC者率は、職業群間に差を認めなかった。

この高TC者率を他地区と比重すると図3の如く、石井町の属する都市近郊農村の結果を如実に示して、県の中では大変高い高TC者率を示すものとなった。

すなわち男子16.8%、女子18.5%が高TC者で、また、表10の如くその平均値は男女とも 200mg/dl をオーバーした。

コレステロールの高値が、動脈硬化症のもっとも大きい危険因子であり、肥満、高血糖とともに、今回の調査のもっとも大きい要注意点となった。
 一方、HDL−C は、いわゆる善玉コレステロ−ルとして、動脈硬化の予防的作用があり、HDL−C は高いほど健康上、好ましいと言える。男子 34mg/dl 以下、女子 39mg/dl 以下を低 HDL−C 者とすると男子は12%、女子は僅かに3%であった。ここにも女子の長寿傾向を示す結果がある。この TC と HDL−C との比は、いわゆる動脈硬化指数等として、種々検討せられているが、一般に、TC に対する HDL−C の比は25%以上が望ましいとされており、20%未満では、例えば、心筋梗塞の発生率が高くなる。かかる観点より石井町住民の HDL−C/TC 比と、心電図有所見者との関係をみてみると、表11−2の如き結果で、男女とも HDL−C/TC 比が25%未満の者に、心電図異常が男子では11.5%対15.6%、女子では6.5%対11.3%と HDL−C の低い者に心電図異常も多い傾向が伴われ、はなはだ興味深い。


 今回の調査では、中性脂肪(TG)の測定をオミットしたことは、いささか残念であった。高脂血症と動脈碑化症あるいは、高血圧症、そして心疾患との関連は、Framingum study(16)(17)(18)以来特に注目を浴びつつある分野であるが、なお、未解決、不分明の点も多い。今後、吾々も、健診や臨床の場を通じて、より深い検討を続けたい考えである。
 6)肝機能について
 肝機能検査関係の検査としては、血清蛋白量(S−T・P)、GOT、GPT、AlP、CHE、γGTP および HBs 抗原について測定した。血清蛋白、CHEについては、特に低値あるいは高値を示す異常者は、認められなかった。しかし、肝細胞の障害を示す GOT、GPT のいづれかまたは両者が正常域を超えた者は、男子にのみ15名(12.0%)認められた。うち9名は、γGTP も正常域を超えていたおり、これらの関係を表12に一括して示した。この表にみられるように、15名の肝機能異常者のうち過半の8名は、アルコール類の過飲によるいわゆるアルコール性肝障害と考えられる結果であった。


 γGTP は、胆道系酵素として知られ、AlP(アルカリ性フォスファターゼと同様、胆道の閉塞性疾患等の折上昇するが、アルコール摂取と密接な関係が特異的で常習飲酒者では、γGTP は高値を示す。石井町住民の健診について、この関係を示したのが、図4であり、明らかに、飲酒量の増加とともにγGTP 値が高値を示す者が多いことが知られる。

また、飲酒者には、肥満を示す者も多く、肝障害を示した15名中9名は、肥満度が+20%を超えていた。γGTP 値の平均値の職業群間の差異は、表7において先述したが、γGTP が 50u/dl を超えるものの割合をみると、表13の如く非農業者群に明らかに多く、この人達に常習多量の飲酒者が多いことがうかがわれる。


 ZTT 値高値は、表9に示した2名の他5名(男子3、女子2)で計7名であった。中男子1は、HBs 抗原(+)でこれによるものであるし、他の男子1名は慢性気管支炎、アルコール摂量の影響が、残り1名は同じくアルコール関与があり、女子2名については、ともに著明な肥満があった。
 HBsAg は前述の男子1名と女子2名で、女子2名については肝機能は全く正常であった。この HBsAg 陽性率は1.2%であって、高い方ではなかった。すなわち石井地区は、B型肝炎ウィルスの高い汚染地区とは考えられず、肝機能異常者が多く認められたもののこれは、アルコール過飲がもっとも影響していると考えてよさそうである。
 7)血糖について
 以上の如く、肥満、高コレステロール、肝機能異常特にアルコール過摂取とつづくと、当然の如く、血糖値が成人関連疾患として浮かび上がってくる。図1、表14に示したように空腹時血糖が 120mg/dl 以上で、糖尿病と診断される者は、男子11、女子2の多数に上った。

