阿波学会研究紀要


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郷土研究発表会紀要第32号
石井町の水生昆虫

生物学班 徳山豊

1.はじめに
 今回の阿波学会による石井町総合学術調査に参加し、水生昆虫を主とした底生動物の調査を行った。その結果を報告する。
 調査したのは吉野川とその支流である江川、飯尾川の各地点である。いずれも平野部の流れで流速がゆるく、石礫底の所が少ないなど、流水性の水生昆虫の生息には適さない環境である。
 江川、飯尾川は汚濁も見られ、清水生の水生昆虫は生息しないであろうと予想された。


2.調査地点と調査方法
 調査は、図1に示した各地点で行った。

飯尾川は、麻植郡鴨島町樋山地にその源を発し、鴨島町、石井町、国府町を流れ、徳島市不動東町の吉野川橋上流右岸で吉野川に流入する全長約25.8kmの河川である。
 江川は鴨島町西麻植の吉野川からの伏流水が湧き出す湧水池がその源である。鴨島町を東に流れ、石井町西高原で吉野川に流入する全長約8.8kmの小河川である。流域には住宅が多く、その排水の流入により汚濁がすすんでいる。
 各地点の様相を述べると、I.1(石井町平島)は、水量が少なく、汚濁が見られ、川底の小石や泥は表面に汚水菌のコロニーが付着し、堀りかえすと黒色のヘドロ状の泥が堆積している。I.2(石井自動車教習所付近):水量が前地点より多く、濁りが少ない。川底に石がわずかに見られるが、多くは泥である。空きカン、ビンの破片、瓦などの投棄も見られる。I.3(石井町南島):水量は少ない。川底は大部分が泥で、ゆるやかな流れである。
 E.1(石井町西高原):江川の放水路であるが、1981年以降に改修工事され、護岸はコンクリート化し、以前あったツルヨシなどの水生植物の茂る岸辺が消えている。水面にはホテイアオイがびっしりと繁茂しており、やや濁りが見られた。川底には石礫が多く、流速もあり、水質が良ければ清水性のカゲロウ類が生息できると思われる所である。
 Y.1(高瀬橋上流):吉野川の右岸で、下流域の流れである。瀬は見られず、ゆるやかな浅い流れである。川底はコブシ大から頭大の石礫が多い。
 調査は、定性採集により、各地点でできるだけ多くの種を集めるよう努めた。


3.調査結果と考察
 採集された水生昆虫と昆虫以外の底生動物(魚類を除く)を、地点別に整理したのが表1である。


 全地点を通して、水生昆虫が7目17種、昆虫以外の底生動物が8種得られた。極めて貧弱な昆虫相である。飯尾川、江川の各地点に見られた生物は、やや汚濁に強いと思われる種で、吉野川の水生昆虫相と明らかに違っている。E.1地点は1981年当時は、岸辺の砂泥底中に清水性のカゲロウ類であるムスジモンカゲロウが生息していたが、今回は確認できなかった。護岸工事による環境変化によると思われる。
 飯尾川、江川の各地点には、清水性のカゲロウ類、トビケラ類の姿は見られず、汚濁に強いサカマキガイ、モノアラガイ、アメリカザリガニなどが多く生息する。昆虫類では、トンボ類の姿が見られる。水が清冽であれば止水生のカゲロウ、トビケラ類が生息するであろうと思われる。
 吉野川の石井町側では、かなり下流域の様相を示す流れであるが、オオヤマカワゲラ、モンカゲロウ、アカマダラカゲロウ、ヒゲナガカワトビケラなどが採集された。特に汚濁に弱いカワゲラ類が生息していることからも、水質は良好であると推定された。1981年に対岸の上板町井ノ内において採集したところでは、水生昆虫類が10種得られている。同地点で1985年6月に採集したところ、オオクラカケカワゲラの姿も確認された。種数は10種程度で多くないが、昆虫相から見ると清冽な流れが維持されていると思われる。


4.おわりに
 飯尾川、江川の各調査地点における水生昆虫相は極めて貧弱で、清水性の水生昆虫は確認できなかった。水質が良ければ、数種類は見られると思われる。生物相からみても、かなり汚濁がすすんでいると推定される。
 吉野川の石井町を流れる地点は、少数であるが清水性の水生昆虫の姿が確認され、水質は良好であると推定された。
 飯尾川、江川の両河川の汚濁の原因を探り、清冽な流れをとり戻すよう努力しなければ、汚濁はますます進行すると思われる。


 参考文献
1.津田松苗(1962):水生昆虫学、北隆館
2.徳山豊(1984):鴨島町の水生昆虫、郷土研究発表会紀要第30号、阿波学会、徳島県立図書館


徳島県立図書館