阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第32号
石井町における農業従事者の健康状態

農村医学研究班

   蔭山哲夫・沖八重子・江本茂子

   (以上 厚生連・健康管理部)
   田上直彦・七条宜浩・日下静代

   (以上 中央会・生活課)

石井町における農業従事者の健康状態
1  健康と農業との関連に関するアンケート調査結果
  農村医学班
 私ども農村医学班は、総合学術調査に参加して、総合的な集団健康診断を行うとともに、健康と農業との関連に関するアンケート調査を実施した。
 健康診断の結果は別稿で報告し、ここではアンケート調査のまとめの中から、主な項目を抽出して報告する。
 まず、調査の対象は、石井町内で主に農業を営んでいる男性98人と、女性119人の合計217人と、対象群として、少数ではあるが、商工会々員として、商工業を主に営んでいる男性27人と女性11人の合計38人について、7月31日より連続4日間及び8月31日の計5日間にわたって調査した。
 その性別、年令別構成は表(1)、表(1)’のとおりである。


 これら対象者の職業の状況を、収入の割合と仕事の割合との両面から見たのが表(2)と表(3)である。


 表(4)及び表(4)’は食事形態と嗜好についての調査を行ったものであるが、男女ともに減塩に注意していることが伺われる。


 しかし、甘いものや、濃い味付を好む人の率が高く、これらの結果は、高血圧や肥満につながるもので、成人病との関連が心配される。
 次に、疲れが自覚症状としてあらわれる農夫症々群の8項目の調査では、表(5)に示したように、男女ともに「肩こり」と「腰痛」の訴えが高く、さらに「手足のしびれ」「夜間頻尿」と続くが、「不眼」が女子に高いことが注目される。


 これを定められた基準で採点、評価してみると表(6)のようになる。

総合点が2点以下で対策を必要としない人が、男で50%、女で35.3%、なんらかの対策を必要とする3点から6点までの人は、男で45.9%、女で51.3%とほぼ同率であり、さらに高度の対策つまり治療を必要とする人が、男で4.1%、女で13.4%と、あきらかに男性より女性に対策を必要とする人が多く、こうした疲れの積み重ねが慢性疲労となって、重い病気になったり、思いがけない事態を招く素地につながる場合もあることを自覚していただきたい。
 次に、1日の仕事が終わった時点での疲れを自覚に基づいて調査した。表(7)1 のねむけとだるさの10項目では、男女ともに「横になりたい」が断然多く、「足がだるい」「目がつかれる」と続き、「ねむい」「全身がだるい」との訴えも多く出ている。


 2 の注意集中の困難さを示す精神疲労では、「ちょっとしたことが思い出せない」「根気がなくなる」「きちんとしていられない」等の訴えが注目され、3 の「局在した身体違和感」つまり、神経感覚の疲れでは、「腰痛」と「肩こり」が突出しており、農作業が手作業と前かがみの多い、不安定な姿勢による、しかも繰り返し作業が長時間続けられることに起因しているのではないかと考えられる。
 これに比べて、非農家群を表(7)’の1 2 3 でみられるように、農業者の訴えとほぼ同様であるが、農業者は女性に各項目に対する訴えが高いのに対して、非農業者群では、男性の訴えが高率にみられる。しかし全体的にみると、農業者の訴えが高く、農業者の労働疲労度の高いことが推測される。


 表(8)と表(9)は一般に「持病」と呼ばれている慢性的な病気について調査したものである。


 今回の対象者は現に農業に従事している、一応は健康な人ばかりと考えられるが、男性で26.5%、女性で16.0%の人がなんらかの持病をもっており、高血圧と心臓病そして胃病、糖尿病と、いわゆる成人病と呼ばれる病気が多くみうけられる。このことは、非農業者群においても、表(8)’と表(9)’のごとく、男性に42.3%、女性に9.1%と男性に高率にみうけられる。


 次に、成人病対策のひとつとして、特に脳卒中や心臓病の素地になる高血圧に備えて、自分の血圧の正常値を知っておくことは、非常に大切なことである。その結果を表(10)と表(10)’に示した。表(10)の農業者では、知っている人が男性で51%で女性で58.8%と女性が約6割弱で男性でも半数以上が感心をもっている。


 これに比べて、非農業者は男性56%、女性45.5%と、男性に感心が深く、女性は半数にも満たない状況で、対象者の平均年令を考えると、血圧に対する関心をさらに高める必要がある。
 次は、農薬散布とそれによる中毒についての調査結果である。
 最近の農業は、作物の如何を問わず、除草剤を含めて農薬を使う機会が多く、その役割と効果も大きいものがあるが、その反面、危険度もそれだけ高いわけであり、パラコート除草剤にみられるように、環境汚染や公害など、社会問題にまで取り上げられるようになっている。農業者の場合は直接これを取り扱い、自らが散布作業を行うので、慢性、急性を問わず、中毒の危険は見のがすことのできない問題である。
 今回の調査では農薬中毒症状の経験者は、表(11)のとおり、男性17.8%、女性21.8%となり、女性が多く、表(12)に示すような症状が出ている。


 これら中毒の原因を表(13)でみてみると、防除衣やマスクなど、防備の不十分によるものや、身体のぐあいが悪かったり、自分の不注意から事故を招いた場合が多い。最近の農薬は低毒性のものに変わってきたとはいえ、安易な取り扱いや散布は絶対に慎むべきである。


 最後に健康管理の第1条件である「早期発見」「早期治療」のための、健診の受診状況についての調査では、今年になって健康診断を受けた人は、農業者においては表(14)のとおり男性72.4%、女性89.1%であり、10人中8人までがなんらかの健康診断を受けている。これに比べて、非農業者は、表(14)’のとおり、男女合計で65.8%となり、農業者に比べて低い受診率を示している。


 さらに表(15)と表(15)’でその内容についてみると、農業者の女性に総合的な健診を受けている人がかなりの数で見うけられるが、その他の人は、ほとんど部分的な検査を受けた人が多く、望ましい姿とは言いがたい。


 また、健診を受けなかった人について、理由を聞いてみると、表(16)と表(16)’のとおり「料金が必要だから」「忙がしくて行けなかった」「現在は健康だから」との答が多く、料金については、多項目で精密な健診を受けるためには、ある程度の自己負担はしかたがないことであり、この対策として、石井町農協で実施している「健康貯金」はすばらしい方法といえよう。


 しかしながら、いろいろ理由にならない回答が出ているが、卒直なところ、「自分の健康は自分で守る」という各人の健康意識の程度に問題があるといえよう。
 最後に、次に健診の機会があれば…との表(17)と表(17)'の問に対しては、男女あわせて94.5%の人が受けると答えている。そして、国の医療行政が多額の国庫負担にあえぎ、高福祉、高負担のもとに、国民の医療費支出がますます増加傾向にある現状を考えると、できてるかぎり精密な高度の内容の健康診断を受けることにより、「早期発見」「早期治療」の原則を守り、『神が人間に与えた最大の宝』である健康を、己らの手で確保する必要を痛感する。そして、これからも、町行政と関係機関が連携して、総合的な健診の機会を計画的に設けていくことと、今ひとつは、健康意識を高めるための、健康教有の徹底を図っていくことが大切だと考えられる。


 以上がアンケート調査結果の概要であるが今回の調査にあたり、準備段階から最後まで全面的なご協力を頂いた石井町農協並びに石井町商工会の関係各位に厚くお礼申し上げ報告を終わる。


徳島県立図書館