過去の調査の中ではもっとも高い。男子11例中5例は、すでに2年以上13年も以前から糖尿病として加療中の患者であった。これらの関係のためであろうか、一般に糖尿患者は肥満が多いと考えられているにもかかわらず、12名中+20%以上の肥満は3例、+10%以上は同じく3例で、6例は標準体重であった。5例に肝機能異常が認められた。いずれにしても、このように多くの糖尿病患者が認められたのは、経験的にも少なく、石井町住民の健康状態を示す一の特徴的結果であった。
 8)高血圧について
 以上の如く、過栄養、過飲酒による障害が特徴的であると考えられる中で、高血圧患者は意外に少なく、これは、よい意味で非常な特徴であった。厚生省の成人病基礎調査資料によれば、30才以上の成人男子高血圧者数23.1%、女子21.5%であり、50才代では男子28.4%、女子20.7%に高血圧者率がみられる。徳島県厚生連の集健結果でも男子13.5%、女子9.7%に高血圧が認められている。しかるに、今回の石井の結果は、図5に示したように県下の中でももっとも低い地域となって、男子6.4%、女子6.2%と良好な結果であったことは、非常に喜ばしいことであった。

しかし、既往症では、男女とも10%を超える高血圧が認められており、この健診時期が血圧の下がる夏季であったことも関係があろう。高血圧の対象を軽症の境界域高血圧に拡げると、表15の如く男子16.8%、女子23.1%が高血圧を示した。

また、職業群別は、男子非農業者、女子専業農業者に高血圧が多かった。今後160/95以上の高血圧症が少なかったことに油断することなく、軽症高血圧者に対する管理指導を十分に推進してゆく必要がある。
 表16に今回の健診における男女計16例の高血圧症者の一覧表を関連のある諸検査所見とともに示した。

拡張期高血圧を示すものが大部分で、家族歴も多く、発症後かなりの年数を経たものがあり、すでに心電図、眼底所見の悪いものなども少なくなく、その重症度は、WHO基準ではII〜III期に属して、十分な治療管理が必要と考えられるものが多かった。今後の対応として、貧血において施行したようなグループ治療も一つの方策であろう。
 9)貧血について
 男子の平均血色素量 15.3g/dl、女子のそれは 12.8g/dl となったが、これは、全国ないし、県下の水準より僅かに低い。男子 13.9g/dl 以下、女子 11.9g/dl 以下を貧血者とするとその率は、図6に示したように、男子のそれは、県下ではもっとも低く、女子のそれは、レベル附近となった。

このことは、貧血は、多くその栄養摂取状況と労働の強度と労働の持続時間に関連(19)することから考えると、さきに示した肥満や高 TC 値にみられた過重にすぎると考えられる栄養摂取状況をそのまま反映したものと理解できる。
 石井町住民女子について、軽症を含めた貧血者率を職業群別にみると、表17の如く非農業者に貧血を示す者がもっとも多く認められた。

従来、農業者に多いとせられた結果からすると、農業者にとっては、よい結果であったと言えよう。表18は、その後施行中の鉄剤投与による貧血改善の結果を示したもので、その改善は著明である。今後は、貧血の再発を如何して防ぐかである。


 10)検尿結果について
 尿は、蛋白、糖、潜血について検査した。蛋白は、男子3名、女子3名に(+)であった。いずれも要再検であるが、うち、男2、女1名は、従来より陽性で、慢性腎炎患者であり、特に女子の1名は加療を要する状態と考えられた。
 糖は、男子4、女子1名に陽性で、男子はいずれも血糖高く、糖尿病患者であった。女子の1名は血糖低く、腎性または、一過性尿糖症で問題ないものと考えられた。
 潜血は、女子では(++)以上、男子では(+)でも異常とした。男子3名の陽性者中、2名は腎炎患者であった。女子7名中、1名は前述の腎炎患者で要加療とせられた。6名については要精検者であったが、尿素窒素、クレアチニン量、血圧等は正常域にあり、特に加療を要するほどの異常ではないであろうと考えられた。
 11)眼底、眼圧検査
 眼底検査の結果は表19の如く、要再検は読影不能を含めて男子3、女子2名であった。

