阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第32号
石井町の前山の地質

吉野川研究グループ
  橋本寿夫1)・石田啓祐2)・

  須鎗和巳2)・山崎哲司2)・

  寺戸恒夫3)・大戸井義美4)・

  久米嘉明5)・細岡秀博6)・篠原勇

1.はじめに
 石井町の前山は四国山地の北東端に位置しており、地質学的には三波川帯に属する結晶片岩が分布している。三波川結晶片岩は、中・古生代の海底に堆積した塩基性凝灰岩および砕屑岩が源岩となっていると考えられており、愛媛県下においては、これらの地層に挟在する石灰質片岩からトリアス紀後期のコノドントが検出されている(須鎗ほか、1980)。
 石井町の前山地域に分布する結晶片岩は、岩崎ほか(1963)、剣山グループ(1963)によって、東西に延びる川田山層、高越層、川田層に区分された。また童学寺トンネル付近での緑色片岩層(高越層)の分布のくいちがいから、鮎喰川断層が推定され、約2kmの左横ずれが想定された(岩崎、1972)。同様の断層は中山ほか(1983)によっても入田−川又断層として示された。
 地学班は石井町地域の三波川帯の岩相分布と地質構造の調査を行い、2・3の知見を得たので報告する。

 

2.岩相
 当地域には、曹長石の斑状変晶を有する泥質片岩および緑色片岩を主とする地層が分布し、これらの地層は紅れん片岩および白色の凝灰質片岩のレンズ状岩体を挟在する。また蛇紋岩および超塩基性岩類の小分布が見られる。これらの地層および岩類は東西性の構造に支配されており、断層によって画された3帯に分かれて分布する(図1)。この報告では北からI・II・III帯と呼ぶ。以下各帯について説明する。


 I帯:直径1mm前後の点紋を有する緑色片岩を主とする。東西走向で南に中〜低角度で傾斜する。
 II帯:本帯では下位より黒色片岩(500m)、緑色片岩(250m)、黒色片岩(250m)の層序が見られる。これらの地層は、II帯中央部以北では中〜高角度で南斜しており、それ以南では中角度で北斜することから、図1・2に示すように、東西方向で西にゆるく傾いた軸を有する向斜構造を形成するものと考えられる。黒色片岩中には厚さ数mの石英片岩および紅れん片岩が挟まれる。


 III帯:本帯には黒色片岩および緑色片岩が分布しており、岩相の境界にあたる童学寺トンネル南口付近では、厚さ数〜10mの黒色片岩と緑色片岩が互層する。EWないし、WNW−ESE走向で北へ高角度で傾斜するが、上記地域では、水平に近い。また波長10数mのゆるい褶曲を形成している。

3.各帯境界の断層
 各帯境界の断層は以下の地点で観察できる。
 I/II帯境界:石井町下浦願成寺南の山口組採石場(Loc.1)では、幅30cmの2つの破砕帯を伴う走向N80°E傾斜60°Sの断層を挟んで、I帯の緑色片岩とII帯の黒色片岩が接する(図3)。

の断層の西方延長は、25万分の1地形図に見られるケルンコルを形成しており、寺戸によれば鴨島町長谷付近に湧水を伴う破砕帯として出現する。
 II/III帯境界の断層:石井町内谷光蔵寺北東(Loc.2)では、幅約10cmの2つの破砕帯を伴う走向N70°E、傾斜65°Nの断層を挟んでII帯の黒色片岩とIII帯の緑色片岩が接する。
 石井町前山総合公園のグランド南(Loc.3)には、黒色片岩の破砕による幅5mのグージを伴う走向N85°E傾斜60°Nの断層を挟んでII帯の黒色片岩とIII帯の緑色片岩および黒色片岩が接する(図4)。また断層には、淡緑色の滑石より成るグージも見られ、超塩基性岩体の破砕によるものと考えられる。


 神山町長谷北方の道路沿い(Loc.4)では幅1mのグージを伴う走向N65°E傾斜85°Nの断層を挟んでII帯の黒色片岩とIII帯の緑色片岩が接する。
 III帯南限の断層:徳島市西矢野南方の造成地(Loc.5)では、幅15mの超塩基性岩体の南縁に幅0.5mの破砕帯を伴う走向N80°E、傾斜80°Sの断層が見られる(図5)。断層の南側には黒色片岩が分布する。断層に接する超塩基性岩体は幅1.5mにわたって滑石および、ブロック化した蛇紋岩となっている。


 神山町二本木神社西方(Loc.6)ではIII帯の点紋のある緑色片岩を切って、幅0.3mの破砕帯を伴う走向N85°E傾斜60°Nの断層があり、その南には点紋の不明瞭な緑色片岩が分布する。

 

4.まとめ
 石井町前山地域に分布する三波川結晶片岩類の岩相分布と地質構造に関する調査を行った。その結果、当地域には黒色片岩および緑色片岩を主とする東西走向の地層が、断層によって画された南北3帯に分かれて分布することが明らかになった。

文献
岩崎正夫、1972:三波川帯、30−41。中川衷三編:徳島県の地質。徳島県。
岩崎正夫、加治敦次、安田治男、笠井正也、小川棋文、1963:徳島市周辺藍閃片岩地域の地質と岩石。徳島大学芸紀要(自然科学)、13、21−35。
剣山研究グループ、1963:四国東部結晶片岩地域の地質。地球科学、69、16−19。
中山勇、加治敦次、高須晃、1983:四国東部および紀伊半島西部の三波川帯の苦鉄
 質・超苦鉄質貫入岩について(その1)。地球科学、37、262−274。
須鎗和巳、桑野幸夫、石田啓祐、1980:四国西部三波川帯主部よりの後期三畳紀コノドントの発見。地質雑、86、827―828。

 

1)土成小学校 2)徳島大学教養部 3)阿南高専
4)板野西部青少年センター 5)神山東中学校 6)正木小学校


徳島県立図書館