男子1名の要再検者は糖尿病患者で、このために眼底出血が認められた例であった。要注意についてみると、男子は高血圧性出血、慢性腎炎によるもの、女子は網膜色素変性および高血圧性出血であった。
 眼圧は、緑内障を早期に発見するためには必須の検査である。高眼圧者は、男子軽度上昇3、女子1名の計4名であった。
 12)X線診断結果について
 胸部X線間接撮影の異常は、男女各2名、計4名が要精検となった。いずれも、肺結核の疑いであった。胃X線間接撮影は、胃癌の早期発見を目的としており、医師2名によるダブルチェックの結果、先に、図1において示したように、男子107名中29名(27.1%)が、女子114名中18名(15.8%)が、再検を要するものと判定せられた。その後の追跡調査により41名の再検結果が判明した。要再検となった疾病原因は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、胃ポリープ等である。再検により41名中2名が、胃炎または胃潰瘍により要治療となったが、胃癌が発見せられなかったのは幸であった。


4.まとめ
 第11回目の阿波学会の調査に、徳島県厚生連麻植協同病院および、厚生連本部健康管理部のスタッフで構成した農村医学研究班は、石井町住民255名の集団健康診断を施行し、次のような結果を得た。
 1  肥満者率が高く、高血清総コレステロール血症者が多いこと、糖尿病者が少なくなく、高γGPT者などアルコール性肝障害者も比較的多くみられたことなどがもっとも特徴的であった。以上の事柄は、石井町が徳島県下では、恵まれた自然環境下にある平地の都市近郊農村である実状を反映しているものであることを示すものであると考えられる。そして、また、現代日本の経済的先進性を示すものかもしれないところの、食事カロリー
の過剰摂取やアルコール類の飲酒量の増大傾向を示すその表われを示すものであろうと思われる。
 2  高コレステロールに比し、高比重リポ蛋白は、さほど高くないように思われ、心電図異常と高コレステロール、低高比重リポ蛋白コレステロールの関連を示唆する所見も得られた。栄養のとり方に、質的な面での対応の必要性と運動の重要性を示すものであろう。
 3  高血圧者は意外に低かったものの、発見せられた高血圧者は、厳重な管理指導を必要とするやや進展した高血圧が多くみられた。
 4  貧血者率は、平均的な発見率であった。そして、これに対する集団的治療の効果は著明であった。このような各疾病群別の集団的治療は、少なくとも集団健診で発見せられた成人病の要治療者群には、今後試みてよい対策ではあるまいかと考えられる。
 5  職業群別すなわち専業農家群、兼業農家群、商工業者群との間に、健康診断結果上、さほどの差はみられなかった。しかし、特に、非農の商工業者群には、アルコールの過剰摂取によると思われる異常(糖尿病、アルコール性肝障害など)が、やや多くみられるように思われた。

 

文献
1)加藤和市、井上博之:農業従事者の健康状態 阿波学会30年史記念論文集、p91〜103、阿波学会、1980
2)坂東玲芳ら:神山町農家と農民の健康状態について、郷土研究発表会紀要:22、159、1976
3)加藤和市ら:牟岐町における農業従事者の健康調査、郷土研究発表会紀要:23、
151、1977
4)坂東玲芳:山城町農家と農民の健康状態、郷土研究発表会紀要:24、105、1978
5)今川大仁ら:市場町における農業従事者の健康状態、郷土研究発表会紀要:25、139、1979
6)坂東玲芳ら:池田町住民とくに農業従事者の健康状態について、郷土研究発表会紀要:26、195、1980
7)右見正夫ら:上板町における農業従事者の健康状態、郷土研究発表会紀要:27、95、1981
8)坂東玲芳ら:貞光町における農業従事者の健康状態、郷土研究発表会紀要:28、171、1982
9)加藤和市ら:鷲敷町における農業従事者の健康状態、郷土研究発表会紀要:29、145、1983
10)坂東玲芳ら:鴨島町における農業従事者の健康状態、郷土研究発表会紀要:30、97、1984
11)加藤和市ら:羽ノ浦町における農業従事者の健康状態、郷土研究発表会紀要:31、103、1985
12)西川慎八:最近のアルコールの疫学、内科56(6)1004−1006、1985
13)尾前照雄ほか:嗜好(酒、タバコ)、内科(特集成人病の予防と健康管理)、48(5)、767−774、1981
14)厚生統計協会編:厚生の指標、1985
15)箕輪基一ほか:成人の標準体重に関する研究、日医新報、No.1988、1962
16)Gordon et al:AM. J. Med. 62、767、1977
17)中村治雄:高脂質血症 日本臨床142、2043−2097、1984
18)板倉弘重:動脈硬化とHDL、現代医療14、113−118、1982
19)坂東玲芳:農業者の健康に及ぼす環境と労働の影響について、四国の農村医学、No.16、12−20、1985


徳島県立図書館